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彼がいたことは私の人生にとってとても重要だった。
新しい門出の日。その日には、その日にふさわしくない風が吹いていた。
「あー、くそ。ついてないな、ホント。」
小さな背中は、リズミカルに弾んでいる。朝からの季節外れの豪雨が、彼、大崎千博の背に、よれもほつれもない濃紺のブレザーを張り付かせていた。
今は四月のはじめのほう。彼の家の周辺では、牛糞のにおいと陽のにおいが充ち始める時期である。しかし彼は今、自分の故郷の薫りを嗅いではいない。
「少し、早すぎたかな、はは。」
誰に聞かせるでもなく彼はつぶやく。周りに人の気はなく、本当に聞くものなどいない。
「よしっ。」
彼はほほを抓り、爪を噛んだ後走り出す。油臭く光る道を。