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MEMORYS

Flower Shower

作者: 藍咲 紅里

 その日、空はとても青くて高く、どこまでも澄んでいた―――



 教会の鐘が鳴り、キミ達が階段をゆっくりと降りてくる。その二人に向かって祝福の言葉を掛けたり、ライスシャワーをを浴びせる友人達。

 私はその様子を、一人少し離れた場所から眺めていた。

「二人とも、すごく幸福(しあわ)せそうだな」

 男友達の一人が隣に来て呟く。

「……そうだね。とってもお似合い……」

 私はそう返すと少し目を細めた。

 細めた理由は、二人が見つめ合い淡く微笑んだ姿を見て眩しく感じたからじゃない。


 胸が、痛んだからだ。


 そう私は、高校の時から新郎の彼が好きで……その想いを彼にも、誰にも言う事なく今日まで抱えてきてしまったんだ。



 ねえキミは覚えている? 高校の頃この教会で行われていた結婚式を偶然見掛けた事。

 私が思わず“あんなお嫁さんになりたい”って洩らしたら、他の友達はみんな笑ったのにキミだけが笑わずにいてくれたよね。あの時すでに私はキミが好きで……いつかここで結婚出来たらいいな。なんて可愛い夢を見た。

 まさかその数年後、その場所でキミが他の女性と挙げる姿を見る事になるなんて、ね。

「花嫁さん、お前の短大の時の友達だっけ?」

「うん。一番の親友……」

 最初に彼氏だって紹介された時は、あまりの衝撃で頭が真っ白になった。二人の幸福(しあわ)せそうな姿を見るのも辛かった。だけど同時に私にとって二人は大切な友達で……親友だから。

 この想いは誰にも告げず、仕舞っておこうと決意した。

 私達の友情がそう簡単に壊れる事はないだろうけど、もし壊れてしまって友達の三人に戻れなくなるのは嫌だから。



 やがて、女のコ達がざわめきだす。ブーケトスが行われるみたいだ。

「お前は参加しないのか?」

「私はいいよ。らしくないし」

「そうか? 高校の時、あんなに憧れてたじゃないか」

「え、お、覚えてたの?」

 女にしては背の高い私よりも更に高い彼を驚きつつ見上げる。

「まあね。……っていうか、お前さ……あいつの事好きだったろ? いや“今でも”か」

「!?」

 絶句って、本当に声が出ないんだな。なんて暢気に思えるわけもなく、ただ口をパクパクと開閉させるのが精いっぱい。


 その時、風が強く吹き女のコ達の嘆き声が耳に届いた。

 何だろうと視線を送ると、彼女が放ったブーケが風に乗り真っ直ぐ私に向って飛んできて……腕の中に収まった。

「意外に似合うじゃん」

 その言葉がお世辞だと解っていても少し嬉しい。だけど……

「どうも。でも意外は余計」

 素直にお礼は言えない。

 色とりどりの花が使用されたブーケ。彼女らしくて、可愛くて、本当に私とは真逆のイメージ。

 こんなのが普通に似合うコだったら、今とは違った未来だった? ……なんて考えても仕方ないけど。

 それでも考えてしまうのは、ここにきてもまだ断ち切れないから。

「……泣けよ」

「え?」

「今日だけは泣いても、その理由を誰かに尋ねられることもない。だから泣いて、楽になって幸福(しあわ)せになれ」

「私は別に………」

 言葉が続かない。有無を言わせない瞳が、続きを口にさせてくれない。

 私はその瞳に促され、ブーケに顔を埋めた。すると自然と涙が溢れてくる。





 この涙と一緒に、秘めていた言葉を流してこの場所に埋めよう。





 あと少しだけ泣いたら、この気持ちに永遠の別れを告げて微笑みを咲かせよう。







 そして、今度はきっと……―――






これも個人的にお気に……(以下略)

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