6 白き削除屋(デリーター)
前話投稿時、夜遅くの投稿と書きましたが、よく考えたら投稿日は表示されますが、時間までは表示されませんよね。OTL
そんなミスしてもめげずに投稿します。
そこは、血生臭さが漂っていた。その原因となっているのは、床一面を真っ赤に染めた男の部下達の亡骸。それらを前に腰を抜かし、立つこともままならず、怯え、竦み、助けてくれと懇願する男。
「わ、わかった。今回の儲け、全部、全部、お、お前にやるよ。だからっ、その銃を・・・。 やめっ、殺さ・・・・!
バッ!!!?」
その震える顔に弾丸を打ち込まれた男は奇怪な悲鳴を上げ、撃たれた場所から鮮血が噴き出す以外は、一切の動きをなくした。
まさに血の雨が今降り注いでいる中、その雨を降らした白い影は、その顔についた血を拭うこともせず、ぽつりと呟いた。
「任務完了。」
『今日午前、巫山戯流名組合の組員が、組合所で全員射殺されているのが発見されました。
巫山戯流名組合は、過剰な借金の取立て、強請、カツアゲ、万引きなどにより、度々治安部隊により検挙されていた暴力団組合で、今回の事件は恨みを持った人物の反抗と見て捜査が――――』
「やーれやれ、ついこの間まで平々凡々の毎日かと思いきや、いきなり物騒なニュースが流れるようになったね。」
「そうだね。この間もどこかの暴力団が皆殺しにされていたよね。」
テレビのニュースを前に、不安そうにしているレックと、のほほんとしているルインが話していた。
「まあぶっちゃけ、全滅させられてる場所っていうのが、全部こういったどこよりも安く恨みを買ってるようなところだからねえ。ぶっちゃけ自業自得だよねって感じだけど。然るべき最期を迎えただけっていうかね?」
のほほんとしながらもやけに剣呑なことを言っているルインを、レックが嗜める。
「なにさらりと物騒なことを言っているのさ。」
「でもこれで、助かった人達がいるのもまた事実だよ?執拗な借金の取立てに悩まされて、自殺という選択肢を迫られかけていた人だっていただろうしね。そういう人たちにとっては、この事件は地獄に舞い降りた一筋の光明だったんじゃない?」
そんなルインの、身も蓋もない言い草に、それでもレックは言い返す。
「確かに、あの暴力団が消滅したことで助かった人だっているだろうけどさ、だからといって皆殺しという形で終わらせていいという道理にはならないじゃないか。罪を犯しているのなら、然るべき場所で裁かれるべきでしょう?」
「ま、それが一番の正論だよね。でも世の中そうはうまくいかないから、こんな正義と悪が歪んだ事件が起きるんだろうけどね。
っと、誰か来た。」
少し辛気臭い話になりかけていた二人の話を打止めてくれるかのように呼び鈴がなった。
玄関に出迎えてみると、カウルとハルカの両名が立っていた。
「おっす。」
「こんにちは。」
「おお、お二人さん揃っていらっしゃい。どした?」
家の中に招き入れようとしたルインだったが、二人は中に入らずにに要件を切り出した。
「いや、なんていうかな。とりあえず住む場所が見つかって大分落ち着くことができたからな、一つお礼に来させてもらったんだよ。」
そう、あのトレジャーハンティングで得た報酬をルインたちと山分けし(というより七人で分けた)、そのお金でこのキブに腰を落ち着けることにした二人は、ルインたちが(正確にはレックとツェリライが)協力し、先日入居先が決まったところなのだ。
「あれまあ律儀にどうも。でもお礼は別に、この前の祝入居パーティ兼歓迎会で十分にしてもらったから別に改めてってする必要はなかったのに。」
ルインはそういうが、二人は照れくさそうに下を向き、申し出た。
「いやまあ、実のところお礼はついででな。少し箪笥やらの調達に付き合ってくれないかと思ってな。」
これで二人の訪問の目的がわかった。
「なるへそ。住む場所が決まったのはいいが、住むのに必要なものがなくて揃えようとしたけど、この町の地理は全く知らないから手伝って欲しいというわけね。」
「・・・はい、そういったところです。」
二人の事情を察したルインは、一番効果的な策を考える。
「よし、わかった。じゃあこの僕が一肌脱ぎますか!
というわけでレック!付き添いよろしく!!」
「うぇ!?ボク!?いや、いいけど、なんで?」
突然のご指名に驚くレックに、ルインはお決まりの笑顔で告げた。
「だってレック世話好きだし、僕よりもこの町の地理に詳しいじゃん!」
「世話好きに見えてしまうのは誰のせいだとか、さっきルインが一肌脱ぐと言ったのに速攻でボクに振るのはどうかとか色々ツッコミどころはあるけど、
割と最近この町に来たボクよりも町の地理に疎いってどういうことなのさ?」
呆れてものも言えない、といった感じである。
「いいコンビだな。あの二人。」
「そうですね。」
そんな二人を、面白そうに眺めている二人がいた。
「じゃあ行ってくるね。戸締りはよろしく。」
「はいはい、子供じゃないんだから大丈夫ですよっと。いってら~。二人の愛の巣の作成協力頑張ってね~。」
ルインの軽口に、ハルカがボンッという音と共に真っ赤になる。
「あ、愛の巣?」
ゴッ!!(カウルがルインを殴った音)
「あいったぁ~。いきなりひどいじゃないか。」
「何がひどいじゃないかだ。人をロリコン扱いするな。あと、ハルカに変なこと吹き込むな。」
「へいへい、随分と愛していらっしゃることで。」
「・・・今度は電撃付きで行かせてもらうぞ。」
既にその拳には電撃が迸っている。
「ごめんなさい冗談です。いってらっしゃいませお三方。」
「はいはい、行ってきます。」
三人を見送ったルインはダイニングに戻り、コーヒーを淹れる。賞金のごく一部をはたいて購入した本格焙煎式のコーヒーメーカーから香ばしい香りが漂う。
カップに注いだコーヒーに、今日は気分的に甘めでいきたかったので、いつもより多めにミルクと砂糖を入れた。
そうしてやや傾いた陽だまりがさす中、ゆったりと椅子に座り午後のひとときを過ごしていた。
温かいコーヒーと暖かい日差し。温もりしかないはずのこの空間に、ほんの僅か、刺すような冷たい「何か」を感じた。
(!?)
