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ACT ARME  作者: 平内丈
8/10

8 殺人機

第八話です。今回は前編的な話なので後書きなしという感じで。


よく晴れた日の昼下がり、AROでは何やら緊迫した空気が漂っていた。

「ツェル、そちらの状況は?どうぞ。」

「準備完了です。不発に終わる可能性はゼロでしょう。」

「よし、よくやった。この作戦は絶対に失敗できない。心してかかるよ。どうぞ。」

「了解です。時にルインさん。」

「何?どうぞ。」

ツェリライは手に持っている無線を下ろして、目の前にいるルインに直接話しかける。

「これは必要でしたか?」

「ああ、ちょっと。せっかくいい雰囲気だったんだからそのまま続けようよ。空気って大事だよ?」

5歳児の様にブーたれるルインを見て、ツェリライはこの人だけはつくづくわからないと心中で首をかしげる。

平時はぐーたら・出不精という模範のようなダメ人間なのに、有事の際には同一人物とは思えないほどの凄みを持たせる。正直言って二重人格を疑っているほどだ。

普段はおちゃらけた雰囲気を装っているという考えもあるが

「よ~し、今度こそ、今度こそ絶対に失敗しないぞ。」

と口で言いながら体は今にもパラパラを踊りだしそうなほどウズウズしているその様は、どう見ても地だとしか思えない。

「ちょっと、何をぼさっとしてんだか。もうすぐなんだからしっかり気を張る。この作戦が成功するか否かはツェルのタイミングにかかってるんだから。」

「はいはい、了解です。」

まあ、この話に乗っている以上はルインの言うとおりである。ツェリライは意識を目の前の小型モニターに集中させる。

「ターゲット接近、残り50mです。」

「さぁ、来るぞ。」

ルインのウズウズが加速する。

「残り20m。」

「10m」

「5m」

そして、その瞬間は訪れた。

「発破。」

その声と共にツェリライはスイッチを押した。

ッヅバババババババン!!と喧しい音が庭先を中心として辺り一面に鳴り響く。と同時にすごい量の煙幕が巻き起こった。

「ぬわ~~~~~~!!?」

レックの悲鳴が聞こえるが、そんなことはどうでもいい。目標はレックではない。

「チェーーーストーーーォォ!!」

雄叫びを上げながら二階から飛び降りるルイン。そして手に持った空砲バズーカを発射させた。

「これでどうだ!?」

とルインが早まった勝どきを上げる。そして煙幕が晴れた時には、予想通り倒れているレックを除いて誰もいなかった。

「何!?」

ルインは慌てて辺りを見回す。そして後ろを振り向くと、この作戦の目標であったフォートが何事もなかったかのように家に入ろうとしていた。

「・・・こんちくしょう。ツェル!どうだった!?」

ルインが二階の窓に呼びかける。ツェリライはその窓から顔を出して、腕でバツ印を作った。

「こんちくしょう~~~~。」

がっくりと膝をつくルイン。失意のまま家の中に入った。


「いやいやいやいや!ちょっと待ってよ!!何!?ボクはスルーされるの!?」

レックが飛び起き開口一番元気よくつっこむ。

「まあレックは今回の作戦に関してはどうでもよかったからね。別に怪我もしてないしもーまんたい?」

「いやいやいやいや。そういう問題じゃないよね?ていうか、なんでツェリライまで一緒になってこんなことしてるのさ?普通ツェリライもこっち側の立場だよね?ていうか、なんでこんなことしてるのさ?」

とりあえず言いたいことを簡潔にまとめてつっこんだレックに、敬意を評したのかどうかは知らないが、ルインも簡潔に答える。

「説明しよう!この作戦の目的とは、ずばりフォートを驚かせるためなのだ!ツェルが協力してくれているのも、その僕の意志に共感してくれたからである!」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

会話が止まる。

「え?それだけ?」

「うん、それだけ。」

「それだけのためにわざわざ遠隔操作の爆竹やら蛇花火やら空砲バズーカを用意したわけ?」

「いぇす!」

「いぇす!って・・・」

もうつっこむ気力もないし、そもそもどこをつっこめばいいかわからなくなったレックは、とりあえず肩を落とした。

「まぁまぁ、これはあれだよ。しばらく気落ちしていたレックをバカ騒ぎで元気づけるといった目的も含まれている僕の粋なはからいでもあるんだからさ。ため息ばっかついてないで笑う。」

