悪夢の始まり
裏野ドリームランド、この地域に古くからある最凶のホラースポットという場所だ。
普通ならこんな場所なんかに行きたいとは思わないが、今日は全員で幽霊探しだし
無駄にビビるのも馬鹿らしいし、こいつらに怯えているのを見せたくないしな。
「よしよし、良い雰囲気だな! 流石最凶のホラースポット!」
俺達全員を誘った張本人である誠は腕を腰に付けて大きく笑った。
よくまぁ、こんな暗い遊園地を見てテンションを上げることが出来るな。
結構恐がりの俺にはどうしてもこの雰囲気でテンションを上げる事なんざ出来ない。
「はぁ、随分と楽しそうだな、だが、幸平はビビってるな」
「ビビってねぇよ! 何馬鹿な事を言ってやがる!」
クソ! 修六の奴め! 相変わらず勘が鋭い!
だからこいつと一緒に来るのは嫌だったんだよ、ビビってるの見透かされそうだったし!
「ま、ビビるのも分かるぜ? 俺も怖いし」
「剛、お前」
「何て冗談だがな! 幽霊なんざいるわけないっての! がはは! お前はビビりすぎなんだよ!」
「こ、この野郎! 一瞬でも期待した俺が馬鹿だった!」
剛の奴がゲラゲラと笑いながら俺の背中を強く叩きやがった!
だぁ! 何でこいつは何かと俺をからかいやがる! イラつく!
「まぁまぁ、喧嘩すんなって」
「お前は真面目だな、尚」
「それ位しか取り柄がないからね」
こいつは自分で言うとおり、真面目である事くらいしか取り柄がない。
髪型もあまり特徴的じゃないし、正確も非常に無難だからな。
こう、迫力というか存在感もないしかなり空気な奴だ。
「真面目である事は重要やからな」
「守、お前は口調しか存在感無いよな」
「な、なんやと!」
こいつはテレビで関西弁を見て、口調が気に入ったからとかでこの喋り方だ。
それから、こいつは異常な程に存在感がある・・・・口調だけだけど。
「・・・・はぁ、馬鹿だな」
「はは! 無駄にクールぶってるお前も結構なもんだぜ! 隼人」
「いや、これは素だし」
そうなのか? 小学校の頃はこんな感じじゃなかったのにな。
でも、確か中学2年生辺りからこんな話し方になったっけ。
あ、もしかして、こいつって中二病?
「・・・・お前、もしかして中二病か?」
「なんだ? こいつが中二病だって知らなかったのか?」
「中二病じゃねぇよ!」
うーん、本人が言うなら中二病じゃないのか、そうだよな、こいつがそんな風になるわけがないよな。
「本人がこう言ってるんだし、違うんじゃないのか?」
「お前、やっぱ馬鹿だろ自分ではい、そうですなんて言うわけ無いだろ」
「そうなのか?」
「まぁ、そんな事はどうでも良いだろう! さっさとホラー遊園地に行くぞ!」
俺達が会話をしていたら剛の奴がその話を遮ってきた。
確かに俺達がここに来た理由はあの遊園地に向うことだからな。
「そうだな、じゃ、行くぞ」
俺達は意を決して、その遊園地にゆっくりと歩き始めた。
「雰囲気あるな」
「あ、あぁ」
遊園地の入り口、そこには錆び付き斜めに傾き、裏野ドリームランドと書いているデカい看板があった
それだけじゃなく、入り口は錆び、ちょっとだけ触れたら壊れそうだ。
「うへぇ、雰囲気でてるなぁ」
「雰囲気も何も本物だからな」
全員、少しだけビクビクしながら進んでいる。
なんだよ、皆怖いんじゃ無いか、なのに俺ばかりからかいやがって。
「なんや、全員びびっとるやないか」
「がはは! そりゃそうだ! キモを冷やすためにわざわざこんな所にまで来たんだ
ビビらなきゃ来た意味なんぞねーよ!」
剛の奴の豪快な高笑いが遊園地中に響いた。
なんか、こいつは怖いところだろうと普通に楽しそうにして羨ましい。
俺はそんな事を思いながら、全員と同じ様に遊園地の奥に入っていった。
だが、次の瞬間、俺は大人しく帰っていれば良かったと後悔した。
「ようこそ」
「な!?」
奥の方から歩いてきたぬいぐるみが潰れた女の人の声に男の人の声が入った様な声で話しかけてきた。
こんな深夜、廃園になってかなりの時が経っているはずなのに
その時を一切感じさせないような綺麗な少し太っている兎のぬいぐるみ。
あり得ない、何で着ぐるみが動いている!? 今は深夜だ! そもそもここは廃園から何年も経った
遊園地! 着ぐるみがうごくはずが!