それが何かを探る前に、まずルインの本能が右腕を動かし、顔面をカバーした。
その右腕に焼け付くような痛みを感じる。と同時に、血しぶきが上がった。
「あ痛ったぁ!!!」
だが、痛がっている余裕もない。突然の襲撃者の次の攻撃に備え、刀を構えた。
敵が狙撃手だというのなら外には出ないほうがいい。今外になんて出れば撃ってくださいと言わんばかりである。
次に狙撃が来れば、弾道を予測して相手の場所を割り出せばいい。こっちの間合いに入り込むことができればその瞬間に勝負はついたも同然である。
呼吸を整え、精神を集中させる。銃弾が風を切る音を逃さないよう耳を澄ませる。
一分、五分。時間はゆっくりと進んでいく。その間ルインは微動だにせず、同じ構えを取り続けた。
さらにまた一分、五分と時間は流れていく。
と、何かが動く気配を感じた。
来る!! ルインは刀を握る手に力を込めた。
だが、ルインの予想に反して来たのは銃弾ではなく、一人の男だった。
いや、格好的に男だろうという推察をしただけで、はっきり言ってパッと見では男には見えない体格だった。
どういうことかというと、背が低いのだ。140センチは、流石にあるだろうが、多分ハルカよりも低い。
その低身長の体を覆うかのように、真っ白なロングコートを羽織っている。
顔はなんというか、びっくりするほど目が細い。あれ、前が見えているのだろうか?そんな場違いな心配をしてしまいそうなほどである。
そして、コートの袖に半分以上隠されている手には異常に大きな拳銃。治安部隊などが使用している拳銃よりも1.5倍程ありそうである。
ともあれ、ルインは気になったことを向こうに黙って立っている暗殺者に問いかける。
「一つ質問してもいいかな?どうしてわざわざ姿を現したのかな。あのまま僕がしびれを切らして動いたところを撃ち抜けば、それで終わりだったと思うんだけど。」
すると、マネキンと錯覚しそうなほど動きがなかった暗殺者の口が動いた。
「 ・・・貴様はあのまま動かず、仲間が帰宅するのを待っていた。違うか?」
図星を刺されてしまった。
「あちゃ、バレてましたか。ただ、今の言い方から察するに、お前の狙いはとりあえず僕だけみたいだね。なら、ここで片付けたほうがいいか。
わざわざこうやって姿も見せてくれたことだし ね!!!」
ルインはコーヒーメーカーの中身を思い切り相手にぶちまけた。
と同時に、ルインは斜め上に飛び上がる。
コーヒーの狙いは勿論火傷をさせるためではない。ほんの一瞬を作り出すための目くらましにするためだ。相手の得物は拳銃。当然後ろに下がり距離を取るだろう。だからルインは、今相手が立っている位置よりも奥に向かって飛んだ。
しかし、相手はなんと後ろではなく、ルインに向かって真っ直ぐ飛んできたのだ。
「なっ!?」
相手の予想外の行動に、それでもルインは咄嗟に刀を抜き、居合で相手を斬りにかかった。
ガギィィッ!!!
