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ようこそ、私達の夢の楽園へ  作者: オリオン
2/6

無力な自分達

修六の死を少しだけ悼んだ後、俺達はアクアツアーにまで移動した。

この場所は明らかに他の場所とは雰囲気が違い、森という感じだった。

周辺にはデカい木がいくつも生えており、風が吹く度に木々のざわつく音が聞えてくる。


「・・・・音があるってのがここまで怖いなんてよ」


普段強気でいる剛が弱々しく呟いた、その言葉は恐らく俺達の誰かに向けられた物では無く

独り言なんだろう、プライドが高いこいつが俺達に怖がっているところを見せ様とするわけが無いだろう。

そんな事を考えていると、近場の草むらで何かが動いたような音が聞えた。


「な、なんだ!?」


俺はその音に反応し、その場所を見てみたが、そこには何も無かった。

ただ風に吹かれている木の葉が揺れているだけだ。


「風?」

「そ、そうだな、ただの風だ」

「でも、安心はしない方が良いと思うよ、ここの噂は謎の生き物の影を見たって内容だ

 さっきの事もあるから、ここの噂も実際に起る可能性もあるしね」


かなり恐ろしい状況だというのに、かなり冷静に今の状況を解説してくれた。

こいつは解説とかが得意なんだな。


「警戒するに越したことは無いって事か・・・・こ、こう言うときにビビりの幸平は役立ちそうだよな」


誠は元気そうに振る舞っているが、その声はかなり震えているというのが分かる。

だが、これだけ怖がっているのに冗談を言うって事は、多分俺達の空気を和ませるためだろう。

こいつは一応ムードメーカーとして頑張っているからな。


「そ、そうだな、こう言うときだといつも以上に気配に敏感になるだろうからな」


折角必死に場を和ませようとしてくれているのに、全否定というのは良くないだろう

だから、俺はあえてその冗談にのり、少しでも周りの雰囲気を変えようとしてみた。


「こんな時に冗談言うなよな」


隼人が少し呆れた風に言っているが、その口元は少しだけ緩んでいた。

さっきまでがっちがっちで、声も発さなかった筈なのに

どうやら、俺達のやり取りで少しだけ緊張がほぐれたらしい。


「よ、よし、このまま周りを探すぞ、かなり広そうだし時間はかかるだろうがな」

「あぁ、僕もその意見に賛成だ、下手に手分けして噂の生き物に襲われたら洒落にならないからね」

「せやな、安全第一で行くで」


剛の指示通り、俺達は全員で固まって、周りを警戒しながら進み始めた。

かなり時間はかかりそうだが、時間を掛けてでも安全に進まないと

そうしないと修六の様に誰かが死んでしまうだろう、それは嫌だ。


「・・・・・・」

「く!?」


歩いていると、今度は近くからまた木の葉が擦れるような音に反応し

その方向に反射的に反応し、その方向を見た。

何がそこにあったか、そこまでは確認できなかったが

赤い2つの光りが素早く動き、すぐに俺の視界から消えたのは見えた。


「お、おい、なんか赤い線が走ったぞ・・・・」

「な、何馬鹿な事を言ってるんだよ!」

「嘘じゃねーよ! さっき確かに!」


俺が大きく叫ぼうとすると尚が急いで俺の前に指を1本出した。

きっと静かにしろという事だろう。


「あまり叫ばない方が良いと思う、もしも化け物がいたら気が付かれるよ」

「そ、そうだな」


そうだよな、叫ぶのは良くないか、この叫び声で化け物に気が付かれたらヤバいか。

俺はさっき見えた赤い物は自分の恐怖心が生んだ幻覚だと自分に言い聞かせ

興奮するのをなんとか押さえつけた。

そう、あれは幻覚・・・・恐怖のあまり見えるはずが無い物が見えただけだ。


「・・・・ふぅ」

「落ち着いたみたいだね」

「あぁ、ありがとうな」


その後も何度か木の葉が擦れるような音が聞えてくる。

だが、その方向を見ても何もいない。

それから何度目かに今気が付いたがこの音に反応しているのは俺だけの様に思えた。

最初はただ音が小さかったから誰も気が付いていないのかと思ったが

あの物音が聞えてくる度に、音は確実に大きくなってきているのに

その音に反応を示すのは俺と幸子さんだけだった。


「・・・・何で皆さんこの音に反応しないのでしょうか」

「わ、分からない・・・・」


も、もしかして、この音に気が付いているのは俺達2人だけとでも言うのか?

