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ようこそ、私達の夢の楽園へ  作者: オリオン
6/6

最後の噂

剛の助けを呼ぶ声が聞えなくなってきた。

後ろを振り返っても恐らくもうあいつの姿は見えないだろう。

だが振り返る事なんて出来なかった・・・・あいつが追ってきてるかもって思ってしまうからだ。


「はぁ、はぁ」


守は地面に座り込み、顔を真っ青にして激しく呼吸を乱している。

俺の隣にいる幸子さんもそうだった・・・・顔面蒼白でとても動ける状況じゃない。


「なんで、何でこんな! こんな!」


呼吸を整えた守のデカい声が遊園地中に響いた。

だがその声は虚しく響くだけだった。


「守・・・・」

「幸平・・・・もう、俺は動けない」


守の足は激しく震えており、自分で言うようにとてもじゃないが動ける様子じゃなかった。

目からは大量の涙を流し、歯を強く食いしばり、口から僅かに血も流れている。


「守・・・・頼む、諦めないでくれ・・・・ここで諦めたら、あいつらの死が無駄になる!

 キーワードを揃えて、なんとか俺達だけでもこの地獄から逃げ出すんだ!」

「無理だ・・・・俺はもう動けない」


守の声は激しく震え続けており、足もさっき以上に震え始めた。

そんなこいつを見ていられなくなった俺は、こいつから目を離し周りを見てみる。

すると近くに大きなお城のような建物があった・・・・お城のような建物と言う事は

この場所が最後の噂がある場所・・・・ドリームキャッスルか。


「・・・・あった、最後の噂の場所だ」


俺はその城を見付けた事を守と幸子さんに告げた。


「駄目だ! 行ったら死ぬぞ!」


俺の言葉にすぐに反応した守が大きな叫び声を上げ、俺を制止する。


「幸平さん・・・・私も行かない方が良いと思います」

「駄目だ、行くしか無い・・・・あそこに行かないと、俺達は助からないんだ!」

「じゃあ、なんだよ! お前も剛みたいに死にたいって言うのか!?」

「そうは言ってない、ただ行かなきゃ結局死ぬって事だ!

 剛の奴も言ってただろう!? 忘れたってのかよ!」

「そうやって、お前もまた死にに行くんだ! もう勝手にしろ! もう俺は知らない!」


守はさっきまで流していた涙をより一層増やし、後ろを向き俺を制止するのを止めた。


「・・・・幸子さん、あなたもここで待っててください、俺は必ず帰って来ます

 だから、それまでこの馬鹿を見守っててください」

「・・・・分かりました、絶対に戻ってきてくださいね」

「はい」


ビビりだった俺が、まさかたった1人で夜の遊園地にある不気味な城に行けるようになるなんてな。

今までの極限状態で恐怖はもう殆ど無い・・・・克服したからなのか、麻痺しているだけなのか

そのどちらかは分からないが、どっちだとしても今は恐怖を感じていないのは事実だ。

麻痺して恐怖しないなら、その麻痺が解けるまでにキーワードを見付けて帰る

ただそれだけの事・・・・俺はそんなことを思いながら

ドリームキャッスルの大きな木製の扉を力一杯押し、ゆっくりと扉をこじ開けた。

城の中は当然ながら真っ暗で、懐中電灯がないと足下すら見えない状況だ。


「・・・・やるしか無い」


俺はその光景を見ても怯まず覚悟を決めて、1歩足を踏み出し、探索を始めた。

この大きな城の中から1人で拷問部屋を見付けるなんてかなり困難だと分かっている。

だが進むしかない・・・・探すしかない、脱出するにはそれしかないのだから。


「何処にある・・・・噂の拷問部屋・・・・く!」


目の前になにやら人影のような物が見え、俺はその影の正体を探るべく懐中電灯を向けた。

そこにあったのはただの甲冑であり、動く様子なんかも一切なかった。


「ふぅ、た、ただの甲冑か」


いきなり人影が見えたからかなり恐怖したからか、その影が甲冑だと分かった途端

どっと疲れが押し寄せてきた・・・・少し気を張りすぎていたのかも知れない。


「はぁ、畜生」


その後も俺は城の内部を必死に探索した・・・・周りが真っ暗だからどれだけ時間が経ったのか

それは分からないのだが、感覚的には3時間ほどだ、懐中電灯の明かりは明らかに弱くなってきている。

これ以上探索に時間を食ったら・・・・懐中電灯が切れて探索が出来なくなってしまいそうだ。

だが動けるのは俺くらいしかいないんだ・・・・探し回るしかない。

足が棒のようになって来たが、この程度で音を上げる暇は無いんだ。


「何処だ・・・・何処にあるんだよ、拷問部屋」


俺が必死に拷問部屋を探していると、状況は一変した。


「うわぁぁ!!」

「守!?」


何処からか守の叫び声が聞えてきた、もしかしたらしびれを切らしたあいつが

俺を探すためにここに入ってきたのかも知れない!

