4 あたしの力
ACT ARME第4話です。
本当は一月中に投稿したかったけど、試験とかネトゲとかネトゲとかネトゲが忙しくて間に合いませんでした。(´・ω・`)
なお、今回の話は残酷な描写が含まれています。お読みの際はご注意ください。
「いや~、ないわー。なんであそこで部屋が水浸しになって、それで戦闘が始まるわけ?訳がわからないわよ。」
「そ、それは、大切なものをビショビショにされて怒っちゃったからじゃないかな?」
「だからって、それで戦って部屋滅茶苦茶にしちゃ意味ないじゃん。」
「あ、アコちゃん。映画館の前で今見た映画の感想大声で言っちゃったら、今から見ようって人たちに聞かれちゃうよ。」
ここはキブの映画館。アコはどうやら今見てきた映画の出来にご立腹のご様子である。
それを宥めているのは、ルイン。ではなく、アコの友達であるフィーナ。能動的で、言いたいことをずかずか言うタイプのアコに対して、フィーナは割かし大人しめの、周りの気遣いを忘れない優しいタイプである。
ぶっちゃけ、作者的にはアコよりもフィーナの方がヒロインに向いていると思っている。
それからしばらくアコの愚痴は続き、それをフィーナは苦笑しながらも聞き続けた。
その後話題が徐々に逸れ、食べ物だ買い物だと、女の子特有のダベリングが始まり、画になる光景を振りまきながら、二人町道を仲良く歩いていた時だった。
「よお、そこのオンナのコ達。オレたちと一緒に遊ばねー?」
いかにもオツムがすっからかんですと言わんばかりの見た目と言動の男連中が絡んできた。
アコは無視を決め込み、怯えるフィーナを引き連れ、早々に立ち去ろうとした。
だが、肩を掴まれ止められる。
「ちょっと、そんなに冷たくすることないんじゃねー?」
「オレたち、結構キミたちを楽しませてあげることできると思うよ?」
しつこいヤンキーどもに対して、アコはウザったいからあっち行けと言わんばかりの視線を向けた。
「あんた達みたいなのと遊んだら、頭パープリンになるわよ。あっち行って。」
そのぞんざいな扱いに頭にきたのだろう。強引に肩を引っ張ってきた。
「痛っ、何すんのよ!」
「ちょっとつけあがりすぎじゃねーの?こっち来いや。」
「あ、アコちゃん・・・」
そのままアコとフィーナは、路地裏へと連れ込まれた。
「い~や~、いい天気だね~。とても梅雨だとは思えない天気だよ。」
その手にコーヒーカップを持ち、縁側(この家、庭までついているのだ)に腰掛け、まったり午後を満喫中のルインである。
それに対し、この家のもう一人の住人は・・・
「うん、いい天気だね。穏やかだよ。」
あれ?珍しくレックものんびりとしている。これは、明日は確実に雨だな。
「でも17歳にしては大分年寄り臭い言葉じゃない?」
「何、いいんだよ~。便宜上17って言ってるだけで、ほんとは自分の年齢知らないからさ~。」
ルイン本人は軽く言ったつもりだったが、レックはルインの過去の記憶がないことを聞いているため、少しシュンとしてしまう。
「あ・・・ごめん。」
「これこれ、何を気にしておるのかね。わしゃあちぃーとも気にしとらんがや。主も気にすることはありゃせん。」
わざとらしい爺さん言葉はフォローのつもりなのか。そう受け取ったレックも笑ってつっこんだ。
「何時代の人のセリフだよそれ。でもさ、不思議な気持ちにならないの?自分の過去の記憶がないって。」
もし自分がルインの立場に立っていたら、自分の過去に大きな空白が空いていたとしたら。
多分、自分ならずっと気にかけ続けるだろう。もしかすると、記憶を失うような大きな事件に巻き込まれた可能性もある。そういうことを考え出すと怯えさえくるかもしれない。
だが当の本人は・・・
「そう?」
こんな感じである。
自分の過去にびっくりするほど無頓着なルインに、レックは思わずずっこけてしまう。レックとルインは、つくづく精神構造が違うようである。
「そう?って・・・。まあルインのそういうところは、凄いと思うけどね。」
「そうかな?」
「うん。ボクだったらそんな風にはなれないよ。」
急に褒められ、ルインは戸惑ってしまう。
「別に、なんか心掛けてることとはないけどさ。なんなら伝授してあげようか?」
「いえ結構です。そもそも、どうやって伝授するのさ?」
「為せば成る。まあ、記憶がないからって生活に不自由はしないし、知る機会があれば知ってみたいけど、別にいいかなってかんじかな。むしろアコちゃんみたいに、記憶があるからこそ苦悩することだってあるし。」
「アコの過去?」
うっかり口を滑らしたルインは、一瞬ハッとしたが、レックに気づかれないほど小さくニヤッとすると、話しだした。
「レックもそろそろ気づいているけどさ、アコちゃんって結構な才能の持ち主なんだよね。」
レックは、その言葉に同意する。まず、相手がこちらに剥き出しの敵意を向けてきても全く動じない。普通なら怯えて陰に隠れたっておかしくはない。
だがアコは怯えるどころか逆に喰って掛かることさえある。ただ、喰って掛かるだけかかって、あとはこちらに丸投げしてくるから困るのだが。
だが、こちらの手が及ばず、アコに攻撃が飛んでいったときは、攻撃を100%確実に防いでいる。
それに何より、時折アコの中から感じる莫大な孔である。この話の初めに書いたように、孔というのは、どんなに激しい修行をしたところで、精度は上がるが、その絶対量を増やすことは絶対にできない。
それは、その人が生まれた時に決定され、決して変わることがないのだ。
ただ、火事場の馬鹿力よろしく、窮地に立たされたりすると爆発的な力が出るのも事実であり、その辺の曖昧なところが、果たして孔とは一体なんなのだという謎につながっているわけだが。
話がそれた。とにかく、アコは生まれ持った大きな素質があるのだ。
「確かにそうだね。でも、だとしたらどうしてアコはあんなに孔を使うことを拒むんだろう?」
普通、あれだけの孔の持ち主なら、用心棒や研究者、は無理か。まあとにかく、引く手数多なのだ。
しかしアコは、ごくごく普通な生活を送っている。そういう生活が好きだという理由でも理解できるが、戦闘に巻き込まれた時などは、明らかに孔を使うことを拒否しているフシがある。
そんなレックの疑問に、ルインはわかりやすく答えてくれた。
「アコちゃんは・・・」
「ちょぉーっと調子に乗りすぎちゃったね。可愛いアマちゃん達よ。兄ちゃん達舐めちゃったら痛い目みるってことを、少し教えてあげないとな。」
下劣な言葉をあとに、アコに手を伸ばすヤンキー共。後ろでヒャッ!?と小さな悲鳴が聞こえる。どうやらフィーナも危ない状態にあるようだ。
「まったく。」
アコが呟いた瞬間、アコの目の前にいたヤンキー連中が大きく吹っ飛ばされた。
