名古屋と京都はわりと近い
京都駅到着のアナウンスが響き、大和はホームに降り立つ。
釧灘大和は小学校の修学旅行には行っていない。
元々神殺しに、夜な夜な化け物に出くわすような人間に宿泊行事など無理がある。
変人扱いされるのが嫌で、林間学校と同じく、結局勇美共々行かなかった。
だから京都は初来訪である。無論観光に来たのではないが。
「お、来た。おーい、大和、こっちこっちー」
ギターケースを背負いながら、風雅が手を振る。
茶髪に中性的な容貌の、けれど人懐っこい笑みを浮かべる少年だ。
そんな彼が三角形の旗を振りながら大和を手招きする。
観光気分を助長させる出で立ちにため息が出かける。
「いやー。昨日ぶりだね」
「本当に、こんな早い再会になるとは思わなかったよ」
大和は挨拶もそこそこに、本題に入る。
「陰陽師の会合? そこに参加しろと言われているんだけど、案内してくれるのか」
「モチろん! 早く車に乗ってくれ。道中で話そう」
そう言って再会して間もなく車に乗り込む。
「つうか手ぶらだけどいいのか?」
「ああ、用意はある。今日のはちょっとハードだったんだけど、大和が来てくれれば百人力だ」
陰陽師最強を自負する少年の言うハードに身構える。
大和の佇まいに風雅も本題に瞳を真剣なものにし、本題に入った。
「風雅は日本三大妖怪って知ってる?」
「九尾の狐、酒呑童子、あとは……大嶽丸だったか」
神殺したちは基本的な神話知識、有名どころの怪物は抑えているのがほとんどだ。
「そ、じゃあその亡骸が宇治の宝蔵っていう場所に奉納されたってことは知ってる?」
「? だが、空想上の話だろ。現実に収められた記録はないって聞いてるぞ」
「そ、いや、それがあるんだって」
「そうか、まあそういうこともあるか」
悪魔が存在するのだ、伝説上の存在が実際に在ったとしても誤差の範囲だろう。
風雅は言葉を続ける。
「その中にある酒呑童子の封印が解けかかっている。それを何とかするのが今日の会合の主題」
「……再封印できないのか」
「まあ陰陽連としてはそうしたいんだけど」
風雅は頭を掻く。
「ちょっとややこしいことになっててね。お、着いた」
怒号が日本家屋の一室を埋め尽くしている。
「ふざけるなよ岩倉家の入り婿無勢が!」
「それがどれだけの危険を伴うのかわかっているのか!」
中に入っているのは数十人といった所だろう。
それだけの男女達が、一人の壮年の男に向けて叫び声を上げている。
中々の圧力だが、男は一切気にせずという風に茶を飲んでいた。
壮年の男だった。
その肉体はスーツ姿の上からでも分かるほど鍛え上げられ、特に腕は凄まじく太い。
「私は政府の意向を代弁しているだけですよ」
そう涼し気に言いながら、入って来た風雅と大和を見て手招きする。
「や、どうも皆さん、ウチの愚息と、神殺しの援軍です。取り合えず自己紹介でもしてもらおうか」
その問いかけに、大和はペコリと頭を下げる。
「釧灘大和、言われた通り神殺しです。序列は十三位ですけどね」
その言葉に、周りは一斉に値踏みするような目線を向ける。
「やはり日本政府は本気で」
「まだほんの子どもではないか、痛々しい」
「しかしそれなら本当に酒呑童子めを」
などと言った言葉があちらこちらから聞こえる。
普通なら戸惑ってしまう場面であろう。
だが、釧灘大和は一かけらも臆さずに聞く。
「酒呑童子の封印が解けかかっているとだけ聞いているのですが、何をもめているんです?」
大和の単純な疑問に、陰陽師の男女達は揃って岩倉道長を見る。
「ふむ、日本政府としては、封印を解いてしまい、総動員で攻撃してしまえという話だ。そのような危険なものを保有しているより、安全に処理してしまえばよい」
要は不発弾を保管するよりも安全な所で爆発させてしまえということか。
「しかし、酒吞童子程の化生が大人しく殺されるか? 首を斬られても千年以上封印され続ける化け物じゃぞ!」
陰陽師たちの中で一番年長そうな男がそう叫ぶ。
「例え殺しても、また時間をかければどこかで復活するかもしれぬ」
「それよりは封印して残すべきでは」
陰陽師の中で、そのような意見が上る。
大和は風雅に尋ねた。
「殺しても復活するのか?」
「ああ、まあ力のある神や悪魔なんかは、人の思いをわたあめみたいにかき集めて、また形作ることがあるらしい。酒呑童子ほどのビッグネームだと、それもありうる」
ぞんざいな例えに大和は目を丸くして風雅を見る。
