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悪役令嬢の三ヶ月

作者: ぺろ氏

どうぞ頭を空っぽに。いろいろおかしくてもスルーする広いこころを持って。ではどうぞ。



「…あら。」

扇で口元を隠し窓の外を眺める。

そこには第一王子のライベルト・オルセイウスと男爵令嬢のリリーナ・ガルディが仲睦まじく腕を組みながら学園の庭園を散歩している様子が映る。

つい先日まではあの位置は私のものだったのに。

はあ、とため息をつく。


私はリリアンナ・グレイベルト公爵令嬢。

学園の庭園でやに下げて歩き回ってる第一王子の婚約者。

銀糸の艶やかな髪に淡い紫色の瞳に細い肢体がまるで妖精の様だと言われて『妖精姫』とかなんとか呼ばれてるけど。

感情を露わにしないという所も神秘的らしいわよ。

まあ、公爵令嬢だし?第一王子の婚約者だし?そりゃ気遣ってずっと微笑み浮かべる様にはしてるけどさ、それって貴族なら当たり前じゃない?

てか、細い肢体ってなんなの。

うるさいわね、まだ発育途中なのよ!

ほっときなさいよ!

…確かにあの男爵令嬢はアレよね、出るとこ出てて引っ込む所引っ込んでるわよね。

本当に同い年なのかしら。はぁ。


二度目のため息をついたところで周りのご令嬢達が騒ぎ出した。

「もう!私許せませんわ!リリアンナ様にこのようにご心労かけられるなど一言申して差し上げなくては気が済みません!」

「本当にそうですわ!婚約者のいる殿方にあのようにしなだれかかって下品ですわ!あ、今ご覧頂けましたこと!?あの方殿下にお胸を押し付けていらしてよ!」

「殿下だけでなく他の方達も来られましたわね。あのお姿は、…リューグ様ですわね。私の婚約者ですわ…。」

「あ、私の婚約者のライナス様もいらっしゃいますわ…。」

次々と私の婚約者も、と声が上がりついには全員の婚約者がリリーナ・ガルディの元に集まった。

その数、六人に登る。

どの殿方も高位貴族という徹底ぶりでいっそのこと清々しいというか。

「皆様、お気を確かに。大丈夫ですわ。きっと今に正気に戻られますわ。こちらのお茶をお飲みになって。リラックスできますわよ。」

給仕のものに目配せして用意させておいたお茶を持ってくるように指示を出す。

「私達ったらリリアンナ様にお気を使わせてしまって…!一番お心を痛められてるのはリリアンナ様ですのに!」

「いいのよ、皆様私の大切なお友達ですもの。元気になって欲しいのですわ。」

リリアンナ様…!と皆感極まって涙を拭った。

友情を確かめ合ってるその間も私は気が気じゃない。

あっまた胸擦り付けてる! 殿下も嬉しそうにしちゃって!ああいう方が好みでしたのね!何よ、あんな大きいお胸!牛のようじゃない!お尻もあんな大きくて私の方が絶対良いんですからね!ていうか、まだ成長期だしその内に大きくなる…はず。