暴音と共に倒れた仲間を見て、フィーナに手を出そうとしていた残りのヤンキーが固まる。
アコはそのままつかつかと歩み寄り、ヤンキーの頭に手を置く。そして同じように吹き飛ばした。
「大丈夫?フィーナ。」
「う、うん。大丈夫だよ。アコちゃんは?」
「あたしはへーき。こんなことでやられちゃうようなやわなアコさんじゃないわよ。」
と、なんでもないことをアピールするが、フィーナの心配はそういうことではないようだ。
「でも、アコちゃん・・・」
フィーナが何か言う前に指を詰める。
「あたしがいいって言ってるんだからいいの。そんなに気にされると、かえって気まずくなっちゃうわよ。」
そう言って笑いかけると、ようやくフィーナも笑ってくれた。
「じゃ、行こっか。」
「え・・・この人たちは?」
「さぁ?ほっとけばいつか起きるでしょ。それより早くしないとケーキバイキング遅れるわよ?」
「あ、待って。ケーキバイキングは今日一日中あるから大丈夫だよ。」
今の一件も、絡まれた段階で孔を使って最初に脅しておけば、路地裏に連れ込まれることはなかったかもしれない。
それをしなかったのは、アコが戦いを好まないということもあるが、一番の理由は。
「・・・自分の力を憎んでいるんだよ。」
アコは、何やら複雑な幼少期を送っていそうなレックや、過去そのものを知らないルインと違い、周りと比べやんちゃ、もといおてんばなごくごく普通の少女だった。
ただ一つ、大きく違うところは、アコはほかの人と比べ、尋常でない程の孔の持ち主であったこと。
それは別に、アコの先祖に伝説を残すような孔の使い手がいたわけでも、アコに絶望を味あわせぬため、誰かが何度も同じ時間を繰り返した結果、因果が束ねられたわけでもない。
ただ単に、そういう体質だったのだ。
強すぎる孔を持つ者は、時として争いやその他よからぬ事件に巻き込まれるケースがある。アコの両親も、自分の子供がそういった運命を辿ってしまうのではないかと、やはり戸惑ったようだ。
だから両親は、アコに必要以上に孔を使ったりしないよう言い含めていた。
アコは、幼い時には両親の忠告の意味が分からず、それでも言いつけは守っていた。
だがある日のこと、アコは友達と些細なことで喧嘩し、その時に少しだけ、本当に少しだけ孔を使った。
その後すぐに救急車が呼ばれ、あたりは騒然となった。
幸い、ただの打撲で、何日か経てばまた直ぐに元気に動き回れるようになったが、この一件は、アコに大きな衝撃を与えた。同時に幼心に悟った。
自分には、簡単に人を傷つけることができる力があるのだと。そして怯えた。もしかすると自分は人殺しになってしまうのではないかと。
アコがそのまま自分自身に恐怖し、塞ぎ込むことがなかったのは、両親のおかげだった。アコの両親は、事故が起きてからずっとアコのそばに居続けた。そしてずっと囁き、教え続けた。
「アコ、あなたはとても優しい子ね。お母さんもお父さんも嬉しいよ」と。
「アコはきっと、とても優しい魔法使いになれるよ。だから、きちんと魔法を覚えられるまで、お父さんたちと練習しよう」と。
この言葉が救いとなり、立ち直ることができたアコは、今度こそ他人に力を使わないことを心に誓った。
それと同時に、家で孔を制御する練習を始め、両親に対してはその成果を逐一見せた。
何か一つ出来ることが増えるたびに見せてくれる親の笑顔が、アコ何より嬉しかった。
あの喧嘩の日により、アコから遠ざかっていった友達も、長い日々を費やしたが、次第にまた一緒に遊ぶようになった。
そして数年が経ち、アコも成長した頃だった。
アコがいつもの如く友達と遊び、その帰り道。
「君、ちょっといいかな。」
後ろから声をかけるのが聞こえ、振り向くと、もうすぐ大人の仲間入りをしそうな、柔和な顔をした男が立っていた。
いきなり見知らぬ人間に話しかけられ、警戒するアコに、男は優しく問いかけてきた。
「君は、魔法使いになりたいのかい?」
そんな質問をされ、アコは頷く。
そしたら今度はこんなことを言われた。
「じゃあ、私が君を魔法使いにしてあげますよ。」
この言葉に驚いた。
「ほんと?」
「ええ、本当です。あなたはきっと、どんなことでもできる魔法使いになれますよ。」
笑顔でそう返され、アコも嬉しくなる。
きっと、この人について行けば、皆を幸せにできる魔法使いになれる。それは、アコが心から望み、そしてあの日からずっと夢見続けてきた願いだった。
でも・・・
「ごめんなさい。お父さんとお母さんに話さないといけないの。」
「そうなんですか?」
「うん、あたしが一番自分の力で幸せにしてあげたいのは、お父さんとお母さんだから。」
そのアコの言葉に、男は少し考え込み、なら私もあなたの両親と話をさせて欲しいと申し出た。
それを了承したアコは、男を家に連れ帰った。
両親は、アコが連れてきた男を見て訝しげな表情を向け、来訪した理由を聞かされると、さらにその色を濃くしたが、折り目正しい男の態度に、とりあえず部屋に通した。
アコはというと、そんな両親の様子には気づかず、もしかすると自分の願いがもうすぐ叶うのかもしれないと、胸を弾ませつつ、自室に入った。
そしてうたた寝していた時、リビングから母親の悲鳴、父親の怒号と、激しい騒音が耳に飛び込んできた。
「お父さん!?お母さん!?」
慌ててリビングに戻るアコ。そして、彼女が目にした光景は。
真っ朱だった。テーブルも、床も、カーペットも、お母さんがどうしても気に入ってしまったので、高い値段に目を瞑り、無理やり買ってしまったソファも。すべてが朱に染まっていた。
ただ、一番朱く染まっていたのは、アコが一番に幸せにしてあげたいと思っていた両親と、その体に突き刺した刃を引き抜いた男の手だった。
「お父・・・さん?」
自分でも驚くほどか細い声が出た。でも、例え耳をつんざくほどの大声で叫んだとしても、父親から声が返ってくることはない。
「お、母・・・さん・・・・・・・。」
今度は震える声が出た。だが、その恐怖を和らげてくれる母親は、一寸たりとも動かない。
体が震える、声が出ない。助けてくれる人は、いない。
男がこちらを振り向いた。会った時と全く変わらないはずの笑顔を貼り付けて。
「おや、見られてしまいましたか。すみません。少し過激だったかもしれませんね。」
会った時と、何一つ変わらないはずの声で話してきた。
「あなたの両親に、どうしてもあなたを連れて行ってはダメだと、頑としてこちらのお願いを受けてくれなかったので、つい実力行使に出てしまいました。」
そして、ゆっくりと一歩ずつ、アコに向かって歩み寄ってきた。
「でも結果としては問題ないでしょう。これであなたは何の気兼ねもなく魔法使いになれる。」
魔法、使い?
