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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第4章 翠炎の双子
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ボクシング

 巨大な、5階建てのビル程もある巨大な鬼。

 それが自身と同じ大きさの鉄杭を持って立ち塞がっている。

 その悪魔に相対するのは翠炎を纏う男女だった。

 年かさは、中学生程度だろうか。詰襟の制服を着ている。


 美しい双子だった。


 少年の方は、中性的な美貌で細身、ただし、背中だけは隆起したように発達し少し見ただけでは猫背のようにも見える。

 少女の方はおよそ同年代の男が求めるすべてを詰め込んだ様な女性だった。闊達で、しなやかな肢体を持つ。


 二人とも揃いの明るい色をしている髪をかき上げ悪魔をみやる。

 二人のとった構えは、典型的なボクシングスタイルのものだ。

 違ったことといえば、少年の方は左利きということか。


 性別は違うのに、まるで鏡写しのようにも見える。


 悪魔が動いた、その挙動はまるで早回しの駒のように素早い。

 鉄杭を大上段に振りかぶり、一撃、振り下ろす。

 少女が少年の前に立ち、拳を振り上げる。

 翠炎が拳の形をとり、打ち上げ花火のように上方へ向かい悪魔の鉄杭と拮抗する。


 その間に少年は鉄杭の上を豹のように俊敏に駆け上がっていく。

 少年は、肩を振り上げ、悪魔の顔面に近づく、顔の大きさだけで少年ほどもある悪魔の顎に狙いを定める。


「スイッチ、オフだ」


 悪魔はその一撃でダウンした。

 少年はそのまま自由落下し、あわや地面に激突するというところで、少女はアッパーカットを放つ。

 巻き上げられる衝撃が落下の衝撃を相殺し、少年はふわりと降り立つ。


 二人はそのまま悪魔を挟むように走り込み、、ラッシュをした。


 一瞬のような秒間に数十発ものラッシュを叩き込み、悪魔の体はすぐに原型をとどめなくなる。

 ほどなく、煙を上げて悪魔は消滅した。

 そのまま笑顔で少女がハグしに近づく。

 少年は苦笑しながら少女の顔を小突く。


「あんまり距離を近くするなよ繚蘭(りょうらん)。もう二年生なんだから」

「いいじゃん、別に」


 そうむくれて少女がいうと、少年は笑いかけた。

 その後、腕をつかんで二人は歩き出した。

 黒の乗用車に二人は近づく。

 乗用車の前で立っていたのは大柄な男だった。


 発達した僧帽筋が特徴的な、逆三角形の男だった。

 スーツの上からでもわかる鍛え上げられた男だ。

 顔は朴訥と言っていい。悪く言って地味。よく言って誠実そうな印象を人に与える。


「少しひやりとしたよ、隆盛(りゅうせい)君」


 先ほどの自由落下のことを言っているのだろう。少年は困ったように笑う。


「先ほどのことなら大丈夫っすよ京間(きょうま)さん。下に繚蘭もいたのでね」

「それでも心配は心配なもんさ」


 そう言って少年の頭を軽くポンポンと撫でた後、二人を入れるため後部座席の扉をあけてやる。


「家まで送ろう、といっても同じアパートだが」

「「ありがとうございまーす」」


 二人は声を揃えてお礼を言う。そのことに京間は笑みをこぼす。


「いつもありがとうございます。京間さん」

「なに、防人として当然の仕事だ」


 防人とは神殺しを守るため、政府の密命で働くエージェントのことだ。

 釧灘大和(くしなだやまと)に対して水上龍成(みながみたつまさ)が、井上勇美(いさみ)に対して井上雄大(たかひろ)が、藤堂興元(とうどうおきもと)にキルケがついているように、この華崎(かざき)兄妹にも京間誠一郎(きょうませいいちろう)がついている。


