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人をのむ呪い  作者: あむろ さく
第二幕 『自分を自分で動かすには?』
15/54

      幕間  なめらかな精神の傷




  家をさんざん物色したが、興味を引いたり手掛かりになりそうなものはつぐみの書いたメモ書きだけだった。私のいたあらゆる痕跡は消してあるが、それでも残る物はあるし通話履歴などでこちらに疑いの目はかかる可能性はある。でもそれだけだ。人を消したのは私じゃないし、こんなこと分かるはずもない。

 少なくとも、警察とかには。

 ……私に敵対するものたちはもう知られているし理解されている方が厄介だ。


 《印》は未羽がレッスンルームで教えてくれた図形で、間違いない。

 おおまかに分けて二つの効力をもっている。


 一つは、自分の心――人格を《印》に閉じ込めるモノ。

 たぶん極度の緊張や恐怖、引き金にして、段階を踏んで進行する類の術。

 使い方次第で、緊張しなくなったり自分を客観的に見れる利点はある。

 苦悩や痛みから距離をおける……それが長期的に幸福かは判断しがたいが。


 未羽とつぐみは、誰かにこの呪いを教えられたんだと思う。細かい経緯はどうあれ、舞台の主役やオーディション、その席を勝ち取るために……悪魔の囁きだまるで。

 そいつには何らか都合の良いことがあったのだろう。

 この呪いが進行するにつれて、自分らしさを失う代わりに、人の『嘘』を見破る力を獲得できる。

 これも、対人関係で使うとしたら大したアドバンテージだ。


 閉じ込めた人格は《印》を身近に持っている限り元に戻せる。

 でもどんな条件があるかは分からない。その場合、私は《印》へと帰っていくのか。

 それとも陽菜の深層心理の中に消えていくのか、分からない。


 もう一つは、空間に歪みのようなものを開き――人を閉じ込めるモノ。

 まさに人をのむ呪いと言っていい。

 人の背後から開き、黒い腕が人を引き摺り込む。《檻の外のかいぶつ》という単語はあったが、そうなるとこっちの世界は《檻の内側》とでも表現すべきか? 黒い腕に関してはいくつか考察しているが、確信が持てない。また、その空間がどこに繋がっているのか、中で何が起きているのかも分からない。


 どちらも同じ《印》を使った術で、精神を閉じ込めるか、肉体を閉じ込めるかの差異がある。

 追加の動作が必要なのか。大きさ? 念じかた?

 完全な術とそうでない術で分かれている? 人格の欠落度合が鍵になっている?


 ――いくつか人をあたって満足な答えが見つからない場合、近々検証してみる必要がある。

 私を消そうとした者は必ず見つける。

 日野陽菜の、なめらかな精神の傷が痛まないことを、私は願う。




 田辺未羽と早川つぐみ……

 つぐみは間違いなく消えた。


 消え方もつぐみの父親と同じだし、

 ひかりさんと搬出のスタッフは、嘘をついていなかった。

 それは私自身が確認している。


 だが搬出には人の出入りが激しい。

 例えば……誰かが「児童劇団の二人が手伝いに来た」と、

 大道具を数人で運ぶときにそんなセリフを言えば、

 スタッフの中で「二人が手伝っているはずだ」と誤認する可能性はある。

 どんな悪意があってそんなことをするかは知らない。

 

 そして、考えたくないが……

 そこに未羽がいた場合。

 

 何食わぬ顔をして搬出を手伝い。

 つぐみがいるかのように振舞う演技をしたのなら。

 なぜそんなことをするのか?

 例え頼まれたとしてもやらないだろう。

 誰かの悪意に彼女は絶対染まらない。

 

 そうだとしたら。未羽は、もう未羽じゃない。

 別物だ。陽菜の身体にいる私のように。





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