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ようこそ、私達の夢の楽園へ  作者: オリオン
3/6

鏡しか無い寂しい家

自分達の無力を嘆いても、現実が変わるわけじゃ無い。

俺達に出来る事は前に進むことだけだからだ。

俺達は色んな物に押しつぶされそうになりながらも次の目的地に移動した。

今度の目的地はミラーハウスだ。


「ミラーハウス、ここではこの中に入った人の人格が入れ替わったようになると言う場所だよ」


ミラーハウスの前に着くと、さっさく尚がこのミラーハウスにまつわる噂を話してくれた。

俺はどうも鏡というのは嫌いだ。

昔見た怖い話で鏡の中の女の子がいきなり止まり

ニッコリと笑って、その女の子を引きずり込もうとした話を見たことがあるからだ。

確か小学生1年生の頃だったか、だから鏡は大っ嫌いだ。


「どうしようか、俺は鏡が」

「幸平、こんな時に苦手だからとかって逃げたりするなよ」

「・・・・わ、分かったよ」


2人の犠牲を無駄にするわけにはいかない、ここで逃げたら男が廃る。

俺は自分のトラウマを無理矢理忘れて、ミラーハウスに入ることにした。


「うーん、ここは狭いし入れるのは1人ずつって感じだね」

「1人ずつ入るのか!?」

「あぁ、入り口もいくつもあるし、鏡ばかりの迷路なら何処に自分達がいるか分かる筈だからね」

「ま、マジかよ」


なんだよ、よりにも寄ってトラウマの鏡ばかりの空間で1人って。

嫌すぎるだろう・・・・でも、迷路なら入った場所によって通る場所が違うかも知れない。

更には狭いと来た、これだと入った場所によってはキーワードが見付からないし

何かあったときに狭いから逃げるのが困難、何て事になりかねない。

だからそれぞれ違う場所に1人ずつ入るって事は納得できるんだけど。


「最悪だよ、畜生」

「嘆いても仕方ないやろ? やれることやらんといかんのやし」

「そうだけど・・・・はぁ、分かった、分かったっての」

「じゃあ、入るぞ」


俺は恐怖を押し殺し、自分が入るべき場所に足を踏み入れた。

迷路の中は思いの外明るく、鏡に映る自分がハッキリと見えた。

閉鎖空間の迷路だって言うのに、なんでこんなに明るいのやら。


「おい、なんかこのミラーハウス、やけに明るくないか?」

「そうだね」

「えぇ、凄く明るいです」

「ほんま、不気味やで」

「・・・・たく」


全員同じ様に思っていたらしく、剛の言葉に皆答えた。

やっぱりどう考えても異常だよな・・・・電気も通ってないミラーハウス

その中が懐中電灯さえ必要ないほどに明るいなんてあり得ないだろう。

だが、ここから逃げるなんて出来ないんだよな、キーワードを探さないと行けないんだし。


「・・・・はぁ、こうハッキリ鏡に写った自分が沢山見えるってのは不気味でならない」


俺は何カ所も自分が写っている光景を見て、少しだけ気持ち悪いと感じた。

鏡なんて1個あれば十分なんだよ・・・・それだけで身だしなみなんて整えるし

まぁ、そもそも俺には鏡なんて要らないが、身だしなみなんて整えないし。

髭を剃るときだって素手の感覚で行ける、だから俺に鏡何て要らないんだよ!

とか愚痴っても現実が変わるわけじゃ無いから、俺は大きくため息をした後歩き始めた。

周りの鏡には俺以外にも剛達が写っている。

同じ迷路にいるんだし当然とも言えるが、こう見えていると少し安心出来る。


「くぅ」


だが安心出来たとしても恐怖が消えるわけじゃ無い、俺はまだまだ恐怖を残したまま

ゆっくりと歩き回った、そんな時、近くからノックをするような音が聞えた。


「誰だ?」

「どうしたんだ? いきなり大声出して」

「おい、誰か鏡を叩いたか?」

「いいや、叩いてないが」


・・・・誰も鏡は叩いていないという、明らかにノックの音が聞えたんだがな。

勘違い? 勘違いだったんだろうか・・・・もしかして、また幻聴でも聞いたか?

こう言う恐怖感がヤバい場所にいると幻聴とかって聞えてくるんだな。

うん、幻聴、あれは幻聴だ、俺が恐怖のあまり聞いた幻聴。

俺は自分に自分であれは幻聴だと何度も言い聞かせ、その恐怖心を忘れようとした。


「・・・・よし」


さっきの音が幻聴だと自分の中で完結させた後、俺は再び歩き始めた。


「あた!」


恐怖のあまり前を見ていなかったようで、目の前にあった壁に頭をぶつけてしまった。

鏡ばかりの空間って、どうしても自分がどっちに向っているのか分からなくなってしまう。

更にはどれが自分本体なのかも分からない、自分が沢山いるからな。


「くぅ・・・・ん?」


頭をぶつけた後、周りを見渡しておかしな事に気が付いた。

・・・・鏡に俺以外の姿が映っていないんだ。

何処の鏡を見ても、剛達の姿は映っていない・・・・どういうことだ?