「それ、絶対今後付けしたはからいだよね?」

「こういうのは聞いた人の心の持ちようだから、そういうふうに思っとけばいいの。さ、とりあえず家入って体の煤落としたら?」

「やれやれ。」

レックはまたため息をついた。ここに住み込んでから今日まで、一体何回ため息をついただろう。一日最低一回はため息ついている気がするから、もうすでに三桁に突入していることになる。

ただ、一般的に言われている「人はため息をつくと幸せが逃げていく」という言い伝えは嘘なんじゃないかと思えるようになったことは、いい兆しなのかもしれない。


「それで?なんでまたフォートを驚かせようなんてことを考え始めたのさ?」

風呂に入って小ざっぱりしたレックが問いただす。

「いや、前にフォートと戦った時も言ったけどさ、フォートってびっくりするほど無反応じゃん?」

その発言には概ね同意する。確かに、ツェリライの技を受けても倒れこむだけでうめき声一つ上げなかったし、敗北後本来なら殺されても仕方がない状況でも、ほんの少しもおびえているように見えなかった。

その後の生活を見る限りも、それが装ったものではないことは分かっている。

「だから、いろいろ画策して驚かせてみようと思ったわけ。」

「なるほど。わかりたくないけど、まあ理解できたよ。それで、ツェリライまで協力したのはなんで?」

今度は向こうでパソコン画面に向かっているツェリライに尋ねる。

「僕も興味があるからですね。興味といっても、ルインさんのように驚いた時のリアクションではなく、彼が本当にどのような状況でも驚かないのかという方ですが。」

「どういうこと?」

いまいち言っている意味がわからない。

「本来、驚きや恐怖などは人がこの世界に誕生して後、自分の身を守るための生存本能として身に付いたものです。それがないということは、フォートさんは己が恐怖としている対象がない、という考えができるんです。」

「つまり?」

「フォートさんは他人の死はおろか、自分の死すら今その場で起こった一つの事象としか見ない可能性があるということです。まるで、葉から雫が滴るのを眺めることと同じようにね。」



ツェリライの言うことはほぼすべて間違いないと、二階から三人の会話が聞こえていたフォートは思う。

いつからだっただろうか。自らの感情がなくなったのは。それは多分、物心がついたときから自分の記憶が残っている限りでは自分自身がはっきりと感情をあらわにしたことはない。

目が覚めた時には、薄暗い路地でうずくまっていた。それ以前のことは覚えていないから、自分の両親がどんな人物だったか、どんな顔をしていたのか、なぜ自分は両親といないのか、捨てられたのか、それとも何かほかの理由があったのか、今となってはどれもわからない。

ただわかっていることは、あのままあの場所でうずくまっていたら自分は餓死していたこと、そうなることを防いだのは、あの方が自分の目の前に現れ、食べ物を差し出してくれたから。

それからはあの方についていき、そして暗殺者へと育て上げられた。

初めて人を殺した日は飯がのどを通らなかった。銃で撃ち殺したとはいえ、その感触ははっきりとこの手に残り、震えへと変えた。

だがそれから人数を重ねていくうちに、いつしか自分の中で転がっている石を転がすことと人を殺すことが同義になっていた。

気づけばあの方の下に人が集まり、小規模ながらも組織が生まれた。大体自分と同じような境遇をもつ者。暗殺者にはそぐわないほど気さくな者。反対に初めから笑いながら人を殺せる、暗殺者としては別の意味で向いていない無邪気な者もいた。

自分は変わらずあの方につき従う殺人『機』として命ぜられるままに人を殺し続けた。

そして約一ヵ月半前、下された命令がルインの暗殺。家でくつろいでいるところを狙撃するだけの、簡単な仕事のはずだった。

だが、想定外のことが起こった。標準を目標に定め、引き金を引くその瞬間に、相手が狙撃を察知し間一髪とはいえ回避したのだ。もともと自らの孔が少ない自分は攻撃力や技を磨くのではなく、確実に相手を仕留める技術を徹底的に磨いてきた。それゆえに、狙撃による暗殺で失敗したことは、これまで一度たりともない。

