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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔王死して勇者帰るも……(小説家になろう版)

作者: 雑音領

ある日の常奏(どこかの)ケーブルテレビ番組『常奏ピンポイントニュース』より


次のニュースです。

本日、捜索願が出ていた戸鹿野(とがの)中学校に通う男子生徒と女子生徒が、無事保護されました……。


プロローグ

僕たちの住んでいる町、常奏市、その南に位置する南鹿野(ながの)山。

気がつくと、僕たちはその山の頂上付近にいた。

そこから市街を見下ろし、僕たちの通っている戸鹿野(とがの)中学校を見つけ、思わずつぶやいた。

「僕たち、帰ってきたんだ」

「……カエッテキタ」

僕の隣に立っている彼女の声は相変わらず抑揚がなかった。

彼女の顔は僕と同じく市街の方を向いてはいたが、中学校や自宅の方も見ていないのだろう。

「うっ、ううっ、ううっ……」

僕は今更ながら自分のしたことに対して涙が止まらず、

彼女は相変わらず僕の隣に突っ立ったままだった。


1.

何でこんな事になってしまったんだろうか。

そうだ、あれはある日の夕方、放課後のことだった。

僕は校門で、彼女が部活が終わるのを待っていた。

彼女は僕を見つけて、

「あ、待っててくれたんだ。じゃ、帰ろっか」

「うん」

僕はそう返して、二人で帰る。

その途中で、僕が剣道部での彼女のこと(確か、新人戦が近いと言っていたと思う)を聞いたり、逆に彼女が僕が今読んでいる本のことを聞いてきたり、そんなやりとりをしながら家に帰る。それが僕たちの日常だった。

そして、彼女の家も近くなったので、

「じゃあね、また明日」

そう彼女が言ったので、僕も

「また、明日」

そう言って、別れようとした。

その瞬間、僕たちはまぶしい光に包まれたような気がして、思わず目をつぶった……。


2.

次に目を開けた時、僕と彼女は見知らぬところにいた。

目が慣れてあたりを見渡すと、そこは部屋の中だった。

部屋は相当広く、僕たちの足下には円と模様があり、そして、槍のような物を持ち、鎧甲-槍も鎧甲も僕が今まで本で見た物ではなかった-を身につけた人々が僕たちの周りを遠巻きにして囲んでいた。何が起こったのか分からない者、とりあえず僕たちに穂先を向ける者、色々いた。

その人達のうちの一人が後ろを振り返ると慌てて、隣の人物に話しかけ、彼を中心とした囲みの一角が崩れた。

そこから、二人の人物が現れた。

一人は若い女性、もう一人は老人だった。

おそらく二人とも、地位の高い人物らしい。

女性は僕たちに向かって頭を下げ、

「お待ちしておりました、"勇者様"」

「はい?」

女性の言葉に思わず気の抜けた返事をし、僕と彼女はお互い、顔を見合わせた。


3.

しばらくして後。

僕たちは大きいテーブルの前に座っていた。

一方の端には僕たち、もう一方の端には頭を下げた女性と、その傍らに立つ老人がいた。

「改めてお願いします。"勇者様"。この世界を"魔王"から救って下さい」

「だから、"勇者"って一体何なんだよ!」

何があったのかよく分かっていなかった僕は、訳の分からない頼みに対して、思わず爆発して席を立ち上がった。

「無礼なっ!いかな"勇者"と言えども"陛下"に向かって!」

「なにをっ!」

爆発した僕に向かって老人も激高し、僕はさらに吠えかかった。

「ちょっと……」

彼女が小声でたしなめたので、僕は席に座り直し、女性の方もまだ言い足りなそうなな老人を手で制した。

「……分かりました。最初からお話ししましょう」

彼女、あるいは"陛下"は事情を話し始めた。

この世界は"世界樹"と言う一本の木によって支えられている世界であること、その"世界樹"が"魔王"と呼ばれた存在に食い荒らされていると言うこと、そして、そのような世界の危機が訪れたとき、この世界の人々の祈りとともに"勇者"が現れて"魔王"を倒してくれたこと、その後に"勇者"はこの世界を去ったこと。

「……それで?」

「我々の祈りに答えてこの世界に来ていただいたあなた方に"勇者"として"魔王"を倒して、この世界を救って欲しいのです」

「そんな身勝手な!」

また激高した僕に向かって老人が"陛下"に変わって告げた。

「しかし、あなた方が"魔王"を倒さねば、この世界もろともあなた方も滅びることになりますぞ」

「……っ!」

僕が言葉に詰まり、沈黙がその部屋を支配したとき、彼女が言った。

「分かりました。"魔王"を倒す話、引き受けます」

「って、ちょっと」

僕が小声で彼女に言うと、彼女も軽すぎる調子の小声で答えた。

「だって、このままだと君も私もうちに帰れないでしょ。"陛下"の話にあったように『"魔王"を倒して"勇者"はこの世界を去った』ってあるし」

「そりゃそうだけど……」

そして僕は

「……分かった。僕も"魔王"を倒す話、引き受けます」

僕がどういう調子で"陛下"に返したのか、良く覚えていない。


4.

