俺のフランスパンサーベル
俺は目が覚めた。仰向けのまま天井を見つめる。ベットから体を起こし、背伸びをした。
「はー眠い」
早く行かないと。朝食はフランスパンだったのでそれを垂直に口にくわえて外へ出た。目的の学舎に向かう。
走るとフランスパンが大きく上下に揺れた。それがなんだか武器の攻撃みたいで気に入った。道のすみで少年が俺に気づき「それフランスパン⁉」と声をあげた。「そうさ。これはフランスパンサーベルというんだよ」と教えてあげた。少年は呆然としていた。
十字路を曲がると黒切さんがいたので声をかける。
「おはよう」
「おはよ…て、どこからしゃべってるのよ!」
「は? 口からだが」
俺はフランスパンサーベルを上下にぶんぶんと振った。
「器用にしゃべるのね…」
彼女は愕然としていた。フランスパンは歓喜を表したかのように上下に大きく動き出した。たぶん俺が走り出した反動をうけたのだろう。
「あ。ちょっと待って」
俺は彼女をおいて学校に向かった。数十分程走り続けて立ち止まる。
フランスパンサーベルはうなずくように上下に揺れていた。急に煙が俺の口を中心に広がる。
「けむい」
フランスパンが突如、煙に包まれ変貌をとげた。
「わたしを呼び出したのはおまえか?」
女神が俺の口からでてきた、と思った。しかし違った。それは白いあごひげをはやしたゴツイおっさんだった。
「別に呼び出してないのですが…」
おっさんはいぶかしむ。
「別にとは、この無礼者め。このわたしを誰だと思っている」
「炎の魔神イフリートでしたっけ?」
おっさんは怒りだした。
「せっかく魔剣フランスパンサーベルになってやったのにその態度はなんだ」
「なんだといわれても」
「仕置きが必要だな」
魔神が右手を俺の頭上にかざす。
俺は目の前が真っ暗になった。
*
俺はなぜここにいるのだろう。わからない。だけど、学校に行かないといけない。今日は朝食をとる時間があるから、パンを口にくわえることは無さそうだ。
通学路を歩くと知り合いに出くわした。ちょうど十字路を曲がったところに黒切さんがいたのだ。
「おはよ」
「おはよ…て、なに手に持ってんの⁉」
「フランスパンサーベル。美味いぞ。食うか?」
「うわぁ。いらないわぁ」
嫌そうな顔で拒否られた。
「美味いのに」
俺は一メートル程の長さのパンを少しちぎり、食べだした。
「学校にそんなの持ってきて、大丈夫なの?」
「まあ、たしかに、武器を学校に持ち込むのはまずいかもな」
「ごめん。いままであなたの頭を過大評価しすぎていたみいだわ」
「え。なに? 武器だろ? どう見ても」
「…大丈夫じゃないみたいね」
俺の頭が大丈夫じゃないと言いたいらしい。非常食と言えば良かったのだろうか。
「このわたしを食うんじゃない!」
左手を煙が包み込みだした。フランスパンがイフリートに変貌を遂げのだ。
「勝手に出てきてんじゃねーよ」
「ふん。契約者のお主がわたしの力を使えば地球を半分に割ることもたやすいというのに、早くしないからだ。世界の征」
「征服しねーよ」
アラレちゃんみたいなことしねーよ。
「うん? そっちの連れ添いは?」
「んー。友達? みたいなもん」
黒切彩火さんは毅然としていた。イフリートを初めて見たら普通は愕然とすると思うのだが。
「なるほど、友達か。ふん。友情だとか愛情だとか、そんな幻想に支配された甘ったれた考えで生きるのは許さん」
おっさんは大きく両手を広げたあと、灼熱を帯びた手の平で俺を挟んだ。
「消し炭にしてやるよ」
俺は目の前が真っ暗になった。
*
朝になり、目が覚める。おぼろげな記憶達は抽象化された。その中でも確信めいたことが一つあった。
「フランスパン。あれが元凶」
寝室から出た俺は朝食を食パンに変えて、登校することにした。
自宅を出発して数十分。十字路を曲がったところで黒切さんに出くわした。前にもこんなことがあったはずだ。だけど今回は大丈夫。奴が現れることは無いだろう。なにせ今日の朝食はフランスパンじゃなくて食パンなのだからな!