その後も防戦一方だったとはいえ、こちらの攻撃を回避し続けた。結果増援により撤退。この時初めて自分の中に違和感という感情が芽生えたような気がする。

芽生えた感情はいつもの自分の操作感覚を奪い、その結果相手の策にはめられ敗北した。

その時に自分は破壊されるのだと思った。そのことに関してなにも感慨はわかなかった。不要となったものは破棄される。ただそれだけのことなのだから。

だが、またしても予想外のことが起こった。相手が自分を殺さなかったのだ。さらにあろうことか自らの手元に置くという、どう考えても愚行としか思えない選択をとった。

そして、その愚行を選択した理由が『こちらが一切ノーリアクションをとり続けた』から。

今思えばあの時に自害することはできた。いや、むしろそうするべきだったのだ。

だが、なぜかそうしなかった。それは惰性なのか、それとも自らの内に秘められた選択だったのか。

あの日以来、自分は自分の制御がきかずにいる。



「フォート!」

はっとして目が覚める。どうやら自分は椅子に座ったまま眠っていたようだ。

眼前には、考えられないような理由で自分を手元に置いた張本人であるルインと、その後ろにレックとツェリライの姿があった。

「・・・フォート?」

そっとその名前を呟く。その反応が不可解だったのか、ルインはフォートの頭をベンベンと叩いた。

「なに寝ぼけてんの。フォートっつったらフォートでしょうが。あんたの名前。」

そうだった。フォート。この者たちに敗北した際につけられた名だ。もしかするとこの名前のせいで自分はうまく自分を制御できていないのかもしれない。

突然発生したイレギュラーに対応できていない。いや、もしかすると対応したくないのか。

見慣れた文字をじっと見続けているとゲシュタルト崩壊を起こし、それが初めてみる不思議な記号に見えることがある。その感覚とどこか似ている気がした。



「んで、寝ていたところ悪いけど、さっきの買い物の追加注文していい?」

そういいながらメモを手渡してくる。

「本来ならば追加をしたあなた自身が行くべきなんですけどね。」

ツェリライが冷ややかに見つめるが

「だって今日はフォートとレックが買い物当番の日だもーん。」

とまるで気にかける様子はない。

「了解した。」

「今度はもう妙なトラップしかけとかないでよ。」

フォートはメモを受け取り、そのままレックとともに外に出た。




「へぇ。珍しくフォートが眠りこんでいたと思っていたら、昔の夢を見ていたんだ。」

その意見には同意する。昔の夢をみるというのも前にいつ見たかなど覚えていない程だし、ましてや人が目の前まで迫っているのに眠っていた自分自身が考えられなかった。

フォートは、自分の隣を歩いているレックを視界の端で見る。

この者も、稀にみる数奇な人生を辿ってきたものだ。故郷を失い、生涯の友を失った今、この者は今どんな思いを抱いているのか。

いや、本当に気になっているのは、仮に自らがその立場に置かれた時、あの決断を迫られた時にどのような選択をとっていただろうかということだ。

果たして自分はこの者と同じ選択をとっていただろうか?



不意に足が止まった。

「待て。」

レックにも静止させた。

気配を感じる。フォートはその気配を確実に辿って行った。

その時、何かが一直線にこちらに向かってくる気配を確かにとらえた。

フォートはそれを過たずに銃身で弾き飛ばした。弾き飛ばした何かは、そのままあさっての方向に飛んでいき、壁にぶつかったようでパラパラと欠片が崩れ落ちる音がした。

「流石だな。お前ほどじゃないが、オレも気配を消すことはかなり得意なほうなんだけどな。」

気配がしたほうから人影が現れる。

「・・・やはりお前か。」

建物の影に隠れて見えていなかった相手の姿がはっきりと見える。

「久しぶりだな。一ヵ月半ぶり、いや、オレはその前から出張っていたから大体半年振りか。」

その風貌はいたって普通、そして自然体だった。所謂町人Aとして町中に溶け込んでいそうな感じである。

手には何も持っていない。いや、それどころか見る限り武器になりそうなものを身に着けていない。

だからこそ、不気味だった。この男は確かに何かをこちらに飛ばしてきたのだ。フォートとの会話を聞く限り、この男もデリーターなのだろう。武器を隠す必要はまるでないはずだ。

