表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ACT ARME  作者: 平内丈
2/10

2 訪問者と探し物

第二話投稿です。

ちらっと楽しんでくれたら嬉しいです(`・ω・´)

「よし!決めた!!」

ここは新ルイン宅。(なんで新なのかは第一話を読んでね)無駄に広い居間で無駄にごろごろしていたルイン、グロウ、アコ、ツェリライの四人だったが、唐突に叫んだルインに驚く。

「うるせえ、いきなり怒鳴るんじゃねえ。」

雑魚寝していたグロウが唸る。

「もう、眼がさめちゃったじゃない。」

ソファでごろ寝していたアコが文句を言う。

「静かな中で突然叫ばれると、耳に響きます。」

パソコンいじりながら忠告してくるツェリライ。

「・・・ねぇ。一人ぐらい『決めたって何を?』みたいなこと聞いてきてほしかったんだけど。」

期待していた反応と違い、ぼそっと愚痴るルイン。

「あー、はいはい。それで?何を決めたのよ?」

やっと期待した質問が飛んできたので、ルインは胸を張りつつ宣言した。

「わたくし、ルインは労働にいそしむことに決めました!!」

この一大決心に対する周囲の反応は。

「あー、はいはい乙乙。」

「くだらねえ。」

「エイプリルフールはとうに過ぎましたよ?」

完全に相手にされていない。

その様子に、憤慨しながら言い返す。

「ちょっと。なにを間抜けな返答してるんだよ。こちとらガチで言っているんだけど。」

すると

「は!?」

さっきまでとは打って変わっていいリアクションが返ってきた。

だが・・・。

「ルイン、なんでそんなことを・・・」

「絶対にやめとけ。」

「あなたは素直に労働できる人種ではありません。就職先の方に迷惑がかかってしまいますよ。」

その驚きの中に、誰一人として応援する者はいなかった。

「・・・・ひどくない?」

「いや、だって、ルインの日ごろの行いとか見てると、とても働けるなんて思わないもん。」

「同感だな。口も手も出るのが人五倍速いてめえが、人のために働くなんざ、想像できねえよ。」

「猪突猛進、傍若無人の体現者が労働に従事するなどということは、現実的ではありませんよ。」

えらい言われようである。

「なんだよなんだよ。せっかく人がやる気出して働こうつったのに、誰一人として応援してくれないなんて。どうせ僕に味方なんていないんだ。」

思いっきりいじけてしまったルインを見て、アコは少し同情したようだ。

「まあまあ、そんなにいじけなくたってさ。それで、どんな仕事をするつもりなの?」

「よくぞ聞いてくれました!!」

「うわっ立ち直り早っ。」

「今日から『万能屋 All resolution omakase』。通称AROを開設します!事務所はここ。社員は四人!」

「マ テ や。」

三人総がかりで話を中断させる。

「ん?どした?事務所はほかの家のほうがよかった?」

「そこじゃねえよ。」

「な・ん・で、そのなんとか事務所の社員に、あたし達がなっているのよ?」

そう聞かれると、ルインは

「え?   だって皆なら協力してくれるでしょ?」

満面の笑みでそう答えた。開いた口から八重歯がのぞく。

「あたしはイヤよ。一応ちゃんと自立してるし、ルインと一緒だと何かとトラブル起きるもん。」

「同様の理由で僕もパスします。」

「上に同じだ。」

当然と言えば当然だが、三人が三人とも拒んだ。だが、それで引き下がるようなルインなら、こんなに疫病神扱いはされない。

「そっか、僕一人じゃどうすればいいかわからないから、先に社会人やってる先輩方に協力を仰ごうと思ったたんだけど。じゃあしょうがないな。」

シュンとしおれ、先を続ける。

「一人じゃとても事務所なんてやっていけないよね。」

「ああそうだな。」

「じゃあこの計画は廃案だね。」

「必然的にそうなるでしょうね。」

「仕方ないから、明日からみんなの勤め先に行くとしようかな。」

「うん、それがいいんじゃ・・・・・・な?」

しばしのタイムフリーズ。そして時が動き出す。

「おいコラてめぇ!今なんつった!?」

「あんたがあたしのところに来るって!それどういう意味かわかってんの!?」

「やだなぁ。   わかっているから言ってるんじゃないか。」

満面の悪辣な笑みを浮かべるルイン。

「こ の 外 道 !!」

この程度の罵りは意に返さず、ルインの進撃はまだ続く。

「でも職場二つだけじゃまだ不安だなあ。せっかくだからツェルのマーケットの手伝いもしようかな。」

この一言で、それまで蚊帳の外から高みの見物としゃれこんでいたツェリライも参戦した。



その一時間三十七分ぐらい後

「―――――じゃあ、基本的に事務所は僕一人、みんなが協力者。それでいいね?」

「・・・うん。」

「納得はしてねえがな。」

「まあいいじゃん。なんかあったときは、僕一人に責任が来るんだしさ。」

「それはそうだけど。でもそれってつまりあたし達タダ働きしているようなものよね。」

「まあそんなにしょっちゅう呼ぶつもりはないから。健気に頑張ろうとしている仲間の手助けをするボランティアだと思えば。」

「今の状況で自分に対して健気などと、たわけたことを言えるその精神力には脱帽ですね。」

「いやぁ、ほめないでよ。」

「ほめてねーよ。腹黒狐。」




