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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第6章 百鬼夜行
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来訪者

 井上勇美がその拳に紫炎をまとわせ、殴りぬいたそれは、即座に霧のように消え去った。

 

「井上、もう片付けたのか」

「おう釧灘(くしなだ)、こんばんは」


 大和が呼吸を荒げ走りながら、近づいてくる。

 大型の悪魔の気配を察知したが、井上勇美の敵ではなかったようだ。

 このまま別れるというのも何なので、自動販売機の前で二人で話す。

 話題は、先日の加賀での一件だった。


「風雅君はあっちで元気かね」

「中々忙しそうなやつだったからな。いまいちあいつの能力が良く分からんが」


 そんな話をしながらも、二人は確信に迫っていく。


「なあ、聞いてくれるか、妹について」

「ああ、聞かせてくれ」


 勇美の真剣な横顔に、茶々をいれることなく大和は続きを促す。


「ていうか私兄妹多いんだよね。上が3人下が4人いて」

「8人兄弟!」


 とんだ大家族だった。

 勇美は一人っ子だと思っていた大和にとっては意外だった。


「ま、想像通りだよ。私を狙った信奉者に狙われて、母さんがそんな私を庇った、そして、

 生死の境をさまよった。

 幸い一命をとりとめたが、兄弟のみんなから責められた」


「責められた!? 何で!?」


 大和は納得できないという風に叫ぶ。

 だが、勇美は気にせず続けた。


「お前のせいで母さんが、お姉ちゃんのせいで母さんが。

 まだ皆小さかったからねえ。

 それから、一度も会えてない。

 雄大兄は防人の実績のある人だったから、私はそっちに預けられ、結局話せず終い、気づけばこんなに大きくなっちゃった」


 そうして、勇美は自嘲気味に笑う。


「……なんかスッキリした。

 別に大した話じゃない。ちょっと言うタイミングが」

「そんなことない!」


 大和は叫んだ。夜の住宅街であることも忘れて。


「釧灘」

「大した話じゃないなんて、そんなこと言うな。

 自分の悲しみを小さいもののように扱う必要なんてないだろう!」


 大和は拳を握りしめ言う。


 勇美は、その言葉に俯き。

「ありがとう」


 そう言って、大和の自分より5センチばかり小さい彼の胸元にもたれかかった。

 数分、あるいは十分程度そうしていただろうか。

 二人の纏う空気が、徐々に緊張感をふくんだものになっていく。


「……近づいてるね」


「……ああ」


 何かが高速で近づいてくる。

 二人組だ。

 大悪魔以上の気配に身を縮める。


「忙しいなあ」


 つい先日、龍とルシファーの分体と戦い、立て続けにこれだけの気配。ため息が出る。

 それは大男と美女の二人組だった。

 大男の肩に座り、女性がこちらを見やる。


 大男は、金髪碧眼でまるで幽鬼のように青白い男だった。

 身長は220センチ程度。体重は大和の目算では120キロほどだろうか。 

 その肌色に似合わぬほど体は鍛え抜かれ、かなりの圧力がある。

 何より超自然的なまでの気配は絶対に戦ってはならないと思わせるほどの不安を掻き立てる。


 女の方はパンツスーツ姿の20代半ばの美形だった。

 落ち着いた肩口程度の茶髪に赤い目をした、鋭い宝石のような美貌の女性だ。


「こんばんは。貴方達は釧灘大和くんに井上勇美さんで違いありませんね」


 女性は凛とした声量で大和達に問いかける。


「そういうあなたたちはどなたでしょうか?」


 大和が発した問いに、女性はきびきびとした所作で一礼する。


「失礼。私は内閣情報調査室室員、斎藤香澄と申します。そうですね……」


 名乗ると、女性は右手から銀色の炎を巻き上げる。

 その炎の力強さに思わず目を見開く。


「貴方達と同じ神殺しです。序列は第二位。そしてこちらは防人のホルンです」

「よろしくな、坊ちゃん、嬢ちゃん」


 ホルンと呼ばれた男はどう見ても日本人ではないが、見た目によらぬ流暢な日本語で対応する。

 そして女性は握手を求め、大和と勇美もおずおずと応じる。

