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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第4章 翠炎の双子
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蓮野小太郎:オリジン

 小太郎が5歳の頃、両親が一家心中を図った。

 崖から車で飛び降りようとした。

 父と母と姉と妹が死に、小太郎が生き残った。

 小太郎はすんでの所で窓を開け、飛び出したのだ。

 そして一人で下山し、国道に出て、保護された。

 


 比較的すぐに、弁護士をしていた男に引き取られた。

 主に暴力団被害による民事介入を行う弁護士で、優秀であった。

 男の妻も小太郎によくしてくれたし、小太郎もまた、第二の両親が大好きだった。


 ある日、小太郎は父に土下座された。

 自分が未熟だったせいで、君の家族は死んだのだと言った。

 自己破産の手続きをしようとした矢先に、死のうとしたのだと。


 だが、小太郎は首を振った。


 両親はただ、精神的に病んでいただけだと感じていたからだ。

 両親にとって全てだった会社がなくなり、それがとてもいやだっただけだ。

 小太郎はそんな風に捉えていた。


「大体俺や姉ちゃんにるみまで殺すことはなかったよね」


 そんな風にケロっとした顔で言った。

 小太郎はドライだった。

 


 小太郎は良く護身術を習った。父と母も、日本古武術の有段者だった。

 拘束を抜け出す方法、武器をふせぐ方法、いろいろだ。

 中でも少年が興味を示したのは鎖鎌だった。

 単純にテレビやマンガで見る忍者のようで格好いいと感じたからだ。


 また、学校では野球をやり、すぐにシニアの監督に誘われるほど上達した。

 両親は小太郎は天才だと褒め称えた。



 良い両親だったが、小太郎が12歳になったころ、おかしなことをしだした。

 休日になると、近所の山に登り、野草を採取し、乾燥させ保管する。

「これ、なんにするの?」

「ああ、毒を作る」

「何でまた?」


 男は言った。


附子(ふし)と言ってな、アイヌの人たちはこれを使って毒矢を作ったんだ」

「いや、毒の由来を聞いてるんじゃないんだけど」

「これはドクセリだ、これを抽出しても毒になる。用心の為だ」

「用心って?」


 おかしくなったとは思わなかった。その瞳はあくまで理性的だ。


「少し良くない連中とことを構える。

 普通暴力団ってのは弁護士とはことを構えないし、脅しもしない。

 自分たちが法律に頼られると負けるって良く分かっているからだ」


 小太郎は父が大切なことを言っていると理解した。

 決して映画やドラマに影響されたごっこ遊びなどではない真剣さを感じた。


「奴らが狙うのは、普通は後ろ暗いことがある連中だ。


 軽い犯罪歴があるとかが一般的だ。

 薬物恐喝暴行強姦色々だ。

 そして後ろ盾のない人達。

 まあただの無職でも普通手はださないが、多いのは軽い借金があるとかだな。

 主婦がギャンブルに嵌って多重債務者になり、離婚したあげく売春をするなんてありふれてる。

 別にサスペンスドラマだけの話じゃない、小太郎もなんとなく察しているだろう。

 お前は賢いから」

「つまり、暴力団じゃなくて、新興宗教とか?」


 小太郎はズレそうになった話を修正する。


「いや、暴力団だ。だが何かがおかしい」

「具体的にどういう?」

「例えば、今の依頼人は警察に通報している。捜査はしていないものの、それでも嫌がらせをしている。

 大きな、それこそ借金とかではなく些細なトラブルであるにも関わらず」

「何したの?」

「……それは言えない」

「あの人達も暴力団に借金を?」


 小太郎はかつての家族をあの人達と呼ぶ。完全に決別していた。


「……そうだ」

「それで、自己破産ってヤツをしようとした。けど死を選んだ」


 小太郎は続けた。


「思い出したんだ。あの人達はあの日の前の日どこかにいってて、疲れた様子で帰ってきた。

 今なら何か、脅されたんだと分かる」

「小太郎」

「その暴力団てのは、同じなの?」


「いや、君の本当のお父さんとお母さんを追い詰めた暴力団は、その事件があった三ヵ月後に……」

「……もしかして、九州相田組襲撃事件?」


「……そうだ」


 九州相田組襲撃事件は日本犯罪史に残る大量殺人事件であり、未解決事件である。

 特定指定暴力団である黒川組の末端組織である九州相田組の事務所が襲撃され、組員全員が殺害された。

 死因は全員が刃物により首を切断されたことによるもので、当時の世論を震撼させた。

 小太郎のクラスメイトだっておそらく半数以上は知っているであろうほどには有名な事件だ。


「……そっか」

「とにかく、気をつけるんだ。今日からはなるべく迎えにいくよ」

「うん、わかった」

 

 

 3月某日。

 少年は、ヤクザの男を縛り上げていた。


「母さんはどこだ?」


 部屋は男達の死体が散乱している。


「今からこのナイフで、お前の手を解体する。言いたくなったら言え」


 そういって、男の小指を切り、肉を抉って行き、骨を露出させていく。丁寧に。


「意外とすぐにしゃべんだな。知っていることは全部か?」


 男が首が千切れんばかりにうなずく。


「じゃあ、これを試すな。。それっぽいのを作ってみたんだが」


 小太郎は瓶を取り出す。

 草や虫につけられたその液体を注射器で注ぐ。

 男の顔に斑点が現れ、呼吸困難になる。


「さて、それじゃあ次は」

「な、なあ。助けてくれ!」


 男の懇願に、小太郎が首を傾げる。


「なんで?」


 そのまま、男に近寄り、鎌で皮膚を削いでいく。


「何で悪いことをしちゃいけないか知ってるか?」


 少年は男の瞳を見つめる。


「それはな、人間は悪人には何でもできるからだ。どんな残虐な行為でも、 

 相手が悪人ならなんの良心の呵責もなくやれるんだ。こんな風に、お前らがやったことよりも残虐なことをな」


 そう言って彼は男の瞳をつかみ、抉った。


「とにかく母さんを探さないとな」


 そういって、小太郎は部屋の片隅にいる男を見る。


「行ってくるよ。父さん」


 彼はにっこりと笑って、父の死体に語りかけた。 

 後に大量殺人鬼として全国指名手配される蓮野小太郎のはじまりの物語だ。

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