そしてそれから一カ月。

「い~や~。まさかこんなに何も誰も来ないとは。予想外だね。」

「当然の末路ですね。」

「やっぱり、ルインって言うだけでみんな避けちゃってるんじゃないかな?」

さらりと棘を刺すアコに、ツェリライが補足する。

「それもあるかも知れませんが、それよりもはっきりと分かっている理由があります。」

「いつもの如く、僕へのフォローは無しなわけね。」

ルインのぼやきは無視して、ツェリライが続ける。

「開業して以来、ただの一度も宣伝活動を行っていないんですよ。この人は。」

「え~~~?」

もともと部屋の中に漂っていた呆れた空気が、一層強くなった。

「なんでしないんですか?宣伝活動。」

「ん~。やっぱしないと駄目だったか。」

「当 り 前 で し ょ う が!!何一つ周囲にアピールもせずに、ろくに仕事が来るとでも思ってたんですか!?」

いきなり激昂するツェリライに、アコが驚いて後ろに身を引く。


「いやぁ、らしくないよ。ツェルはそんなに怒鳴るキャラじゃないでしょう。」

そう宥めるルインに、ツェリライの炎は沈下しない。

「怒鳴りたくもなりますよ!!あなたがただ看板作って飾っただけで開業なんて意味不明なことをしてくれたおかげで、少しアドバイスした僕に、全て諸々の手続き押し付けられたんですからね!」

「それは大変だったねえ。」

「労わるより何よりも先に、まず謝るべきだと思うんですが。」

「うん、ごめんなさい。」

ルインは素直に誤ったが、ツェリライは以前怒ったままである。

「普通なら土下座しても足りないくらいだと思いますけどね。確信犯なんですから。」

そう言い切るツェリライに、アコの疑問が入る。

「え?確信犯ってどういうこと?」

「簡単な話ですよ。この人は根っからの怠け者+荒くれ者ですが、馬鹿ではありません。開業するに当たって必要な手続きがあることは知っていたはずです。」

「ふ~ん。それで?」

その切り返しに、若干の間が開く。

「・・・・・・(まだわからないんですか?)つまり、ルインさんは最初から僕に全部の手続きをやらせる腹積もりだったんですよ。」

「・・・まじで?」

「本人に聞くほうが一番手っ取り早いでしょう。ねぇ、ルインさん?」

鋭い視線をルインに突き刺すツェリライ。

「い、いや~。なんのことでせう?ワタクシにはさっぱりわかりません。」

その場に流れる空気に居たたまれず、顔を背け、とぼけるルイン。

「とぼけても無駄です。僕があれこれさせられる前に、あなたが自治所(市役所みたいなもの)に足を運んでいたことは分かっているんです。」

「そ、それで?」

「それで、あなたが開業許可証を受け取るために自治所を訪れたことも分かっています。」

「・・・・・・・・」

「そして、あなたがそれを受け取るために、幾らかの書類に記載しなければならないことを知り、即時撤退したことも判明しています。」


「よ、よく知ってるね。」

「幸いにも、受付の方があなたが来た時と同じ方のようでしてね。運良く話を聞けたんですよ。」

「へ~。それは良かったねえ。」

何とかして空とぼけをしようとするが、限界というものがある。

「素直に謝ったほうがいいんじゃない。」

アコにもそう促され、おとなしく自分に否を感じたルインは、素直に、今度は深々と頭を下げた。

「大変お手数をおかけし、申し訳ございませんでした。」

その様子を見たツェリライは、お怒りモードは解除させたようだが、今度はお説教モードを指導させたようだ。

「全く。あなたは開業したという自覚はないんですか?そんな調子で資金繰りはどうするつもりだったんですか?問題はそこだけにとどまりませんよ。万一あなたが誰かを雇う、契約を結ぶなんてなった時には、今回とは比べ物にならないほどの手続きを踏まなければならないケースも存在するんです。相手が顔見知りならいざ知らず、まかりなりにもあなたを信用した―――――――――――――」

長い長いご高説が始まってしまった。いつもなら受話器を脇に置いて聞き流すところだが、今回は直接面と向かって話をしている。

何より、今回こんなことになる原因を作ったのは紛れもなく自分。

おとなしくバツを受け入れる他ないか・・・・

そう思った矢先だった。


ピンポーン。という軽快な呼び鈴の音が聞こえ、それにルインが即座に飛びついた。

「あ、お客さんが来たよお迎えに行かなくちゃ!!!」

今までかつてないほどの早口で喋ったルインは、そのまま流れるように玄関へと飛んで行った。

「逃げられちゃったわね。」

「本当に、逃げ足の速い人です。」



「ささっ、どーぞどーぞ。こちらに座ってくださいな。」

超上機嫌のルインに引っ張られるように招かれた、記念すべき最初の依頼者は、前髪が若干長めで、内向的というと言い過ぎな気がするが、少なくとも外交的には見えないタイプの青年だった。

手には長い棒を握っている。棒術使いのようである。

「さて、要件はなんでしょう?」

相手がルインのテンションについていけてないことなどお構いなく、話をスタートさせる。相手もそれに若干の戸惑いを覚えながらも、用件を切り出した。

「あ、えっと。ひとつ探し出してほしいものがあるんです。」





「・・・・・・・・・・」

依頼内容を聞いたルインは、とたんに静かになった。

(あれ?なんかさっきと比べて急激にテンションが下がってる!?)