だとすると何かに襲われて叫び声を! とにかく声がした方に進まないと!

俺は疲れが溜まってきていることを忘れ、全力で走り出しあいつの叫び声が聞えた場所に向った。

あの声が聞えてきたのは入り口の方だった筈、急いでその場所に向うと

そこに守の姿は無かった・・・・代わりに入り口に敷いてあったカーペットがめくられ

ドリームキャッスルの床が開いていた。


「これは」


俺は急いでどういう状況なのかを確認するためにその開いている場所に移動して見た。


「階段?」


石の床が隠していたのは、地下へ向う階段だった。

こんな近くに地下に向う階段があるなんて・・・・


「な!」


懐中電灯をその階段を探るように照らしていると、階段を降りきった先に

赤い血の跡のような物が2本走っているのに気が付いた。

もしかして・・・・もしかして守と幸子さんは!


「武器・・・・せめて武器でも無いと!」


俺は周りを見渡し、壁に掛けてあった小さな剣を手に取った。

普通こんな場所に掛けてある物が本物である筈も無いのだろうが

この場所に掛けてあった武器はかなり重く、本物であると分かった。


「な、なんで本物の剣が・・・・いや、それは後だ! 急いで見に行かないと!」


俺は消えかかっている懐中電灯で地下に入り、2つの血の跡をたどり奥へと進んだ。

その際奥には血でもかかっているのかと疑うほどに真っ赤な大きな錆びた鉄の扉があった。

俺は急いでその扉を押し、ゆっくり、ゆっくりと鉄の扉を開いた。

力を込め、開いた扉の先には三角木馬に乗せられ、体中から血を流している幸子さんが見えた。


「さ、幸子さん!?」

「はぁ、はぁ・・・・こ、幸平・・・・さん」

「幸子さん!? どうしたんだ!? 何でこんな状況に!」


俺は急いで幸子さんを拘束していた縄を持ってきた剣で切り、彼女を三角木馬から降ろした。


「変な影が・・・・私達を連れて、ここに・・・・」

「変な影って、大丈夫ですか!? あ、そうだ! 守! 守は何処に!」

「・・・・・・」


幸子さんは無言のままある場所を指差した・・・・そこにはアイアンメイデンだったか

そう言う拷問器具というか処刑道具が置いてあった。


「あの・・・・中に」

「は!? あ!」


幸子さんに言われ、急いでそのアイアンメイデンを照らすと、この道具の足下から

真っ赤な・・・・何度も見慣れてしまった真っ赤な液体があふれ出ているのに気が付いた。


「・・・・守? う、嘘だろ? きっと、これは偽物だろう?