 大和は大人しく握手されたが、勇美との握手の段階で異変が起きた。


「ふむ、その年齢にしてはよく鍛えられている。しかし」


 瞬間、銀の炎が右手を中心に吹き上がる。

 そして、勇美も対応して紫色の炎を全身から噴き出す。

 勇美は瞬間投げ飛ばされた。


 勇美が咄嗟に受け身を取るのと、大和がホルンに取り押さえられるのが、ほとんど同時だった。

 黒刀を出す前に取り押さえられたことに大和は驚愕し、勇美は茫然とする。


「弱い。まず断言します。貴方達はルシファーの本体に遭遇したら、必ず成すすべなく死ぬでしょう」


 いきなり吐かれた罵倒に、すぐさま刀を具現化させる大和。


「ふむ、常在戦場(じょうざいせんじょう)。判断の早さは加点材料ですね。ですが、私が言ったのは事実です。

 ルシファーの分体如きに、()()岩倉風雅の協力の元で二人掛りでようやく倒せるということではいかにも力不足です。

  これは事実ですのでまず受け入れてください。話が進みません」


 あまりに矢継ぎ早に吐かれる直言に思考が追い付かない。


「まず、貴方達には単独で戦える力が必要です。

 少なくとも単騎でルシファーの分体如き容易く打倒できるほどの純然たる戦闘能力が必要です。

 防人の2名、水上龍誠(みながみたつまさ)()()は貴方達の肉体は間違いなく鍛えましたが、神殺しとしての技術については教えようがありませんから致し方ありません」


 まるで軍隊の鬼教官のような厳しさで釧灘大和に対し、目線を向ける。


「釧灘大和くん。貴方には今から京都に向かって岩倉道長の指導を受けなさい。彼は日本最強の神殺しであり、あなたと同じ気炎で武装を形づくるタイプです。彼の元で技術を学んでください」


 次に井上勇美に目を向ける。


「井上勇美、あなたは私が鍛えます。気を抜くと骨が折れ、悪くすると死にますが、真剣に取り組みなさい」

「待て待て待て!」


 大和が遮る。


「あんたの実力は分かった! けど今から!? 急すぎないか!?」


 現在、月曜日の夜8時である。明日は学校もある。


「今の今まで、貴方達の事情を斟酌(しんしゃく)してくれる悪魔がいましたか? ゆっくり襲いかかってくれる信奉者がいましたか?」


 斎藤香澄の正論に思わず黙る大和。


「大和、落ち着け」


 勇美は埃を払って立ち上がる。

 そして、一つ深呼吸すると、斎藤香澄に礼を取る。


「よろしくご指導ご鞭撻(べんたつ)のほどをお願いします」

「井上!? いいのか!? 君殺害予告を受けたんだぞ!?」


「いい、これはチャンスだ」


 勇美の物言いに、大和が茫然とする。

 確かに、当初の目的通り、ルシファーに対する有用な神殺しとして、日本政府に認められるチャンスである。

 斎藤香澄は満足気に勇美を見つめる。


「覚悟はいいですね。貴方達がこのクソッたれな世界に何を持って存在証明するか、楽しみにしています」

「何ですかその言葉は?」

「受け売りです。()()の」


 そこで、斎藤香澄がポケットからチケットを取り出す。


「これは今夜発の京都行の新幹線のチケットです。あなたの保護者には了解を取ってあります。早く行ってください」

「今日!? 急じゃない!? 学校は!?」

「京都駅についたらまず岩倉風雅にコンタクトを取りなさい。本日陰陽師連盟は緊急の会合を開くのでそこに参加しなさい。

 学業のことは安心しなさい。公欠扱いです。事は命にかかわりますから」


 言外にお前は今にも死にそうなほどに弱いと言われ、大和は青筋が立つのを抑えた。


「ああもう、わかったわかった! 行けばいいんだろう!?」


 そして大和は勇美の方を見る。

 そういえば初めてだった。

 大和と勇美はいつも二人で悪魔に対処していたので、ガープの件のような突発的なことを除いて、能動的に離れるのは初めてのことだ。


 だから、大和が不安になるのは分かる。分かるが。

 勇美は大和の手を握る。


「また帰ったら、あんたの話を聞かせてくれ。いいな」


 勇美の力強い瞳に、大和はしばし茫然とした後、コクリと頷く。

 それを斎藤香澄は眩しいものをみるような顔で眺めていた。

 かくして、大和は京都へと、日本の古都であり、陰陽道の総本山である都市へ向かうこととなる。

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