そんな馬鹿な・・・・こんな時、最初に考えつくのはこの音が幻聴だと言う事だが

幸子さんも気が付いていると言っているんだから、幻聴である筈が無い。

それにもう一つ違和感がある、それは俺が反応し後ろを振り向く動作

こんな大きな動作をしていたら、全員俺の動きに気が付き一緒に後ろを見そうな物だが

全員そんな動きは一切見えない、俺が大きな声で叫んだときしか周りが反応しなかった。

あり得ない・・・・こいつらが俺の動作に気が付かないはずがない。

特に隣にいる尚が反応しないわけも無い、だが反応を見せない。


「な、なぁ、お前ら・・・・どうして俺の動きに反応しないんだ?」


その違和感に気が付いたことで生じた恐怖を払うために俺は全員に理由を聞くことにした。

理由が分かれば少しくらいはこの不安は無くなるだろうと、そう思って・・・・

だが、全員に理由を聞いたことで俺にかかっている不安はより加速した。


「は? お前、動いてたか?」

「・・・・は? な、何度も後ろを振り向いてたぞ!」

「そんなはずがないだろ、お前ずっと前ばかり見て」

「せやで、それも無表情や周り一切警戒せんと・・・・いや、おかしないか?

 お前は確かかなりのビビりやったはず、そんな奴が表情1つ変えないでおれるわけがない筈や」

「お、俺が無表情? そんなはず・・・・」


守の言葉で全員が一斉に反応し、俺から一気に距離を取った。

全員の懐中電灯が俺を照らし、ものすごく眩しい。


「な、何しやがる! 眩しい!」

「・・・・前々回の絶叫と言い、どうもおかしいとは思ってたが、お前本当に幸平か?」

「そうだよ! 俺が俺以外に見えるってのか!?」

「じゃ、じゃあ、質問だ・・・・お前の前回のテストの点数は?」

「きゅ、90だし」

「嘘を!」

「だぁ! そうだよ! 嘘だよ! 俺の点数なんざ所詮平均以下の47点だっての!!」

「よ、よし、幸平だな」


くそう、もう思い出したくも無い内容だったのに。

何で徹夜で勉強したってのに47点なんだよ、最悪だっての。


「まぁ、あの返しも完全に幸平の物だったし、間違いないな」

「くそう、人のトラウマを抉りやがって」

「でも、そのお陰で君が本物の幸平だって分かったんだし良かったと思うよ」

「尚、お前は89点だからこの気持ちが分からないんだよ」

「まぁまぁ、テストの話は置いておいて、キーワードを探しに行こうよ」

「だな、でも幸平よ、今度無表情になったら殴るぞ」

「理不尽だな!」


畜生、よく分からない・・・・何で俺が無表情で歩いてたって事になってたんだろうか。

俺はそんな感情を押し殺すような真似は出来ない。

そこまで器用じゃ無いし、この恐怖空間で無表情で動けるほどキモは据わってない。


「それにしてもだ、広すぎて中々キーワードが見付からないね

 更に異常な程に静かだ・・・・こう言うのが1番怖い」

「結構ざわざわしてると思うんだがな」


俺の耳には沢山の木の葉達が擦れる音が良く聞えている。

だから静かになっているようには思えないんだが


「・・・・ん? なんだあの建物」


俺達がアクアツアーを長い間捜索していると、始めて白い建物が見えた。


「建物じゃねーか! よっしゃ! 行くぜ!」


その建物に気が付いた誠が一切の躊躇いも無くその場から走り出し

建物の中に飛び込んでいきやがった、何があるか分からないのに馬鹿な事を。


「おい誠! 1人で飛び込むな!」

「まぁまぁ、そう堅いこと言うなって、ほら、キーワードを見付けたぞ

 「ら」って書いてある」

「なる程、らか」


誠の報告を受けた尚が自分のメモ帳にその言葉を書き足した。


「じゃあ、さっさと帰るか、何も無かったしここは楽だったな」


誠がそんな軽口を叩くと同時に周りにカラカラの声で無理矢理叫んだような低い音が聞えてきた。


「な、なんだ!? なんの声だよ!」

「知らねぇよ! とにかくなんかヤバい! さっさと帰って・・・・お、おい、なんだあれ!」


普段クールに振る舞っていた隼人が何かに気が付き怯えたような声で横の森を指さした。

急いでその方向を見てみると、何か赤い2つの光りがこっちに来ているのに気が付いた。


「なんだなんだ!? なんなんだよ!」


その目は見たことがある、ここを探し回っているとき

俺がチラリと見たあの赤い2つの光りの線、その光りと瓜二つだ!

となると、あの2つの光りは俺達をつけていたって事か!


「と、とにかくヤバい! 逃げるぞ!」


その光りを発している何かの姿は見ることが出来なかったが

光りの持ち主が明らかに危険な奴だと言う事は本能的に分かっていたのだろう。

俺達は一斉に走り出し、アクアツアーから逃げ出すために走り始めた。


「ぎがぁぁ!」

「うわぁぁ!」


赤い光りから逃げだしてすぐだった、側面の森の中、そこから顔が歪んでいる

ライオンみたいな姿をした化け物が姿を現す。

その視線は何処を見ているのか分からず、左斜め下か左斜め上か、あるいは俺達を見据えているのか

そんな訳が分からない生き物だった、普通は生き物の顔があんな風になることは無い筈なのに!