 中に針なんて無い・・・・ただの悪戯・・・・きっとそうだ」


ここに来て俺は現実を見たくなく、ただその状況から逃避しようとした。

だが・・・・逃避なんて出来ない・・・・この現実は変わらない。

俺は覚悟を決め・・・・アイアンメイデンを開けてみた。


「あ、あぁ・・・・そんな・・・・」


アイアンメイデンを開くと・・・・そこには串刺しになっている守の姿があった。

こいつの指先は一切動くこともなく・・・・ただただ大量の血を流している。

何でだよ・・・・何で待ってただけなのに・・・・こいつまで。


「ごめんなさい・・・・私が守れなかったから」

「・・・・さ、幸子さんは・・・・悪く・・・・ありません・・・・」

「それともう一つ・・・・キーワード・・・・見付けました最後のキーワードは「い」です」

「何処にあったんですか・・・・」

「私が捕まってた三角木馬に書いてありました・・・・」


最後のキーワード・・・・それは「い」だ・・・・これでキーワードは揃った。

これで・・・・俺達2人だけは脱出することが出来る。

後味は非常に悪く、逃げ出すのも嫌になるくらいだ。

だが、幸子さんだけは・・・・どうしても脱出させてあげないと駄目だ。

俺は幸子さんと一緒に最初の出入り口、全てが始まった場所に移動した。


「ここですね・・・・最後です」

「キーワード・・・・入れるぞ」


俺は今まで手に入れたキーワードを機械に入力した。

しかし、それで扉が開くことはなかった。


「なんで開かない!?」

「それはね、ちゃんと並び替えないと駄目だからだよ」


俺が大きな声で叫ぶと、いきなりあの兎野郎が姿を表わした。


「お前!」

「ふふ、最初は7人もいたのに、もう君1人になる何てね」

「・・・・お、お前の・・・・お前のせいだ! 全部お前の!」

「はは、忘れたのかい? 僕を殴れば」

「く!」


クソ、この着ぐるみ! 俺はどうすれば良いんだよ! この怒りと悲しみを何処にぶつけろってんだ!


「それに折角ヒントを上げたんだ、感謝してね」

「誰が!」

「1度、キーワードを全部出してみれば良いよ」


こいつに言われたとおりにするのは癪だが、俺はメモ帳に今までの字を出してみた。

「わ」「ら」「な」「ゆ」「め」「い」・・・・分からない。

ゆめと書いてあるのは分かるんだが、他の文字の組み合わせが理解できない。


「分からない、ゆめは分かったのに・・・・わらないってなんだよ」

「ふふ、ほらほら」


兎が憎たらしく機械を指差した・・・・そこには表記が7つあった。

おかしい、尚が調べてきてくれた噂の内容は6つだ!

俺達はその6つ全てを回った! あいつが何かを見落としているとは考えにくい!

じゃあ、どうして7つの表記なのに俺が尚から受け継ぎ、書いたメモ帳には6文字しかない!?


「・・・・どういうことだ?」

「ふふ、もう一つ・・・・あるじゃないですか・・・・裏野ドリームランドの噂」


後ろで幸子さんが小さく呟き始めた。

さっきまで言葉を発しなかったのに・・・・いきなり。


「もう・・・・1つ?」

「はい、もう一つ・・・・ふふふ」

「幸子さん・・・・どうして笑ってるんですか!? それより、なんであなたは最後の噂のことを!」

「ふふ、気が付きませんでした? 今まで死んでいった人達の特徴・・・・目立ってたのに」

「特徴?」

「全員、ある行動をしたら死んだ・・・・」


ある行動・・・・俺はこの人の言葉でようやく理解する事が出来た。

今までずっと引っ掛かってきていた謎・・・・今ハッキリと分かった。

ここで死んでいった奴ら・・・・全員キーワードを見付けたら死んでいた。


「キーワードを見付けたら死んでいた・・・・正確には最初に見付けたらですけど

 だとすると、1つ違和感がありますよね? ついさっきの事・・・・私だけ死んでない」


最初にキーワードを見付けたのは確かに幸子さんだった・・・・でも、今までの流れと違って

この人だけは死んでない。


「そしてもう一つ・・・・私はあなた以外と会話をしていませんでした」

「そんなはず・・・・」


そう言われるとそうだ・・・・全員、誰1人として俺と幸子さんがナはしている内容に

ツッコミを入れてはいない俺達の会話の中に幸子さんが入ってきたことはあった。

だけどその言葉がなくても、俺達の会話は成立していた様に思える。


「まさか」

「だって私は・・・・あなたにしか見えない存在ですから」


幸子さんの言葉がいきなり耳元で聞えてきた。

さっきまで目の前にいたのに、一瞬たりとも目を離していないのに

何で・・・・どうやって、いつの間に俺の後ろから抱きついてるんだ!?

そしてこの会話のせいか知らないが、幸子さんの体温は異常に冷たいことに気が付いた。

今までも何度か触れていたのに気が付いてなかった・・・・冷静じゃなかったからか?


「最後の噂・・・・いや、最初かな? この遊園地では時々子供がいなくなる

 噂なんて言っても、廃園になった噂だけど、この噂も噂」

「・・・・そんな」

「そしてキーワード・・・・「お」、ふふ」


この言葉を聞いて、俺は異常な程に脳が働き、すぐにキーワードの言葉が出た。

おわらないゆめ・・・・終わらない夢がキーワード!

今すぐ、今すぐ手を伸ばせば! まだキーワードを入れることが出来る!