「ヤバい、に、逃げろ!」
俺達はその異様な光景を目の当たりにし、一斉にその場から逃げ出そうとした。
だが、俺達が逃げだそうとすると同時にさっきまで開いていた出入り口が動かなくなった。
「なんで!? だぁもう! こうなりゃ乗り越えてでも!」
しまった出入り口を乗り越える、だがすぐにそれが不可能だと理解した。
出入り口の上の天井がすごい勢いで落下してきた。
「うわぁぁ!」
全員、急いでその場にヘタレ込み、天井を見上げると。
そこにはとんでもなく鋭利なトゲが生えていた。
あと少し反応が遅れていたら、俺達はこの鋭利なトゲに刺されていたことだろう。
「駄目じゃ無いですか、逃げたら・・・・折角来たんですから」
「うぅ・・・・」
着ぐるみが一切の生気など感じることも無い、濁った瞳で俺達の方を見てきた。
着ぐるみだから中身の様子など分かるはずも無いし、表情が変わるはずも無い。
だが、何故だか俺にはそのぬいぐるみがさっきよりも笑っている様に見えた。
表情を何一つ変えていないはずなのに・・・・そんな事。
「この化け物! これでも食らいやがれ!」
その恐ろしい着ぐるみに対し怒りを覚えたのか剛が凄い剣幕で殴りかかろうとした。
「待った!」
「何しやがる!」
だが、そんな感情的な行動を尚が辛うじて止めた。
「感情的に動かない方が良いと思う、こんなの普通じゃ無い!」
「あぁ!? どうせ何処かの誰かのいたずらに決まってらぁ!
待ってやがれ! 今すぐあの着ぐるみの中にいるクソ野郎をぶん殴ってやる!」
「駄目だって! 僕はこう言うゲームを良くやるけど、大体感情的になった奴は死ぬ!」
「何言ってるんだ!? 今はゲームとは関係が無い!?」
「ふふ、良かったねお兄さん、もしも殴ってたら君は死んでたよ」
2人の会話の最中にあのぬいぐるみは自分の頭を取った。
その首を取った場所には本来あるはずの中身の頭など無く
代わりに沢山の刃物が入っていた。
「なん!」
「誰かが僕を殴れば、僕が爆発してこの刃物が飛び散る仕掛けだったんだよ
あと少しで君は死ぬところだった、だから精々そこのお兄さんに感謝しなよ」
「・・・・どうなってやがる!」
その光景を見た俺達は全員唖然としている、こんな不可解な事態が起ったんだ
こんな状況を目の当たりにして唖然としない訳がない。
「さて、この話はもういいや、じゃあ、僕が出て来た理由を話しちゃおう
これから君達にはゲームをしてもらおうと思うんだ」
「ゲーム!? 何ふざけた事を!」
だが、剛の叫び声に関心が無いようで、あのぬいぐるみは再び潰れた女の人の様な声で話し始めた。
「このドリームランドにはいくつかの噂があるよね? 君達はその噂を検証してきてよ
で、その噂がある場所に1文字ずつ字が書いてある
それを繋げて読むと意味がある言葉になるんだ。
君達にはその字を集めて、そこにある機械に撃ち込んでもらう
そうすればここの仕掛けは解かれ、君達は晴れて脱出ってわけだよ」
あのぬいぐるみは最後まで話した後、俺達の方に近寄ってきた。
「く、来るな!」
「ふふふ、さぁ、君達は夢から覚める事が出来るかな?」
最後にそう言い残し、あのぬいぐるみの顔が膨らみ始め
大きな爆音を鳴らし、破裂した、その時、体内に入っていたはずの刃物は飛び散らず
完全に消滅・・・・訳が分からない、どうなっているんだ!
「・・・・クソ、ど、どうなってるんだよ」
「何でこないな事に」
「やっぱり肝試しなんてするべきじゃ無かったんだよ!」
「文句言うなよ・・・・こうなった以上は仕方ない、やるしか無いだろう」
さっきまで冷静さを欠いていた剛だが、少しだけ冷静になったようで
俺達全員を諭すように小声で話した。
確かにもう戻ることも出来ないこの状況で過去のことを言っても意味が無い。
「分かったよ」
「うん、それじゃあ、これから少し話し合うとしよう」
「何をだ?」
「行動だよ、行動」
尚はそう言って、自分のポケットに手を入れて、メモ帳を取り出した。
「メモ帳?」
「うん、ここには僕が調べた裏野ドリームランドの噂の内容を書いてある
折角行くんだし、噂くらい知ってた方が雰囲気が出ると思ったからね
ま、それが計らずとも効果的な物になりそうで良かったよ」
尚がメモ帳を開き、自分が持ってきている懐中電灯でメモ帳の文字が見えるようにした。
「何々、人によって事故の内容が違うジェットコースター、謎の獣がいるアクアツアー
人格が変わることがあるミラーハウス、拷問部屋があるドリームキャッスル
動き続けるメリーゴーランド、助けを呼ぶ声が聞える観覧車、ふーん、どんな内容なんだ?」
「それはその場所に着いたら話そう、その方が噂も調べやすいだろうし」
「そうか、じゃあ、1番近そうなジェットコースターだな」
剛の提案で、俺達は1番近くに見えていたジェットコースターに向った。
その道中だ、なにやら白い服を着た女の子がこちらに向かってきた。
「こんばんは」
「は?」
その子は俺の方まで歩いてくると、小さく挨拶をした。
とても可愛い女の子だ、男子校で女っ気が無い俺としては非常に喜ばしい。
だが、なんでこの子はこんな遊園地にたった1人で?