全員奥の方に行ってしまったのか? でも、何人もいるのに

俺だけが完全にはぐれるなんて事があり得るのか?

いや、そんなはず・・・・それに、ミラーハウスの明かりも暗くなってきている。


「お、おい! 誰か聞えてるか!?」


俺の叫び声に誰も答えない、誰1人答えることが無い。

お、おかしい・・・・こんな密室空間なんだ、大声を出せば誰か1人ぐらい反応しても良いはずなのに。

それに誰1人この暗くなったミラーハウスの事を言わないなんて、あり得ない。

この不可思議な状況に気が付いてしまった俺の手は少しだけ震え始めてきた。


「・・・・あ、あぁ」


俺は恐怖に打ち震えながら、明るかったからと消していた懐中電灯の明かりを付けた。

こう言うとき、映画とかでは大概懐中電灯の明かりなどつかないという展開が多いのだが

意外な事に俺の懐中電灯はあっさりとついた。


「っ!」


だが、俺は懐中電灯を付けたことを後悔するのに時間などかからなかった。

懐中電灯を付けてすぐ、目の前に写っていた自分の姿が見えた。

その姿は・・・・あり得ないことにニッコリと笑っている。

不自然すぎるほどの満面の笑み・・・・こんな状況下で俺がそんな表情をするわけが無い!


「う、うわぁぁあ!」


その鏡の異常な状態に気が付いた俺は急いでその場から逃げだした。

だが、他の鏡に映る全ての俺は全部例外なくその笑顔を見せている。

ゆっくり、ゆっくりとその笑顔の状況を変化させながら・・・・


「どうなってるんだよ!」


周りの鏡に映る俺の顔は満面の笑みを浮かべながらゆっくりと目が開いてきている

更に目、以外の顔のパーツが気持ち悪くうごめき始め

自分の顔だと言うことすら分からない程に変化していく。

だが何故かその顔は自分の顔だと言う事は分かってしまう。


「止めろ! うわぁぁ!」


俺の叫び声はミラーハウス内で何度も何度も反響し続ける

だがその叫び声で周りの異常な状況が変わるはずも無く

変化はより一層ひどさを増し始めてきた。

そんな時、視線の端におかしな物が横切ったのが見えた。

金色の髪の毛をした小さな少女。

そんな少女が鏡に映る俺以外の場所に少しだけ姿を現す。


「ふふふ」


小さな女の子の声が聞えてくると、周りの異常な俺の姿が一気に元の状態に戻った。

・・・・どうしてだ? どうして元に戻ったんだ? あり得るのか? こんな事。


「こんばんはお兄ちゃん」

「・・・・・・」


俺が周りをキョロキョロしていると正面に金髪の女の子が立っている。

あり得ないだろう、こんな場所にこんな女の子が立っているなんて。


「クソ! 今度はなんだよ!? そこをどいてくれよ!」


その女の子が立っている場所は出口に向うために絶対に通らないと行けない場所だった

こんな明らかに異常な状態でニコニコと笑いながら立ってるこの子の方に進めるわけが無い!

明らかに不自然だし異常だし! この子の場所に行ったら何をされるか分からない!


「ねぇ、お兄ちゃん、私、お兄ちゃんが気に入ったの」

「は、はぁ!?」

「他のお兄ちゃん達も良いけど、あなたの方が大好きなんだよ」

「何ふざけた事を言ってるんだ!」

「だから、私と・・・・一緒になりましょ?」


彼女がニッコリと笑うと、左右の鏡から無数の手が俺の方に伸びてきた。


「お兄ちゃんには拒否権なんてなんだよ? お兄ちゃんはもう私の物なの」

「う、うわぁぁ!」


俺は急いでその場所から走り出した、目の前にあの子がいるにもかかわらず

その方向に全力で走り出す、すると彼女は隣の鏡の中に入っていった。


「逃がさないよ、一緒になろうよ・・・・お兄ちゃん」

「来るな! 来ないでくれ!」


俺はただひたすらに全力で逃げだした、左右から迫ってくる手に恐怖しながら。

だが俺の絶叫に誰も気が付かない、きっとここは皆とは違う場所なんだ!

だからこんなに叫んでも誰も気が付かない! こんな場所で死んでたまるか!


