ep1 高3の秋
9月
何もかも憂鬱な気分にさらされていた。ふとそこにできた光の影さえもうっとうしい。
天気のいい秋の日なのに外にも出ないでこうしている。出る気力がないのである。
こんなに堕落したものか。そう思いながらも動けないでいる自分がまた苦しい。
気を病んでここしばらくまた休んでいるのであるが一向に良くならない。毎日自分の中の闇と戦いながら、何も食べずに三日が過ぎている。空腹も腹の虫に食われてしまったようだ。ただ動けずに、すんで秋の色をした青い空と小金の稲を刈る人々を延々と黙視し続けた。
高3の秋である。
学校に最初に行けなくなったのは、去年の冬だった。ある事件がきっかけで精神を病んだのであるが、どうということもない、ただ死にたくなったのだ。しばらくして学校へ復帰したがよくなったりわるくなったりを繰り返しとうとう受験前の9月を迎えた。
親からは高望みするなと念を押され、できないのならやらなくていいと余裕を持つように言われている。
やはり高い理想と完璧主義は身を亡ぼすのか。精一杯生きていても普通の人のように生きられない自分がやるせない。人生不可解なりとかいっていっそ川に身投げでもするべきか、日々悶々とそんなことばかり考えている。
他人と比べてもしょうがない。そんなことは分かっていた。それでも、あいつはいいなとか、奴のように気楽に生きたい、などという観念は頭から離れない。この間電話で久しぶりに話した中学以来の友人Yは今度海外留学するそうだ。別段うらやましいとは思はないが、複雑な感情は降り注ぐようにまた私の心をかき回すのであった。
私にも将来の夢があった、たぶん今も変わっていないはずだ。その夢をかなえるために必要な道筋を中学からたどってきた。いわゆる優等生だった私は、兎に角勉強も部活も死ぬんじゃないかというくらい馬鹿まじめに取り組んだ。成績はそれなりに良かったし、先生方からの評価も高かったのではないかと思う。
頑張れなくなったのはあの時からだ。まるで神様がドクターストップならぬゴッドストップをかけるように物事が手につかなくなってしまった。待っていたのは絶望である。人生に挫折があるのなら何度この苦しさを味わうのだろう、私の生活は更新されないままだ。
別の道だと勘違いしてここまで歩いてきたのだろうか。違う、ちゃんと好きでここまでやってきたはずだ。
私の人生は私にしか決められない、だなんて私は何ていう夢幻を信じていたんだろう。
落とし穴や迷路の迷い道なんてどこにでもあるのに。