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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第5章 龍
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対悪魔総帥

 金色の瞳に、金の髪。純金を人型に凝縮したような悪魔に追撃を食らわせるのは、井上勇美。

 その左正拳突きは正確に顎をとらえ、吹き飛ばす。


「大和! 落ち着け! こいつはルシファーじゃない!」


 遥か後方に飛ばされた大和に勇美が叫ぶ。

 同時に放たれた勇美の右足刀をルシファーは受け止める。


「勇美! そいつはルシファーだろうどう見ても!」

「気配が違う! あいつはこんなものじゃないだろう!」


 その指摘にいくばくか冷静になり、大和は刀を収める。

 目の前の男の気配を探る。


 頭が、冷えた。


「ルシファーは、こんなに弱くないか。分身体か」

「正解だ」


 男は明瞭な声で勇美と大和を見やる。




「みくちゃん!」


 朱雀の上で、風雅は水分神に問う。


「……風雅。呪いは」

「釧灘君がやってくれた! 無事か?」

「いや、まだ終わっておらぬ。あれを見よ」


 風雅が塔の方を見ると、塔がまるで生きているかの如く再生し、また元通りの姿になる。


「そんな! 術者の元に核の在り処を変えているのか」


 龍は風雅を見据えて言う。


「気配だけでわかる。あの存在には、誰も勝てぬ。アマテラス様を……」

「いや、そうすると奴らの思うつぼだ」


 風雅は察していた。

 単純な話だ、炎を炎で消そうとすればどうなるか。

 もしそうなれば取返しのつかないことになると。


「俺の考えてる通りの神格だったら、そいつとアマテラスが戦うなんて大惨事だ!


 それはこの国を崩壊させてしまうことにもつながりかねない!」


「では、どうする? グウゥ……!」


 少女の姿をした龍は苦痛に顔を顰める。

 風雅はしばし目を瞑り、開く。


「今から君に神楽を捧げる」





 悪魔の分体は、その圧力を強める。二人が僅かに後ずさった。


「最も、力の総量でいえば、本体の十分の一程度はあると自負しているがね。良く分かったな」

「本物はもっと気味悪くて」


 勇美は両手をあげる。


「気色悪くて!」


 ジド目で見やる。


「性格悪そうだもん!」


 そして指を刺した。


「ふふふ、的を射ているな」


 金色の瞳をした男は拍手して二人を見やる。 

 分身、フルフルも使っていたが、力ある悪魔にとっては基本的な技能なのだろう。

 悪魔はまるで本物であるかのように思考し、嘲り、言葉を紡ぐ。


「しかし、悲しい、少しばかり話をしないか?」


 悪魔の誘いに怪訝な顔で答える。


「敵同士で何を」

「確かに敵だ。だが、それは今でなくてもいいだろう」


 ルシファーは二人を見据えて言う。


「人間の世界が始まって五千年余り、かつて神と呼ばれた存在が人々から忘れ去られ、幾星霜が経った。実際どうだね、人は」


 要領を得ないという風に顔を顰める二人に、悪魔は問う。


「人間は狭い世界で互いに憎み合い、殺し合い、蹴落とし合う。

 かつては神の支配に抗い一致団結して発展しようとした人間がだ。

 君達も自分勝手な理由で同じ人間に殺されかけただろう」


 確かに覚えがある。


 しかし、勇美はそんな感情は出さずに尋ねる。


「それと、水分の神を呪うことにどう繋がるんだ」

「もし、世界が異界と化したらどうなる? 人はまだ見ぬ悪魔相手に団結し、争いの手を止め、最後の審判に向け老若男女関係なく手を取り合うだろう」


 二人は目を見開く。

 そうなればこの世は今世界中で行われている戦争どころではない。

 正に、地獄だ。


「確かに地獄のようになるかもしれない。だが、人間同士で奪い合い、犯し合い、嫉み合うよりも、とても美しい様になる」


 ルシファーが手を上げる。


「それが私の黙示録(アポカリプス)! 新しい世界! 神と戦え! 悪魔と戦え! 人の子よ!」


「そして終わりまで、美しくあって欲しい」


 ルシファーの演説を聞き、大和の胸に去来するのは、あの時、勇美が心停止したフルフル騒ぎ。

 あの時のことを思い出し、同意しかける自分に気づき。


「で、なんでみくちゃんを狙ったの」


 井上勇美の怒気を孕んだ問いに引き戻された。


「みくちゃん? ああ、あの水分神の分体か、何でって」


 ルシファーが腕を組む。


「まあ、神殺しの目の届かない所にいて、力が弱い神で、ここが異界にするのにちょうど良かったから?」


 大悪魔は首を竦める。


「そんな深い理由何てない。強いて言うなら、そこにいたからさ」


 その答えに彼女の青筋が浮かび上がるのを大和は見た。


「あの神は、良い神だ。あんたとは違う」


 勇美の簡潔な答えに、ルシファーは堪えきれないように、やがて堰を切って、笑い出した。


「それはそれは、絆されたもんだねえ、たった一日で」

「ああ、そうだね。絆されたんだ! 普通に笑って普通に思いやって! 神ってそういうもんじゃないのか! 人間の営みを愛するものじゃないのか!」


 勇美は激昂して叫ぶ。

 思い出すのは、今日というたった一日で感じた龍神の優しさ、無邪気さ、情の深さ。

 そして空手の構えを取った。

 あの神を守るために。


「あんたはみくちゃんとはまるで違う!

