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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第5章 龍
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神楽

 大和が音もなく近づき、首をはねようとする。

 だが、大悪魔は防いだ。

 斬られたはずの右腕で。

 ハッとした時には蹴りが吸い込まれていた。

 たまらず刀の柄で蹴撃を防いだが、衝撃を殺しきれずたたらを踏む。


 地響きが大和の周囲を揺らす。

 瞬間、井上勇美の貫き手が胴体を貫く。

 だが、胸に開いた大穴も瞬時にふさがってしまう。


「不死身か?」

「さあ、どうかな?」


 ありえなくもない可能性に、ルシファーは意地の悪い笑みを浮かべる。


「なら、死ぬまで斬ってやるよ」

「聞けー! 釧灘くん! 井上さん!」


 風雅の声が上空から響く。


「そいつは! 龍脈から塔を経由して無限にエネルギーを受け取っている!

 龍脈! 塔! 本体! 三つ同時に対処しないと殺すことができないんだ!」

「分かった! 龍脈が尽きるまで斬りまくればいいんだな!」


 大和が脳みそまで筋肉でできているかのような発言をする。


「加賀一帯を死の国にする気か! そうじゃなくて! 今から俺とみくちゃんが龍脈の方を何とかする! 

 それまで僕らを守ってそいつを止めてくれ!」


 大悪魔が顔を顰める。


「そう聞いて俺が好きにさせると思うか」


 ルシファーが天に手をかざし発光させると、塔の中から悪魔が次々と出現し、空を殺到する。


「ほら来た! 助けてー!!」


 大和と勇美が目くばせをしあう。

 勇美は空に飛びあがり、頭上に飛ぶ悪魔に乗ると、次々と紫炎を噴き上げ打ち落としていく。

 大悪魔と大和は剣撃を激突させる。

 だが、大悪魔は相打ち狙いで攻撃をし、大和がそれを躱す。



 瞬間、静寂が包む。


「君に歌うよ、加賀にまします水地の神よ」


 その音が届いた瞬間、明らかに悪魔の力の総量が減った。

 ルシファーは目を見開いて風雅を睨む。


「あの少年! 陰陽(おんみょう)岩倉玲陽(れいよう)の忘れ形見か!」


 聞きなれない人名に大和が思わず尋ね返す。


「あ! 何だって!?」


 風雅の歌声が響く度、大悪魔への龍脈からの供給が途絶えていく。

 否、本来の支配者である加賀国乃(かがこくの)水分神(みくまりのかみ)に戻っていく。


 風雅の歌は世界を変質させている。

 世界を異界と化し、異界を意のままに操る。

 歌に祈りを乗せ、神と力を合わせることによって。


「至りて沈む湖の奥で、ただ慈悲深く我らを見守る。

 あり方睦まじく、あり方儚げならん」


 ルシファーの動揺が大きくなる。


「やはり()()()()()()()か! ここで出会えたのは幸運だ! 一挙に殺す!」

「何が何だかわからねえが! させねえよ!」


 翼を生やし飛び上がろうとする悪魔の両肩を削いでいく。


「風よ舞え水よ降れ。この手に届く全てのものに恵の雨をもたらせ」


 風雅の足元から気流が逆立ち、水分神に青白い光が纏う。


「千々震わせ八百万凍てつかせ、辰の神の威をみせよ! 水分(みくまり)の神よ」


 そして、水分神の体が少女の姿から成人の、神秘なる女性の姿となって再臨する。

 

