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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第4章 翠炎の双子
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突貫

 勇美が目にしたのは倒れ伏す人間達と、藍色で埋め尽くされた祭儀場。

 そして、次に感じたのは、遥か上空に浮かぶ悪魔の気配だった。

 そして、釧灘が先ほどまで近づいていたのが止まったこと。 

 勇美が疑問を感じる前に、小太郎が声を上げる。


「義母さん!」


 少年が駆け寄ると、その女性はぼんやりとした様子で立ち上がる。

 妙齢の女性で、年齢は30前後だろうか、その腹はぽっこりと膨らんでいる。


「お前の母さん妊婦さんかよ! 言えよ!」


 興元が怒ったように言う。


「いや、そうなんだが、変だ。大きすぎる」


 女性の腹は臨月といった風だが、小太郎は首を振る。


「まだ半年のはずだ。こりゃどういうことだ?」

「おい、動かすな!」


 勇美は焦って言う。


「お腹の中に悪魔がいる!」


 そう言った途端、倒れ伏した男達の一人が立ち上がる。

 それは先ほど若頭と呼ばれていた男だ。


「もう遅いんだよ! 蓮野小太郎!」


 男は下卑た笑いを少年に向ける。


「3か月の時をかけ! その赤子はアミーの力を授かっている!」


 その瞬間小太郎の顔が強張る。


「ソロモン72柱に匹敵する力を持つ新たな悪魔が生まれいずる!

 その出産には母胎も耐えられない!

 お前のやって来たことは全て無駄な足掻きだ!」


 すたすたと井上は近づくと、男の指を一本折った。


 男の叫びが祭儀場にこだまする。


「あの女の人を助けるにはどうすればいいの?」

「……無駄だ! あの女は無傷で中の赤子を殺す。そんなことができる芸当があればいいが」

「何だ、そんなのでいいの?」


 それなら神武不殺(しんぶふさつ)の権能を持つ井上勇美であれば可能だろう。ただし。


「赤ちゃんはどうなる?」

「赤ん坊はもう死んでる! いや、悪魔になってると言えばいいかな」


 その瞬間、小太郎は虚ろな瞳で義母の膨らんだ腹を見る。


「そう、あんたら一等の下衆なのね」


 そう言うと、勇美は鳩尾を蹴り上げ男を気絶させた。


「おい、蓮野だったっけ? 結論から言うと、あんたの母親は助かるわ」

「え? そうなの?」

「詳しい説明は省くけど、私には中の赤子だけを殺せる異能がある」

「それはこの双子ちゃんでは駄目なの?」


 妙に冷静だなと思いつつも、勇美は続ける。


「さっきは軽く昏倒させる程度で撃ったからいいけど、赤子を殺す程のエネルギーなら母親にも影響するわ。あなたの母親も異能に満たされてるから。やれるのは神武不殺を持ってる私だけ」

「よくわかんねえけど、妹の方はもうダメなんだな」


 その問いに、勇美は目を瞑って頷く。


「なら、議論の余地はねえ、やってくれ」


 小太郎の答えに母親は首を振る。


「いや、いや」

「義母さん。もうダメなんだよ」

「だって、あの人を殺されて、もう残されたのはこの子しか」


 首を振って彼女は縋りつく。


「それでも俺は、義母さんに生きててほしいんだ。それに自分のせいで母親が死ぬことをその子も良しとは思わないだろう」


 小太郎の言葉に、母親の目から涙が出てくる。

 その瞬間、お腹を押さえて蹲る。


「義母さん!」

「さっきからずっと痛いの。だってこの子生きたがってる」

「井上さん!」


 華崎繚蘭が悲鳴を上げる。


「悪い、恨むなら私も恨んでくれ」


 そう言うと、勇美は紫炎を上げ、腹部を狙い撃つ。

 紫炎が視界を覆うと、途端に彼女は崩れ落ちる。

 そして、膨らんだ腹が嘘のようにへこんだ。


「勇美ちゃん、ありがとう」


 小太郎の謝事に、勇美は茫然とする。


「勇美ちゃん?」

「おかしい、今出ごたえがなかった」


 双子も揃って頷く。


「何か急に消えなかったか」

「ていうか……伏せろ!」


 井上勇美達は感じていた。巨大な悪魔と霊能者の気配が上空から降ってくることを。

 勇美は大和を受け止めるため、上空に炎を放つ。

 瞬間、天井が崩落した。




 時は少し遡って、先ほど巨大な岩盤が降り注いだ国道、間一髪岩盤を回避した大和はソニックブームをまき散らしながら移動する。


(どうやら、瞬間移動の力を行使されると数秒間だけ辺りが『かつて神がいた時代』に変質するらしいな。そのおかげで高速移動ができて回避できた)


 今まで満ち満ちていた自身の力が落ちるのを感じる。

 だが、大和は居合の構えで斬撃を飛ばしていく。悪魔は瞬間移動して避ける。


(つまり瞬間移動をさせるよう誘導すれば、こないだフルフル騒ぎでやったような高速移動ができるわけだ)


 悪魔のいる高さまで一瞬で飛び上がると、悪魔に黒刀を突き立てた。

 そのまま落下角度を調節して、勇美の気配の近くに行く。悪魔の体が建物を巻き込み、崩壊していく。


 勇美の紫炎にクッションを受けながら。大和は悪魔に刀を投げつけようとする。

 だが、悪魔は、何かを瞬間移動で持ってきて、それを盾にする。

 それは、菖蒲色(しょうぶいろ)をした。赤子だった。


 悪魔の行為に一瞬呆気にとられ、動きが止まる。

 悪魔が空けた穴に落ち、受け身を取って床に落ちる。


「やあ井上。久しぶり」


 すたすたと立ち上がった勇美は大和の頭を叩く。


「アホかお前! 着地のことを考えろ! 上空に行ったり落下したり!」

「彼らは?」

「無視か! 霊能者の華崎兄妹と連続殺人犯の蓮野小太郎とそのお母さん!」


 大和は四人を見渡して言う。


「井上がお世話になりました」


 礼儀正しいお辞儀に呆気にとられる華崎兄妹。


「ああ、お気になさらず」


 そう言って鷹揚に返す小太郎を怪訝な眼でみる。


「んであの悪魔がガープと、あの赤ん坊が小太郎君の妹さんが悪魔に変えられたの」

「了解」


 大和はこくりと頷く。


「いや、了解できんの? 理解力が天元を突破しているわけ?」


 小太郎が口を挟む。


「? ガープを殺して、あの赤ん坊は取り合えず確保すればいいんだろう?」

「お、おおう。すげえ正確に状況を理解している」


 華崎兄妹が一歩前に出る。

 ガープは赤子を抱えながら彼らを見渡す。


「おっと」


 華崎隆盛が翠炎を巻き上げ、ガープにぶつける。


「こいつ。瞬間移動する時に力を広げる感覚がある。その起こりを叩け」

「ああ、この妙な感覚はこれね、了解」


 翠炎の双子がその身を駆る。だが、その機先を制すように炎が巻き上がる。


「あの赤ん坊からだ」


「アミーの力か」


 だが、苦しそうな泣き声が赤ん坊からする。


「多分ガープから無理やりエネルギーを使わされてる」


 勇美の言葉に、小太郎の歯を食いしばる音が響く。


「……とにかく、お前さんはお母さんを避難させてくれるか」

「……ああ、頼むわ」


 そう言うと、小太郎は義母を横抱きにして駆ける。


「さて、やるか」


 四名が大悪魔と対峙する。同時に動いた。

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