 あんたの正体はただの怪物だ! 

 聞く耳なんてないね!」


 その言葉ににやりと笑い、大和もまた、居合の構えをとる。


「悪魔の戯言だ。お前はここで、斬り捨てる!」


 彼女は靡かない、怯まない。

 ならば大和もまたここで退くわけにはいかない。


「それに、父親の仇だ。取らせてもらう……!」


 大和から発せられた呪詛に、しかし悪魔の分身体は悠然と構える。

 そして記憶を探るように顔をしかめた。


「霊能者第13位、釧灘大和。だったかな。かつて私が()()()()()()()少年」


 そこで、思い出したように言葉を繋げる。


「逆恨みだな。父親を殺したのは君だろう?」


 その言葉に一瞬、勇美の瞳が見開かれる。

 だが、その逡巡は大和の激昂で遮られる。


「てめえの! 手引きだろうが!」


 瞬間抜き打ちの一閃が天まで届く高さの塔をまたしても両断する。

 だが、無意味。瞬時に塔は再生する。

 それでもなお、攻撃は止まらない。


「そうだな! 確かに手引きをしたのは私だ! だが、手を下したのは君だ!」


 瞬間記憶が戻る。

 あの日あの時、何があったか。

 あの日、夜眠っていた時、男が二人、家に押し入って来た。

 俺の身柄が目的だった。


 そして、父を殺した。

 だから、犯人を殺した。

 それが、あの日の顛末。


 だから、母は心を閉ざし、


 大和は悪夢を振り払うように刀を振るう、振るう、振るう。

 普段の流麗な剣技は見る影もない。

 しばらくそんな単調な攻防が続き。


 井上勇美の堪忍袋の緒が切れた。



「ふざけんじゃねえ!! このバカヤマト!!」

 

 瞬間、勇美の踵落としが悪魔を捉える。

 悪魔は両腕で受け止め、足元に20メートル大のクレーターを残す。

 金の瞳の悪魔はたまらず距離を置いて後ずさる。


 突然の少女の激昂にしばし攻防をとめる大和とルシファー。

 そして、少女は息を吐くと、つかつかと大和に近づき、向き直った。


「……なんでしょう」


 呆気にとられる大和を置いて、勇美は大きく息を吸う。


「あんた! やる気あんの!?」


 瞬間、余りの音量に風雅と水分神も耳を塞ぐ。


「あんたに何があったのかは詳しく知らない! けど私らは命がけで戦ってんのよ!」


 あんまりな言葉に、大和は二の句が継げない。


「……は、はい」

「それをあんたはブンブンブンブン刀振り回して! 心と体がまるで一致していない!


 心体合一が居合の極意じゃなかったの!? 

 起こりを消せって水上さんにも言われてたでしょ!

 あんたしっかりしなさいよみくちゃんの命がかかってんのよ!」


 釧灘大和はあまりの剣幕に小さくなる。


「……はい、すいません」

「しゃんとしろ! ちゃんとしないなら……」


 そう言ってルシファーの方を向く。

 そして数秒時が流れる。


「……ちゃんとしないなら?」


 さらに数秒。


「あんたのこと」

「うん」

「……キライになります」



 さらにさらに数秒沈黙が流れ。

 大和が身を震わせ。肩をすくませ。

 終いには大笑した。


「き、君、言うにことかいて嫌いになるって」

「うるせえ! いいからやる!」

「いや、何、それは怖いなって」

「からかうな!」


 突如始まった茶番に金の瞳の大悪魔は頭を掻く。


「……もういいかい?」


 その問いに、大和は涼やかな微笑を浮かべる。

 殺気も殺意も怒気も何もかもを置いてきた微笑みに、さしもの大悪魔も一瞬呆気にとられ。

 気が付けば釧灘大和はルシファーを通り過ぎていた。


「は?」


 そして宙を舞う右腕。


「はあああああああああああああああああ!?」


 悪魔は驚愕の声を上げ、大和は向き直る。


「すまなかった」


 謝罪であった。

 ペコリと頭を下げる。


「ちょっと、本調子じゃなかった。それじゃあまりにも、お前にも失礼だよな」


 そう言うと、大和は刀を青眼に構える。


「こっからだよ。とっとと斬られな」


 音を置き去りに、再び地を蹴った。

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