「さあ、あなたの願いを一緒に叶えましょう。」
これが、あたしの願い?
あたしの願いのために、お父さんとお母さんは・・・?
男は、あと数歩先のところにいる。
いや、来ないで。
いや・・・・・・・・・いや・・・・・・・・・!
「いやぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁああああああ!!!!!!!」
その絶叫は、近隣の家にまではっきりと届いたという。だが直後、その絶叫が虫の羽音と同列に語れてしまうほどの爆音が響いた。
住民からの通報により、すぐさま治安部隊が駆けつけた。
そこに広がる光景は、残骸だけだった。
数分前まで人が住んでいたとは、いや、これがかつて家だったということすら判断できないほどの残骸。
その中からアコの両親の亡骸が発見された。
だが、アコと、この残骸を生み出した男の姿はどこにもなかった。
いや・・・・いやだ。
怖い・・・・・怖い・・・・怖いよ。
闇夜の中、アコは逃げ続けた。あの男から、自分の願いとそのための力から。
あたしのお父さんとお母さんを殺した力から。
逃げて、逃げて、ただひたすら逃げ続けて、やがて力尽きた。石につまずいて転んだアコは、そのまま動くことをやめた。
その後、倒れているアコを、ルインが居候していたアパートの大家さんが発見、保護した。
目覚めてすぐのアコは混乱していて、うつろに何か呟いていただけであった。
そんなアコに大家さんは何も言わずテーブルに座らせ、ココアを差し出した。
その温かさにホッとしたからか、アコは残らず飲み干すと同時に泣きだした。
あまりにも突然泣き出したため、驚いたルインが傍によると、ルインに縋りついて泣いた。泣きながら叫んだ。
「あたし・・・・あたしね・・・・・お母さんとお父さんを・・・・・殺しちゃったの・・・・・あたしが・・・・・・あたしが力を持ってたから・・・・・・・殺されちゃったの!!」
後は言葉にならず、ずっとわあわあと泣き続けた。
泣き疲れ、そのまま眠ってしまったアコを布団に寝かしつけた大家さんは、アコの身元を捜し、先ほどの悲痛な叫びが本当であったことを確かめると、アコを引き取ることを考えた。
しかし翌日、アコは目覚めると洗いざらい今まで何があったかを話し、一人暮らしをすると言い出した。
驚いた大家さんが止めようとしたが、アコは頑として譲らず、家で家事手伝いをしていたから生活は一人でできるといい切り、根負けした大家さんに不動産などと手続きをしてもらい、以後そのまま一人暮らしを続けている。
以前ルインが、なぜアパートに居候をしなかったのかと尋ねると、アコはこう答えたという。
「お父さんとお母さんを殺したのはあの男だけど、あの男がやってきて、それを家に入れたのはあたしなの。だから一人暮らしをしようと思ったし、もう力を使おうとも思わないの。」
その言葉に込められていたのはやはり自責なのだろう。もしかするとアコは、本当は一切人との関わりを断とうと思っていたのかもしれない。だが現状そうなっていないのは、やはり人恋しく、寂しかったからかもしれない。
「これがアコちゃんが力を使わない理由だよ。ぱっと見天真爛漫娘に見えるけど、大変な人生背負ってたりするんだよね。
・・・・・・・・って、おーい?聞こえてる?」
さっきから下を俯き動かないレックに呼び掛ける。その声にハッとしたレックは、ようやく気がついたようだ。あわてて返事する。
「う、うん!聞こえてるよ。」
だがそう言ったきり、また俯いた。
そんなんだから、ルインが気配を消してすぐ傍まで近づいたことに気づかない。
「わ゛ああああああああぁぁっ!!!!!!!」
ルインは、レックの耳元ですさまじい絶叫を上げた。
「わ゛ああああああああぁぁっ!!!!???」
レックは椅子から転げ落ちた。
「な、なな、何すんのさ!!?」
憤慨するレックに、ルインは一切の反省の色なく、むしろ胸を張ってこう答えた。
「そこに隙だらけのレックがいたから!」
マンガだったら間違いなく後ろに「ドンッ!」と効果音の文字が書かれているだろう。それほどまでに堂々とした宣言だった。
そんなルインに、レックはもうどこを突っ込めばいいのか分からず、ただ黙って椅子に座った。
だが、それでも気にかかることがあったので尋ねた。
「今の話、してよかったの?アコがルインに自分の過去を話したのは、やっぱり事件のすぐ後で気が動転してたからで、本当は誰にも話したくないことなのじゃないかな?」
真剣に聞くレックに対して、こちらはさして気にしていないようだ。
「ん~、どうなんだろうね?でもアコちゃんはだれにも話すなとは言わなかったけど。」
「いや、でも誰にも知られたくなかったかもしれないじゃないか!?」
声を荒げるレックだが、ルインは依然としてそこまで気にしている感じはしない。
「まあ、そうかも知れないけど、そうじゃないかも知れない。僕が自分の過去を知らない事に頓着しないように、アコちゃんも周りが思うほど気にしてないかもしれない。アコちゃんって、吹っ切るの得意だし。」
「でもっ・・・」
レックが皆まで言う前にルインが遮り、必殺の一言を放つ。
「ま、もしアコちゃんが気にしていて、レックに話したことを怒ったとしたら、話した僕と聞いたレックの共犯だね!」
必殺口撃、暴論。
直後レックの腕が激しく唸ったという。
バン!と激しくドアが開けられる。
そこに立っていたのは、ツェリライだった。
「お、ツェルどした?そんなに慌てて。」
いつもの様子とは明らかに違うツェリライを前に、陥没した顔で呑気に尋ねるルインだったが、そんなことは眼中にないとばかりに要件を切り出した。
「ルインさん、レックさん。直ちに出発する準備を整えてください。」
その目が険しい。そこで何やら異常事態が起こっているということを察したふたりも真剣に聞く。