天羽々斬(あまのはばきり)をもって! 明けの明星(みょうじょう)を弾いて落とせ!」


 そして風雅がエレクトリックギターを構え、曲調をゴスペルからハードロック調のものへと変える。

 その時、水分の神の姿が本来の龍のものへと青白い光とともに変貌する。


 瞬間莫大なエネルギーが龍の口に集まっていく。

 水流が激流となって、大地から吸収されていく。

 まるでこの土地そのものがルシファーに反抗するように。


「その程度か!」


 ルシファーはその威力さえも脆弱とでも断ずるかの如く、鼻で笑いながら障壁を展開する。

 だが、それはルシファーに向けて放たれたものではなかった。

 それはいつの間にか肉薄していた井上勇美の右腕に収束する。


魔法効果付与(エンチャッテッド)!?」

「西洋魔術ではそう言うのか?」


 彼女が手刀による一撃をルシファーに叩き込む。


「こういうのは()()()()()()って言うんだよ!」


 瞬間、水流が弾け、紫色に輝く大瀑布が悪魔を塔ごと吹き飛ばす。

 だが、悪魔は原型を保っていた。

 しかし、瓦礫の上を跳ねながら自分に向かってくる釧灘大和に気づかない。


「貴様ら! 貴様らああああああ!!」

「お前を……斬る!」


 そして、釧灘大和がその隙を逃すばずもなく、

 その首を斬り落とした。




 翌日、あの大雨が嘘のような快晴の空の下、あの湖畔で、大和達は集まっていた。


「寂しいのお、もう行ってしまうのか?」

「ああ、学校あるので」


 大和の返答に、龍神は唇を尖らせる。

 その姿は少女の姿から成長し、まさに絶世の美女といった所で、そんな顔をされるとむずかゆい。


「勇美。お前の健勝を祈っているよ」


 そう言ってみくちゃんは勇美を抱きしめる。

 勇美は顔を紅くするも、観念したように背中に腕を回す。


「風雅よ、お主の神楽は見事じゃったぞ。これからも精進するがよい」

「ああ、みくちゃんもお元気で。また定期的に見に来るよ」


 そう言うと、風雅は大和達に向き直る。


「政府から追加で報酬が出ることになったから、また送金するよ」

「え! 金はいいよ!」


「これは正当な報酬だ。受け取ってくれ」


 なおも二人は言い寄るも、風雅は断固としてこの点は譲らなかった。

 プロとしての矜持があるのだろう。

 そしてかしこまったように一つ咳払いをする。


「今回は本当に助かった。ありがとう()()()()さん」


 その言葉に、二人は顔を見合わせる。


「ああ、助かった! 風雅!」

「また会おう! 風雅君!」

「おう! また何か魔術とかで分からないことがあったら聞いてくれ!」


 そう言うと湿っぽくなった空気を避けるように、風雅は朱雀を召喚し、飛び乗った。


「じゃあな! 皆! 今度は京都に来てくれよ! 案内するよ!」

「ああ! 必ず!」

「アンタもいつでも名古屋に来ていいからね!」


 言葉を交わすと、風雅の姿は瞬く間に小さくなった。

 そして、大和達も車に乗り込む。


「釧灘、ちょっと落ち着いたら、話がある」


 少しして、勇美が大和に話しかける。

 その様は少し緊張しているが、不安はない。


「ああ、俺もだ」


 そう言うと、二人は顔を見合わせ、どちらともなく笑いあった。


「あ、おい、見ろ」

「ん? ……おお!!」


 しばらく走ると、空を高く龍が舞っているのが見えた。

 まるで虹の橋を渡るように、煌びやかに飛んでいた。











 アメリカ合衆国、某州。

 高級ホテルの最上階。

 紫色の蛇を撫でながら、金の瞳の悪魔は葡萄酒をあおりながらピザを食べていた。


「この国のメシは量が多くていいな」


 ルシファーは分体を多数世界各地に放ちながら、企てを進めていた。

 日本の加賀国での騒ぎも多数進めている計画の一つにすぎない。

 ゆえに分体の消滅も全く、気にも留めていなかった。

 その瞬間までは。


「いつッ!」


 その叫びに蛇が何事かと見やる。

 ルシファーの白い首筋に傷がついていた。

 つーっと血が滴ってくる。


 分体の記憶を精査し、ルシファーの表情が変わる。

 楽し気に、楽し気に、にやりと笑った。

 まるで世界の悪意を凝縮したような瞳が、細まる。


「そうか、お前がそうか! 釧灘大和!」


 そう叫ぶと、ルシファーはフルフルに笑いかける。


「運がいいなお前は、()()()()()()!?」


 蛇はその瞳を細める。

 気にも留めず、部屋の中には悪魔の哄笑が響いていた。

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