お嬢様と日直
「おはようございます」
「おはようございます」
「おはようございます」
廊下をスタスタと一定感覚で歩いる私は、挨拶してくるご学友の方々に、優雅に笑顔を返す。勿論、私も挨拶を返すのが礼儀作法なのだが、そんな事は今は言ってられない。
「あ、おはよう」
「うっ……」
しまった。心の中で失敗を自覚する。目の前には太陽の笑顔を浮かべるハンサムボーイ、合いたくないのに出会ってしまった。
「お、おはよう」
「今日は朝から君の顔を見られるなんて、運が向いてるみたいだね」
目線を反らしておるから分からないが、声色からして恐らく100%の笑顔なのだろう。わざわざ早起きして来たのに、なんてついていないんだ。
「それにしても随分早起きだね、もしかして日直かい?」
「うん」
短く一言。そう、今日の私は日直なのだ。
まぁ、日直と言っても職員室の花瓶の花を替えるだけの簡単なお仕事なのだが、何故か何時もこハンサムボーイと日直が被って会話をする事になるので、今日は早めに来ることにしたのだ。
見事に裏目に出てしまったが
「それにしても、よく日直が一緒になるよね」
「そうだね」
「先生がランダムで決めてるから、かなりの確率だと思うんだ」
「そうだね」
これである。私はさっさと自分のクラスの担当する花瓶の花を替えて、教室の机の上で惰眠を貪りたいのに、もしかして私の教室にまで押し掛けてくるんじゃないだろうな?
「もう到着か、もう少し君と話していたかったのに残念だ」
「そうだね」
「ふふ、君も残念がってくれているのなら、僕はそれで満足さ」
「そうだね」
おっと、気付いたら職員室の前に到着していたみたいだ。昼食の事を考えながら生返事を繰り返していただけなのに、何故か嬉しそうなハンサムボーイが恭しく扉を開けてくれたので、遠慮せずに中に入ることにする。
「さぁて、今日は何にしようかな~」
唇のしたに人差し指を置いて、花瓶に到着するまでにどんな花に替えるか考える。こういうのはインスピレーションが大切だ。
「よし決めた、今日はタンポポにしよう」
「畏まりました」
花瓶が置かれている窓際に到着した私が言葉を発すると、後ろの方から兄様の声が。
シュバッという効果音を置き去りにして、花瓶の中にあった元々の花は直ぐに消え失せ、気付くと私の注文通り、タンポポが可愛らしく飾られていた。私の兄様は優秀なのだ。
「お嬢様、日直のお仕事ご苦労様でした」
「うむ、よきにはからえ」
私の一言にお辞儀したまま頭を上げない兄様。周りの教員は何時も通りの風景なのか、何も言ってこない。
「えっと………ご苦労様でした」
「はい、良くできました」
私の兄様は優秀なのだ。
ちなみに、この後兄様の策略によって私の教室にまで来てしまったハンサムボーイのせいで、惰眠を貪る事が出来なくなるのだが、それはまた別のお話