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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第6章 百鬼夜行
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怪物

「この世界にある全てのものに方角があり、吉兆がある」


 風雅の歌いだしで体が浮き上がるような感覚を感じる。

 風雅の声によって、辺り一帯の異界化が進んだのだ。


「大和君教えその二だ」

「その二」


 その一は自身の存在証明となる源を意識しろということか。


「その二、攻撃の際は全てをこめろ。俺達武装型は特にな」


 全て、その言葉を咀嚼する前に、朱雀が現れる。


「歌いて私は風になる。この歌声を響かせることで」


 飛び立ちながら、朱雀の翼により大百足の上空に飛び立つ。

 そのまま。大和は朱雀の上を両手を広げ飛び乗った。

 百足が口から針のようなものを出して突き刺そうとする。


 それを、大和は呑気な眼で見ていた。

 刀で受け止める。

 そこに道長の教えを思い出す。

「攻撃の際は全てを込める」


 無意識に自身の周りに覆っていた黒い炎を、攻撃の際に一点に集中。

 瞬間、黒刀から溢れる力が莫大なものになる。

 刀身が三倍以上の長さにすると、針をすっぱりと砕いた。

 そのまま、雄たけびを上げながら土百足の背中を駆けまわりを両断し、飛び降りた所を朱雀にキャッチされた。


「はあ、すげえ威力」


 風雅が感嘆したように息を吐くと、大和は顔を顰め首を振る。


「だが、やりすぎると、これは体がもたないな。正に必殺技ってことか」


 そのまま朱雀に乗って車両を追う。

 耳を澄ますとどこかしこで戦闘音や怒号が聞こえる。


「援軍に入るか」


 大和が問いかけると風雅は頭をガシガシとこすりながら答える。


「うーん、雑魚妖怪程度なら陰陽師らで何とかなるけどね。強い気配がいないか探ってくれ」


 風雅の頼みに、大和は目を閉じる。

 気配を探るが、大物の気配はない。

 小物がわらわらと異能者そ集団と激突しているが、数の上では互角なようだ。


「あの百足と酒呑童子の封印より強い気配は今の所ないな。このまま朝まで籠城できるか。だが、数が多いな」


「それなら、俺の歌で何とでもなる」


 風雅は立ち上がり大きく息を吸う。


「東に青龍、西に白虎、北に玄武、南に朱雀。これぞ四獣と申し候。それを統べるは我麒麟(きりん)