僕たちが"魔王"を倒すことを引き受けた後、"陛下"達に別の部屋に案内された。

そこは、まるで博物館の一室のようにいろいろな武器・防具・書物などが飾られており、博物館の展示室を思わせた。

「ここは?」

僕は"陛下"に尋ねる。

「過去に現れた"魔王"を"勇者"が倒した際、用いたとされる武器や魔法の書、宝物などを納めている部屋ですわ」

「なるほど」

僕が"陛下"の説明を受けている間、彼女はそのやりとりを無視して、飾られていた一振りの刀-そうとしか言いようのない物-に向かって歩き出していた。

「ちょっ……」

僕が彼女を呼び止めようとしたとき、別な方から僕を呼ぶ声が聞こえた、様な気がした。

振り返ると、そこには一冊の本と、一個の石が飾ってあった。

僕はすべてを忘れてその前に立つと、本を取って表紙をめくった。

「っ!?」

次の瞬間、僕は本を読んだ、と言うより、本に呑み込まれた気がした。

書かれていた内容が頭の中にたたき込まれ、むさぼるように次のページをめくり、その内容も頭の中にたたき込まれる。

気がつくと、僕はすべてのページを読み終え、息は荒かった。多分、ろくに呼吸もしないで一気に本を読んでいたのだろう。

そして、本の傍らにあった石を手に取って見た。

ぱっと見、その大きさと色は人の心臓を思わせた。

ふと本の内容を思い出し、その中にこの石を使った術があったのを思い出し、制服の腰ポケットにしまった。

ふと彼女のことを思い出して、彼女の方を振り返ってみると、両膝を突き、抜き身の刀を床に両手で突き立てて、それを支えにかろうじて倒れるのを防いでいる状態だった。息は荒く、多分僕と同じような経験をしたのだと思う。


5.

その日の夜。

今でもまだ書物の内容が目に浮かんで眠れなかった僕はあてがわれた部屋から抜け出し、建物の中庭とおぼしき場所に向かった。

そこは岩と所々に草が生えている荒涼とした空間だった。

ふと、書物の内容に火の玉を飛ばす方法みたいな物があったよな、と言うこと思いだし冗談半分で火の玉が飛んだら良いなと思いながら、その部分を思い出してみた。

まず、手のひらを上に向け、その手のひらに火の玉が思い浮かぶ様をイメージする。

まさかこんなので火の玉が浮かばないだろう、と思った刹那、本当に手のひらの上に野球ボールくらいの火の玉が浮かび上がった。

僕は慌てて火の玉をどこかに追いやろうとして、とっさに目に付いた岩に向かって飛ぶように念じた。

その直後、火の玉は岩に向かって飛び、岩に当たった刹那、岩が爆発した。

僕が一連の出来事に呆然としていると、少し離れた場所で彼女の気合いとほぼ同時に風切り音、そして堅い物がぶつかる音が聞こえた。

僕がその方を向いた直後、彼女が切りつけたとおぼしき岩が袈裟懸けに真っ二つになっていた。

彼女が一つ大きな息を吐き出し、そして、僕がいたことに気付いたのか、僕の方を振り返った。

「君も起きてたんだ」

「うん。あの部屋でのことが気になって。いまならあの本のようなことが出来るんじゃないかと思って」

「私もだよ」

「"魔王"を倒して、一緒に町に帰ろう。そしたら、またいつもの明日がやってくるんだからさ。約束だよ」

「うん!」

僕は彼女にそう答えた。

けど"魔王"を倒しても、いつもの明日はやってこないことに、僕はまだ気がつかなかった……。


6.

そして翌朝、僕たちは案内人とともに、魔王がいるという世界樹の植えられた地へと向かった。

今、僕たちがいるところからそう遠くないところにある廃宮殿の中庭に世界樹が植えられており、そこに魔王がいるらしい。

そして、案内人は語った。

昔、今と同じように魔王が現れて世界樹を食い荒らし、世界が枯れ果ててしまおうとしたとき、みんなの祈りで勇者が現れて魔王を倒したこと。

そして、当時の神殿の中庭に世界樹の種をまいたこと。

その話を聞き終わった後、僕たちは向かう先に一本の木が天の彼方まで伸びているのを見た。

「もしかしてあれが?」

「そうです、"世界樹"です」

「でも、樹が死にかけてる……」

僕と案内人のやり取りに、彼女が付け加えた。

よく見ると、葉の一枚も付いていない枝があったり、枝振りに比して葉の付きが悪い枝が目立った。

「ねぇ」

「ん?」

彼女が僕に呼びかけ、僕がそれに答える。

「行こう。行って"魔王"を倒そう」

「うん」

彼女がそういうのを聞いて、僕も覚悟を決めた。


7.