「な、なんでここに?」
「実は友達とはぐれちゃったんです、だから一緒に行きませんか?」
これが不幸中の幸いって奴なのか? 偶然にも前に来ていた女の子集団と同じ場所に来るとは!
「あ、あぁ、良いよ」
「ありがとうございます、あ、私の名前は大林 幸子って言います」
「あ、自己紹介ありがとう、俺の名前は斉藤 幸平、よろしく」
こんなチャンス、そうそう巡ってくる物じゃ無い! これは一緒に行動するしか無い!
俺は彼女を連れて、全員に合流することにした。
「よし! じゃあ、探索するぞ!」
「おー!」
俺が合流すると全員テンションを上げながら、ジェットコースターへの移動を始めた。
きっと口には出さないが、この女の子を見てテンションが上がったんだろうな。
俺達は男子校だし、女心は分からないから何言って良いか分からないんだろう。
俺達はそのままのテンションでジェットコースターの付近まで移動した。
そのジェットコースターを見上げると明らかにおかしな雰囲気を感じる。
ジェットコースターのレーンの錆びている部分が変則的だ。
妙に綺麗な場所もあれば、異常な程に錆びている場所もある
場所によっては風化までしているようだ・・・・どんだけだよ。
「ここが噂の1つ、謎の事故があったジェットコースター」
「で、どんな内容なんだ?」
「皆はこのジェットコースターで事故があったって知ってるよね」
「あぁ、有名だからな、確かジェットコースターに乗っている人の首が飛んだらしいな」
「は? 何ゆうとんのや? 安全レバーが壊れとって、乗っ取る人が落ちたんやろ?」
「・・・・俺はレールが外れて落下したって聞いたが」
「僕はジェットコースターに乗っている人が苦しみだして血を吐いて死んだって聞いたけど」
「お、俺はあの1回転する場所で人が落ちたって聞いた」
「俺は乗ろうとした客が足を滑らせて死んだって聞いたぞ? ドジな奴だよな」
「私はジェットコースターが壊れたって聞いたかな」
「お、おいおい、全員ふざけるなよ・・・・」
おかしい、皆が言っている事故の内容が全然違う・・・・
それもどれも俺が知ってる事故の内容とも違う。
俺が聞いたことがある事故はジェットコースターがいきなり止まって
1人の男性がその時の衝撃で心臓停止と言う物だった。
「・・・・冗談だろ? 全員嘘吐きやがって」
「こんな状況で嘘なんざ言うかよ」
「・・・・はは、もうすでに不可解な状況だけど、自分達にまで影響があるってなると
恐怖がより一層実感に変わってくるね・・・・」
全員、明らかに声が震えている・・・・なんせ、俺達全員の事故の内容が違うんだから
まるで自分達が全員同じ世界にいるんじゃなくて、全員別の世界の住民で
その住民が過去の記憶を持ったままこの場所に来た
なんて言う、一切理解が出来ない状況なんじゃ無いかと思ってしまう。
いや、待てよ? 確か遊園地が閉園したのって俺達が生まれる前からの筈だ。
「お、おい、今思ったんだが、なんで俺達はその事故を知っているんだ?」
「・・・・」
俺の言葉で全員が完全に固まった、どうやら全員その事に気が付いていなかったようだ。
「た、確かにそうだ・・・・何で俺達は事故があったことを知っている?
この遊園地は俺達が生まれる前から閉園していたはずなのに」
「・・・・よく分からんが、その程度の噂で実害なんざ無いんだろう?