心の声が止まらないリリアンナなのであった。





事は放課後に起こった。

昨日の放課後にリリーナが階段から突き落とされたとのことだった。

しかもその犯人がリリアンナだというのだ。

泣きながら殿下の後ろに隠れるリリーナと庇うように前に立つ殿下。

その後ろに五人の令息。うん、いつも通り。

危ない危ない、現実逃避してた。

「それでは皆様は私がそちらの方を階段から突き落としたとおっしゃるの?」

扇で口元を隠しながらリリーナの方に視線を流すと怖がるように震えながら殿下の腕に縋り付く。ように見せかけて胸を擦り付ける。思わず目がすわる。

「ふん、白々しい。なにがそちらの方だ。醜い嫉妬でリリィのことを突き落とした癖に!」

「リリィ様という方に心当たりはありませんわ。私挨拶されてませんもの。知りようがありませんし、そもそもそちらの方を害して私が何か得をしますの?」

「大方婚約者である私の気を引こうとしてのことだろう!気を引くために人を害するなど見損なったぞリリアンナ!」

「おかしいですわね。なぜ殿下や皆様の中で私が犯人だと決まってらっしゃるのかしら。なにか証拠でもおありで?」

「現場に私が以前リリアンナに贈った髪飾りが落ちていた。それが動かぬ証拠だ!」

そう言って見せてきた髪飾りは確かに私の物で三日前から無くしていた物だった。

「私の髪飾り!返して下さいまし!」

それは私が殿下にもらった初めてのプレゼントだった。殿下の瞳の色の濃紺を基調として私の瞳の色に合わせた淡い紫色の宝石が散りばめられた美しい一品。幼い頃にもらった時はこれが似合う様に早く大人になりたいものだと思ったものだ。ようやく似合う様になってきたな、と思っていたところでの紛失だった。

「…っ!?な、泣くとは愚かしいな!公爵令嬢の姿とは思えない!」

「…え。」

公爵令嬢として、第一王子の婚約者として人前で声を荒げたりましてや泣いたりすることなんて恥だと己を律してきた。

いつも微笑みを浮かべる『妖精姫』。

その私が泣くなんて…。

「わたし、落とされた後リリアンナ様の走っていく後ろ姿みました!その長い銀髪、間違いありません!慌ててたからか分かりませんけど髪飾りが落ちてきました!罪を認めるべきです!そんな方にライの隣は相応しくない!」

怯えてる様に見せかけて隠しきれてない口元の笑みを浮かべながら殿下に縋り付く。




「…っ!もう、いい!終わりだこんな茶番!聞いただろう!衛兵こいつを捕らえろ!お前、いい加減離せ!」

「…っえ?!」

そう言うとともにどこからともなく衛兵が現れて、ライベルトの腕に引っ付いていたリリーナを乱暴に引き剥がした。リリーナが剥がれるとすぐにリリアンナに手を伸ばして腕の中に囲った。

「リリー泣くな!どうしたんだ?髪飾りならまた買ってやるから泣くなよ、な?」

「…この髪飾りはライに貰った初めてのプレゼントなのよ。お気に入りなの。ライを取られてる間我慢出来たのは髪飾りのお陰なのよ。」

「…っ!おま、そんなかわいいこといつも言わない癖にどうした!なんか悪いもんでも食べたか」「どういうことよ!なんで私が捕らえられるの!悪いことしたのはあの女じゃないの!ライ助けて!」

つい先ほどはか弱い令嬢のフリをしていたリリーナだったが今は衛兵から逃れようと髪を振り乱しながら暴れている様子にライベルトは顔を顰める。

「そもそもリリーには犯行は不可能だ。昨日の放課後はすぐに王宮に来て妃教育と母上の相手をして貰っていた。もちろんリリアンナが王宮に来ていたという記録もあるし母上の証言もある。」

「う、うそよ!そんなの信じないわ!髪飾りという証拠があるもん!」

殿下はげんなりとしながらリリーナの言葉を否定した。

「…王妃である母上をも謀る気か。そもそもこの髪飾りは三日前から行方が知れなかった。多くの者が懸命に髪飾りを探しているリリアンナと一緒に至る所を探し回っていた。その証言は多くの者がしてくれている。お前が走り去るリリーの髪から落ちて来たという証言に矛盾が生じてくる。調べたところちょうど三日前にリリアンナの寮に入っていくお前の姿が目撃されている。妙にこそこそしていたとのことだか…?」

「それはお友達に会いに行っていたからで…!」

「ほう、お友達、ね。リリアンナのいる寮は高位貴族用の物だ。お前に高位貴族の友人がいるとは思えん。それに寮の者全員お前とは知り合いでもなければ言葉も交わしたこともないという。それはどう説明するのだ?」