フォートは一歩前に踏み出す。まるでレックを庇うかのように。

その様子を見た男は、とても意外そうに眼を丸くした。

「こいつは驚いた。まさか組織でも殺人機だマリオネットだ言われ続けたお前が本当にターゲットに取り込まれたとはな。どういう風の吹きまわしだ?」

フォートは何も答えない。ただその開いているかどうかわからない目で相手を見据えるだけ。

「答えない。いや、答えられないのか?」

「・・・要件はなんだ?」

結局質問には答えず、逆に質問を返した。すると男は呆れたように嘲笑った。

「聞くまでもないだろ。   命令だ。お前を消しに来た。」

相手が一歩こちらによる。フォートも一歩向こうにでる。

「  フォート・・・。」

「行け。」

「でも」

「行け。」

有無を言わせない口調だった。レックは一歩後ずさり、歯を食いしばった後背を向けて走り出した。

「逃がすかよ。」

背後で声が聞こえる。咄嗟にレックは振り向きざま武器を抜いた。

だが、レックが防御するまでもなくフォートがそれを防いだ。

そしてレックは見た。男が手を銃のようにしてこちらに向けているのを。

「まさかこの人・・・。」

「ぐずぐずするな、早く行け。」

フォートに促され、レックはもう躊躇せずに走りだした。

レックの姿が消え、改めて二人で相対する。

「フォート。それはお前の名前か?No.01。」

フォートはやはり何も答えず、銃を構えた。

「まただんまりか。本当にお前とはコミュニケーションが成立しないな。まあいい、ここじゃ騒ぎになる。場所を変えるぞ。」




二人はさびれた倉庫のような場所に移動した。

「っと、忘れていた。お前、また組織に戻るつもりはないのか?」

戦闘を始める前に、男は一つ尋ねる。

組織に戻る。それはすなわち再びルイン達に銃を向けるということにほかならない。

フォートは少し黙った後、静かに返した。

「否定だ。」

その返答を聞き、男は少し残念そうに笑った。

「そうか、それは残念だ。俺とお前とは旧知の仲だからあまり気は進まないんだけどな。お前がその選択をとる以上は仕方がないことか。」

男は再び手で銃の形を作り、それをフォートに突き付けた。

「No.01。お前は組織離反という禁忌を犯した。あの方の命によりこのNo.03が始末する。」

そう宣言し、眼を鋭くさせた。フォートも銃を構えた。

耳鳴りがうるさく聞こえるほどの静寂。それがしばらく続いた後、外でゴトンと何かが倒れるような音がした。

それと全く同時に銃声が連続で響き渡った。




「ルイン!ツェリライ!大変だ!」

ドアをぶち破らんばかりの勢いでレックが帰宅する。

それに驚いたルインがカップの中の熱々のコーヒーを顔面にぶちまけた。

「ヴぁっちいいいぃいいいいぃい!?」

絶叫するルイン。唐突にカオスな空間になってしまった部屋を何とか沈める。

「で?どしたの?そんなに慌てて。」

ルインが不機嫌そうに尋ねる。

「大変なんだ!買い物中に他のデリーターが現れて、フォートを狙ってきたって!」

「まじで?それで、今フォートはどこに?」

「ボクを庇ってそのままそのデリーターと戦ってるはずだよ。急がないと!」

「あいさわかった。ツェル、行くよ!」

「了解です。」

すぐさま三人は外に飛び出した。

それから程なくして、三人はさきほど襲われた場所まで戻ってきた。そこにはフォートの姿もデリーターの姿もなかった。

「遅かった・・・。」

「ツェル。前にアコちゃん探すのに使ったあれは?」

ルインが過去にアコを捜索する際に使用した発明品のことを思い出す。

しかしツェリライは首を左右に振った。

「トラッキングは対象者の孔を追う装置です。アコさんのような莫大な孔ならまだしも、フォートさんのような小さな孔では捜索できる範囲はかなり限られてしまいます。」

「ええい、肝心な時に役に立たないなあ。」

イラつくツインにツェリライがムッとして言葉を返す。

