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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第6章 百鬼夜行
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赤羽陽美香

 釧灘大和(くしなだやまと)には、井上勇美(いのうえいさみ)より付き合いの長い女子がいる。

 それが目の前の赤羽陽美香(あかばねひみか)である。


 彼女はこの日本古武術水地流に同じ時期に通い始めて、同門で切磋琢磨した間柄である。


 水地流では剣道、居合道、柔術と幅広く教えている。

 釧灘大和は剣道と居合道、赤羽陽美香は柔術にそれぞれ打ち込み始めたため接点はそれほどないが、時間が合えば互いに稽古している。


 そして、今日は柔術の稽古日である。


 大和と陽美香は組み合い、技をゆっくりと確認していく。

 どう動けば極まり、どう動かれれば窮するのかを、師匠である水上龍誠(みながみたつまさ)の指導の元、勉強している。


 黄金をそのまま延ばしたかのような金髪で鍛錬に励む彼女は贔屓目に見ても美しい。

 無論そんなことは真剣に武道を学ぶ陽美香に失礼なため決して言わないが。


「うん、二人ともその年齢にしては凄まじく筋がいいな。それでは、休憩しなさい。水分補給も忘れずにな」

「「はい、師匠!!」」


 二人は道場の隅にどき、年長者の稽古に行った師匠を見つめる。

 滝のような汗をぬぐい、軽く雑談する。


「ねえ、クシヤマ」

「なんだ赤羽?」

「あんた昨日、イサミンとどっかいった」

「ああ、いや別に。ちょっと待て今疑問じゃなくて断定だよな」


大和の問いを黙殺し、陽美香は話を続ける。


「アナタが道場に顔を出さなかったし、イサミンが空手道場に姿を見せてないことも聞いたから」

「何でそこまでしてんだよ怖いよ」

「イサミンと一緒に遊ぼうと思って探したんだよ!」


 そこで赤羽陽美香は大きなため息をつく。


「ねえ、アンタとイサミンっていい加減付き合わないの? どうなの?」

「……何でお前に言わなきゃいけないんだ」

「いや、今度3組の男の子と2組(ウチ)の女子とでコンパやるって言うから、一応前持って言ってお……顔怖!」


 大和の表情が飛んでもないことになっていた。

 彼は深呼吸してひとまず、冷静さを取り戻そうとする。


「それ、井上は了解しているのか?」

「だって3組の司馬クンや間宮クンが来るんだから、この超絶美少女の私と同じく超隔絶銀河億光年美少女であるイサミンが来ないと釣り合わないでしょ?」


「何か強そうだな」


 司馬は確か生徒会副会長で、間宮はサッカー部のエースだったか。


「あんたも彼氏にしたいランキングではいい勝負なんだから、とっとと全うにアプローチしなよ」

「俺と井上はそんなんじゃねえよ」

「あんたさっきの顔してまだ言う? 既にスーパー彼氏面してる自覚ないの?」


 ぐうの音もでない正論に返す言葉が見当たらない。


「井上が選ぶ男なら、間違いないんだろうが」

「が?」

「それは、まあ、ああ、俺は井上が好きだ、好きだが」

「が?」

「もうちょっとお互い気持ちよく付き合えるタイミングが」

「が?」

「もう許してくれよ! もう答えでてんだよ! あとタイミングが!!」


「甘い!!」


 陽美香の力強い断言に押し黙る。


「いい? 私ら来年は受験だから、2年生の今しかないの! 恋人同士でデートしたり映画見たり青春しする時間はちょっとしか残ってないの?」

「お、おう」

「それをあんたはタイミングタイミングって昔の曲みたいに! それで勇美が灰色の青春を過ごすことになろうものなら!」 

「なら……?」


 陽美香は冷絶なまでの笑顔で言った。


「お前を儚くする」

「古語!?」


 直截に殺すと言われた。


「元気そうだね、お二人」


 ニコニコとした師匠に声をかけられ、二人は一斉に直立した。


「ま、休憩中だし大目に見るけど、他の人は稽古中なので、声量抑えて」

「「はい、すいません」」

「あ、あとね」


 大和の肩をポンと叩く。


「付き合ってもないのに相手を拘束するとか、地雷男そのものだから気をつけて」


 地雷男!


「とっとと告白して玉砕しなさい。まだ若いんだから」


 地雷男……。


「そうだそうだー」

「陽美香は投げられ役をやりなさい」


 後ろから茶々を入れる陽美香に水上は目を向けず命令する。

 陽美香は悲鳴を上げるが、もう遅い。その後は高校生たちに思う存分投げられる陽美香と大和の悲鳴が道場に木霊した。



 道場の帰り道、二人は節々を痛めながらよっこらよっこらと帰路についていた。


「今日は無茶苦茶厳しかったわね。あんたのせいよあんたの」

「お前が話しかけてきたんだろうが!」


 二人はいがみ合いながら歩いていく。

 しかし、その歩む先は自宅とは程遠くなる。


「こっち、空手道場じゃん」

「知ってる」

「まさか、告白!?」

「しねえよ!」


 彼女のすっとんきょうな答えに青筋を立てて反論する。


「そうなの?」

「お前は、そんなに俺と井上をくっつけたいのか?」

「うんにゃ全然」


 その言葉にガクッとコントのように転げる大和。


「私はね、イサミンにはイケメンで優しくて金持ちであの子を一番大切に思って油田持ってる人に付き合って欲しいの」

「最後のハードルむっちゃ高くねえか!?」


 陽美香は分かってないという風に指を振る。


「とにかく、イサミンってば超絶可愛くて、思いやりがあって、カッコよくて可愛い最高の娘なんだから、アンタなんかじゃ釣り合わないわ」

「お前……」


 何よ、という風に陽美香は大和を睨む。


「よく分かってんじゃないか」


 大和の返答に、陽美香はしばし固まる。


「あいつに釣り合う男なんぞこの地球には存在しない。 

 それほどに井上勇美は、何というか、素晴らしい。 

 お前とはその一点()()()話が分かる」


 その答えに、陽美香と大和の双方に沈黙が流れ。


「そうよねー!!」


 陽美香は大きな叫び声を上げた。


「そうよねー! むしろ油田とかじゃ飽き足らないわよ。やるなら大統領よファーストレディよ!」

「いや、井上勇美が統治する側だろ実際」

「あ、そうだった私ったらウカツー!!」


 そう言いながら黄昏時を歩いていく。

 その二人の目の前に、誰かが立っている。


「あ、イサミン、どったの急に、大統領が何故ここに?」

「すまん、井上、油田掘ってくる」

「あんたらは往来で何阿呆なこと話してんの!?」

 

 そう叫んで、二人の頭に拳骨を落とした。

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