だったら、もうさっさとジェットコースターを探すなりして
キーワードって奴を探せば良いだろう? な、そう思うだろう?」
「そうだね、その方が速いか」
俺達は全員で手分けしてジェットコースターの探索を行なった。
ジェットコースターの裏も受付の場所も全力で探し回った。
しかしだ、何処を探してもキーワードなんかは見付からない。
「くそう、何処にも無いじゃないか」
「そうですね」
俺はあの時合流した女の子と一緒に捜索をしている。
女の子の手前、ビビっている所なんか見せるわけには行かないから
俺は怖いのをこらえ、必死に探し回ったのだが見付からない。
「お前ら! 字があったぞ! 「わ」って書いてある!」
おぉ、修六の奴、ここにある字を見付ける事が出来たのか。
じゃあ、さっさと別の場所に移動しないと。
「って、な、なんだ!? う、うわぁぁ!」
見付けた字を叫んですぐに修六の声が悲鳴に変わった。
尋常じゃ無いほどに怯えている叫び声だ!
「どうしたんだ!?」
俺と幸子さんはその声に反応し走り出し、その叫び声が聞えてきた場所に移動した。
「た、助けてくれ!」
「修六!」
そこには無数の手に掴まれ、ジェットコースターの方に引っ張られている修六の姿があった。
俺は急いで全力で走り出し、必死に手を伸ばした。
「駄目!」
しかし、あと少しで手が届きそうだったときにあの幸子さんに止められてしまった。
「な、何を!」
「駄目です、掴んじゃったら、あなたも一緒に引っ張られるかも知れない!」
「だからって見殺しに!」
「幸平! 何やってるんだよ! 助け、う、うわぁぁ!」
大きな叫び声の後、修六はジェットコースターに乗せられていた。
その周りでは沢山の手が修六を押さえつけている。
「止めろ、止めろ、止めろ! 止めてくれ!」
修六は必死に止めてくれと叫んでいるが、そんな事はお構いなしに
ジェットコースターがゆっくりと進み始めた。
「な、なんだ!? どうなってやがる!」
修六の絶叫に気が付き、後からやって来た他のメンバーもその動き出したジェットコースターを見ている。
「うわぁぁ!」
ジェットコースターは急速に加速して、凄い速度で動き回る。
こんなの普通じゃ無いのは明白だ、電気も通ってないはずのジェットコースターが動く
その地点であり得ないし、俺はあの無数の手を見てしまっている。
「うわぁぁ! って、は? 止め! おち!」
ジェットコースターは1回転する場所の頂点で何故かいきなり停止した。
その時、安全レバーなど無かった修六はそのまま真っ逆さまに地面に落下していった。
「修六!」
俺達は急いで修六が落ちそうになっているところに走って行ったが
距離もあり、とてもじゃないが間に合わなかった。
脱力感に苛まれながら修六が落ちた場所に移動すると
そこには頭から沢山の血を流しぴくりとも動く気配が無い修六が倒れている。
「・・・・修六、そんな、どうして」
「ごめん! 俺が、俺がもっと速く来てたら! こんな事には!」
「・・・・幸平、お前のせいじゃねぇよ、俺達全員が悪いんだ」
「まさか、修六が死ぬなんて、こんな馬鹿な事が・・・・そんなはず」
「この状態、修六が言ってた事故の内容と全く同じだ」
「・・・・・・」
尚の言われるまで気が付かなかったが、この状況は修六が聞いたという事故の内容その物だ。
もしかして、あの噂・・・・その人が聞いたという事故の内容通りに死んでしまうと言う事か?
その事が分かってか、全員しばらくの間その場所から動くことも出来ず
ただ動くことが無くなった修六の姿を見て後悔と恐怖をしながら涙を流すことしか出来なかった。
そして修六の死で全員が理解した・・・・このゲームとやらは死と隣り合わせだと。
畜生、あの着ぐるみ・・・・俺達の命をなんだと思ってやがる!
俺達の命はおもちゃなんかじゃ無いんだぞ!
「・・・・このままここで後悔しても、もう遅い、急いでこの場所のキーワードを探すぞ」
「キーワード・・・・あ、そうだ、思い出した、修六が叫んでたぞ、キーワード!」
「なんだって!? 教えろ、なんて言ってた!」
「確か「わ」って言ってた」
「それだけか?」
「もしかしたら、1つのアトラクションに一文字だけおいてあるって感じかも
で、それを繋げると言葉になる、きっとそう言う事だね」
「なる程な・・・・おい修六、お前のお陰でここのキーワードが分かった、ありがとうな」
剛が泣きながら動かなくなった修六の手を強く握り、お礼の言葉を残した。
その言葉から少しの間俺達は沈黙し、再び立ち上がり次の場所に向うことに決めた。
「修六、お前の死は無駄にはしない、絶対に脱出するぞ!」
「あぁ、そうしよう!」
剛は自分の目に流れていた涙を拭き取り、力強く拳を握りしめ
大きな声で俺達を激励してくれた。
次の目的地はアクアツアー、ここから1番近いところがそこだったからな。