「捜索の方法が一つしかないと、誰が言いましたかね?狭い視野は将来的に身を滅ぼしますよ。」

若干剣呑な雰囲気になりかけるところをレックが宥める。

「ほ、ほら。喧嘩している場合じゃないよ。早くフォートを探さないと。」

「ええ、わかっています。QBU!」

その声に呼応して、ツェリライの頭上にサイコロのような物体が多数現れた。

宙に浮かんだそれらは、しばし停滞した後一斉に散らばって消えた。

「今、QBUにフォートさんの孔を捜索させました。トラッキングと違い、追跡ではなく捜索なので時間はかかりますが、そこまで遠くへは行っていないはずです。おそらく見つかるでしょう。」

「孔の捜索?確かあれにはカメラ機能が付いてなかったっけ?」

レックの質問にツェリライは首を横に振る。

「カメラを使用すると、QBUの探索範囲が小さくなってしまうんです。」

「なるほど。で?所要時間は?」

「フォートさんがどこにいるかにもよりますが、最長で30分ですね。」

「30分か・・・」

ルインはつぶやき、空を見上げる。

基本的に戦闘は長引いたとしても20分程度で終わることが多い。フォートのような戦闘スタイルならさらに早く終わるだろう。

それはいい。勝敗がどうなろうと二人の勝負である以上、第三者の横槍は無粋だと考えているルインは、間に合ったとしても参戦するつもりはない。

だが気にかかることがあるのだ。それはフォート自身のこと。

自分たちと出会う前のフォートと比べて今のフォートが変わっていることに、ルインは薄々感づいていた。だが、今回の接触でフォートが過去の記憶を揺さぶられ、再びあの時の状態に戻るのではないかと考えていた。

それがいいのか悪いのかはわからない。だがルインにとっては納得のいかない結果になることだけはわかる。

「間に合ってくれるといいんだけど・・・。」

ルインは独りごちる。




フォートは銃声が一つしか響かない銃撃戦を繰り広げていた。相手は銃の形をとった手で、見ることも聞くこともできない弾を発射してくる。そう、No.3と名乗る男はこの指から自らの孔を射出して相手を撃ち抜くのだ。

本来ならば連続で指先に孔を込め、発射し続けることは無理がある。指先に連続で孔を込め続けるという行為自体至難の業であるし、たとえそれを発射しても数mと行かないうちに霧散する。

本来孔は何か物質に纏わせたり、炎や氷といった属性に変化させない限り、すぐに消滅してしまうのだ。

しかし、この男はその無理だとされることをやってのけた結果、目標を撃ち抜く際に一切の物音も痕跡も無しに仕留められるようになった。

その結果、ついた字名は「無音狩人サイレンスキラー」。狙われた者は狙われたことにすら気づかずに風穴を開けられる。

対してフォートはこの激しい戦闘の最中、No.3の指先と視線で弾道を読み切り、回避している。No.3もまた、フォートの寸分の狂いもない精密射撃を前に完璧な対応を見せている。

第三者がうかつに手を出せばたちまち蜂の巣にされることは火を見るより明らかなこの状況。なぜなら、二人の弾の防御方法がほとんど弾で弾を撃ち落とすというものなのだ。例え角度が1°でもずれようものならその瞬間に決着はつく。

そんな状況でも二人は冷や汗一つ流さずに己の引き金を引き続けた。

「お前だけだよ。オレと銃撃戦をやりあえるのは。こう言っちゃなんだが、気分が高揚するぜ。」

不敵に楽しそうに微笑うNo.3に対し、フォートはやはり無言無表情で返した。

この男は組織の中でも古参である。つまりそれだけ任務を遂行した数も多いのだが、この男は自分と違ってごく普通の一般人のように振舞う。自分がいかに無言無表情でも全く気にせずによく絡んできた。任務から戻ってきた後も今日は万事うまくいったとおちゃらける。No.3が組織に入る前の過去は知らないが、少なくとも組織に入ってからは自分と同じような時間を経てきている。それなのにこの違いはどこから生まれるのだろうか?