「だが、酒呑童子程の悪鬼が復活しようとする影響で、白面金毛九尾の狐や大嶽丸の封印もまた解かれ始めている。そうなる前に」
道長がそう言うと、彼の右手から黄金色の炎が舞い上がる。
金色の炎は棒状に凝縮すると、一本の十文字槍を形作った。
柄には龍の文様が描かれ、その刃は鏡のように周りの景色を写している。
一目で、格が違うと感じられる程の力を感じる。
「こいつで一突きすれば、問題解決だ」
そう言葉を区切ると、道長は迫力に黙ってしまった陰陽師達をを見回す。
「それで、他に名案は」
「問題は酒呑童子だけではありません」
言葉を発したのは、妙齢の女性だった。
その立ち振る舞いは凛々しく、目の力は強い。
年齢は30歳前後だろうかと思われるが、その雰囲気と辺りの態度から、この女性が陰陽師達の中心の一人だろうと漠然と大和は感じた。
「現在この京都には酒呑童子に当てられた各地の妖怪や悪鬼がやってきております。もし、奴らが実態化するようなことになれば、被害は見過ごせません」
「左様、今は若い衆が警備に当たっておるが、直に抑えきれぬようになる。もし結界を破ることになれば、その均衡は破られてしまう」
最年長の男がそう言葉を締める。
そこで、男女は一斉に風雅を見て尋ねる。
「「で、どうする岩倉風雅」」
風雅は皆にそう聞かれ、うーんと唸る。
「確かに、父さんの案は手っ取り早いけど、後々の時代に酒呑童子が復活するかもしれないし、かと言って、封印をそのままにしても危ないのは変わらないし、うーん」
そこで、大和は一番年長の男性に聞く。
「風雅ってこの中でも決定権もつくらい偉いんですか?」
大和の問いに、男性は髭を撫でつけながら言う。
「その霊力当代一であり、最高峰の式神“四獣”を四体同時に使役する天才じゃからな。年は若いが、腕前と判断力においても右に出るものはいまい」
「続けて言えば、その家柄も岩倉家は高いですから、先代の京都陰陽師連盟総代の息子ですしね」
女性の言った言葉に、男性は咎めるように言葉で制す。
「これ、蘆屋の」
「これはすみません」
女性は失言だったというように口を噤むが、風雅は聞こえていなかったようでまだ悩んでいる。
「とにかく、京都に来ているっていうその妖怪達を何とかしないといけないんじゃないのか?」
「そうだけど……?」
「なら、その封印とやらって移動できないのか」
大和の問に、男性が答える。
「封印自体は首桶の形をしていて、大型の車があれば動かせるが……」
「人気のない所に移動させて、妖怪達を誘き出して一網打尽にするのは?」
大和の出した提案に一同は目を丸くする。
「その後に封印を強化するなり、封印を解いて中の酒呑童子を殺すなりすればよいのではないでしょうか?」
大和の発言に、一同は額を集め話をする。
「妖怪どもが素直に寄ってくるかな」
「いや、知恵のある者はともかく概ねの妖怪は単純だ」
「それに神殺しが二人いるなら、殲滅もできるか」
出揃った意見に風雅が柏手を叩く。
「じゃあ、大和の案で行こう。各流派は実行部隊を集めて、場所はウチの山でいいでしょ」
「荒神山か、あそこは一級の霊地じゃからな」
「再封印するにしても決戦をするにしても、人的な被害を出さずに済むだろう」
「岩倉殿もそれでいいか」
問いに、道長は苦笑しつつ頷いた。
かくして、妖怪殲滅作戦が敷かれることとなった。
人が出払った中で、風雅は大和の肩を叩く。
「助かった。いい案が思い浮かばなくて」
「いや、別に。何かあっさり決まったな」
大和の疑問に風雅は肩を竦めながら両手を上に向ける。
「まあ、皆父さんを敵に回したくないからね」
そう言うと、風雅はため息をつく。
「仮に京都の陰陽師総出で戦ったって神殺しには勝てないよ。そもそも僕らって戦闘自体はさほど得意じゃないしね」
そういうものだろうか。
「元々、俺達が認知できる怪物なんてたかが知れているんだ。普通の次元、異能の次元、神殺しの次元、神の次元、それぞれで隣合っていて、神に近づくほど強い。
君達が日常的に倒している悪魔だって、神の次元からあふれ出るもので異能者にとっては天災みたいなもんさ。
だから、僕ら異能者は君らに比べてか細いんだから、気軽にあの黒い刀を振り回さないでくれよ」
風雅は冗談めかしたような笑顔でいい、背中を押す。
「さ、とりあえずウチの山に行こう」
大和は少し、自身の手のひらを見つめた後、その背中を追っていった。
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