「何があったのさ?」
「アコさんとその友人のフィーナさんが、何者かの手により誘拐されました。」
「・・・はぁ!?」
突然のことに驚く。
「誘拐って、だれに!?」
「わかりません。誘拐した動機も不明です。ただ・・・・」
ツェリライが続けようとした言葉をルインが引き取る。
「予測はできるか。」
「なんで誘拐されたのか、わかるの?」
「まぁ、予測だけどね。一つは、アコちゃんを餌に、僕ら、というか僕か、をおびき寄せるため。そんなことする理由は聞く必要ないよね?」
「あぁ・・・・、うん。」
事務所の設立からこの話になるまでに、ARO(ルイン所長の事務所の略称)にそこそこ依頼が入るようになった。
そしてその依頼遂行率100%という華々しい成績を上げている。
が、その華麗な経歴の下に、累々たる犠牲者の山が連なっているのだ。
あくまで犠牲者であって死人ではない。だがルインのターゲットになった者は軒並みなぎ倒されている。
なし崩しにルインの助手ということになっているレックは、その全てを目にしているので、狙われる理由はよくわかっている。
「そしてもう一つは、アコちゃん自身が狙われた、か。今までのストーリーの流れからして、十中八九後者だろうね。ツェル、アコちゃんの居場所は?」
「今トラッキング(ツェリライの発明品、登録した人物の追跡が行える)に追跡させています。僕たちも向かいましょう。」
「わかった。あとグロウも呼んどこうか。行こう!」
ルインは携帯を取り出し、一行は外へ飛び出した。
「ちょっと乱暴しないでよ!もう少し丁寧に扱いなさい!!」
縛られ、数人の男たちに引っ立てられているアコが吠える。フィーナは怯えて、声が出ないようだ。
二人は、ケーキバイキングの帰り道に突然囲まれ、抵抗する間もなく廃工場のような場所に連れ込まれた。
「可愛げのない女だな。少しはそっちのように大人しくしたらどうだ?」
奥から声が聞こえる。そして姿を現したのは、グロウと同じぐらい恰幅がいいブ男だった。
「大人しくこちらに従えば、無駄に傷つけることはしない。」
「お決まりのセリフ言ってないで、名前ぐらい教えなさいよブ男。」
アコのブ男発言に、眉を動かしながらも名乗る。
「我が名はグローム。我が計画の遂行のために、貴様の力を利用させてもらう。」
「計画って何よ?」
「この町を手中に収める。それだけだ。」
「・・・それってつまり、キブを乗っ取ってやろうってこと?」
「そうだ。」
「あんた、バカじゃない?そんな事できるわけないじゃない。」
「大人しくしていれば傷つけることはしない。そういったはずだ。」
後ろで撃鉄を鳴らす音と、小さな悲鳴が聞こえる。
「・・・・それで、あたしを利用するって言ったけど、何をするつもりなのよ?」
歯ぎしりしながらアコが問う。それに対して、グロームは単純明快な答えをよこした。
「難しい話ではない。お前が我が組織に入る。それだけでいい。さすれば、後ろの娘は解放しよう。」
その言葉にアコは後ろを振り返る。そこに怯えて目から涙が溢れているフィーナがいた。
その眼を真っすぐ見つめあう。そして互いの気持ちを確かめあい、結論を出した。
「悪いけどあたし、自分の力はめったに使わないって決めてるの。あんたみたいに胡散臭い奴にならさらによ。」
この返答にグロームは、今度は眉一つ動かさずに指示を出した。
「つまりはNOということか。 ならばよろしい。やれ。」
ドンッ!
ルイン、レック、ツェリライ、そして合流したグロウは、バスを乗り継ぎ、その後は全速力で走ってアコたちが捕えられている場所へと向かう。
「ったく、あいつらしくねぇ。むざむざ敵に捕まるたぁな。」
「仕方ないよ。多分さきにフィーナちゃんが人質にとられたんだろうし、アコちゃんは自分の力で敵を倒すことをよしとしてないからね。」
過去の悲劇を招いたのは自分の力。にその思いがトラウマとなって胸に刻みつけられているアコは、たとえ相手が敵であったとしても、力を使うことを躊躇うだろう。
今度はふらふらしている不良集団を吹っ飛ばすのとはわけが違う。全力で相手を倒しに行かなければこちらがやられる、戦闘なのだ。
「急がないと!アコがもし力を無理やり使わされることになんてなったりしたら・・・。」
その先は考えたくない。そしてそれを現実にさせるわけにはいかない。何としてでも。
ことさらレックは、強くそう思っていた。
「間に合ってくれ・・・!」
「フィーナ!!!」
「ガッ・・・あ゛ぁっ・・・・!」
フィーナがその場で崩れ落ちる。グロームは冷ややかな目でそれを見下ろしている。
「たかが銃身で腹を突いただけだ。喚くほどのことではない。」
「あんたねぇ!」
怒るアコを歯牙にもかけず、グロームは再び聞いてきた。
「もう一度だけ聞こう。我が組織に入れ。次は引き金を引く。」
「・・・・・・・ッ!」
追いつめられる。こうなったら背に腹は代えられない。一旦大人しく従うほかない。
「・・・・わかったわ。あんたの言うこと聞いてればいいんでしょ。そうしてあげるわよ。」
「よろしい。ならばついてこい。」
「ちょっと待ってよ。」
「心配せずとも、その娘はすでに解放している。」
確かに、フィーナの傍にはもう誰もいない。
「アコ・・・ちゃん・・・。」
倒れた状態のまま、それでも親友を案じてくれるその眼に、アコは明るく笑いかける。
「大丈夫だって。フィーナは先に帰ってて。あたしも後で帰るからさ。」
そしてアコは、部屋の奥まで連れて行かれる。そこに、奇妙な機械があった。
「座れ」
そう命令されると同時に、強引に椅子に座らされた。そのまま椅子に拘束される。そして頭に奇妙な機械とつながっているヘルメットの様なものを被せられた。
機械には疎いアコでも、これがなんなのかは想像できた。
これは、洗脳装置・・・?
ちょ、ちょっと待ってよ!こんなの聞いてないって!!