金属と金属がぶつかり合う重い音が鳴る。ルインの刀を止めたのは、相手のあの大きな拳銃だった。
「無駄だ。」
暗殺者は空いている左の拳銃でルインを殴り飛ばした。
「っぶ!!」
思わず距離をとったルインに間髪いれずに弾丸を叩き込んでくる。
「うぉっ!」
咄嗟に飛び退いてかろうじて回避した。
「いや、なるほどね。そのやたらとどでかい銃は、もしもの近接用として使うためのものなわけね。いやまいった。まさか遠近両用の銃とは、どうしようかね。」
無駄口を叩いて少しでも時間を引き伸ばそうとする。だが、それも読まれているのか、暗殺者は再び発砲してきた。
必死でかわすルイン。こうなると圧倒的にルインが不利である。
破断閃のような広範囲技もあるにはあるが、腕の怪我のせいでろくに打てる気がしない。あの時せめて利き手じゃない左腕で防げばよかったと、今更ながら後悔する。
「うぉおお! 死ぬ死ぬ!死んでしまうぅ!」
飛び交う弾丸の嵐を、あるときはソファを、あるときは刀を盾にしてなんとか凌ぐ。だがそんなその場しのぎにも限界がある。
何とかして打開策を講じる必要があるが、そんなもの簡単に浮かぶはずもない。
「暴風投刃!!」
と、奥からクナイが暗殺者に向けられ大量に飛ばされてきた。
相手はこれをかわす。そのおかげで隙が生まれ、その隙を突いてカウルが突撃した。
「買い物済ませて戻ってきてみれば、また随分とえらいことになっているな!?どういうことか、説明してもらおうか!」
その言葉とともに、カウルは暗殺者に拳を叩きつける。だが、相手はひらりと後ろに飛び退ると、そのまま塀を乗り越え、その奥へと姿を消した。
「ふぅ。撃退とまではいかなくても、とりあえず退けられたか。
あ痛ぅ・・・」
右腕を押さえ込み、うずくまるルインにハルカが駆け寄った。
「ルインさん!ご無事ですか!?」
「うん。まあ腕撃たれただけだし、致命傷ではないから大丈夫だよ。」
ルインがハルカに手当をしてもらっている間、カウルは先程まで乱戦の場とかしていた部屋を調べる。そして、落ちていた弾薬を拾い上げる。
「なんだこの弾薬は?随分と大きいな。 直径は10、いや11ミリはあるか?」
「11ミリの弾丸を発射できる拳銃となると、およそ60口径という意味不明な大きさの拳銃が必要になりますね。」
玄関の方で声がする。声の主はやはりツェリライだった。アコとグロウもいる。
「お、ツェル。グッドタイミングだね。」
「来たタイミングが良かったのではなく、連絡を受けたから来たんですよ。 あそこで見るも無残な姿になっているレックさんにね。」
「え?」
そこでようやく三人は、そういえばレックがいないことに気づいた。そしてツェリライが指差した方向を見ると、さっき家具屋で買ったタンスの下敷きになり、辛うじて携帯を持った手だけがはみ出ている状態のレックがいた。
「あ・・・。」
「いや、済まなかったな。中に入った途端に争っている音がしたと思うやいなや、お前に荷物投げつけてしまった。」
頭をかきかき謝罪する。
「うん、まあ大丈夫。それよりもルインの腕は大丈夫なのかい?さっき聞こえた話だと、そんな超ド級の弾を受けたんだったら、たとえ腕でも大変なことになるよ?」
心配そうなレックをよそに、ルインはハルカに巻いてもらった包帯をした腕を軽く振り上げてみせた。
「ああ、もーまんたいだよ。腕でガードした時に同時にのけぞったからね。直撃じゃなくて、かすった程度で済んだんだよ。直撃だったら今頃僕は隻腕になっていたね。」
唐突に腕を振り上げたものだから、手当続行中だったハルカが慌てた。
「あっ、ルインさん。じっとしていてください。腕を固定できません。」
「おっと失礼。でもせっかくのお気遣い申し訳ないけど、固定はしなくてもいいよ。」
「え?どうしてですか?」
「腕固定したら、刀使えないじゃん。」
「そんな!まだ戦うつもりなんですか!?無理ですよ、そんな腕では・・・」
怪我を負ってもなお戦おうとするルインをハルカは止めようとする。だがルインはハルカの頭に右手をぽんと乗せた。
「ありがとね、心配してくれて。望めるなら僕だってあんなの相手にするのは御免こうむるけど、十中八九向こうからまた来そうだしねえ。ツェリライはどう思う?」
一連の情報を聞いたツェリライは、静かに、はっきりと断言した。
「あなたを襲った暗殺者というのは、おそらく『削除屋』であると判断して間違いないでしょう。」
「デリーター?」
「ええ、数年前から突如出現し、暴力団体や黒い噂の絶えない企業等、世間一般から疎まれている対象を目標に、誰にも知られずに殲滅させている謎の組織です。構成員の人数やその目的、その他全てにおいて謎に包まれています。ただ、一つわかっていることがあります。それは・・・」
「それは?」
「僕が知る限り、これまでのデリーターの暗躍は、一度として失敗をしたことがないということです。」
「それってつまり・・・。」
「目標にされた対象は、必ず殺害されているということです。」
「・・・・・・・。」
室内が重い空気に包まれる。
「やれやれ。じゃあ僕は何としてでもそのデリーターとやらの初の失敗例にならないといけないわけね。」
