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ようこそ、私達の夢の楽園へ  作者: オリオン
4/6

廻り続けるメリーゴーランド

剛達はあんなことがあった後でも真っ直ぐ進んでいる。

だが、俺の精神はもう完全に限界に来てしまっている。

俺は怖い物は嫌いなんだ・・・・あんな恐ろしい事があったのに進めるわけが無い。


「・・・・もう、駄目だ」


俺は動くことを諦め、その場にヘタレ込んでしまった。

こうなるのが普通なんだよ、あんな恐ろしい事が連続してあったんだ

それなのに平気で進める方がどうかしている。

なんせ生き残ってるメンバーで俺だけがミラーハウスのあの恐怖を体験したんだから。


「幸平さん、どうしたんですか?」

「幸子さん、俺はもう・・・・無理です」


俺に気が付いた幸子さんが優しく声を掛けてくれた。


「どうしてです?」

「もう俺にはこれ以上の恐怖は耐えられない・・・・耐えられる訳がない」

「じゃあ、どうするんですか? ここで恐怖に打ちのめされて足を止めるんですか?」

「それは・・・・でも」

「それでは、あなたは先に進むことが出来ませんよ、死んでいった人達の犠牲、無駄にしますか?」

「・・・・・・」

「大丈夫ですよ、私達が一緒にいます、ずっと一緒に・・・・だから、一緒に進みましょう」


幸子さんがそんな優しい言葉を掛けてくれて、俺に手を伸ばしてくれた。

俺はその言葉で少しだけ恐怖から立ち直ることが出来た。

そうだよな、まだ剛達がいる・・・・諦めるわけにはいかない。

ここで恐怖で打ちのめされても先に進めない

こんな所でおれたら、死んでいったあいつらに合わせる顔が無い!

俺は幸子さんが伸ばしてくれている手を掴まず、ゆっくりと立ち上がった。

理由は・・・・なんか女の子の手に触れるってのが恥ずかしいからだ。


「分かりました、進みますね・・・・ありがとうございます」

「いえいえ、でも、なんで私の手を掴んでくれなかったんですか?」

「いや、その・・・・は、恥ずかしかったんで」

「ふふ、そうですか」


幸子さんが少しだけ嬉しそうに頬を赤らめた。


「と、とにかく進みましょう! 次は観覧車ですよね!」

「そうですね」


俺は急いで剛達に合流し、観覧車を一緒に目指すことにした。

その時、妙に明るい音楽が流れてきたことに気が付いた。


「なんだ?」


俺達はその音楽が聞えてくる場所に移動した。

そこには明かりが煌々とついており、ゆっくりと廻りながら明るい音楽を俺達に提供してくれている。

だが、どうして動いているのだろうか・・・・電気なんて通ってないのに。


「これは・・・・噂の廻るメリーゴーランドかな」


尚がいつも通りに冷静な態度でこの状態がなんの噂なのかを話した。


「じゃあ、ここにもキーワードがあるかもって事か?」

「そう言う事だよ、探してみる?」

「折角明るいんやし、少し休めばええんとちゃう? 近くに椅子もあるしな」

「そうだな、あんな事が沢山あったんだ・・・・少しくらい休むか」


この明るい空間で俺達はしばらくの間休む事にした。

今まで暗闇でただただ不安に押しつぶされそうになっていたが

ここなら少しくらいは落ち着くだろう・・・・噂だって

ただ電気も通ってないのに廻ってるってだけだろう?