抵抗しようとするがもう遅い。ブ男の指示で、装置のスイッチに手がかかった。
「アコちゃん!」
フィーナの悲鳴が高く上がった。
ドガンッ!!!と一際でかい爆音が鳴り響き、閉ざされていた扉、の横の壁に大穴があいた。
「なんで扉じゃなくてわざわざ壁を壊すのさ?」
「わかってないなあレックは。普通救世主は壁を壊して登場するものなんだよ。」
「んなセオリー無えけどな。てか、やるなら自分でやれよ。」
命令されて壁破壊をやらされたグロウのぼやきに、貸す耳など持っているはずもないルインがかっこよく(と自分ではそう思っているという意味で)キメる。
「待たせたな!」
「待ったわよ!!あと何秒か遅かったらアウトだったじゃない!!!」
本当は待望の眼差しで名前を呼ばれることを期待していたルインだが、そうならないことは予測済みだったので気にしない。
「何者だ?貴様等は。」
自分の計画に水を差され、不機嫌そうにグロームが聞く。
「普通、名乗る時はまず自分からというのがマナーだと思うんだけどね。グロームさん?」
「何故我の名を知っている?」
と、視界の下隅に何かが走っていくのが見えた。ツェリライがそれを拾い、懐にしまった。そしてグロームににやりと笑いかけた。
「まあ、そういうことです。」
「ほう、なかなかの発明品だな。この場にいる誰にも一切感づかれることなく、追跡を行えるとは。」
グロームが感心したのに気を良くし、ツェリライがそのまま説明を長々を始めようとするのを感知したルインが強制的に止める。
「それで?今のから大体の話は聞いてたけど、動機を聞かせてもらってもいいかな?」
「腐敗し、堕落しきったこの町の再興。私が望むべくは、ただその一つだ。」
しばしの沈黙。取り敢えずルインが口火を切る。
「えーっと?それはつまり、キブを俺が乗っ取って、よりいい町にしてやろうということでいいのかな?」
「そうだ。」
「うん、まあ動機はわかったけどさ。別にどうこうしなきゃならないような町だっけ?キブって。」
このルインの言葉に、グロームは嘲笑した。
「今のが何よりの証拠だ。この町の住人は、今の状況さえまともな把握ができておらず、日々安穏と惰眠を貪り続けている。このまま行けば町の衰退は目に見えている。ならばこの私がこの町を変え、衰退を進化へと変えて見せようというのだ。」
確かに、この男の言うことにも一理ある。キブは、イーセに存在する5つの国の一つ、ラトリアの中に存在する町なのだが、そのラトリアの中で一番といっていいほど発達しているものがない。農業も工業も商業も、どれをとっても中の下。唯一あげるとするなら、キブは良い資源が地中に眠っているので、鉱業が発達していると言えばしているが、その他の町と比べるとやはり秀でているとは言い難い。
だからその鉱業を発展させて町を進化させることはできる。町の今後を考えればそれが良策である。
だが・・・
「どう見ても自己陶酔の狂信バカの犯行です。大変良くわかりました。」
ルインの反撃に、グロームは眉をしかめる。だがルインの快進撃はここから始まるのだ。
「自己陶酔の狂信バカだと?」
「そう。まさしく( ゜,_ゝ゜)バカジャネーノ?ってやつだよ。なんか偉そうにこの町の行く末語ってくれちゃってたけど、誰か一人でもキブを生まれ変わらせてくれーって頼んできたの?」
「そんな要求は必要ない。現状を見れば明らかな・・・」
グロームが皆まで言う前に、ルインが口を挟む。
「そうやって自分の物差しで万物を測って、自分が救わなきゃーって溺れる独善偽善酔狂者って本当にメンドくさいよね。ありがたくもないありがた迷惑押し付けられて、いったい誰が喜ぶんだよ?少し頭冷やして視野広げる練習したほうがいいよ、ほんと。」
「・・・・・・・・・」
「そのくせ、その自分のご大層な正義を少しでも貶されると、逆上して暴れるから始末に負えない。結局のところは自分が正しくないといけない困ったちゃんだということに自覚すらない。キブをどうこうしようと言う前に、まず自分をどうにかしないということなんか頭の片隅にもない。まさに独りよがりな正義漢。それで誰が得するとか知ったこっちゃない。ただ自分の目的果たして満足すればそれで終わりってね。」
既にルインの独壇場と化しているが、まだルインの口は止まろうとしない。
「大体、洗脳装置使わないと部下も従えないほどの器の小ささなのに、平和ボケしてるとは言え一つの町を落とそうとするというのにも笑っちゃうよね。データはあくまで情報で、それで人を動かすことはできないってことすら知らないんじゃないの?」
「・・・・・・~~~ッ!」
「一度、人徳というものを勉強し直したらどうかな?」
ここまであからさまに卑下されて、逆上しないものはいない。相手がグロームのような自分至上主義者なら、なおさらだ。
「貴様は一度、死の制裁を与えるべきだな・・・・!」
「ほーら怒った。ほんとわかりやすいよ。 !!」
ルインが言葉を続ける前に、気配が変わった。咄嗟にルインたちが飛び退いた瞬間、そこから極太の蔦が生えてきた。
「っと!危ない危ない。なかなか鋭い不意打ちじゃん。危うく捕まりそうだったよ。」
言う割には余裕が垣間見えるルインに、グロームも対抗して不敵な笑みを見せる。
「虚勢を振りまいている場合か?こちらには強硬手段もとるという選択もあるのだぞ?」
「強硬手段?なんのこと?」
ルインが訳がわからないとばかりに聞き返すので、グロームがこいつバカだとばかりに鼻で笑い、手を挙げた。
「やれ。」
しかし、何も起こらなかった。
驚いたグロームが後ろを振り返る。そこには洗脳装置に拘束されていたはずのアコがいない。さらに視線を右に向けると、見せかけでは開放していたが、いざとなれば捨て駒として利用しようと考えていたフィーナの姿もない。
「何だと?」
「あなたの探し人なら、ここにいますよ。」
上から聞こえたその声につられ見上げると、部屋の壁沿いについている、二階に当たる通路に、アコとフィーナ、そしてツェリライとレックの姿があった。
「あなたがルインさんとのダベリングに夢中になっている際に、せっかくなので救出させてもらいました。貴方のそばにいる衛兵さんたちも、全くの無関心でしたしね。」
と、いかにも余裕しゃくしゃくでしたとばかりにこちらを見下ろすツェリライに、グロームが歯ぎしりする。
「ねぇねぇ、も一回聞いていい?強硬手段って何のこと(笑)?」
そこにルインが追い打ちをかける。
「貴様ら・・・!!!!!」
散々バカにし続け、さすがに満足なのか、ルインの目が本気に変わった。
「さぁて、そろそろ前座も頃合いに、始めようかね。」
「貴様ら全員地獄の責苦へと堕としてくれよう・・・!」
戦いは、なんとグロームのほうが優勢だった。周りの洗脳された兵士たちはいともたやすく倒せたのだが、親玉であるグロームが手ごわい。