以前は脳裏をよぎりもしなかった思考が脳内を駆け巡る。

「ぼさっとしていていいのか?」

フォートが思考にふけりそうになったその一瞬を狙ってNo.3の弾が放たれる。フォートはとっさに上体をずらし回避した。

今は考えにふけっている場合ではない。今は目の前の敵を撃破することのみを考え、動くべきだ。

フォートは己に集中を入れなおした。


互いに一歩も譲らぬ攻防。いつ決着がつくかわからない。いつ決着がついてもおかしくはない。

その時だった。

「そろそろ終いにするぜ。」

互いの距離が近くなった瞬間を狙い、No.3が突っ込んできた。フォートは銃を向けようとするが、相手が接近するのが早いと判断し、咄嗟に銃で突く。No.3はそれを跳躍して回避し、右手の指先をフォートの額に押し付けた。

しかしフォートはしゃがんで指先から逃れ、同時に鳩尾に向かって銃を突きつける。No.3は残っている左手でそれを弾いた。

そのままフォートを飛び越すような形で後ろに回り込む。すぐさまフォートも振り返って銃を構える。

だが、振り返ったフォートの視界には、手は銃の形をとったまま、まるで弓矢を構えるような形をとったNo.3の姿があった。

フォートは、このあと何が来るのかを知っている。アレは銃撃で撃ち落とすのは無理だ。咄嗟に回避行動に移ろうとしたフォートだが、相手が引き絞った矢を放つ方が先だった。

「至高の狩人(ロビンフッド)!」

両手を直線上につなげ、二つの孔弾は一本の矢のごとく放たれた。



「!  今ここから3km程離れた場所で大きな孔の反応が見受けられました。」

それまで少しうつむき加減で目を瞑り、QBUから送られてくる情報に集中していたツェリライがおもむろに顔を上げる。

「本当!?じゃあそこにフォートがいるの?」

「あくまで大きな孔の反応、おそらく戦闘が行われているということが判明しただけです。まだフォートさんと確定したわけではありません。」

声を上げるレックにツェリライは冷静に返す。

「わかった。じゃあ僕とレックはその場所に向かう。ツェルは引き続き捜索しといて。何かあったらすぐに連絡お願い。」

「了解です。それとルインさん。念の為にこれを持って行ってください。」

そう言ってツェリライはルインに小さい錠剤のような形のものを渡した。

「なるほどね。わかった、じゃあ行ってくる。」

それを受け取ったルインは、レックとともにその場所へと急行した。



無音で放たれた必殺の一矢は、一直線にフォートに直撃した。

しばらくの静寂のあと、フォートがゆっくり起き上がった。

「やっぱ致命傷にはなってないか。完全に隙を突いたと思ったんだけどなぁ。ほんとお前、どういう反射神経してんだよ。」

フォートは額から血を流しているが、それでもしっかりと立っていた。

「一つ、質問がある。」

これまで沈黙を保っていたフォートが口を開いた。

「あ?なんだ、藪から棒に?」

少し驚いて聞き返す。

「お前は、任務を遂行する際何を考えている?お前は、己と同じ存在でありながらなぜ感情を保っていられる?」


しばらく静かな時間が続いた。

「は?」

鳩が豆鉄砲くらった顔を浮かべ続けていたNo.3がようやく発することができた言葉がこれだった。

「え?なんだその質問?お前そんなことを考えながらオレと戦っていたのか?だから妙に動きが鈍っていたのか?」

「肯定だ。」

No.3はまじまじとフォートの顔を眺めた。

「・・・本当にお前は変わったんだな。」

自分でも同意する。以前はこんなこと気にかけることもしなかっただろう。

だが、『フォート』は気になるのだ。殺人機として動作し続けた自分自身が、果たして必要だったのかと。

人を、人たらしめているものはなんなのだろうかと。

「せっかく初めて質問してくれたのに悪いが、それはオレにもわからない。特に意識したこともないからな。ただ、こんなことをやっていてもオレは人だ。人である以上何かと楽しんだほうが良くないか?」