先ほどまでと打って変わって静かになったルインは話を続ける。

「えーっと、それで?その探し物っていうのは何ですか?」

明らかにやる気を半減以下にさせているルインに、後ろからゲンコツが落とされた。

「あいったぁ。何するんだよ。」

「何するんだよじゃない。あんた、自分が期待していたのと違う依頼が来たからって、あからさまにテンション落とさないの。」

「へ~い。」

間延びした返事を返す。その様子を見ていた依頼者は、若干心配そうに聞いてくる。

「ここって、依頼をこなしてくれる万能屋でしたよね?」

「ええ、間違いありませんよ。ただそこにいる所長が気まぐれでテンションを上げ下げしているだけです。」

その返事を聞いて、さらに不安そうに質問を重ねてくる。

「ここって確か開業一カ月は経っているんですよね?」

「ええ、その通りです。ただ、依頼者はあなたが初めてですけどね。」

「え?」

「開業してから早一ヶ月。ここは早々に開店休業状態が続いていましたから。」

「・・・・・・・・・・・・」


ものすごい不穏な空気が漂い始める。その空気を察したツェリライは、救済の手を差し伸べる。

「ご不安でしたら、帰っていただいてかまいませんよ。依頼者が依頼する前に不安をあおるような所長じゃ、心配でしょう。」

この発言に、ルインが食ってかかる。

「ちょっとちょっと!なんでせっかく来てくれたお客さんを返そうとしてるんだよ?お客さんにも失礼じゃないか!」

至極まっとうな意見。だがこいつには言われたくない。

「もしそう考えているのなら、少しは真面目にやってください。」

その場で言い合いを始めた二人を見ながら冷や汗を流している依頼者に、アコが救済の手を差し伸べる。

「あ、帰って大丈夫ですよ~。あれしばらく続くでしょうし。」

冷や汗を流し続ける依頼者は、それでも首を横に振った。

「いや、ここを選んできたのはボクですし。まあ大丈夫です。」

その言葉を聞いたアコは、すぐさま水かけ輪を強制的に中断させた。

「あんたたち!何依頼者に気を遣わせてんのよ!!」



「えーと、それで。依頼内容は無くしたものを探すということでよかったんですよね?」

頭に見事なこぶを作りだしているルインが聞く。

「は、はい。そうです。」

「それで、無くしたものというのは?」

「まずその前に名前を聞くべきではないでしょうか?」

ルインと同じく頭にこぶを作っているツェリライが、不機嫌そうに口をはさむ。

「ああそうだね。あなたの名前は?」

「レックです。」



数分後。

「つまり、レックは大切にしているリストバンドを、この町のどこかでなくして、それを探し出したいと。」

いきなりタメ口になったルインに、戸惑いながらもレックは肯定する。

「え、ええ。まあそういうことです。」

「ルインさん。依頼者に対してため語を使うとはどういうことですか?」

「え?いや、年聞いたら僕らと同年代だったからいいかなと思って。」

「良くないでしょう。」

ツェリライの突っ込みは、無視。

「それにしても。風来坊やってるとは驚いたね。」

「まあそうですね。よくそう言われます。」

それについてはツェリライも同じ気持ちのようだ。

「この町は移住してきた方が比較的多いとはいえ、風来坊をやっている方は僕の知りあいの中にはいませんね。何か旅の目的があるんですか?」

この質問に対して、一瞬だがレックの顔が陰った。

だが、すぐにそれが消えて答える。

「いや、特にないですよ。あてのない気まま旅ですから。」

その反応に、若干の興味を示したルインとツェリライ(アコは気付いたかどうか怪しい)だが、依頼とは関係なさそうだったので、そのことには触れずにおく。


「それで、大体どこあたりで無くしたとか、心当たりはないの?」

その質問に首を振るレック。

「心当たりのある場所はくまなく探したけど、見つかりませんでした。」

「治安支所(交番ぽい場所)に落し物届は?」

「三日前に出したけど、返事は来ないですね。」

質問に対してすべてNOの返答に、うーんと唸りながらソファにもたれかかる。

「・・・となると、手掛かりは一切なしか。困ったね。いくらなんでもこの町全域をローラー作戦で探すわけにもいかないし、最悪誰かが拾って捨てた可能性もある。」

「そんな!!」

「もちろん、それを見つけるためにこんなとこに来るぐらいだから、レックにとっては大事な宝物かもしれないけど、他の人からすればただのリストバンドだしね。」

その言葉を聞いたレックは、シュンとうなだれる。

「そうですよね。見つかるわけがないか。そもそも自分が落としてしまったわけだし、仕方がないことですよね。」

突然、スイッチが入ったかのように諦観モードへと切り替わったレックに、ルインがあわててフォローに入る。

「いやいやいや、その可能性があるってだけで、決まったわけじゃないから。」

「でも、もうすでにその可能性が実際に起こっているかもしれない。」

「でも、まだその可能性が実際に起こっていないかもしれない。」


レックの呟きに即答するルイン。

「可能性を考えるなら、いい可能性を考えたほうがいいでしょ?」

と、なぜか自信満々の笑みを浮かべているルインをポカンと眺めているレックに、アコが横から口をはさむ。

「諦めたほうがいいわよ。ルインは基本的にグータラだけど、一度やると言ったら自分の気が済むまでやり通すヤツだから。えっと、こういうのを何ていうんだっけ?確か『ゆうゆうじっこう』っていうのよね。」