グロームは木のアトリビューターだったからだ。
最初にやったように、地面から蔦を生やし拘束。腕に仕込んだ専用のカートリッジから蔦を生やし、まるで腕を蔦そのものに変えたかのように操り、圧殺・撲殺を図る。本人直接の攻撃に加え、下からの不意打ちにも同時に対応しなければならない戦いに苦戦を強いられる。
また、蔦があまりにも太く強靭なため、ルインでも斬るのは簡単ではない。得物が打撃系のハンマーであるグロウは弾くので手いっぱいだ。唯一、炎を操れるレックがなんとか近づこうとするが、グロームは驚くべき反応の良さで対応してくる。
一対三という、通常なら絶対不利の状況で、グロームは完璧に応戦していた。
「やれやれ、見た目よりやるね。」
「我を愚弄したこと、少しは後悔できたか?」
「だーかーら、人間はそんなに単純じゃないっての。苦戦程度いくらも経験してるから。」
減らず口をたたけるところをみると、まだ余裕はあるようだ。だが、このままだとジリ貧になる可能性が高い。早いとこ打開策を見つける必要があった。
ガッ!と激しい音がなり、ルインが壁際に飛ばされる。だが受け身をとり、壁に着地したルインは、勢いそのまま壁をけり、グロームに突っ込んでいく。
「はぁぁぁぁぁああああ! 突閃!!」
「植蔦生成!!」
ルインの放つ一撃。それをグロームは腕から複数の蔦を束ねたものを放出し、受け止めた。ルインはそのまま勢いと力で押し切ろうとする。だが、力は向こうのほうが上だった。
急激に伸びた蔦。その中にルインは飲み込まれた。
「ルイン!」
「ちっ、あのバカ!」
グロームがルインを救出するために動く。だが、その瞬間、一瞬おろそかになった注意の隙間に、下から蔦が伸びてきた。
「ッ!!!」
グロームが振り払うより早く、蔦がグロームの体を縛った。そのままグロームの体を、そして首を絞める。
「グ・・・・ガ・・・・・ッッ!」
「まずいですね。このままでは。 !!!」
ツェリライが何か策を講じようとしたその時、グロウを縛った蔦が、こちらに向かって振り下ろされてきた。
「みんな!!」
レックが跳躍し、上にいる面々を庇う。だが、相手の力のほうがはるかに上だった。
激しい衝突とともに、煙とがれきが舞い上がる。二階の通路は崩壊し、そこに居た者は全員成す術もなく落下する。
パラパラと降ってくる瓦礫の下に、レック、グロウ、アコ、ツェリライ、フィーナが倒れていた。ルインは未だ蔦の中に飲み込まれたままだ。
「いかに貴様らが愚かか、これで理解できただろう。だが、我をここまで侮辱した以上、ただでは終わらせん。覚悟するといい。」
メキメキと、ルインを呑み込んでいる蔦が嫌な音を立てる。
「特に貴様は、最上の苦痛を持って葬ってやろう。」
「待ちやがれドチクショウが。」
グロウが立ちあがり、睨みを利かせる。
「ほう、あれだけの攻撃を受けておいて、なお立ちあがれるか。少し見くびっていたようだな。」
「黙れってんだよ。うるせえ。」
「だが、勇ましく立ち上がったのはいいが、その状態でいかに我に立ち向かうつもりだ?」
「だから、黙れ。この程度で俺をつぶせるなんざ、思い違いも甚だしいんだよ。」
体中傷だらけで、いたるところから血が滴り落ちているが、グロウはなお闘志を衰えさせない。まるで眼光だけで相手を焼きつくそうとしているかのようだ。
「ふん、面白い。ならばどこまで足掻けるか、見届けさせてもらおうか。」
そして再びグロウはグロームに立ち向かっていった。
他の者たちは立ち上がることがやっとという有り様である。レックは、さきほど3人を庇ったことにより、ダイレクトにダメージを受けてしまった。倒れたまま、動かない。グロウも、ベストコンディションで苦戦を強いられていたのに、満身創痍の状態でグロームを倒せるはずもない。
ツェリライも、メガネがひび割れている。
そしてアコは、頭から血を流し、ぼんやりと気絶している親友を眺めていた。足も、通常なら考えられない方向に曲がっている。アコ自身も、腕を動かすたびに激痛が走った。視界も赤い。
ぼんやりとした視界と思考の中、アコは朦朧とデジャヴを感じていた。
あの時も、自分が、自分の力が人を殺したんだった。動かない両親、自分の力を欲し、何一つためらわずこちらに歩み寄ってくる影。
怖い。恐い。こわいよ。
こんなに怖い思いをしたくないからあたしは力を使うことをやめた。やめたはずだった。
なのに、今。
あたしが新しく始めた生活の中で見つけた仲間が、親友が、自分の力のせいでボロボロに壊されていく。そんなの嫌なのに。もう、あんな思いなんて絶対に味わいたくないのに。
じゃあ、あたしはどうすればよかったの?
この力は生まれたときから身についていて、あたしじゃどうすることもできない。それがみんなを苦しめるなら、あたしは・・・
「死んだほうがいいの?」
誰とも関わりを持たず、誰にも知られず、あの時にひっそりとこの世からいなくなっていたら・・・・もしそうしていれば・・・・。
「 ダメ だよ。ただ人と違うから、たったそれだけで、死ぬなんて・・・・そんなこと・・・」
掠れるような声が聞こえる。
「アコの 両親 を殺したのは、間違っ てもアコなんか じゃない。今、 皆を傷 付けて いる のも、アコの せいじゃ ない。」
レックだ。レックが倒れて動けない状態のまま、それでもなおアコに呼び掛けている。
「あい つらは 強盗なんだ。アコが 持って いる物を 欲しがって、そのため には 周りが どうなろう と構わない っていう、そんな 身勝手な 奴ら なんだよ。」
「レック・・・。」
苦しそうに呼吸する中、なおもレックは続ける。
「自分が 持って いる ものを、 そんな 風 に 否定しな いで。アコの 力は、きっ と 人を 傷つけ たり しない から。」
そこまでいった後、レックは静かになった。
「レック?レック!!?」
すぐさまツェリライが脈を確かめた。
「大丈夫です。気絶しただけでしょう。」
「そう・・・。」
アコは俯く。そして考える。
レックの言うとおり、あいつらはあたしの力を奪おうとして襲ってきている。それなのにあたしが悪いなんて言うのは間違いだ。確かにそうだ。
アコの中から、茫然とした闇が少し晴れる。
倒れているフィーナを見る。思い出した。フィーナもまた、ルインと同じようにアコの力を、過去をすんなりと受け入れ、受け止め、そして支えてくれたではないか。アコの力は、人を傷つけ、殺すためにあるわけじゃないと、そう教えてくれたのだ。
あたしは、そんな言葉に救われて、本当なら一人ふさぎ込むところを、またこうやって人に囲まれて楽しく過ごすことができていた。
それを、こんなふざけたやつらになんか奪われたくない。奪われて、たまるものか・・・!
ッバアァァン!!!!