ため息をつくルイン。なんだかんだいって、プロの殺し屋などに狙われた経験なんてない。
相手は勝負を挑んでくるのではなく、ルインの命を取りに来るのだ。それはつまり、どれほどの時間がかかろうとも、どんな手段を使おうとも厭わないということ。当然、気が休まる時が来るとは思えない。
重くなった空気を、取り敢えずなんとかしようと、レックが口を開いた。
「で、でも、なんでルインはデリーターに狙われなければならないのさ?狙われる理由なんてどこにもないじゃないか。」
「レックさん。その言葉は、心からの本音で言っていますか?」
ツェリライが冷静に切り返す。その物言いに、レックは言い返そうとした。
「それは勿論! ・・・」
その通りだと続けようとしたレックの脳裏に、これまでの過去が浮かんできた。
基本的に、目的のために手段を選ばないルイン(時には手段が目的を凌駕していたこともあった気がする)。
やむなく戦闘になった時、必要以上に相手を罵倒し怒らせていたルイン。
「勿論・・・」
声に覇気がなくなっていく、さらに回想は続く。
たまに外に出たとき、明らかに良くない雰囲気が漂う場所に、興味本位で首を突っ込んで滅茶苦茶にするルイン。
その際にまた余計なことを言って相手を逆上させ、その後必要以上にフルボッコにするルイン。
一通りの回想が終わり、レックは絞り出すように答えた。
「本音で言っている。と言うと嘘にならないこともない。と言っても過言ではないような気もしないでもないかもしれない。」
何とか言いきったレックに対し、ツェリライは取調室で容疑者に優しく自供を促すように語りかけた。
「レックさん。無理しなくていいんですよ。文法が滅茶苦茶です。」
「はい・・・。」
レックはがっくりとうなだれた。力尽きたレックの横で、湿った声でルインがなじった。
「・・・皆してひどくない?」
「自業自得だ。」
「そんなあなたに因果応報という言葉を送らせていただきます。」
「その言葉って、日頃の行いは自分に返るって意味だよね?」
「ええ、その通りですよ、アコさん。」
まさにハートフルボッコ状態。レックに続いてルインもうなだれた。
「あの・・・、少し可愛そうではないですか・・・?」
完全アウェーの空気の中、ハルカがおずおずとルインを庇ってくれたのが唯一の救いだったと言えよう。
「さて、落ち込みタイムはこの辺にしといて、何か対策を考える必要があるね。どうしようか?」
ルインはさっと気持ちを切り替え、デリーターに対抗する策を考えることにした。
「あたしならいけるんじゃない?あいつがよけられないくらいの範囲が大きい技を使えば一発で。」
開口一番、アコが提案する。
「わぁお、なんという脳筋戦法。」
「でも効果的ではあるんじゃないか?あいつの反応速度はかなりのものだった。俺が隙を突いて仕掛けたが、難なく対処された。さらに言うならハルカのあの不意打ちも完璧にかわされた。その点、アコが避けられないほどの広範囲の技を使えば、うまくいけば一発でカタがつく。」
「確かにそうだね。でも問題は、向こうがそれを使わせてくれそうにないところにあるんだよね。」
「というと?」
「いや~、あいつ目と判断力がかなりありそうじゃん?だってハルカちゃんとカウルの不意打ちをあっさり避けて、そのあと引っ張ることなくすぐに退散した。やってのけたことはシンプルだけど、意外と簡単なことじゃないと思うんだよね。」
「まあ、それは言えているか。相手の不意打ちにも容易く反応する反射神経。状況が不利になったと見るやすぐに撤退する無機質なまでの判断力。遠近戦共に対応できる銃拳術。
なんか相手の特徴を上げていくと、非の打ち所がなさすぎる気がするんだが。」
「奇遇ですね。僕も同じことを考えていましたよ。唯一対抗できる術があるとするなら、力で押し切ることのみ。問題は、いかにそれができる状況に追い込むかですね。」
その答えを見つけ出すため、全員頭を悩ませる。
と、そんな中グロウだけが若干考えることがバカバカしそうに言い放った。
「そんなに難しく考えることかよ?てめぇの攻撃を対応されるんなら、向こうが対応できなくなるまで打ち続けりゃいいだけの話だろうが。」
まあ、言っていることは的を射ている。的を射てはいるのだが・・・。
「どうしてこう、ここの面子は脳筋さんが多いんですかね?それができれば簡単だけど、その対応には反撃っていうものだってあるんだよ?そこんとこ考えてる?」
「たかが銃弾くらった程度で死ぬか。」
さもそんなことは当然だというような口調で言われても・・・。
「ええ死なないでしょうね。グロウだけは。他のみんなは普通に即死レベルなんですけど。」
すかさずルインがツッコミを入れる。
結局、話し合いは平行線をたどった。
「今更だけど、ボクたちって結構チームワークとかってないよね・・・」
と、レックがぼやいてしまうほど進展がなかったとき、いい加減に考えるのが飽きたのか、ルインが両手を挙げた。
「あーもうやめやめ。完全に煮詰まっちゃってるし。やっぱ数の暴力でゴリ押しにゴリ押しを重ねるのが一番でしょ。」
最終的には結局そこに落ち着くのか、と苦笑いしながらもそれに落ち着こうとしたとき、さっきからずっと黙っていたカウルが切り出した。
「なあ、こういうのはどうだ?