その程度ならここでのんびりとしていても何もない筈だ。


「・・・・やっぱりここに来るのは止めた方が良かったな」

「そうだね、僕が止めるべきだったのに、妙に興奮しちゃって」

「お前だけが悪いわけじゃねぇ・・・・俺達全員が悪いんだ」

「せやで、肝試しなんてアホな真似、止めさせればよかったんや」


俺達は椅子に座り、同時に自分達の後悔を話し始めた。

・・・・肝試しに行こうなんて言う話を断っていれば

あいつらは死ななかったはずだ・・・・でも、俺達全員は止められなかった。

そのせいであいつらは死んでしまった、その後悔を俺達全員がしている。

大事な友人を自分達のせいで失ってしまったって思ったら後悔もする。


「今更悔やんでも仕方ねぇのは分かってるが・・・・どうしても悔やんじまう」

「肝心なときに後悔するのは危ないけど、こう言うときは後悔しても良いよ

 愚痴を言ってくれても構わない、僕達はそれを聞くよ、友達だからね」

「あぁ、ありがとうな、尚」


普段お礼なんて言わない剛が、珍しく尚の言葉に礼を言った。

普段通りに振る舞っていたから気が付かなかったが

こいつもそれだけ精神的に追い込まれていたって事だろう。

こうやって話をする、それだけの事なのに今のこの状況では幸せに感じた。

だが、そんな幸せがこんな悪夢の世界でいつまでも続くはずも無かった。


「な、なんだよ!?」


突如、後方から何かが弾けたような音が聞えると、状況が一変した。

さっきまでの明るい音楽が嘘のように変化し始めた。

いきなり音が壊れ、高い音、低い音と不規則に変化し始めた。


「逃げ・・・・な、なんだ! う、動けない!」


音楽が変り、俺達は一斉に逃げだそうとしたのだが、何故か体が動かなくなっていた。

首は動くって言うのに、体はまるで動かない。

体だけ金縛りに遭うなんて事があるのか!? 分からない、分からない!