激しい爆音が轟き、ルインを呑み込んでいた蔦が爆裂した。地面に着地したルインに、アコは質問した。
「ねぇ。本当にあたしの力は、人を殺すためのものじゃないのよね?そう、信じてもいいのよね?」
束縛からようやく解放されたルインは、膝をつきながらもいつもと変わらない調子で答えた。
「イタタ・・・。まあ、力はしょせん力だからね。それで人を生かすも殺すも、持ち主しだいだよ。包丁だって、料理に使えば便利だけど、人に向ければ簡単に人を殺せる。アコちゃんが人を殺したくないというのなら、人を殺さないようにすればいい。現に今だって、僕はアコちゃんの力に助けられたしね。」
その言葉が最後の一押しをしてくれた。
あたしの力はあたしのもの。他の誰のものでもないからあたしのものなんだ。
そして、それをどう使うかはあたし次第。
それなら・・・
「決めた。
あたしは、あたしの力は
あたしのためだけに使う!」
息を深く吸い込み、吐き出すように決意を放った。その決意を聞いたルインは。
「え・・・・・あ、うん。そう。」
「え?なによ?その微妙なリアクションは?ダメ?」
てっきり大丈夫だと自信満々に背中を押してくるものだとばっかり思っていたのだが。
「いや、アコちゃんが自分でちゃんと考えて決めたことだから、全くもってもーまんたいだよ。でもさ、その言葉・・・・
なんか後々闇堕ちしそうじゃない?大丈夫?」
「! しないわよ!!失礼ね!」
不謹慎なことを言われ、アコは憤慨する。
「まあ、アコさんは非常に単純、もとい真っ直ぐですからね。きっと誰かにたぶらかされることはないでしょう。」
「そうよ。わかった?」
「はいはい。まあ、もしなんか危険なことになったら、その時は僕らがどうにかするから、アコちゃんは気にせずにその決意を固めるといいよ。」
「うん、ありがと。じゃあまずは・・・・」
と、後ろを振り向いたアコは、フィーナの傍らに屈みこみ、そっと手をかざした。
「お、ヒーリング。アコちゃん、それだけはよく使ってたよね。」
「うん、これはね。」
アコが手を戻すと、先ほどよりも呼吸が落ち着いたようだ。表情が安らかになっている。
それを見て安心したアコは、レックにもヒーリングをかけ、それを終わらせると、ゆっくりと立ち上がった。
「これでよしと。あとは・・・・」
と、グロームと向き直る。近くではグロウがハンマーを地面に着き、辛うじて立っている。
「あんただけね。」
「ほう、やはり我が目をかけただけはある。なかなかの孔だ。」
すでに勝ったも同然というグロームが、余裕の笑みでこちらを見据えている。アコはそれをにらみ返した。
「黙りなさいよ、このウスラトンカチ。勝手に王様ごっこ始めた幼稚なブ男が、偉そうなこと言ってるんじゃないわよ。」
アコのブ男発言に、またもや眉をひそめるグロームだったが、それでもなお表情を崩さず、こんなことを言ってきた。
「ふん。貴様がもし我の元へ来るというのなら、今までの失言やその仲間を許すことは容易だぞ?貴様の力はそれだけに値するものだからな。」
「だから偉そうなこと言ってんじゃないわよブ男。好き勝手許すとか許さないとか言ってるけど、あんたにそんなこと言う資格なんてない。あたしが!あんたを許さない!自分の王様ごっこに他人を巻き込んで、あたしの仲間を、大切な友達をいいように傷つけたあんたを、あたしは絶対に許さない!!覚悟しなさい!」
「覚悟?何の覚悟をすればいいのだ?」
と、グロームが余裕をぶっかましていたその時、足元から気配を感じた。
「!?」
咄嗟に飛び退くグローム。そこからつるが伸びてきた。
グロームのものよりはるかに細いが、それだけに移動速度も速い。
「これは・・・!」
ツェリライが驚く。
グロームも回避しながら感心していた。
「ほう、貴様も木のアトリビューターか。だが、同じ属性であればより多くの経験を積んでいる我のほうが・・・・・!!?」
グロームが皆まで言う前に、背後から気配が急激に裂迫されるのを感じた。
直後、裂迫されたような気配が爆発した。
「何!?」
全く予想していないタイミングと攻撃。回避が間に合わず、辛うじて蔦を出すことでダメージ軽減を図る。
「今のは、炎の孔技か!?なぜ・・・・ !!」
考えている間など与えられない。着地しようとしたグロームを、今度は突風が襲った。吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられるグローム。
「この娘、まさか!」
後ろの洗脳装置から放電するような音が聞こえ、実際にグローム目がけて電撃が飛んできた。
「ガハァッ!」
激しいショックに貫かれ、グロームは地面に倒れこんだ。
それでも体勢を立て直すべく、起き上がろうとしたのだが、起き上がることはできない。何が起きたのだと顔を動かそうとしたが、その顔が動かない。ただ感覚で分かった。
凍っているのだ。自分の倒れこんでいる部分だけが凍りついて、地面に張り付けられているのだ。
「小・・・・娘・・・・がぁっ!」
身動きが取れないグロームに、アコが歩み寄る。
「もう一度言うわよ。覚悟しなさい!」
そのアコの怒りに呼応するかのようにゴゴゴゴゴゴと地面が先導し始める。そして、ボッゴン!!!と、何かが思い切り抜き取られたかのような音が鳴る。
「喰らいなさぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
「小ぉ娘ぇぇぇがあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
地面から抜き取られたでっかい岩の塊が宙を舞い、そのままグロームの上に激突した。
「・・・・お~い。アコちゃんや。そいつのライフはもう0、ってかやりすぎ。どう考えてもオーバーキルだよ、それ。」
あまりにも一方的な展開に、ルインが茫然と驚きと呆れが入り乱れて滅茶苦茶になったリアクションで話しかける。
「え?ウソ?ルインたちもいつもこんな感じでやってないっけ?」
「いや、やってないから。手加減はしないけど、動けなくなった相手に全力全開で止め刺したりしないから。」
「まあ、こいつも戦いなれてる奴だから、死んじゃいねーだろーがな。」
そういうグロウも、若干呆れ気味である。
と、アコにボロボロにされたグロームが、何か呟いていることに気付いた。
「フ・・・ハハ。これで終わったわけではないぞ。この町に革変をもたらさんと志す者は、我のみでは、ない。」
「あーはいはい。それだけ三流小者台詞が吐けるなら、命に別状はないね。心配して損したわ。」
それを確認したらもうこいつに興味はない。ルインは話題を変えた。
「それにしても驚いた。アコちゃんもアトリビューター、しかも複属性使い(アマンドビューター)だったんだ。」
「アマンドビューター??」
座り込んだアコがたくさんのハテナとともに質問を投げかける。
「先生、お願いします。」
そしてルインはその質問を華麗にたらい回しした。
たらい回しされた先の先生は、いつものように溜息をついた。もはや様式美である。
「やれやれ。いいですか。複属性使いというのは、文字通り、この世界に存在する八つの属性のうち、一つではなく二つ以上扱うことのできる人のことなんです。当然、アトリビューターよりも人数は少ないですね。てっきり僕は、アコさんは水のアトリビューターだとばかり思っていたんですが、驚きです。」
ため息をつきながらも、ツェリライは結構感動しているようである。ほかの面々は、話を進める前に気になることを一つ。