(~作戦説明中~)
といった感じだが?」
カウルの作戦を聞いた面々は、大体はいいんじゃないかという感じの反応が返ってきた。だが、危険な部分も含まれているため、満場一致の賛成ではなかった。特に
「その作戦は、理にはかなっていますが、なかなかリスキーではないでしょうか?」
ツェリライが一番難色を示した。だが
「いいじゃん、これ以上の上策が浮かばない以上、考えてところで時間つぶしになるだけだろうし。それじゃ、決行は一週間後にしようか。腕はある程度動かせるようになっておきたいし。」
と、結局ルインが半ば強引に決定づけた。
「一週間後って言っても、そのデリーターっていうのがいつ来るかはわからないんでしょう?大丈夫なの?」
とアコが心配するが、ルインは至って問題ないという考えのようだ。
「まあ、一週間後に来るという保証はどこにもないけど、少なくとも明日は来ないよ。」
「どうして?」
「今から治安部隊に連絡入れて、僕が襲われたっていうことを広めるからさ。外見を適当に丁稚挙げたうえでね。」
「外見の丁稚挙げ?なんでまたそんな手の込んだことをするのさ?」
「そりゃ、外見を聞いたら治安部隊だって本腰入れて動くだろうからね。万が一、僕らが倒すより先に捕まえられでもしたら嫌じゃん?」
「ルイン・・・。」
この言葉に呆れたのは、レックだけでなかったことは言うまでもない。
ルインの思惑通り、騒ぎは大きく広まった。
最初、ヒネギム係長に一連の話をしたときは、寝言は寝てから、エイプリルフールなら4月1日にしろと、まともな対応どころか叱られる羽目になったが、ルイン宅とルイン腕の怪我を調べた部下の報告を聞いたら一転、対策本部を立ち上げるよう働きかけてくれたようだ。
最も、ルインが外見についてかなり適当、というか実際の人物像と正反対のことを伝えたため、捕まえる事が出来ないのは明白なのだが・・・。
事態は、大体ルインの思惑通りに進んだ。唯一誤算があったとすれば、騒ぎが大きくなりすぎて、落ち着くのに二週間以上たってしまったことと、ルインが勝手なことをしないように、騒ぎが落ち着くまで保護という名の自宅謹慎を食らったというところだろうか。
そして二週間と数日後、騒ぎもようやく下火になり、ルインも傷が大体癒え、外に出てもお咎めが来なくなった。
というわけで、ルインは缶詰をくらって滅入った気を晴らすため、一人のんきに散歩に出た。
街道を練り歩き、特に行き先もなくぶらぶらし続ける。やがて、人はいないがそこそこ広い裏道へと入って行った。
遠くに聞こえる喧騒。ここで大声をあげても、おそらく表までは届かないだろう。
「さて、ここなら誰にも迷惑をかけないんじゃないかな。 というわけで、出てきたらどう?」
ルインは誰もいない空間に呼び掛ける。すると、呼びかけた方向とは別の方向から、あのデリーターが姿を現した。
「あらら、そっちだったかぁ。う~ん、まだ方向までははっきり分からないなあ。」
ルインが自己分析をしているのをよそに、デリーターは問いかける。
「 何のつもりだ?」
「何のつもりって、そりゃお前をおびき寄せるためさ。大方僕がここに入って、そのあと隙を見せたら撃ち抜くつもりだったんだろうけど、生憎そうは問屋が卸さない。 さて、始めようか。」
ルインの言葉が終ると同時に、唐突に極太な木の根が生え、道を完全に塞いだ。
「木霊 ホルズケージ。これでいい?ルイン。」
ルインとデリーターがいる、木の根に囲われた場所の外から、アコの声が聞こえた。
「うん、おっけ~だよ。アコちゃんはそのままそこでこれ維持しといて。さて、デリーターさん。これ見ればわかると思うけど、これはおまえの銃で破るには骨が折れるし、仮にそれができたとしても、破ったはなから即再生するから、するだけ無駄だよ?だから、大人しくここで楽死んで逝ってね?」
物騒なイントネーションで発せられたルインの話が終わらないうちに、デリーターは上から殺気を感じ、すぐさまそこから飛び退いた。
直後、カウルの一撃がそこに叩き込まれた。
「やっぱり当らないか。奇襲は割と得意だったんだがな。あんたにはかなわないな。だが、これならどうだ?」
再びカウルは、デリーターに向かって飛びかかる。一足で初速から最高速まで加速するそれは、常人には見て取ることなど決してできるものではない。
だが、相手は余裕をもってそれを横に跳んでかわした。
その直後のことだった。
「頭ががら空きだぜ? オラァ!!」
上から降って湧いたようにグロウが現れ、ハンマーを振り下ろす。それでもデリーターはグロウの攻撃を回避する。が、その先にレックの焔連弾とハルカのクナイの一斉射撃が待ち受けていた。
土煙が上がる。
「どうだ、この『一度がだめなら二度、二度がだめなら三度までも、数の暴力バンザイ作戦』は!」
ルインがこれ見よがしに吠える。
だが土煙が晴れと、そこから汚れてはいるものの、目立った外傷は一切ないデリーターの姿があった。
「おいおい、今ので無傷かよ。どうやって攻撃をさばいているんだ?」
ここまで来ると逆に興味がわいたようだ。カウルは興味深そうに相手をまじまじと眺める。
「カウルさん。お気持ちには同意しますが、今は目の前の敵を撃破することを優先させてください。」
と、木の根の上からツェリライが指示を出す。
「ああ、わかっている。よし、次いくぞ。」
「おう!」
それから、執拗なまでに攻撃が続けられた。さらに、ただ数の暴力でたたみかけて来るのではなく、上からツェリライが状況判断と指示を出しているので、意外とチームワークが整った連携攻撃を繰り出してくる。
それゆえに、相手の数は実際の人数の倍以上の戦力を誇っていられるのだ。
そこまでを戦闘中に思考したデリーターは、状況の打破のために最も効率のいい手段を選択した。