 これぞ瑞兆(ずいちょう)五獣神(ごじゅうしん)、全ては巡り道は回る」


 歌が終わると同時に、風雅の体からオーラのようなものがあふれ出す。


 それは四足歩行の獣、麒麟の姿となって、その背に乗る、大和も手を取られ後ろに跨った。


「いけや四獣よ舞え候、踊る阿呆を打ち負かせ。

 妖怪めに目に者みせろ、浄法注意(じょうほうちゅうい)の雨が降る」


 風雅が歌い終わると、本当に雨が降って来た。

 その雨が妖怪達の力を奪っていく。


「四獣の加護を皆に与えたから、とりあえずは大丈夫だ。封印の方に行こう」


 本当に何でもできるんだなと感心しつつ、麒麟は二人を乗せ山中に向かった。



 確かに一級の霊地というのもうなずけるなと大和は感心した。

 かなり体の動きがよくなった。


「おう、ご苦労さん」


 道長は封印を見張りながら警戒を続けていた。


「とりあえず夜明けまでは持ちそうか。陰陽師連中は」


 父の問いに、風雅は呑気に答える。 


「まあ流石にここまで雑魚ばかりなら、ね」


 そう言うと、先ほどの陰陽師達の会合で年長者だった男と女性が到着する。確か女性の方は蘆屋(あしや)だったか。


「皆様ご苦労様です」


瑞峰(ずいほう)さん。何か異常はありませんか?」


 風雅の問いに、瑞峰と呼ばれた年長者の男が髭を撫でながら答える。


「ふむ、風雅殿の法術のおかげで味方の被害もない。若い衆にとってはいい訓練になる位じゃろう。だが、それが不安でもある」


「ええ、まるで相手に計画性がございません。こうすることで何か相手に利があるのか」


 蘆屋もまた、言葉を繋げる。

 確かに、相手方に意思疎通のできるほどの妖怪がいないのが気になる。


「ううん、四獣を巡回させておくよ。父さんと大和は気配を探してくれ」

「そうだな」


 答えて、道長は気配を手繰る。


「私は弱い妖怪なら百キロほどまで気配を探れるが、大和くんは?」


 問われた大和は、詰まったように声を出す。


「十キロほどです」


 あまりにも短い、面積で言えば100分の1以下だ。

 その答えに道長は苦笑する。


「その歳であれば十分だ。だが、水地流では気闘だったか、それを神殺しの力に応用しているんだろうが、不十分だ」


 道長は丁寧に説明する。


「神殺しの本質は神と同じく権能を手にすることだ。権能とは、自分はこれならできるということを突き詰めることだ」


「これならできるということを?」


「そう、これならできる。自分はこれなら誰にも負けないということを深化させること。

 それがこの世界を生き抜くために何より必要なことだ。風雅、お前にも言ってるんだぞ」


「俺も!?」


 風雅が驚いたように言う。


「異能も仕組みは同じだ。お前がこの世界に立ち向かうために鍛えた陰陽術。そして歌。これを極めろ。いざという時に最後の最後にそういったものが力になる」


 父親の教えに何か思案したように、風雅は自分のギターを見つめる。


「さて、休憩するか」


 そのまま数時間、瞑想をしていた。


 ここは異界と化しているからか、喉も乾かず腹も減らず、眠くすらならなかった。

 何か大きな存在が来ることもなく、辺りに響いていた戦闘音がやみ始めたころ、道長が大和に水を向ける。


「……何か聞きたいことでもあるのか」


 大和はその問いに先ほどから気になっていたことを尋ねる。


「水地流のこと、ご存じなんですか」


「……君の師匠、水上とはかつて同じ師匠のもとで学んでいた。それだけだ」


 ふうんと思った所で、道長の眉がピクリと動く。


「起きろ風雅。至急皆をここに集めろ」

「え! 何々!?」

「瑞峰さん蘆屋さん。ここの守りを固めて至急封印の強化を総出で頼む」


 道長ははきはきと指示を出していく。


「一体何が!」

「凄まじい速度で強大な力が近づいてくる。おそらく神級だろうな。風雅はここに残れ、四獣を展開し、絶対に警戒を解くな」


「そんなやべえの!?」


「ああ、お前も近づけば分かる」


 次に大和がそれに気づいた。

 吹き出る冷や汗がとめどなく体中を伝っていく。


「ルシファーの分身体以上だな。備えてください」


 高速で近づく強大な邪気の塊に、最後に風雅の知覚範囲に入る。


「! ……早く式神で全員を! 二人とも行ってくれ!」


 その叫びを最後に、音を置きざりにして二人は飛んだ。




 あまりに強大だった、

 マグマのような瞳が暗闇に光っている。

 ()()()()()の赤い瞳。


 神がいた時代でしかあり得ぬその姿。


「雑魚妖怪どもを差し向けたのは貴様か、まあ最悪のケースだな。復活していたか。妖怪を差し向けてそのエネルギーを吸収したか」


 地獄からそのまま響いてくるかのような唸り声で叫ぶ。


「引き渡せ、引き渡せ、引き渡せ、引き渡せ、引き渡せ、引き渡せ、引き渡せ、引き渡せ」


 大和は戦慄していた。この国で生まれたものなら誰もが知るその風貌。

 八対の蛇の名は他にはあるまい。

 この国で最強の神が騙し討ちでしか倒せなかった怪物の名は、


 八岐大蛇(やまたのおろち)

 

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