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9話 クラスの中で晒し上げ

「はい、皆さん、早速ですが、先生から大事なお話があります」


 ゴクリ。

 張り詰めた空気の中、担任の先生の声だけが教室に響き渡る。


 やめてくれ。言わないでくれ。

 俺の願いなど知るはずもない先生は、躊躇いなく言い放った。


「私達のクラスのおちんちん太郎君ですが、身体測定で覗きをしていました」


 先生の言葉を聞いた途端、教室内は一斉にざわついた。

 くそっ! 最悪だ!

 俺の同級生、つまりは十歳の子供達にとって、これはかなり衝撃的なことだろう。何せ、小四なんてセックスもまだ知らないような人達だ。『エロ=おかしい人』という方程式が当たり前のように存在しており、他人より少し成長が早く性に興味を持った子は、『おかしい人』のレッテルを付けられ、周りから引かれてしまう。


「チッ。ガキのくせにキメェんだよ」


 先生は、先生という職務を放棄したとしか思えない暴言を俺に浴びせた。今のを録画して公開すれば彼女はクビになってくれるかもしれないが、それだと俺の行動が世間に知られ、生きていくことすら困難になるので勿論できない。


「すみませんでした」


 なるべく頭を深く下げ、気持ちを込めたつもりで謝る。あくまで"つもり"だ。実際、反省の気持ちなんて全く無い。


「てめぇはガキだからこれで済むけどよ? 大人だったら豚箱行きだったんだからな」


 相変わらず口が悪いが、確かにそれは先生の言う通りだ。もし俺が子供でなければ、俺は捕まっていた。だが俺は、そんなことは言われなくても分かっている。

 もし俺が大人の姿だったらこんなことはしない。子供だからした。


「本当に、反省しています。すみませんでした」


 もう一度、さっきより声を大きくし、謝った。


「はぁ……。もういいわ。てめえに時間なんて使ってるの勿体ねえからよ。お前、放課後校長先生のとこ行って来い。校長に言っておいたから」


 校長にまで言いやがったってのか? チッ! ふざけやがって。


 ひとまず担任からは解放され、俺は席に戻った。今日は身体測定だけで授業は無い。この後はもう放課後だ。


 キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴った。本日の学校終了。

 学校が終わった途端、子供達は一斉にあちらこちらで俺の話題をし始めた。


 あの人とは関わらないようにしよう、とか。

 あいつに近づかない方がいいよ、菌が付くから、とか。


「はぁ……」


 溜め息が零れた。これからどうしよ。童貞捨てられないのが確定して、ロリーヌも怒るかな……。


「あの……」


 意味も無く窓を見ていた俺に、一人の女の子が話しかけてきた。


「えっと、君は確か……」


「明日田マナ。その、あの、ごめんなさい!」


 "俺の覗きを見つけた女の子"は、一番の被害者だというのに、先程俺がしていた謝罪よりも遥かに誠意が伝わる言葉を、俺に告げた。

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