「え?」

「え?」

「え?」

アコとレックとルインの「え?」が見事にシンクロし、しばし膠着する。それを打ち砕いたのは、ツェリライの冷静な突っ込みである。

「アコさん。それを言うなら『ゆうげんじっこう』です。」

「あ、あれぇ?そうだったっけ?いつの間に変わっちゃったの?」

「有言実行という言葉ができた後、この言葉は一度たりとも変わっていないと思いますよ。」

全く、せっかくいい感じの話になっていたのに台無しである。


「さて、具体的にはどうしようかなあ。」

と白々しく言いながら、がっつりツェリライに視線を向けるルイン。一分八秒ほど気付かないふりをしていたツェリライだったが、根負けしたようだ。話を切り出す。

「やれやれ、少しは自分で調べるということを覚えてほしいものですね。」

「これが適材適所ってやつだよ。」

グッと親指を立てるルインに、何かものすごく言いたそうな顔をしたが、何を言ったところで無駄だということは、本人がよく知っていることなので諦める。


「『拾い屋』はご存知ですか?」

「拾い屋?何それ知らない。」

眼鏡を上げつつ説明を始める。

「拾い屋は、道端などに落ちていたものを拾い集め、それを売ることを生業にしている商売のことです。」

「へぇ~。知らなかった。いい商売だね、それ。」

「それで、ボクが落とした物もそこにあるかもしれないということですか?」

元気を取り戻したレックの質問に、ツェリライがうなずく。

「ええ。その可能性は十分に考えられます。以前紙袋も扱っているという話も聞きましたし。」

「まじで?それはまたすごいな。確かに、そこならレックのリストバンドも見つかりそうだね。行ってみようか。アコちゃんはどうする?」

そう聞かれた前回欠席のアコは、今回は同行するようだ。

「うん、なんかそこ面白そうだし、暇だから行ってみようかな。」

「よし、じゃあそうと決まれば行きましょうか!」

かくして、四人は拾い屋へ向かうこととなった。



「――――じゃあレックは小さいときから風来坊やってるんだ。」

「はい、まあそうですね。」

「ふ~ん。あ、そういえばあたしに敬語使わないでいいわよ。別に。」

「え?でも。」

「だってほとんど同い年でしょ?そんな気を使う必要ないって。それにあたしはあの何でも屋の一員じゃないし。」

「え?そうなんですか?」

「そうよ。あたしたちはただこのずる賢いグータラに付き合わされているだけなんだから。だから、タメでいいわよ。」

そう言って笑いかけるアコに、レックも笑顔で返す。

「うん、わかった。ありがとう。」

「同様の理由で僕に対しても敬語を使う必要はありませんよ。」

「同様の理由じゃないけど、僕にも敬語使わなくていいから。」

「レックさんはともかく、あなたは敬語を使うべきなんですけどね。」

「そう固いこと言わない。気楽なほうがいいって。」

「あのー、ちょっといいかな?」

「ん?何?」

のんきにレックの方を見たルインは、レックが指さすほうを見て理解する。

指差したほうには『拾い屋 ひろっちゃん  ゴミみたいなものから思わず手を伸ばしちゃうほどの骨とう品もあるかもよ!』という看板が飾ってあった。

「あ、ついたっぽいね。」

「ですね。入ってみましょうか。」



「お邪魔しマース。」

中に入る。ぶっちゃけ中はかなり雑然としている。だだっ広い倉庫のような建物。人がいる雰囲気はしない。

「誰かいませんかー?」

若干、あきらめが混じった声で呼びかける。

「誰か呼んだ?」

と、ルインの呼びかけに応じる声が、どこからともなく聞こえてきた。

「え?今どこから声が聞こえたの?」

アコがせわしなく視線を動かし、声の主を探したが見当たらない。

「ここよ、ここ。」