ルインたちを隅に誘い込み、攻撃を回避したその直後、この戦いの司令塔となっているツェリライに向かった発砲したのだ。
司令塔という役割に徹していたツェリライは無防備、他の仲間はツェリライと正反対の位置にいるため、援護が間に合うはずもなかった。
「ツェル!!」
銃弾は真っ直ぐツェリライの胸に命中。そこから一斉に血が噴き出した。
声を上げることもなく、前のめりになって木の根から落下。そのまま力なく地面へ落ちた。
「ツェリライさん!!」
ツェリライ駆け寄り、無防備になったハルカに銃口が向けられる。
「させるかよ!」
間一髪でカウルがそれを止めた。そこで、状況は膠着した。
「まったく、やってくれたね。他人の仲間に手をかけた以上、それ相応の覚悟はできてるんだろうね?」
ルインのあの、背中を突き刺すような静かな殺気が響く。だが、それを前にしても、デリーターは一切の反応を示さなかった。
相手を一人倒したという安堵も、目の前で殺気をむき出しにしている相手に対して恐怖や闘気を抱くこともない。
それはまるで、今自分たちの眼前にいるこの男は、本当に人なのか。はたまた人の姿をした機械、つまり人造人間なのかと錯覚させるほどに。
そんな様子のデリーターを見て、ルインはため息をついた。
「やれやれ、威竦みのしがいがないね、全く。そんな周囲のことにオール無反応でさ、生きてて楽しいの?」
「・・・・・。」
ルインがそう問いかけても、やはり相手は無反応だった。
「無視ですかシカトですかそうですか。ま、いいけどね。おかげで時間稼ぎはできたしさ。じゃ、行くよ。」
ルインがデリーターに一足跳びで跳びかかる。そこから放たれた一撃をデリーターは一切回避することなく、真正面から受け止めた。
吹っ飛ばされるデリーター。
「おやおや?どうしたのかな、そんなぼさっと突っ立ってて。回避なり反撃なり、なんか対応しないとやられるよ?」
そう言いつつルインは再びデリーターに向かっていく。またもやデリーターは、ルインの一撃をもろに受けた。そして、倒れた状態のまま動かなくなった。
「あぁ~もう。憂さ晴らしで少しは弄ろうと思ったのに、ここまでノーリアクションだとさすがに興ざめするね。少しは『んぎぃ!!なぜだ!?なぜ体が動かん!?』ぐらい言っても罰は当たらないと思うだけなぁ。」
やっとのことでデリーターが立ち上がる。だが、再びそこから動かなくなった。いや、動けなくなったのだ。
「ま、いいや。このまま待っててもずっとその状態でいるような気がするし、とっとと種明かししようかな。ツェル~、もういいよ、ごくろーさん。」
ルインが、先ほど撃たれて動かなくなったツェリライに呼び掛けた。すると、ツェリライはいたって平然と、なんてことなかったかのように起き上がった。
「死体の演技というのも、なかなか味があるものですね。」
なんか言ってる。
それを無視してルインはデリーターに説明し始めた。
「ま、もうわかってると思うけど、ツェルは血糊使って死んだふりしてただけなんだよ。もちろんその時のみんなの言動は、全部練習した演技ね。」
「血糊といえども普通の血糊とは違い、実際の血の成分とほとんど変わらないものですがね。あなたを騙すには、これほどまでしなければならなかったでしょうし、高い出費でしたが、まあよしとします。」
ルインとツェリライに続き、カウルが先を引き取る。
「あんたは随分と目がいいみたいだ。おまけにその場その場の状況判断を瞬間的に、正確に導き出すことに長けている。それがあんたの強みなんだろうけどな。だからそれを利用させてもらった。」
「いいチームワークで連携攻撃を仕掛けてくれば、その連携を作り出している頭脳を破壊することを、お前だったらすぐに気がつくよね。だからあからさまにツェルを司令塔にさせてお前の的にさせてもらった。」
「そして僕が撃たれ、死という形であなたの認識から完全に僕という存在が消された。その隙を突いて動きを止めさせてもらいました。因みに、今あなたの動きを止めているもの、あなたの銃弾を防御したものはQBUと名付けた僕の発明品です。」
「という訳で、『この一度がだめなら二度、二度がだめなら三度までも、数の暴力バンザイ作戦 と見せかけて実は司令塔が囮で裏からこっそり拘束、そのまま一気に片を付けちゃうぞ作戦』大成功!発案者はカウルだけどね。」
「そんな長い名前付けていないけどな。まぁ、という訳だ。あんたはもう完全に詰みの状態に陥ったわけだが。」
カウルはゆっくりとデリーターの元に歩み寄り、その顔を覗き込んだ。
「この状況でなお一切の反応なしか。 デリーターという組織は、あんたに何を吹き込んだ?目的はなんだ?」
しかしデリーターは、粘度の高い沼に石を投げたかのように、カウルの質問を飲み込むだけ。そこから返ってくるものは、何もなかった。
「本当にやれやれだな。俺も長いこと大勢の敵と戦ってきたが、あんたみたいなのは初めてだよ。ま、聞いても答えない以上、これ以上聞いても意味ないか。じゃあツェリライ、最後はお前に譲るよ。よろしく」
カウルがその場を離れ、ツェリライにバトンタッチ。ツェリライとデリーターが一対一で向かい合う形となった。
「ありがとうございます、カウルさん。では始めさせていただきますか。」
ツェリライが、まるで演奏を今まさに始めんとする指揮者のように左手を上げる。
それに倣い演奏者、もといQBUの群れが一斉に各々動き出した。
あるQBUはレーザーで射抜き、あるQBUはレーザーをまとった槍と化し突く。緻密な計算により作り上げられた蒼き舞は、見る者を感嘆の息で満たす。
「これはあなただけのために作りだされた舞台。決して降りることを許されない、久遠の舞台です。
さあ存分に舞ってください。業苦という名の舞曲を!」
ツェリライが後ろを向く。そして、強制的に踊らされ続けた相手に、舞台の終幕を告げるため、指を鳴らした。
「Distress waltz!!」
