表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第5章 龍
28/90

岩倉風雅

 龍を退治せよ。

 アマテラスを通して簡潔に言い渡された指令に閉口するのは無理もない。


「龍って、ドラゴンのこと?」

「井上、どうも西洋のドラゴンと東洋の龍では違うらしいぞ」

「ふむ、やまとはよくべんきょうしておるな。あめちゃんやろう」


 よくコンビニで売っているミルク飴をもらい、しばし訝し気に見た後、大和はとりあえず口に入れる。

 曰く、龍とは水の神で、古来より無数にいたらしい。

 だが、人間の文明が発展するにしたがい、その数を減らしているという。


「そんな絶滅危惧種を何で退治なんか」

「ふふ、かがのちにてちかぢかはんらんするとうらないにてでたのだ。

 りゅうをたいじせねばみずかさましてひとがおおぜいしぬともうしておる」


「加賀」


 大和がオウム返しに呟く。


「つっても、殺す必要あんの?」


 井上勇美は渋る。一応信心深い所があるのだ。まあ目の前に神がいるというのもあるが。


「ふふ、さてな。どうなるかはわからん。いとたのしいなあ。ああこれはまつりごとのれんちゅうもしょうちしとるのであんしんせい」


 アマテラスは要領を得ず笑うのみ。

 大和はため息をつく。


「要は氾濫を止めりゃいいんだろ。止めかたは俺達が現地に行って決める。いいな」

「ふふ、くえんのう。かなわんかなわん」


 そう笑って、アマテラスは消えて行った。


「つうわけで行ってきますは雄大さん」

「俺にはお前らが壁に向かって話していたようにしか見えないんだけど」


 190センチ越えの巨漢はポリポリと頭を掻く。


「何だ加賀にいけば良いのか。じゃあ行こうぜ、車でな」


 おりしも6月に入ったばかりのころだった。

 確かに、雨の多い日だった。

 車の窓越しに見る景色は、まるで滝の中に居るかのようだった。

 高速道路から降りて、さらに数十分。

 道が詰まっていた。


「おい、どうしたんだ」

「どうしたも、土砂崩れだってよ、あんたらも引き返してくれ」


 大和と勇美、そして雄大は顔を見合わせる。



 近くの旅館で一息つきながら、彼らは方策を練る。

「おまえら、巨大な化け物とか悪魔の力を探知できるんだろ? それによるとどうなの」

 勇美も大和も、数キロメートルの範囲に渡って異能者や悪魔を感知することができる。

 最も相手の強大さに関係して多少の増減はするが。


「……あっちの方角に巨大なエネルギーを感じる。多分大悪魔か、それ以上の気配だ」


 勇美が簡潔に言う。その方角は山である。


「女将さん、あっちの方角の山って何があるの?」

「ああ、妙水山ですよ。キャンプ場があったり湖があったり、昔からこの辺の子達はあそこの川で遊ぶんです。けれど最近は水嵩が増して危ないですよ」

「そうですか。ありがとう」


 女将さんはそれ以降宿の説明をして帰っていった。


「とりあえず、行くか」


 雄大の問に二人は神妙に頷いた。



「雄にい、ここでいい」

「何だ勇美、まだ途中だぞ」


 山の中腹、キャンプ場まで数キロといったところで、車を止める。


「これ、見える?」


 雄大が見ると、この世ならざる紫色の炎が勇美の手を纏っている。


「え、見えるけど。何ここ、異界なのか?」


 異界とは異能が使われて、「かつて神が跋扈した時代」に逆戻りした空間であり、その中では神殺しである霊能者も十全の力を発揮できる。


「この距離を丸ごと異界にするなんて、相当に力を持った怪物だね。龍って話も頷ける」

「じゃあ行くか、こうなると走った方が早いし」

「そうか、気をつけてくれよ」

「雄大さんこそ、異界には怪物もでやすいですから、麓に戻ってください」

「了解。まあ、勇美を頼むわ」


 そう言って大和の頭を人撫でする。


「じゃ、行ってきます」

「それじゃ、すぐ戻る」


 そう言った瞬間、衝撃音をまき散らしながら二人が消える。

 音速の壁を突破したのだろう。


「はあ、何回見てもすげえや」


 そう頭を掻きながら、雄大は来た道を車で戻っていった。



 