と、建物の奥にあるゴミ、じゃなかった商品の山の中からひょっこりと顔を覗かせる姿があった。

 見た目は結構可愛い。可憐という言葉がお似合いの整っていて綺麗な顔をしている。

 だが、格好がひどい。あの服は一体最後の洗ったのはいつなのだろうか?そんな疑問を抱かせる状態である。

 「うわっ、汚っ。」

 思わず本音をこぼしたアコに、店主は機敏に反応する。

 「汚いとはご挨拶じゃない?この店の制服なのよ、これ。」

 そういうと、軽やかにゴミ、じゃなくて商品の山を軽やかにひょいひょいと飛び降りてきた。

「いや、どう見てもこじつけにしか・・・」

レックが皆まで言う前に、顔の前に指をさして止めさせる。

「いちいちうるさい男ねえ。そんなんじゃ一生女なんて出来ないわよ。」

グッと言葉に詰まったレックを見た店主はにやりと笑い、要件を聞いてきた。


「それで、なんの用?冷やかしじゃないわよね。なるべく早くお願い。昼寝の続きしたいんだから。」

「これって商売になるの?」

思わず要件より先にどうでもいいことを質問するルイン。

「何?そんなどうでもいいことを聞きに来たの?」

「いや、そうじゃないけど思わず。」

「えっと、ボクたちはここにあるかもしれないものを探しに・・・」

「正直儲かってないわよ。全然。」

またレックが皆まで言う前に話をする店主。

「(結局話すのかよ!?)あー、やっぱそうなんだ。」

「何『ちっ、儲かる商売なら自分もしようかなと思ってたのに』という顔をしているんですか?」

「ウェッ!?い、いや。そんなこと考えてないよ?」

とか言いつつ、明らかに動揺している。それを見て、ツェリライは、冷たく突き放した。

「まあ、その時はあなたの自由にすればいいですが。絶対に、たとえ天地が裏返しになろうと、僕は手伝いませんからね。」

「ぐぅ・・・。   でもまあ、儲からないみたいだし、やるつもりはないけどね。」

「それは結構なことです。」

と、いつものごとくルインとツェリライがやり取りをしている間に、レックが話を進め始めた。


「それで、この町に落としたものを探しに来たんですけど。あなたがこの町に落ちていたものを集めているって話を聞いたので・・・」

「フィンドでいいわよ。それで、あんたの落し物があるかもしれないと思ったのね。いいわ、好きに探しなさい。」

だが、その言葉とは裏腹に、フィンドは話し終えると同時に手を出す。

おずおずと聞くレック。

「・・・・えっと、なんですか?その手は。」

けろっと返すフィンド。

「え?何って、決まってるじゃない。入場料。」

「ここって、美術館とかじゃないんですよね?」

「なに寝ぼけたこと言ってんのよ。いいから入場料1000セラ払って。」

「高っ!?ぼったくりもいいところじゃん!」

憤慨するレックに、フィンドも負けじと言い返してくる。というか、逆ギレしてきている。

「仕方ないじゃない!!収入が入ってくる回数が少ないんだから、一回の収入を増やすのが道理でしょ!」

「いや何その暴論!」

「なによ!間違ったことは言ってないでしょ!」

「間違ってないけど間違ってるよ!!」

そのままギャースカ口げんかを始めた二人を、三人はほのぼのしたまなざしで眺めていた。

「い~や~。なんかいいね。微笑ましい兄妹げんかを見てるみたいで。」

<なによ!どこが間違っているのか、わかりやすく説明してみなさい!!

「そうね~。」

<お客さんが入ってこないなら、PR活動でも何でもして、少しでもお客さんが入ってくるようにするべきでしょうが!

「しかし、収入の回数が少なければ一度の収入の額を増やせばいいとは。その発想はなかったですね。普通は収入の回数を増やそうとするはずなんですが。」

<なんでそんな面倒な事をしなきゃならないのよ!