「そ、それは…!!」

「ああ、それと言っていなかったが男爵はもう捕らえられている。横領や賄賂など叩けば山ほど悪事が出てきたな。」

追い詰められたリリーナは目を血走らせながら猛然と暴れ狂った。しかし、所詮貴族令嬢の力。ふりほどけずに地に沈められた。

「全て私のものなのに!!!私が愛される世界なのに!!!どういうことよ!!!ふざけんじゃないわよ!!!狂ってるわ!この世界は狂ってる!!!」

「…自分が狂ってるとは思わんのか見苦しい。連れて行け。」

「はっ!」

リリーナは首に手刀を入れられ気絶して荷物のように担がれて去って行った。


「殿下、我々も婚約者のもとへ行ってよろしいでしょうか?ご機嫌を取らなければ…」

「僕も〜。彼女達も事情を知ってるからって怒ってないわけじゃないからね〜。」

「ああ、今すぐ行ってやれ。お勤めご苦労。」

「はっ。ありがとうございます!」

他の令息も各々の婚約者の元に帰って行った。



「…変態王子。」

「ああ!?」

「だってあの男爵令嬢にお胸押し付けられてて喜んでたじゃない。私見てたのよ。目がこーんな感じ。」

リリアンナは目尻に人差し指をつけてたらーんとおとして見せた。

「…ふっなんだそれは俺の真似か?」

リリアンナはもともとタレ目であるのでさらに落としたところでかわいいだけなのである。

「ふんっ。それにリリーとリリィは似すぎよ。面白くなかったわ。それとお胸。」

怒っているわりにはよりぎゅーっと抱きつき胸元に額をグリグリ押し付ける。

「お尻も大きくて腰が細かったわ。…私もあと数年すればお胸もお尻も大きくなるもの。腰は細いと思うのだけれど…。」

「…あはははっ!どんだけ体型気にしてんだよ!俺はリリーのそのペチャパイかわいいと思ってるのに。」

にやにやと意地悪い顔でペチャパイとのたまうライベルト。デリカシーはどこにいった!

「ペチャパイじゃないわ!形のいい小振りなお胸と呼んで!!!」

「それペチャパイと違いあるか?」

「あるの!!!」

「あーはいはい。俺のお姫様。」

だから機嫌なおしてくれよー、と言いながら頭を撫でてくれた。

「…むぅ。」

機嫌はまだまだ斜めだが頭を撫でられるのは気持ちいい物である。その手につい擦り付いた。

「…てか、今日どうしたんだ?デレしか感じないんだけどなんか変なもん食ったか?」

「失礼するわね!そんな犬猫じゃあるまいし!」

「いや、最近はめっきり会えてなかったけどさ、いつもはもっとツンツンしてるだろ?それもかわいいんだけど。」

そう言って顔を覗き込んでくるライベルト。

本気で心配しているようだった。

「…寂しかったのよ。たった三ヶ月の間だし男爵のことも聞いていたけれどそれとこれとは別よ。いつも私を構ってくるライベルトがいなくてつまんなくて寂しかったの。このままリリーナに取られちゃうんじゃないかって不安だったし。」

頬を膨らませながら下唇を出し頬を染めてもごもご喋るリリアンナのかわいさたるや。

「…たまらんー!」

「きゃあ!」

ライベルトはリリアンナを抱き上げてくるくる回してぎゅうっとリリアンナを抱き締めた。

「ごめんな、こんなやり方しか思い浮かばなくて。不安にさせたよな。もうこんなことしないって約束するよ。…愛してるのはリリーだけだ。」

耳元でそう囁くと顔から耳から首まで真っ赤にしたリリアンナが小さく私もよ、と呟いた。

そして上目遣いでライベルトを見てえい、と首に両手を回しちゅ、とキスを贈った。

呆然とするライベルトに怒ったのかと思ったリリアンナがおずおずと見上げると熱いキスがこれでもかとふってきた。

「〜っ!ぷあ!はあはあ…」

「今日はもう帰さねー。リリーが悪いんだからな。覚悟しろよ。」

「え、ちょ、何言ってるのよ!ばか!嫁入り前よ!」

「なんとかなるなる。てか、もう俺に嫁入り決まってるし大丈夫問題ナッシング。さあ行こう。」

妙にいい笑顔で暴れるリリアンナをお姫様抱っこするといつの間にか手配してあった馬車に乗せられ王宮まで連れていかれた。

…その後のことはご想像におまかせします。





ライベルト「俺は俄然ペチャパイ派だがな!」

リリアンナ「変態臭さが増しますわよ。」

ライベルト「…解せぬ!」

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