舞台の終焉を告げる、動きを捕捉した状態からの一斉射撃。最後まで踊らされた演者は、立つ力を失った。
「今の技名と動き、だいぶかっこつけてるわよね。」
アコが素朴に棘を刺したのに対し、ツェリライが即座に反撃する。
「突然僕の家に押しかけたと思ったら、本棚をあさって技名を考案していたアコさんに言われたくはありませんね。」
「ちょ!?言わないでよ!このことだけはみんなに内緒にしていたのに!!」
怒ったアコの顔が赤くなっているのは、怒りのせいなのか羞恥心のせいなのか。
そんなアコにお構いなく、ツェリライが最後の後始末に取り掛かる。
「敵機撃破完了。あとは治安部隊に通報するだけですね。」
そう言って携帯電話を取り出したツェリライを、ルインが止めた。
「ん~、やっぱそれキャンセルね。」
「は?」
呆気にとられる一同をよそに、ルインつかつかと歩み寄り、刀をデリーターの喉元に突き付けた。
「お前、僕ん家に来なさい。ちなみに返答は、はいかYES以外受け入れないからそのつもりで。それ以外を言った場合、わかってるね?」
「はぁああ!!?」
異口同音の大合唱。流石にその発想はなかった。
「お前は一体何を言っているんだ?」
「ついに気が狂ったか?」
「気が狂っているのは普段からですが、今回は特別更に狂っていますね。」
言いたい放題の連中の言葉に耳を貸すと、切っ先を向ける方向を変える必要性が生まれてしまうので、ルインは無視する。そのまま、僅かに眉が上がっているように見えなくもないデリーターに話しかける。
「この前お前が暴れてくれたおかげで、家めちゃくちゃになったんだよねぇ。幸い保険が下りたから被った損害は0に近いけど、気分的に非常に宜しくないわけだ。という訳で、僕のところでタダ働きしてもらいましょうか。」
ずけずけと口を挟む隙も与えず、一方的にまくしたてるルイン。
「い、いや。でもさ、その男はルインの命を狙っていたんだよ?自分家に置いて、また狙われたらどうするつもりなのさ?」
という常識人のレックが聞くと、非常識人はさらりと返した。
「その時はまたフルぼっこにすればいいだけ。だってさ、どうにも腑に落ちないというか、癪なんだよねぇ。」
「何が?自分がとどめを刺せなかったこと?」
「いや、そうじゃないよ。こいつがどんな状況になろうと表情一つ変えなかったことさ。」
「はい?」
まるで理解ができない、というより理解したくないという周囲の表情に、ルインは必至で伝える。
「ほら、なんというかさ、今の自分の力じゃ持ち上げられない岩とかあったらさ、何としてでも持ち上げてやりたいって気にならない?」
「う~~~~ん・・・。」
同意できるようなできないような。微妙な空気が漂う。
「それでルインさんは、一切表情を変えなかったこの人を家に連れ込み、何としてでも無表情を覆したいと、そう考えているわけですね?」
「まぁ、早い話がそういうことかな。」
「それ即ち、あなたはこの人を自分の玩具にしようと企んでいるわけですね?」
「そう・・・って人聞き悪いこと言わないでくれるかな?」
と、ルインが反撃するが、周りは自重しない。
「やだ、旦那さんってば、聞きました?あの人、人の事をおもちゃにするなんて言ってますわよ?」
「鬼畜の所業だな。」
「う~ん、とりあえずハルカに近づいてくれるなよ?」
カウルまで悪乗りし、残りの二人はどっちつかずの立場になっておろおろしている今、完全孤立状態になってしまったルインは、大きく息を吸い、窓ガラスを割る勢いで叫んだ。
「じゃああかぁあああしぃいいい こらあああああ!!!」
「・・・というわけで、家に来てもらうよ。拒否権?使ったらそのまま流れ作業で地獄行きね♪」
有も無も言わせるつもりがさらさらないようだ。それを感じ取ったのか、デリーターは無言で小さくうなずいた。
「よし、じゃあ名前を聞きましょうかね。あなたのお名前は何でしょうか?」
その手に握られていない架空のマイクをデリーターに突き付けるルインだったが、突きつけられた相手はしばしの沈黙の後、こう答えた。
「名はない。」
「へ? 名がないということは、名無しの権兵衛ってこと?」
黙って頷くデリーター。
「ふぇ~~。そうか、そうですかぁ。だったら僕らでなんか考えようか。 って、あれぇ?」
ルインがみんなに協力を求めようと後ろを振り返った瞬間、全員が我関せずとばかりにそっぽを向いた。
「・・・なんか、『お前一人で考えろ。俺たちゃ知らん』と言いたげだね。ま、仕方ないか。今回ばかりは完全に僕のわがままで危険を招き入れようとしているわけだし、僕ひとりで考えるとしますか。」
なんだかえらく神妙なことを言う。そして顎に手を当て熟考する。
「う~~~~ん。」
まだ考える。
「う~~~~~~~~ん。」
まだまだ考える。
「う~~~~~~~~~~~~~~~ん。」
それでもなお考える。
そしてついにルインの頭上に豆電球が浮かび、ポンと手のひらを打った。
「よし、白くて小さいから『ホワイトうさぎ』で決定!」
「ちょっと待てぃ。」
思わず無関心を装っていた面々が即座にツッコミを入れた。
「なんだその、もはや名前と形容することもできない名前は?」
「平仮名とカタカナ混同している段階でネーミングセンスを疑うというレベルをはるかに凌駕しています。」
「ルイン、それはこれからこの人が今の名前で呼び続けることを想像したら、とてもじゃないけど耐えられないと思うんだけど。」
己のネーミングセンスに総スカンを受けたルインだが、拗ねたように口をタコにしてぼやいた。
「でもさ、僕にネーミングセンスなんて求めるだけ無駄だし。そこまで言うならもう少しまともな名前なんてあるの?」
「そりゃたくさんあるに決まってるさ。 例えば・・・・
・・・・・
・・・・・!!?」
ここで一同我に返った。
(こいつ、まさか!?)
