お嬢様と執事様
「私と踊ってくださいませんか?」
それは、とある学園のパーティーで私に掛けられた言葉だった。
太陽のような微笑みを浮かべた少年は、今までダンスなど断られたかの無いような慣れた手付きで私の手を取ろうとし………私はその手をはね除ける
「ごめんなさい、他を当たってください」
ため息を何とか我慢して、絞り出したたった二言。
それだけで少年は私の言いたいことを理解したかのように、寂しげな笑顔でお辞儀をした後、去っていった。
よし、これで邪魔物はいないかな?
「いっただっきまー」
「太るぞ」
「しゅ!?」
目の前に広がっている、まだ暖かそうな料理の数々に舌鼓を打とうとした所で、また邪魔が入った。私はその声の主に、少しだけ頬を膨らませながら振り向く
「ちょっと邪魔しないでよね、お兄様」
「はぁ……」
燕尾服とも執事服とも取れない格好をした我が兄は、そんな私に堂々と溜め息を吐いた。階級的には私の方が上なのに、何様のつもりなのだろうか?
あ、兄様か
「お前はもう少し女の子らしく出来んのか」
「華やかな舞踏会でのダンスは御学友にお任せしていますわ」
更に溜め息、次いでに育て方がどうのこうの仰ってる。本当に私よりしたの身分という自覚はあるのだろうか?まぁ、私は別に気にしないが
「話はこれでおしまいですか?それでは、私はお料理を頂きますわ」
「駄目だ」
む、何時もなら溜め息を吐きながら、ほどほどにな、と言って許してくれるのに一体どうしたのだろうか?私は早く日々のストレスから食事という名の方法をとっては解放されたいのだけれど
「あいつと一回ぐらい踊ってやれ」
「え~」
兄様が親指で指したのは、先ほど私をダンスに誘ったハンサムボーイだ。露骨に嫌そうな顔をした私に、兄様は何時もの溜め息、出はなく、珍しく眉間に皺を寄せた困った顔をした。
「どうしてあいつがダメなんだ?言っとくが顔も性格もあんなに良い奴は中々いないぞ?次いでに家も大きい」
「何となく」
そう言った私に、兄はとうとう顔を片手で覆ってしまった。失礼な、私にだって人を見る眼はある、と信じたい。
「何となく苦手なの。何て言うか、こう、グイグイくる感じが」
「グイグイ、ねぇ」
呆れた表情をする兄様だが、私は止まれない。だってここで止まると、あのハンサムボーイと将来お見合いとかさせられそうだから。今の打ちに釘を打っておくのだ。
「ぜーたい私はあの人とは踊らないからね。それに、あの人には姉様がいるでしょ」
ビシッと人差し指を向けた先には一つ上の姉様と踊っているハンサムボーイの姿。同じご学友より大人びた姉様と学園でも一・二を争うハンサムボーイの二人のダンスは、まさしく切り取られた絵画のように様になっている。
恐らく、あの色男の狙いは、私を出汁にして姉様とダンスを踊ろうとしていたのだろう。そうに違いない
「と、私は思うのですよ。兄様」
「馬鹿言ってないで、お前は俺とダンスのレッスンだ」
「え~!?折角一流のコックが腕によりをかけて作ってくださった食事を無下になんて私には出来ません!!」
「はいはい、一曲終わったら食べましょうね~」
「そんなぁ」
無理矢理手を取られてステップを踏まされる私は、心の中で意地悪兄様に文句を言いながらさめざめと泣くのであった。