「いや、僕はその気持ちはなんとなくわかるな。   ・・・なに、その蔑むような目は?」

<面倒って、それじゃあお客さんが全く入ってこなくなるでしょうが!       ってあれ?これ・・・・

「同類憐みの眼差しです。」

その言葉通り、その眼にいっぱいの憐みを込めた視線を直視できなかったルインは、顔をそむけた。そこで、どうやら兄妹げんかに進展があったことに気づく。

「あれ?どうしたんだろう?」


見ると、レックがフィンドの右手を凝視している。

「何よ。あんた、そのテの趣味があるの?」

「何いってんのさ。ないよ、そんな趣味は。」

「う わ ぁ。」

「だからそんな趣味はないってば!そうじゃなくて、見てよこれ!」

そう言って、レックはフィンドがつけているリストバンドを指さす。

「これ、ボクのだよ。」

レックは、えらく自信満々に宣言する。それを聞いた三人は、どうしてだか知らないが不安になったので、一応確かめておく。

「間違いないの?」

「うん、間違いないよ。だってここにほら、『H&L』って刺繍があるもん。」

「それがたまたま同じものだという可能性は?」

「ほとんど無いよ。  だってこれは、母さんに作ってもらったものだから。同じものは二つとないはず。」

そこまで聞き遂げたルインは、フィンドに言い渡した。

「だってさ。それは持ち主がいたんだから返してほしいな。」

「嫌。」

一言バッサリ。

「・・・・・・は?」

「これは、私が気に入っているから非売品なの。売ることもできないわ。」

「そういうことを言ってるんじゃないの。持ち主がいたら持ち主に返すのが常識でしょうが。」

「うるさいわね。嫌って言ってるでしょう。」

まったくもって頑固である。しびれを切らしたツェリライが、強硬手段にでる。

「なら仕方ありません。こちらも然るべき手段をとらせていただきます。あなたを窃盗罪で治安部隊に通報するとしますか。」

そう言って携帯を手にしたツェリライに対して、フィンドは不敵な笑みを浮かべた。

「させると思ってるの?」



その言葉と同時に、わらわらと人が湧いてきて、四人の周りを囲んだ。

「何さ!この集団!?」

「私のボディーガード。何か知らないけど、勝手によってきてくれたのよ。」

「やれやれ、とんだわがまま女だね。」

「というより、なんでこんなにボディガードがいるのさ?」

「あーあ、なんでこうなっちゃうのかしら。ま、いいっか。ねえ、レックは武器持ってるけど、強いの?」

その質問に対しては、自信なさげに答えた。

「う~ん。戦えないことはないけど、強いかどうかは・・・。」

だが、アコとっては自信など関係ない。

「そ。じゃあ、ルインと二人で頑張ってね。」

「え?アコは戦わないの?」

「何よ。かよわき女の子に戦わせようというの?そんなんじゃモテないわよ。」

「・・・・・・。」

「とにかく、あたしとツェルは戦えないから。がんばってね♪」

「うん。わかったよ。」

「(戦えないねえ・・・。まあいいけど。)というわけで、気は進まないけど、駄々っ子の躾は僕とレックの二人ですることにするよ。」

「わたしはこれでも成人してるんだけど?」

「精神的には十分お子ちゃまだから問題ないね。なんならあやしてあげようか?」

ルインの口撃に、若干カチンときたようだが、すぐに取り直し、言葉を返してきた。

「そう、それじゃあまずはこいつらからあやしてもらおうかしら?」

「お安い御用だね。」

「かかりなさい!」



強いかどうか自信がないとか言っていた割には、レックはなかなかに強かった。きちんと自分の身体能力と武器との相性があっていて、相手からの動きに柔軟に対応している。

「レックさんは、なかなかの手練みたいですね。」

「そうなんだ?確かに強いように見えるけど、詳しいことはわからないからなあ。」

「ええ、あの舞うようなアグレッシブな動きで大勢の相手に対応しながらも、しっかりと向かってきている相手を捉え、それに対する最適の動きをみせてます。」

「ふーん。」

「おそらく、バランス感覚と柔軟性に優れているのでしょうね。あの戦闘スタイルは、見ていて楽しいものがあります。」

「ふ~ん。」

「・・・・やはり、興味ありませんか?」

「うん、まあね。」

と、レックの周りから一斉に攻撃が飛んできた。四方からの攻撃に対し、レックは棒を立て、その上に逆立ちするような状態になり攻撃を回避。

「はぁっ!」

気合の一声。

そのまま体を大きくひねり、足と棒の両方で敵を一蹴した。

その様子を見ていたルインは感心した声を上げる。

「なんだ、結構すごいじゃん。見た目なよってしてたから、護身術程度の強さしかないと思ってたよ。」

「それは褒めてるの?それとも貶しているの?」

「両方。なんかレックってイジリがいありそうでさ。ついね。」

「ひど。何さその理由!?」

レックの抗議は、当然ながらルインの耳には届かない。


そして、すべてのボディーガードを倒した二人は、再びフィンドに詰め寄る。

「さて、約束通り全員あやしてあげたよ。とっととそれ返して。   ――――それとも、自分もあやしてもらいたいのかな?」

フィンドは、目の前であっさり倒されていったボディーガードたちの姿を見て驚いていたようだが、やがて不敵な笑みを浮かべると、ひらりと後ろに跳躍し、レックに宣戦布告をしてきた。