 空高く飛び上がると、湖が見えた。


「大和、人がいないか?」

「ああ、……何やってるんだ?」


 湖の前で、行われているそれに揃って目を丸くする


「きれいな湖にまいおりてー、風をきって進むはソーロー

 憂いも甘いもかき分けてー、空をきって進むはだーれー」


 自分達と同じ、中学生であろう少年がエレキギターをかき鳴らし、歌っていた。

 声からすると、声変わり前の男の子の声だ。


「振り続ける雨は恵が災厄か、決めるのは貴女あがめるは我ら」


 何となく語呂が悪い歌詞だが、それでも見事な歌唱力だと素人ながらも分かる。

 二人はぼんやりと、その少年の後ろ姿を見る。

 次に目に映ったのは少年の隣に佇んでいる燃え盛る鳥だった。

 一目でこの世のものでないと分かるほど感じる力の波動。


 大悪魔に匹敵するエネルギーを感じられる。

 少年はギターソロに入ったのか、ギュインギュインと音を出す。

 その演奏は見事で、電源もないのにエレキギターがなぜこのような音をだすかはわからないが、雨で水嵩がました湖に似合わない賑やかさをもたらす。


「センキュー!」

「……」


 少年は虚空にビシっと一本指を立てる。

 勇美は茫然としているが、大和は気にもせずパチパチと拍手する。


「センキューオーディエンス……。あれ? 何君ら?」


 少年はやっと気づいたと言わんばかりに、振り返る。

 その少年の顔は、かなりの美少年だった。

 まるで女性のようにつややかな肌に整った目鼻立ち。

 サラサラで整えられた明るい茶髪。


 華崎兄妹も相当だったが、それに勝るほどの中性的で妖しげな美貌である。

 にもかかわらず、人柄がにじみ出てるのだろうか、取っつきやすさをかんじる愛嬌の良さだ。


「あれ、結界張ったんだけどな。ひょっとして同業? それとも霊能者?」


 ポリポリと頭を掻きながら、それでも咳払いをして握手を求めてくる。


「あ、どうも、岩倉家68代目当主岩倉風雅です!  職業は陰陽師やってます! よろしく! こっちは式神の朱雀!」


 元気のいい挨拶に押され、彼らもまた手を差し出す。


「ああ、霊能者第13位、釧灘大和」

「同じく第7位、井上勇美。ここにはアマテラスからの提案で来たんだけど」

「え? アマテラス? ……また勝手にダブルブッキングさせてさあ。こっちにも都合ってあるんだよねえ」


 そう言うと呆れたような顔で腕を組む。

 怪訝な顔をする二人に風雅は慌てたように取り繕う。

 朱雀は不機嫌そうに炎を吐いた。


「あ、別に君らが悪いってわけじゃないよ? 

 俺は今日、自治体から依頼を受けて来てんだけど、この国全体がアマテラスの知覚範囲にあるから、こういう大口の案件に面白そうだって理由で首突っ込んだり、お気に入りの霊能者に行かせたり、色々やってくるんだよね。

 特にこないだまでは山陰の清良(せいら)さんとかがよく被害にあってたけど、今のアマテラスのお気に入りは君らかあ」


 そうまくし立てるように言うと、気の毒そうな目で見る。


「まあ、こそこそ話とかもアイツには意味ないから言っちゃうけど、アマテラスの考えと日本政府の考えって全く一緒じゃないから、気をつけた方がいいよ」

「アマテラスは政治のものたちには話通してるって言ったけど」

「つっても政府間にも色々派閥とかがあるし、内閣情報調査室も一枚岩じゃないっぽいしねえ」

「ああ、確かに」


 大和達が悪魔の情報を貰ったり、報酬を貰ったり、指令を受けたりするのは内閣情報調査室が一元的に行っているが、それが関係省庁に対して何かをするとしてスムーズとはいかないのだろうと漠然と咀嚼する。


「まあ、ブッキングしたならしょうがないか。あのさ、今回はとりあえず俺に任せてくんない?」


 お願いのポーズをする風雅に二人は顔を見合わせる。


「俺、ていうかうちの一家って基本自治体から金貰ってるんだよね。けど、君らってアマテラスの言うこと聞いてきたってことはボランティアでしょ? 

 そうなると色々契約の点で面倒臭いんだよね。あとで報酬の払いごねられてもいやだし」

 あまりにも明け透けな願いに逆に毒気を抜かれてしまう。


「ま、災害救助でもアマチュアがでしゃばるよりプロに任せた方がいいし、私はいいけど」


 勇美は大和の方を向く。


「戦わないで済む方法があるのに戦うのは下策と師匠が言ってた」


 そう言うと、大和は湖面を見やる。

 そこに渦巻く巨大なエネルギーに顔がひきつるのが分かる。


「まあ、君らは龍を退治に来たんだろうけど、俺は争うのはすきじゃないんでね。平和的にいくよ」


 浮かび上がってきたのは、おとぎ話に出てきそうなほどの巨大な龍だった。

 蛇の肉体に蓄えられた雲を思わせる髭。

 浮世絵や彫り物に書いてある龍はよく特徴を捉えているのだと感じた。

 その瞳はまるで瘴気に包まれているようにどす黒い。


 おそらく二人掛りで戦ってもただでは済まないだろう。

 さてどうするのかと風雅を見る。

 この神格の高い炎の鳥を従えた少年はどう対応するか。


「えーと、大和くんに勇美ちゃんだっけ」


 二人は、言葉に反応し、背中を見る。


「やっぱ手伝ってくんない?」

 

 そう言うのと、風雅が服に噛みつかれ、龍が首の力を使いポーンと頭上に吹き飛ばされるのは、ほとんど同時だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