「見えた! 出口だ!」


必死に走っていると、目の前に待ちわびていた出口が姿を現してくれた。


「逃がさない、逃がさない!」


女の子の声が色んな方向から聞えてくる、何処から聞えてくるのか

それはすぐに分かった、周りの鏡全てに彼女の姿がある

大きくその鏡を占領している・・・・そこから聞えてくるんだ。


「あと少し! あと少しなんだ!」


俺はその状況になろうとただ前だけを見ることに決めた。

周りを見てしまったら、恐怖で動けなくなりそうだったからだ。


「ニガサナイ!」


あの女の子の声がいきなり潰れ、耳のすぐ近くで叫んだ様な声が響いてきた。

それと同時に目の前に無数の手が現われ、俺を掴もうとしてきた。

逃げられない・・・・いや、逃げ切ってやる! 逃げるしか無い!


「う、うぉぉぉぉ!!」


俺はその手の大群に全力で走り始め、その手をどかせようという無謀な勝負に出た。

極限の状態すぎて冷静な判断が出来なかったのかも知れないが

その強引すぎる行動が吉と出た。


「いや、駄目! どうして立ち止まらないの!? 嫌だ! 出て行かないで! 一緒になろうよ!」


そんな悲鳴にも似た大きな声が聞えてくると、目の前の無数の手が消え、出口が見えてきた。

俺はもう無我夢中に走り、ミラーハウスから脱出することに成功した。

だが、その直後に小さな女の子の声が聞えてきた。


「逃げられちゃった、仕方ないからもう1人のお兄ちゃんで我慢するよ」


もう1人のお兄ちゃん? どういうことだ!? 俺はすぐに後ろを振り返った。

すると、ミラーハウスの入り口にさっきの金髪の女の子が立っている。


「でも、後悔するよ・・・・折角痛みを与えないで私達と一緒にしてあげようとしたのに

 あ、そうだ、また来てね・・・・今度はお姉ちゃんと一緒に」


意味深な言葉を残した後、その金髪の女の子はミラーハウスの奥に消えていった。


「お、おい幸平、どうしたんだ?」

「うわ!」


俺がミラーハウスの方を見ていると、後ろの方から誰かが俺の肩を掴んできた。


「剛! どうしてここに!?」

「そりゃあ、探索も終わったからだ、しかしお前かなり遅かったな

 途中で見失ったし、もしかして迷ったのか?」

「そ、そうだな・・・・迷った」


あんな事があったと言っても、こいつらは信じてくれないだろう。

俺は言いたくなる衝動を抑え、自分にあったことを話さないでいた。


「・・・・そう言えば、隼人はどうしたんだ?」

「それが、隼人の奴キーワードを言った後から姿を現さないでな」

「キーワード? なんだったんだ?」

「確か「い」だったかな」

「お、隼人の奴出て来た」


剛の言葉で後ろを振り向いて見ると、そこには確かに隼人の姿があった。

しかし何故かこちらに近寄ってこない。


「ん? おい隼人! 何してるんだ!?」

「な!」


剛の大声に反応して、俯いていた隼人が顔を上げ、俺達の方を見た。

その時、俺は強烈なほどの違和感を感じることになる。

隼人が満面の笑みを浮かべている・・・・普段クールぶってるあいつのあんな笑顔は初めてだ。

それにあの不気味なほどの笑顔、俺は嫌になるほどに見てしまっている。

あの時、鏡に映っていた俺もあんな風に不気味すぎるほどの笑顔を浮かべていたからだ。


「お、おい、何してるんだよ! 何でこんな状況で笑ってるんだ!?」


剛の大きな叫び声の後、あいつはニッコリと笑顔を浮かべたまま

俺達に無言のままで手招きを始めた・・・・明らかに異常だ。


「た、剛・・・・なんか嫌な予感がするで」

「は、隼人! ふざけるのも大概にしやがれ!」


剛の怒声のすぐに後に、隼人の表情が急に無表情になった。

そして同時に隼人dの様な奴の背後から無数の手がこちらに伸びてくる。

その無数の手はただひたすらに手招きをしている。


「う、うわぁぁぁ!」


その光景を見た俺達は無我夢中にその場から逃げだした。

ただ俺には1つだけ違和感が残っている。

あの無数の手、その手の1つだけが手招きじゃ無く、俺達に手を伸ばすように伸びていたことだった。

他の手は手招きだったのに、その1本だけ俺達に助けを求めているように見えてたまらなかった。

だが、あんな無数の手に近寄れるわけが無い・・・・俺達は逃げることしか出来なかった。

どうして俺は、俺だけがその手の違和感に気が付いてしまったんだろうか。

気が付かなければ、こんな後悔をすることは無かっただろう。

気が付かなければ、あの手が本物の隼人の手かも知れない何て・・・・思わずにすんだのに。

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