「これ、あんたのモノなんでしょう?だったら自分の手で取り返しに来ることね。」

この言葉に対して

「君はこの期に及んでまだそんな屁理屈をいうのか!?」

と、レックは憤慨したが・・・

「ふむ、確かにその言葉には一理ありますね。」

「確かに。」

周りの連中が納得してしまっている。

「え?ちょっと、え!?」

混乱するレックに、ルインは労うように優しくぽんと肩に手を置き、

「頑張って!」

グッって親指を立てた。

「ちょっと、みんなどっちの味方なのさ!?」

「もちろんレックの味方に決まってるじゃないか。なにせレックは僕の依頼者なんだし。」

「いや、だったら―――――」

「頑張っていってらっしゃい。」

有無など言わせるはずもない。


そんなこんなで、レックとフィンドが対峙することになった。

「ねぇ。」

「ん?どした?」

「勢いでレックを戦わせに行っちゃったけど、勝てるの?」

その質問にルインは

「ん~。まあ相手の実力がわからないから何とも言えないけど、大丈夫なんじゃない?」

と、非常に適当な回答をよこした。

「・・・本当に大丈夫なの?」

「まあ、いざとなったら割って入るし、あの女も言いたい放題やってるけど、人の命まで取るような外道には見えないし、大丈夫だと思うよ。」

ルインからそんな感じの評価を受けているフィンドは、レックに対して不敵な笑みを浮かべていた。

「あなた、なよっとした顔の割にはなかなかのツワモノじゃない。」

「ほめてくれてありがとう。」

「けど、残念でした。あなたじゃ私には勝てないわ。」

「その自信の根拠は?」

「そうねえ。あなたとわたしの戦闘術(スタイル)の相性ってところかしら!」

と、右手を後ろにやったかと思った直後、レックは上からの風圧を感じた。

危険を感じ、とっさに後ろに跳ぶレック。飛び退った後に、パシーン!という鋭い音が響く。

「やっぱりあなたはツワモノね。不意打ちの一発目を難なくかわすなんてね。」

そう言ったフィンドの手には、黒く長い鞭があった。

「どうも。でも、それを今の速さで振れるそっちも大したものだと思うよ。」

「あら、ありがとう。それじゃあもう少し味わってみる?」

そこからフィンドの鞭による連撃が始まった。それら全てを紙一重でかわしていくレック。だが、回避ばかりで攻撃に転ずることができない。




「あーもう、なんで攻められないのよ。むずがゆいなあ。」

そう一人でいきり立つアコを、ルインが解説付きで宥める。

「まあまあ。あの女も言っていたけど、相性が悪いんだよ。見ての通りレックは近接型、向こうは遠距離型だからね。どうあがいてもレックの攻撃が届かないんだよ。」

「じゃあ距離詰めればいいじゃない。」

「だからレックもそうしようとしてる。見てよ。」

フィンドが鞭を振るった瞬間をねらい、間合いを詰めようとするレック。

しかしフィンドは、その度にひらりと華麗に飛び退り、絶対に自分の間合いを崩そうとしない。

「ね?」

「う、うん。」

「まあ最初にも、あのゴミの山からひょいひょい下りてきたからね。身軽さとかに関してはレックより上かも。」

この点には納得したアコの次なる攻撃。

「だ、だったらあの鞭を切っちゃえば・・・」

「どうやって?レックの獲物は見ての通り打撃武器だよ。」

「う・・・・」

すでに雌雄を決したこの対決に、さらにツェリライが追い打ちをかける。

「さらに付け加えるに、あの鞭は(じん)(せい)が優れている特殊素材で作られているようです。」

「つまり?」

「あれを切断しようとするのは、ルインさんでも骨が折れると思いますよ。」

「そうなんだ・・・」

「ほーんとに、ご都合主義かと思えるくらい相性最悪だね。さて、そんな相手にレックはどうやって立ち向かうのかな?心配だよ。」

「心配って言ってる割には、顔が楽しそうよ。」

「ん?そう?」

「ホントあんたって・・・」



「よけてばかりじゃ勝てないわよ!」

度重なる鞭打の嵐に、レックがしだいに押され始めた。すでに何発かもらってもいる。

そしてついにレックは壁際に追い詰められてしまった。

「残念ね。もう少し楽しみたかったけれど・・・」

フィンドが、鞭を振りかぶり

「これで終わりね!」

そして振り下ろした。



「やれやれ、仕方ないな。」

 


ボッ!

と、燃えるような音が聞こえた。そのあとに鞭の先端部分が切り落とされていた。

「えっ!?」

突然のことに全員が驚く。見るとレックの棒の先端には炎が灯っている。

「本当は使いたくないんだけど。怪我させちゃったらごめんね。」

さっきまでより少し怖い顔をしてレックが告げる。

「あなた、まさか・・・!」

フィンドが皆まで言う前に、レックが突っ込んでいく。得物を失ったフィンドには対抗するすべもなく、勝負はついた。


「いや~、驚いた。レックは属性使い(アトリビューター)だったんだ。」

「う、うん。まあね。」

「あとりびゅーたー?」

アコが疑問を漏らす。その疑問に我らのツェリライが答える。

「このイーセでは、土・水・火・風・雷・木・闇・光と、八つの属性が存在しています。属性使い(アトリビューター)というのは、その属性のうちのどれかを操ることのできる人のことです。」

「ふ~ん。誰でもそれになれるの?」

「いえ、基本的に本人の体質によりますね。たとえばルインさんは、戦闘技術に長けていますが、アトリビューターではありません。孔の絶対量が増やせないのと同じように、体質が合わない人はどうあがこうとアトリビューターにはなれないんです。」