「もう五年になるのか、結構長いなあ」

「ええ、あなたが俺達の防人になって、もうそんなに」

「ねえ、速いねえ。じゃあさあ、パーティーしようよパーティー」


 繚蘭がそんなことを言い出す。


「いや、そこまでのことじゃないだろ」

「いいじゃんタコパーティーしようよタコパ」

「たこ焼き食いたいだけだろ」

「ちがうもん!」


 しばし笑い声が車内に響く。


「でもいいかもな、俺も母さんも誠一郎さんには感謝してるし」

「それは……はは、うれしいな」


 そういって住宅街に入ると、間もなく工事がされていた。

 工事現場の男が車の横につける。

 その男たちを京間は素早く確認する。

 訓練されている。

 男は赤い蛍光棒を投げ捨てると、懐から銃を取り出し発砲した。


「防弾だよ」


 京間はすばやくギアをパックに変え、下がった。

 しかし、そこにトラックが横付けされ道がふさがれる。

 京間は舌打ちし、無線に連絡を入れる。


「こちら防人78至急応援を要請する。相手は銃で武装している。目的は1112どうぞ」

『了解、至急急行する。しばし持ちこたえろ。


 華崎妹はおびえたように兄に縋りつく。それに対し、兄は気丈に震える妹の手を握った。

 京間は二人に向けて安心させるように笑顔を向ける。


「ちょっと身を屈めて、おとなしくしてるんだ。隆盛君は繚蘭ちゃんを守れ」


 そう言って、京間は急発進し、男の一人に車をぶつけた。

 そのままブロック塀に押し付ける。


 男は苦悶の表情を見せ動かなくなった。しかしトラックの上からぞろぞろと男たちがやってくる。

 その男たちはそれぞれがみんな、悪意の持った目で華崎兄妹を見やる。

 手に手に拳銃を持ち武装している男を見て、京間はため息をついた。

 そのまま華崎兄妹に言う。


「君らにまだ言ってなかったことがある」


「こんな時になに!?」


 隆盛は妹を抱えながら言う。


「ボクシングは最強の格闘技だ」


 呆ける二人に笑いかけ、京間は運転席から降り立つ。

 男一人に対し、あちらは十人ほどだろうか。

 しかし、京間は臆することなく男達に向き直る。


「男は殺せ」


 男達は一斉に銃口を向けようとした。しかし、最前列にいた男達が倒れた。


「今のって」

「ジャブだ」


 瞬く間に五人の男が倒れ伏し、2メートル近い男が集団に突貫する。


「ふざけんな! 撃ち殺せ!」


 瞬く間に発砲されるが、京間はスウェー(上体そらし)やダッキング(前屈み)により躱し続け、シャブは正確に男達の顎を打ち抜いて行く。


 その様は、猿の群れに突貫した虎を彷彿とさせた。

 銃弾は京間になぜか当たらず、すり抜け、逆に味方に当たる始末である。


 また、人数が減るに従い、京間の拳はさらに相手を破壊するものになった。

 男達の中には目玉が物理的に飛び出したもの、頭蓋が陥没したものなど様々見えるようになった。


 男達は瞬く間に最後の一人となった。

 その男は銃を震わせながら京間を見上げる。

 京間は銃を抑え、男のみぞおちに一撃を叩き込む。


「そのバッチ、回生会だな」


 回生会とは指定暴力団の中で全国三位の規模を持つ極道一派だ。

 京間は男の襟を掴み捩じり上げた。男は、苦悶の表情で京間を見上げる。


「てめえ、何なんだ」


「何って防人だよ。

 霊能者ってのはな、国土と同じくらい大切な国家の財産なんだ。

 俺らみたいな腕っこきを雇うのは当然だろう。

 それよりお前ら誰に唆されて……」


 言葉をつづけようとしたところで、男の様子がおかしいことに気づく。

 目の焦点が合わず、不自然に青白い色に変わっていく。


「京間さん!」


 隆盛と繚蘭は飛び出してきた。


「おい、出てくるな」

「悪魔が、召喚されようとしてる!」

「何?」


 すると、男の体が()()()()

 いや、それだけではない。倒れ伏している男達の体が次々にはじけ、地に魔法陣が描かれていく。

 そして、次の瞬間には、悪魔が顕現していた。


 すかさず華崎兄妹は迎撃しようとして、その次の瞬間には、京間誠一郎の姿が消え失せていた。

 兄妹が戸惑う間に、ぐしゃりという音が聞こえ、後ろを振り向く。

 見ると先ほどまで乗っていた車が無惨な姿でひしゃげており、上に血まみれの京間の姿があった。


「てめえ!」


 悪魔に対し、双子が翠炎を巻き上げ、一撃を与えようとすると、悪魔はふわりと消え失せた。

 そして、トラックの上から、何人もの男達が双子を取り囲んだ。

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