「こ、今度はなんだよ!」


更に畳みかけるように、さっきまでの音楽が逆再生されて同じ様に不規則に音の高さが変化し始める。

それだけならただ耳が痛くなるだけですんだだろうが、それだけでは無く

一瞬だけ明かりが消え、すぐに明かりがつくとそこには仮面を被った何かがメリーゴーランドの

馬の部分に乗っていた・・・・そこが馬ならまだ良かった、だがその馬の部分にあったのは

口から血を流し、白目をむいている動かなくなった男がメリーゴーランドの棒に刺さり

馬のような格好をさせられている。


「・・・・・・」


その光景を目の当たりにした俺達は叫び声をあげることもできず

目を背けることも出来ないまま、そのグロテスクな状況を見ることしかできなかった。

せめてまだそれだけで終わってくれと俺は必死に願った、だが願いは届かない。

再び電気が暗転したと思うと、また仮面を被った何かが増えており

その仮面を被った何かが座っている場所がまた人間の姿になっていた。

今度刺さっていたのは、さっきの男では無く、女子高生位の女の子の様に見える。

だが、その状態はさっきの男と同じ様になっている。


「・・・・あ、あぁ」


体は動かない、目を背けることも出来ない・・・・ただ恐ろしいその光景を見ることしか出来ない。

また電気が一瞬暗くなった・・・・だが、次に明るくなったとき

仮面を被った化け物の数は急激に増え、メリーゴーランドの全ての乗る場所に乗っていた。

その座っている場所、その場所の人間も一気に増えた。

男女バラバラ、性別に規則性など無いが、状況は皆同じ。


「・・・・「ゆ」?」


そんな時、尚が小さな声で1つの単語を話した。

尚の視線の先には一箇所だけ仮面の化け物が乗っているのに

変化せずそのままになっている馬の乗り物だった。

俺はそれに気が付き、その乗り物に小さく書いてある言葉を読もうと目をこらした直後

再び電気が消え、次に明るくなった時には真っ赤なライトに変化している。


「あはは、あはは」


辺りに人の声とは思えない機械の様な笑い声が響き始め

メリーゴーランドに乗っていた仮面の化け物達がこちらに近寄り始めた。


「来るな!」


俺達の叫び声は虚しく響く、仮面の化け物達は赤い電気が一瞬消灯し

再びつく度に確実に俺達の方に近寄ってきている。

それだけでは無く、電気が消えてついた直後で笑い声も増えているように感じる。

俺達はその状況にただただ恐怖し、動くことも叫ぶことも出来なくなっていた。

仮面の化け物達はそんな俺達を見て笑っているのか、笑い声は増え続ける。


「来ないでくれ」


俺達が何度願おうと、その願いは叶うことも無く、化け物達はゆっくり近寄ってくる。


「アハハ、アハハ」


ゆっくりと近寄ってきた化け物達は完全に俺達を包囲し

鼓膜が破れるかと思うほどの大きな大きな笑い声を何度も何度も響かせる。


「消えてくれよぉ!」


俺の最後の絶叫、その絶叫の直後に電気が一気に消灯した。


「うわぁぁぁぁ!」


それと同時に尚の声の様な叫び声が響いて来て、すぐに電気がついた。

すると明かりは最初の明かりに戻り、音楽も元の明るい曲に変化した。

だが、俺の隣、尚が倒れていたはずの場所には大量の血があった。

その血の池の中心には尚がいつも使っていたメモ帳が落ちている。


「尚! 尚! 何処だ!? 何処に行ったんだよ!?」


俺はそのメモ帳を拾い、尚の名前を大声で呼んだ。

だが、あいつの返事は無い。


「尚! どこに行ったんだよ! 出て来いよ! ふざけるなんてお前らしくないぞ!」


剛の叫び声は少しだけ震えている、剛の状況を確認しようと、あいつの方を見てみると

僅かながら涙が流れているのに気が付いた。


「剛・・・・尚! 出て来やがれ!」

「ふざけとらんで、出てくるんや・・・・な」

「どうした守!?」

「あ、あれ」

「え? ・・・・そんな」


守が指を刺した方を見てみると、そこには尚がさっき仮面の化け物が乗っていた人間達の様な状態で

馬が刺さっている場所に刺さっていた・・・・違うのは上にあの化け物が居ないことだけ。


「ひ!」


その光景に俺達が気が付くと、周りに響いていた明るい音楽が再び逆再生を始めた。

そして、少しずつ少しずつ、あの時のように音が変化してくる。


「う、うがぁぁぁぁ!」


剛が俺達の首根っこを掴み、全力でその場から走り始めた。

そのお陰で、俺達はあの音楽が聞えない場所まで逃げることが出来た。


「クソ、クソ、なんで・・・・何でこんな事に・・・・クソォォォォ!!」


剛は大きな叫び声を上げた後、その場で腕をつき、涙を流した。

俺達の目にも自然と涙が浮かんでいる・・・・

俺達全員のメンタルはもう限界ギリギリだ・・・・うごきたくも無い。

そんな時、俺は尚がいた場所に落ちていたメモ帳のことを思い出し、開いてみた。

そこには尚の色んな言葉が書いてある。


「メモ帳だけど、最初の1ページは自分の考えを書いておこうと思う、普段から見られるようにね

 僕は皆と出会えて良かったと思ってる、真面目な所しか取り柄が無い僕を受入れてくれたから

 だから僕は皆の為に色々と頑張ろうと思う、少ししんどくても良いから。

 でも、たまには意見に反対するのも必要なんだと思う

 まだ勇気は無いけど、その内言えるようにならないと」


メモ帳の1ページ目には尚が思っている事が書いてあった。

俺はそのページを見て、溜まっていた涙が一気に流れてきた。

次のページには学校の時間割、次には俺達の点数と俺達が苦手なところが書いてあり

その対策まで事細かに書いてあった、これは前のテストの内容だ。

その対策や苦手なところだけでメモ帳は殆どが埋まっていた。

次に書いてあったのはドリームランドの噂の内容でこれまた事細かに書いてある。

その後に、死んでいった皆に対する後悔の念と、キーワードの内容が書いてある。


「尚・・・・あいつは・・・・な!」


だが、最後のページ付近、そこには「ゆ」とデカデカと赤い血の字で書いてあった。


「あいつ・・・・こんな」

「ん? まだ次のページが・・・・う!」


俺は次のページを開いたことにすぐに後悔した、そのページには

痛い、痛い、痛い、助けて、助けて、助けてと沢山の字が書いてあった。

その文字は誰も書き足していないのに、ドンドン増えている!


「う・・・・あ・・・・」


俺はすぐにそのページを閉じ、キーワードを書いた後、そのメモを近くの椅子の上に置いて逃げた。

反射的に投げ捨てたくなった衝動には駆られた、でもあいつの形見だ

どれだけ怖い内容だろうと無下に扱いたくは無かったんだ。

だから俺は椅子に置き、放置することを選んだ。

捨てているのと大差ないかも知れないが、地面に投げ捨てるよりはマシだ。


「・・・・・・最悪だ、こんな事」


椅子にメモ帳を置き、俺達は一斉に激しい恐怖に押し潰されそうになった。

だが、剛はしばらく泣いた後に立ち上がり、観覧車の方に歩き始める。


「剛、まだ、まだ行く言うんか!?」

「そうだ! やるしか無いんだよ俺達は! もうやるしか無いんだ!

 後悔してる暇は無いって何度も言ってるじゃねーか!

 こうなった以上、とことんまでやってやる! あいつらの為にもな!」

「馬鹿か! 死んじまうかも知れないんだぞ!?」

「ここでグダグダやってても同じ事だろうが!」

「あ、朝までここにいれば!」

「それまで何も起らないと思ってんのか!? そんなわきゃねーだろ!

 俺達はやるしか無いんだ、ここで待ってても死ぬだけなら! 動くしかねぇ!」


剛の必死の説得で動けなくなっていた守もゆっくりと立ち上がった。


「・・・・後悔しても知らないぞ」

「後悔はもうしてる・・・・これ以上の後悔は無い」


小さく涙をこらえるような声で呟き、ゆっくりと歩き始めた。

俺達はその泣いている剛の後ろに付いていくことにした。

ここで後悔しても・・・・意味が無いからだ。

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