「ちょっと待った。なんでアコちゃんが水のアトリビューターって思ったの?」
「いいですか。ヒーリングというのは、必ず水と風と光、それと例外的ではありますが木のいずれかの属性が付いているんです。」
「へぇ~。属性によってなんか違いとかは?」
「大まかには同じですね。まあ、僕に言わせれば効果や効力に違いがありますが。」
「あ~、だからあたしに『あなたもアトリなんとかじゃないんですか?』みたいなこと聞いてきたのね。」
「わかってなかったんですか。というか、自覚してなかったんですか。」
「う~ん、まあほとんどふっ飛ばしとヒーリングしか使ってこなかったからね。」
てへぺろ☆とかわいく誤魔化すアコに呆れながらも、ツェリライは思案していた。
(しかし、6つの属性が使えるアマンドビューターですか。つまりそれは、ひょっとすると・・・)
その予想が事実だった場合、アコはこのままいけば自分の力に翻弄される運命を辿ることになるかもしれない。
「それで?アコちゃんはいいの?これからはあたしのために力を使うって言ってたけど、それってつまり、他人に言いようにされないために自分も戦わなきゃいけないってことだよ。」
「うん。それはわかってるわ。でも、あたしが一番嫌なのは、あたしの力のせいで皆が傷つくことだってわかったから。そのために戦わなきゃいけないって言うなら、いいわ。て言っても、基本的にはこれからもルインたちにお任せするけどね。あとあたしがなんかヤバいことになった時もお願いね♪」
「いや、頼りにしてくれるのはうれしいんですが、あの力を前に止めるとか、軽く死ねそうなんですが・・・。」
「でもルインが言ったんじゃない。あたしが危険なことになったら僕が止めるって。男は一度言ったら貫き通すものよ。」
「まあ、そういうこった。そのあたりのことはてめーに任せた。」
と、さりげなく責任転嫁を目論んだグロウだったが・・・
「甘いなグロウは。僕がそんな生易しいことを見逃すとでも?」
当然、答えはNOである。
「チッ・・・」
「舌打ちしない。それよりも早く救急隊呼ばないと、フィーナとレックが。」
「そだね。後ついでに僕らも結構ボロボロだから・・・ 骨が滅茶苦茶バギガギ言ってるわ。 ゲハッ」
こういうときのルインは、ギャグなのか本気なのかわからないから困る。
ただまあ、言った後にばったり倒れたところをみると、本気で言っていたのだと思われる。
ツェリライが治安部隊と救急隊を呼んで数分後、マスコミをくっつけた治安部隊らがわらわらと駆けつけてきた。
「またお前たちか。」
「まあ、そんないつものセリフ言わないでよ。今回は仲間が誘拐されて助けに行っただけなんだからさ。」
担架に乗せられたルインが、弁明する。そんな様子をヒネギム係長は珍しそうに見下ろしていた。
「しかしお前たちがここまで痛めつけられるとはな。よほど手強かったのか。」
「まーね。対人戦においては結構無双できる強者だったよ。数の暴力で攻めたら負けるだろうけど。」
「そうか、なら図らずもお前たちの手を借りたことになるな。こちらに一報も寄越さず突っ込んでいったのは感心できんが、この暴徒を鎮圧したことには感謝する。」
と、突然感謝の意を述べられ、ルインは困惑する。
「えーと、なんか柄にもなく感謝されちゃったけど、あいつがなんか捜査線上に上がってたの?」
「まあ、そんなところだ。最近、この町の政策に不満を抱く輩が増えてな。そんな頃合いに行方不明者が出始めていた。」
「だから下手人が誰か捜査していたところに、今回の通報が届いたということか。なるほどね。それならありがたく受け取っておこうかな。」
「そうしておけ。だが、今後こういうことが起きた時はまず真っ先にこちらに通報しろ。」
と、調子に乗りそうなルインにしっかりと釘を刺す。
「はーい。でも、今回は通報しなくて正解だったと思うよ。だって、係長さんたちが先に来たら、まず間違いなくアコちゃんたちが人質にされたからね。」
はーいと言いつつ、あんまり聞き入れてもらってない感じを漂わせるルインの返答に、やれやれとため息をつくヒネギム係長であった。
「そういえばさ。」
と、同じく担架に乗せられ、救急車へと運ばれようとしているアコが、全く同じ状態にあるレックに気になってた事を聞いた。
「さっき、レックはあたしの両親のこととか言ってたけど、なんで知ってたの?あたし話したっけ?」
「うぇ!!?」
その質問に、レックはドキーーーン!!と心臓が縮みあがって三分の一の大きさになるほど驚いた。
「ああ、えーっと、それはその、えーと・・・・・」
しどろもどろになって慌てるレック。あの時は意識が朦朧として思ったことをそのまま口走ってしまったのだ。
「何?ルインか誰からか聞いたの?」
と、先に言われ、レックは大人しく観念した。
「うん、そんなんだ。ごめん!!」
と、けが人なのに担架の上で土下座するレック。
「いや、謝らなくていいわよ。別に隠したいと思ってないし、ルインだけじゃなくて、ツェルもグロウもフィーナにも、みんなに話してることだから。」
意外な言葉に、レックは「へ?」と土下座のまま間抜けな声を出してしまった。
「え、皆に話したって、アコは自分の過去がトラウマになってないの?」
「ん~、そりゃまあトラウマにはなっているわよ。でも、そんなトラウマを一人で抱え込んだら辛いじゃない。だから、誰でもとは言わないけど、話してもいいなって思った人には話してるの。」
「そ、そうなんだ。」
「うん、レックにも話そうかなーって思ってたとこだったし。だから謝らなくていいわよ。むしろ、あの時レックがあんな風に言ってくれたから、今こうやって戦おうって決意できたし。だから、ありがとね。レック。」
その笑顔には、迷いや憂いは一切なかった。本当にこの選択でよかった、そしてそれを励ましてくれたレックに心から感謝している。そんな笑顔だった。
そんな笑顔を、ぽかんと眺めていたレックは、ぽつりと呟いた。
「ほんと、ルインといいアコいい。本当に凄いと思うよ。」
「そう?」
なんてことないように聞き返すアコに、レックは誰にも聞こえないほどの声で小さく呟いた。
「うん、ボクは、ボクだったらそんな風に割り切ることは・・・」
絶対に出来ないんだよ。
今回はアコの過去編ということで書かせていただきました。
色々なストーリーを見てて思うんですが、やっぱり物語にはメインキャラを語れる過去話というのはほとんど必ずと言っていいほどありますよね。
というわけで作者もそれに見習って、メインキャラの過去話を考えてみた次第であります。
時折こういった王道というのは捻りがないと取られがちですが、なんだかんだいって王道というのは、それが一番基本であるということ。それすなわち一番周囲に受け入れられやすいということでもあります。だから作者は結構王道好きですよ。
・・・・誰ですか?「ただ単に話が思い浮かばなかっただけだろ?」とか言ってる人は?
そんなこと・・・・・・・・ありませんよ? はい。
それはそうと、今回の話は残酷な描写が含まれているわけですが、警告タグを入れる必要があるほどの描写って、どれくらいなんですかね?
人の生き死にが関わって血が流れるような描写があれば警告タグを入れたほうが良いのでしょうか?
もし何か知っているよ~。という方がいましたら、アドバイスコメ下さるとありがたいです。
それでは、お読みいただきありがとうございました。また読んでくださるとうれしい限りです。