(ボクたちを全員嵌めた!?)
そして見たルインの口元がニィッと上がっていた。
そんなわけで、一部のお人好し組は、この暗殺者の名前を考えることにした。(残りの面々は、ルインの頭から下を地面に埋める作業に没頭していた。)
「・・・しかし、改めて人の名前を考えるとなると、そうそう思い浮かばないものだね。」
レックが眉間に指を当てつつ悩む。
「ほら、僕の言ったとおりでしょ?」
「生首さんは黙っていてください。そもそも、一個人の名前を今ここで僕たちが決めるということ自体非常識なんですから。」
「でもさ、名前なかったら呼びにく・・・」
「生首は黙ってて。まあ、名前がなかったらなんて呼べばいいかわかんないものね。」
「皆してヒドイや・・・」
こぼした涙を拭うこともできぬまま、ルインが涙をこぼしているのを、全員総スカンでやり過ごし、少しの時間が経った。
「・・・フォーゲット。」
と、ハルカがポツリとつぶやいた。
「名前を覚えてらっしゃらないということで、フォーゲットというお名前はどうでしょうか?」
恐らく、この男は名前を忘れているのではなく、隠しているか、本当に名前を持っていないかのどちらかなのだろうが、この際細かいことは気にしない。
「フォーゲットか。うん、いいかもしれないね。」
「そうですね。ですが、それだと少し言いにくいので、少し省略して、フォートという名前でどうでしょうか?」
「おぉ、いいかも。フォート。フォートね。うん、なんかしっくりくる。」
「皆さんはどうですか?」
「うん、いいんじゃないか?」
「なんだろうが構わねぇよ。」
「僕もい」
「これで全員賛成ですね。ではフォートで決定ということでよろしいですか?」
残りの二人も賛成したところで、ツェリライは目の前の男、フォートにそう尋ねた。すると
「お前たちは、一体何を考えている?」
と、反対に尋ね返された。
「何を考えていると聞かれてもね。答えるのが難しいんだけど・・・。一言で言えば、あそこで地面に埋まっているのが家に連れて行くといった以上、ボクたちが反対しようとも強引に連れて行ってしまうんだよ。」
「そうそう、そのおかげで治安部隊に喧嘩を売るようなこともしちゃってるしねぇ。あたしたち。」
「いやぁ、あの時はスリル満点だったよね。」
「・・・それ以上何か言ったら顔も埋めるわよ?」
「やめてください窒息してしまいます。」
今まさに己を手にかけようとしていた危険人物を、表情を変えなかったのがつまらないからという理由で仲間に引き込もうとしている男。
それをある程度の諦観が混じっているとは言え、受け入れている仲間。
そんな集団から、フォートという名を強引に付けられた男は、不可解の海に沈む他なかった。
「わからねぇってツラしてやがるな。」
いつの間にかすぐ横に来ていたグロウが話しかける。
「あの野郎は、自分がこうしてぇ納得いかねぇことがあれば、相手がなんであろうと牙をむく。そういう奴だ。動機を考えるだけ無駄だぞ。」
荒っぽい言い方だが、その顔は面白そうにしている。
「ま、そういうわけだ。てめぇも諦めて腹くくれ。てめぇがまた殺りに来るなら殺り返すまでだ。それに、てめぇらデリーターとやらにも興味がある。」
そう、言いたいことだけを一方的に言い立ててグロウは歩いて行った。
無表情の内に隠された混乱の中、フォートは過去を思い返していた。
今まで己がその手にかけてきた人物は、そのほとんどが腰を抜かし、怯えながら死んでいった。
中には瀕死状態になってもなお立ち向かってくる者。今まさに死の瀬戸際に立っているというのに、愉悦に浸り、笑いながら襲いかかってきた狂人もいた。
だが・・・彼らのような対応をしてきたものなど一人もいない。
己が負けたとき、同時に死を認識した。それが当然のはずだった。
なのにいま自分は殺されていない。それどころか、相手は自分の家に来ることを強制し、周りも結局のところは賛成している。
フォートには、彼らの神経を、まるで理解することができなかった。
しかし、己は彼らに敗北した。そうなった以上は、反目出来る権利はない。
己に残された道は、付き従うことのみ。
たとえその先に、己が身体を己の血で汚す未来が待っていたとしても。
皆さん、こんにちはおはようございますそしてこんばんは。
今回は謎の暗殺者、フォートの登場なわけですが・・・
なんか今更あとがきで書くようなことないなあ(笑)。
容姿や風貌については本編でだいぶ詳しく書いたような気がするし、七人がかりでようやく倒したというところから強さもわかっていただけたと思いますし・・・。
あ、でも、フォートの戦闘術は、完全に対人特化型ですね。なので今回のような戦闘では無類の強さを持ちますが、前話に出てきたようなでかい怪物のようなものと対峙するとかなり厳しいです。
フォート自身、そこまで大きな孔を持っているわけでもないですし。
武器は双銃。ただし銃拳術の使い手なので、銃はかなり大きいサイズです。
あと、血に染まっているはずなのに常時真っ白なフォートのコートは、某青だ・・・猫型ロボットのポケット並みに色々と秘密が詰まっています。
そのことやデリーターの正体についてはまた後の話で頑張って書こうと思います。
それでは、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。
M( __ __ )m