人である以上、楽しんだほうがいい・・・か。

「ま、お前にどういった心境の変化があったかは知らないが、そろそろ決着付けようぜ。

最も、片方使い物にならなくなったその双銃で、オレを倒せるならの話だが。」

そう、フォートは先ほどの技を回避するために銃で防御した。結果軌道がそれて額をかする程度で済んだのだが、その代償として盾となった片方の銃は使用不能の状態に陥ってしまったのだ。

おまけに額から流れる血のせいで、若干視界が赤くぼやけている。

No.3が一足の元に飛びかかってくる。

先程までのフォートであれば問題なく対応し反撃できるが、視界の自由がきかない今では追うことで精一杯だ。

加えて相手は二丁でかかってくるのに対し、フォートは一丁。今までのように撃ち落として対応するのもままならない。

「隙が出来てるぞ?」

隙を突かれ、後ろに回り込まれる。咄嗟に横に跳んで回避したが、跳躍しての回避は新たな隙を生む。そこをNo.3は蹴り飛ばした。大きく飛ばされるフォート。今度こそ完全に無防備になった。

「悪いな。  これで、終いだ!」

No.3は再びあの構えをとり、引き絞った手を離した。


「どういうことだ・・・?」

No.3は呆然とする。自分は確かに完全に無防備になったフォートに向けて必殺の一撃を放った。それで終わるはずだった。

なのに終わらなかった。なぜなら放った一撃が外れたからだ。では何故外した?この距離なら外すなんてまずありえない。いや、そもそも自分が外すということ自体ほとんど有り得ないと言っていいはずなのに。

そしてあの一瞬、後ろにさげた右腕が妙な抵抗を感じたことを思い出した。

「まさか!」

声に出すと同時に右腕を上げようとする。だが思うように上がらない、そして自分の右腕からフォートに向かってうっすらと何かが繋がっているのが見えた。

これはワイヤーだ。おそらく自分が蹴り飛ばしたあの一瞬で引っ掛けたのだろう。そして自分が至高の狩人(ロビンフッド)を放つ瞬間にワイヤーを引っ張り照準をそらしたのだ。

そして次にあいつがとる行動は一つ。No.3は急いでワイヤーを外そうとしたが、それよりもフォートがワイヤーを引っ張る方が早かった。

強い勢いで急速にフォートに向かって飛んでいくNo.3。その最中にフォートはNo.3の両手足を撃ち抜いた。


「勝負あり、か。やっぱりお前には敵わないな。」

両手足が使えなくなり、壁にもたれこんだNo.3が観念したように言う。

そんなNo.3を前にフォートはしばらく立ち止まり、そして銃をNo.3の頭に向けた。

「・・・やっぱお前は、『それ』だからこそ強いんだろうな。」

No.3はそう呟き、ふっと微笑った。

「あばよ。『殺人機』。」



「フォー・・・。」

ルインとレックの二人が中に飛び込み開口一番名前を呼ぼうとした直前、銃声が鳴り響いた。

反射で防御の構えを取る。だが、銃声はこちらに向けられたものではないようだ。

そして、二人はその銃声がどこに向けられたものなのかをすぐに把握した。

「フォート・・・。」

そこには、額に穴を開け、そこから大量の血を吹き出している男だったモノの姿と、その返り血を浴び、己の血と混濁させてもなお無表情のまま銃を懐に収めている者の姿があった。

そのショッキングな光景に、二人は立ち尽くしていたが、レックはそこから歯を食いしばり、もう一度その名を叫ぼうとした。

しかし、名前を呼びきるその前にルインが静止した。

驚いて振り返るレックに、ルインは静かに首を左右に振った。

フォートは、いや、No.1は、そのままこちらに歩み寄ってくる。そしてそのまま二人と視線を合わせることもせずに横を通り過ぎた。

「フォート!」

小さくなっていく後ろ姿に、レックは堪えきれずにもう一度名前を呼んだ。しかし、やはり返事は返ってこなかった。

当然といえば当然なことかもしれない。いくら必死になって呼びかけようとも、機械が返事をよこすことなどないのだから。


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