俺は最後の力を振り絞り、機械の方に手を伸ばした。


「残念・・・・もう遅いよ」


だが、俺が手を伸ばすとすぐに異常なことに気が付いた。

俺の腕が・・・・着ぐるみのようになっている。

さっきまで目の前にいた筈の着ぐるみのような腕に。

こんな腕じゃ、キーワードを入力すること何て・・・・出来ナい。


「ふふふ・・・・これで一緒、ずっと、ずっと・・・・私達と一緒に終わらない夢を見ましょうね

 幸平君、あなただけは特別に・・・・私とずっと一緒にいさせてあげる」

「嫌だ・・・・こんな所で・・・・死にたくない」

「大丈夫、安心して・・・・あなたは死なない、ここは夢の世界

 夢の世界で死ぬ事なんて無いの・・・・だからずっと私達の楽園・・・・

 終わることがない夢、もう誰も1人で生きなくても良いの

 ずっと、幸せに・・・・夢の世界なら1人にならないですむから」

「いや・・・・あ、あぅ・・・・視界が・・・・そな、あと少し・・・・に」

「ずっと一緒よ、幸平君」


















「ねぇ、裏野ドリームランドって知ってる?」

「知ってる知ってる、あの超怖いて言う心霊スポットでしょ!」

「そうそう、ねぇ、今度言ってみない? 私達6人でさ」

「良いけど、大丈夫なの?」

「幽霊なんているわけないって、ま、暑いし良い感じに冷えると思うよ」


どうしよう、私は凄く怖いなぁ、裏野ドリームランドって最凶の心霊スポットじゃん

何て事を私が言っても、皆が聞くわけが無いけど。


「じゃあ、今日の夜集合!」

「おー!」

「お、おー」


結局断ることが出来ないままこんな所に来ちゃった・・・・うぅ、暗くて怖い。


「よしよし、皆来たね、じゃ、行こう!」

「う、うん」


あまり乗り気じゃないまま私は皆と一緒に遊園地に入っちゃった。

門をくぐると、さっきまで開いていた出入り口がいきなり閉まった。


「なに!? どうなってるの!」

「ようこそ、夢の楽園へ」

「ぬいぐるみが喋った!」


いきなり目の前に現われたぬいぐるみが男の人の声で話しかけてきた!

おかしい! 閉園してるのに着ぐるみがうごくわけが無い!


「聞き慣れた台詞をどうも、さて、早速だけど君達にはゲームに参加して貰う」

「な、何を言ってるの!?」

「ここにキーワードを入力する機械がある、このキーワードを探してくるんだ

 そうすれば君達は晴れて脱出、簡単だろう?

 それと、ヒント無しじゃ無理だろうから、ヒントを上げよう。

 キーワードは噂がある場所に1つある、それを探してくれば良いんだ

 それと逃げだそうとしても無駄だぞ? 後ろの出入り口は逃げようとすると殺す機能があるから」


その着ぐるみに言われ、私はチラリと後ろの方を見てみた。

そしてすぐに何があるかが分かった、天井に大きな血が付いた針が沢山あった。


「気が付いたな、逃げようとしたらあの天井が落下、逃げだそうとした奴を串刺しにする

 あの針に付いてる血は全部俺の忠告を無視した馬鹿が逃げだそうとして串刺しになった時の物だ」

「わ、訳が分からない事を言わないでよ!」

「あ、駄目!」


逃げだそうとした奈々ちゃんの腕を引っ張ると、奈々ちゃんはすぐにこっちに倒れてきた。

それと同時くらいに天井が一気に落下してきた・・・・

奈々ちゃんはその光景を見て恐怖のあまり放心してる。


「だから言ったんだ、それじゃあ、精々頑張ってくれ」

「う、うぐ、ううぅぅ!」

「さて、君達はこの夢から覚めることが出来るかな?」


最後にそう言い残し、目の前にいた着ぐるみは姿を消した。

私達は進むしかない・・・・この恐怖の遊園地を。


「ふふふ、新しいお友達だね、ふふふ」

「そうだな、これでお前は友達が増えるぞ、俺としてはお前がいてくれればそれで良いが」

「ふふ、嬉しい、でも他の子達が寂しがるから、私は増えた方が嬉しいかな」

「キャーーー!!」


彼女達の悲鳴が遊園地内に響いた。

今宵も覚めない夢はまた深く、深く沈んでいく。

俺は彼女達の悲鳴を幸子の隣で聞きながら、幸せな夢を見続ける事だろう。

この幸福な夢は一生覚めることなく、俺達を包み込む。

良かったな皆、今日も新しい仲間が増えて。

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