「うわ……」

僕たちは件の中庭にいた。

"世界樹"の幹は僕が実際に見たり、テレビやインターネットの画像で見たどの樹よりも太く、至る所がかじられた跡があり、その大きさから見て、それこそ怪獣、としか言えない大きさの獣の仕業だった。

足下を見ると、"世界樹"の音も何本か噛みちぎられていた。

これでは、樹が死にかけるのも無理はない。

「地響き?」

僕たちは、その方に目をやった。

幹の陰から、何かが現れた。

「そいつが"魔王"です!」

案内人が叫ぶ。

「ひ……」

僕が小さく悲鳴を上げる。

それは、まさに怪獣とでも呼ぶべき代物だった。

あえて言うなら、ワニ・蛇・トカゲ……、あらゆるは虫類の寄せ集めだった。

彼女は刀を抜いて、僕に向かって言った。

「い、いくよ」

彼女の声も小さく震えていた。

「う、うん」

つられて僕も応える。

彼女も怖いし、僕だって怖い。

けど、やらないと僕たちは町に帰れない。だから、僕たちでやるしかない。

僕は改めて小さく頷き、僕たちは魔王に向かって行った。


8.

そして、魔王が動かなくなったとき、彼女もまた倒れて動かなくなっていた。

僕は呆然と立ち尽くしながら、何でそうなったのかを思い出していた。

"魔王"が吐いた液を浴びたまま彼女は最後の一太刀を入れた。

そして、"魔王"が倒れるのを見届け、苦笑いしながら僕の方を振り向いたとたん、彼女はそのまま糸が切れた人形のように倒れた。

僕は案内人を呼んで、二人で彼女を仰向けにさせる。

そして、彼女の手首を取って、

……脈がなかった。

まさかと思い、服の上から胸に耳を押し当てても、

……鼓動は聞こえてこなかった。

「あ、あ……」

僕は、その場に両膝を突いたまま、暫く何も出来なかった。

何をどうしようか考えていると、不意に一つ思い出した。

確か、腰ポケットにあの石があったはず。

あった!

僕は腰ポケットからあの石を取り出した。

割れたり、欠けたりはしていない。

「どうしたんです?」

僕の動きを見て不審に思った案内人が僕に尋ねた。

「彼女を蘇らせる」

僕は即座に答えた。

「出来るんですか?」

「『出来るか?』じゃない!やる!!」

案内人の問いに叫ぶように答えた。

そして二人で帰るんだ!

……なにかが引っかかったが、僕はそれを無視した。


9.

あの本の通りに、仰向けに倒れたままの彼女に石をのせる。

そして、彼女が蘇るように必死に念じる。

長く感じられる時間がたって、石が脈打ったかと思うと彼女の体に入り込んだ。

その直後、彼女が目を開けた。

それを見て僕は、思わず涙を流して

「良かった。」

「……ヨカッタ」

抑揚のない声、僕の方を見ないままで彼女が答えた。

「終わったんだ、これであの夜約束したように二人で帰れるんだよ。」

「オワッタ……ヤクソクシタ……フタリデカエル……」

さすがに不審に思い、僕は尋ねる。

「そうだよ!君はあのとき確かに『一緒に町に帰ろうね』って約束したじゃないか!」

「イッショニマチニカエル……」

「君がそう言ったんだよ!」

「キミガ、ソウ、イッタ……」

ここまで来て、僕は彼女の様子がおかしいことに気付いた。

彼女はこんな時にふざける人じゃないし、自分からした約束を忘れたりするような人じゃなかったはずだ。

僕は一体彼女に、何をした!?

そのとき、先ほど引っかかった何かをはっきりと思い出した。


蘇らせる術は命を取り戻すことは出来ても、魂を取り戻すことは出来ない。また、魂を取り戻す術もなく、それを成し遂げた人間もいない。


僕は、取り返しの付かないことをしてしまった。

そう分かったとき、僕たちはまぶしい光に包まれた様な気がして、思わず目をつぶった。


エピローグ

そして、次に目を開けた瞬間、

僕たちは南鹿野山の頂上付近に彼女と二人きりで立っていた。

「僕たち、帰ってきたんだ……」

思わず僕がつぶやくと、

「カエッテキタ……」

抑揚のない声で彼女は返した。

それだけで、僕は彼女が戻っていないことを感じた。

だから、僕は泣いた。

しばらくして、そうだった、僕は彼女と一緒に帰るんだった、と約束したことを思い出し、僕は、

「付いてきて」

と彼女に向かって言い、

彼女は、

「ツイテイク」

と答えた。

僕たちは、彼女が足下がおぼつかずに何度も転ぶのを助け起こしながら南鹿野山を下り、彼女が後に付いてくるのを確かめた上で彼女の家に向かった。

そして、僕は彼女の家の呼び鈴を鳴らし……。


……女子生徒は心神喪失状態で発見されており、男子生徒は「異世界に連れ去られたが、この世界に戻ってきた」「彼女を蘇らせることは出来たが、中身まで蘇らなかった」などと、意味不明の供述を繰り返しており、警察はカウンセリングや精神鑑定などを含めて捜査を続けていく方針です。

次は『ピンポイント天気予報』です……。


ある日の常奏ケーブルテレビ番組『常奏ピンポイントニュース』より


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