「畜生! 畜生! いきなりなんだよ! 何がどうなってやがる!」

「そんなの! ひ!」


今度は守が小さな悲鳴をあげ、俺は反射的にその声に反応してしまった。

守の視線の先には俺が一目見ただけで反応したことを後悔するほどの生き物がいた。

そこには上顎が無くなっており、口から大量の血をゴボゴボと垂らし

足下の湖を真っ赤に染め上げている気色の悪いワニの姿があった。

更に気が付き後悔したのは、そのワニの瞳孔がこちらを見据えていることに気が付いたところだった。


「どうなってるんだよ! どうなってるんだよ畜生!」

「よそ見してんな! 前見て集中して走れ! 転けたら食われるぞ!」

「何で! どうしてこんな怪物が! 嫌だ! 嫌だ!」


この極限状態で限界が来たのか、一緒に走っていた幸子さんが涙を流し始めた。

このままだと転けてしまうかも知れない、こう言うときどうすれば良い?

・・・・分からない、だけどこのままだと不味いのだけは分かる。


「幸子さん、大丈夫だから、泣かないで」


俺はどうすれば良いのか分からないから、幸子さんの背中に手を伸ばし

その背中を支え、一緒に走りながら彼女を励ますことにした。

今はそれしか出来ない、休む事も出来ないなら走るしか無い。


「ありがとうございます」


彼女は俺の顔を見た後、安心したのか少しだけ笑って涙を拭き走り始めた。


「あと少し! あと少しで出口だぞ!」

「なんだ!? おい! ありゃなんだよ!」


あと少しで出口だと言う時に誠が空を見上げて焦ったように話し始めた。

後悔すると分かっているが、こんな言葉を聞いてしまった俺は

すぐに空の上を見てしまった。

そこにはくちばしが完全にもげており、くちばしが本来ある場所から血を大量に流し

ボロボロの翼からも沢山の血を流している元の姿が想像できない鳥が飛んできていた。


「・・・・う、あ」


その姿を見たせいか、誠は酷く動揺し、足を止めやがった。


「誠!」


動揺している誠の姿を捉えたのか、空を飛んでいた血まみれの鳥が誠の方に急下降してくる。

俺は急いで誠の首根っこを掴み、全力で引っ張った。


「・・・・」


普段なら痛い痛いと笑いながらわめく誠なのだが、この極限状態ではそんな余裕は当然ないようで

一切何も言わずに大人しく俺に引っ張られた。

少しだけ誠が動いたからなのだろうか、あの急下降してきた鳥は狙いがはずれ

誠に当たること無く地面に激突し、血を周りにまき散らし、動かなくなった。

よし、これであとはアクアツアーから出るだけ! それだけだ!


「おい! お前ら! 急げ!」


先頭を走っていた4人はもうすでにアクアツアーから抜け出しているようで

アクアツアーの門の近くで俺達を必死に呼んでいた。


「ま、間に合え!」


俺達は必死に走り、アクアツアーから抜けだそうとしたその直後だった。

あと1歩で脱出出来そうだったのに誠がいきなり倒れてしまった。


「誠!」

「や、やめろ、止めてくれ!」


誠の足下に毛が全部抜けている犬の様な怪物が噛み付いていた。

俺はすぐに引き返し、誠を救う為に手を伸ばす・・・・

しかし、手を伸ばそうとした直後、さっきまで俺達を追っていた赤い目の化け物の姿が見えてしまった。

その物は皮膚がドロドロに溶けかけており、目から赤い光りと赤い血を流している人間の様な物だった。


「づがばえだ」


その人間の様な化け物は小さく口を動かし、がらがらの声でそう呟き

口から赤い目玉を地面に落下させ・・・・誠に近寄り口を大きく開いた。

・・・・俺はただただその光景を見て、恐怖のあまり動くことも出来ず

その場で棒立ちすることしか出来なかった。


「クソ! クソ! クソ!」


後ろから剛の叫び声が聞えてくると、俺は後ろに引っ張られた。

足が動かなかった俺は引っ張られたときに倒れてしまった。

だが、その倒れたときに更に引っ張られ、なんとかアクアツアーの門から外に引っ張り出された。


「幸平! 立て! 走るぞ!」

「ま、誠が・・・・皮膚がドロドロに溶けた化け物に・・・・」

「良いから急げ! もう・・・・もう!」

「いだい! やめでぐれ! あ、あがぁぁぁあ!」


アクアツアーの方から肉が引き裂かれる音が聞え・・・・誠の絶叫が聞えてきた。

だが、俺達は逃げることしか出来なかった、ただ自分の無力を後悔することしか。

・・・・そう、修六が死んだときと同じ様に。

俺達は友達が殺されていようと、ただ涙をこらえながらその場から逃げることしか・・・・出来ない。

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