「おはよ!」
俺は意気揚々と挨拶をした。
「おはよ…て、あんたなに口にくわえてんの⁉」
「は? 食パンだが」
食パンは歩くリズムに合わせて上下に揺れた。
「ツッコミどころ間違ってないはず…」
彼女は独り言をつぶやいていた。
「ふははは、食パンだからって油断したな。このわたしが魔剣食パンになることなど、たやすいのだ」
「ま、魔神イフリート⁉ くそ。魔剣フランスパンサーベル以外にも魔剣パンになれるのか…」
俺にはもうなす術がない。
本来の姿に戻ったイフリートは不敵な笑みを浮かべ俺の頭上に手をかざした。
業火に焼かれ俺は目の前が真っ暗になった。
最後に黒切さんの声が聞こえた。
「毎度、パン持ってくんなって」
*
目覚めた朝。俺は前回の記憶を抽象的に引き継いでいた。
これ以上の失敗をしては駄目だろう。
朝食にパン、やめよう。米だ。米を食おう。
俺はお握りをつくり、颯爽と玄関から家を出た。
予想通りいつもの曲がり角で黒切さんと出会った。挨拶をしなければ。
ん。水?
ウォーターカッター⁉
「おは」で俺の言葉はさえぎられた。
なぜなら「よ」を言い終わるまでに俺の首の頸動脈から血しぶきが飛散したからだ。まるで首にレーザーを受けたかのような感触だった。
「ウンディーネ。これで宿敵イフリートは呼び出せないはずよ」
俺は死ぬ寸前、目視した。黒切彩火のとなりに立つ水色の人型を。それは俺をちらと、見て不敵な笑みを浮かべていた。あのおっさんに比べたら可憐さが際立つ水の精霊。
なんで、お前がそいつと。
俺は目の前が真っ暗になった。
*
自室で眠っていた。目が覚めた俺は、決意を頑なにして言った。
「目には目を歯には歯を」
こんがりキツネ色に焼けた最強の武器を片手に持ち、ボスに挑む。
玄関の引き戸を開けたときに広がる、変哲もない風景を見つめながら、
「この戦いに勝利したらなんでも言うことを聞く。だからフランスパンサーベル。お前の本気をみせてくれ。俺にはお前の力が必要なんだ」
とつぶやいた。目的の十字路に向かう。
「おはよ」
矛先を敵に向ける。
「おはよって、なに手に持ってんの⁉」
「なにって決まってんだろ。魔剣パンシリーズで知られる、魔剣フランスパンサーベル」
彼女は失笑した。
「そんなのでわたしを倒せるとでも?」
「そんなの、やってみないとわからないだろ! いくぞ!」
俺はサーベルを斜めに振り下ろす。
だがサーベルが肉塊をを貫くことは無かった。確実に攻撃はくらっているはずなのだがのけぞらない。防御力たけえ!
「もう終わりか? なんだ、あんたの力はその程度のものだったのか」
「くそう。とっておきを出すしか…」
「ほう。秘策があるのか」
「ああ。これさえ使えばお前なんてイチコロだぜ。さあ、目覚めよイフリート‼」
辺りが煙りで包まれた。
「ふははは。消し炭にしてやる」
「全力でやってくれ!」
フランスパンサーベルから元に戻ったおっさんは相槌をうち、両手を天にかざす。
すると、空に巨大な黒点が現れた。
「これがわたしの全力じゃ‼」
俺は目の前が真っ暗になった。
こうして地球は壊された。六つぐらいに割れたんじゃあないだろうか。
*
ここはどこだろう。真っ暗だ。ループしたはずなのに、世界は暗闇。
「悪いな地球は復元できなかった。お前の身体と記憶が復元できただけだ」
あの少年が宙に浮き俺を見下ろしていた。
ラスボスは不敵な笑みを浮かべていた。