「じゃあ、レックは火の属性の体質があったんだ?」

「そういうことになりますね。というより、あなたもそうではないんですか?」

「さあ、何のことかしらね?」

自分から質問する割には、人の質問はそっぽを向くアコであった。


「してやられたわね。隠し玉を持っているなんて、ずいぶんと策士じゃない。」

結構悔しそうな表情で言ってくるフィンドに、あまりいい顔をせずに返すレック。

「別に隠してたわけじゃないよ。ただ使いたくなかっただけだ。そんなことよりほら、傷を見せてよ。」

「え?」

「一応重症にならないように肩を打ったけど、それなりに力は込めたからね。簡単な怪我なら手当てできるから。ほら。」

予想しなかった相手の対応に、しばしぽかんとしていたフィンドだったが、すぐにハッとした表情になり、身構える。

「そうやって善人面しながら女の肌を直で見ようとするだなんて、やっぱあなたそのテの趣味がある変態策士なのね。」

「だから、そんな趣味はないよ。」

「う わ ぁ」

「・・・・・無いって言っているんだけどなあ。」

「わかったよ。そんな怒んないで。」



「これでよしと。まあすぐに戦闘とかは無理だけど、普通に動く程度には問題ないはず。」

手当てを終えたレックの顔は、先ほどまでと比べて少しばかり明るい。

「一応聞いておくけど、あなたがこんなことする理由はあるの?自分の持ち物を泥棒した揚句に、襲ってきたのよ?普通だったらフルボッコにしたっておかしいことじゃないはずよ。」

思わずそんな質問をしてきたフィンドに、レックはまた嫌そうな顔をする。

「その、因果応報上等って考えがいやなんだよ。傷つけられたら傷つけて当然とか、そんなことして何になるのさ?ボクがこの力を持っているのだって傷つけるためじゃない。助けたいからなんだよ。」

「あなた・・・・」

「何?」







「甘っ。臭っ。」

「うわっ、酷!!ばっさりと切り捨てられた!?」

「切り捨てられて当然じゃない?あなたが何歳なのかは知らないけど、いまどきそんな青臭いこと言ったってモテないわよ?ていうか、むしろ引かれるわ。」

非道な言葉を前に、成す術を無くしたレックは、救済を求めるように後ろの三人を見た。それを受けて三人が差し伸べが差しのべた救済の手。

「ごめん、これは言い返せないわ、流石に。」

「これはフィンドさんの方に同意せざるを得ないですね。」

「少し鳥肌立っちゃった。」

・・・訂正。三人が差し伸べたのは救済の手ではなく、フィンドに対する合いの手でした。

「悪かったね、甘臭くてさ。どうせボクは腐った桃の芳香剤の臭いしかしないんだよ。」

「あーあ、すねちゃった。」

「あれだけ言われたら誰だってすねるか。」

言った張本人は完全に他人事である。




それから少したった後、立ち直ったレックが立ちあがった。

「まあ、自分でやるんだって決めたことなんだし、だれにどう言われようと仕方ないけどね。とにかく、勝負には勝ったんだし、ボクのリストバンド返して。」

しっかりと返却要求をするレックに、しぶしぶながらもフィンドは持ち主に返した。

「はいはい。わかったわよ。そんなに大切なの?これ。」

「大切なの。世界に二つとないんだから。」

こうして、若干の紆余曲折があったルインの初仕事は、成功を収めた。


数十分後、ルイン宅。

「今回はありがとう。おかげで助かったよ。それで、報酬のことだけど、いくら払えばいいのかな?」

とレックは、忘れかけていた依頼者の立場に戻り、報酬の額を聞いてきた。だが

「え?ああ、報酬はいいや。」

こっちのほうは全くその自覚がない。

「え?いやいや、それは・・・」

レックが皆まで言う前に、ルインが続ける。

「だってさ、今回の依頼に対して僕なんかやった?」

「う・・・・・・。」

否定したいが、正論ゆえに返す言葉が見つからない。

「まあ、ぶっちゃけお金には困ってるけどさー、ただ働きの報酬泥棒ってのもねぇ。あんまり後味良くないというか・・・。というわけで、報酬はいいや。」

珍しく殊勝なことをいうルインに、周りは驚いていたが、やがてアコが褒める。

「たまにはいいこと言うじゃない。そうそう、『わるぜにはみつかず』って言うしね。」



「え?」

「え?」

「え?」

アコとレックとルインの「え?」が見事にシンクロし、しばし膠着する。それを打ち砕いたのは、ツェリライの冷静な突っ込みである。(二度目)

「アコさん。それを言うなら『あくせんみにつかず』です。」

「あれぇ?いつから・・・」

「この言葉が生まれてからずっと変わっていないと思います。まったく、何故出来の悪い教え子をもった国語教師の体験をしなければならないんですかね?」

「い、いやあ・・・。それほどでも。」

「褒めてません。全く。」

全く、せっかくいい感じの話になっていたのに台無しである。  (これも二度目)



「それでさ、レック。ものは相談なんだけど・・・」

と、突然話を切り出したルイン。この段階でアコとツェリライは、経験上嫌な展開が待ち受けることを予測できたが、出会って一日もたっていないレックにわかるわけない。

 結果、自ら蟻地獄の中心部へと身投げする形になった。

「うん、相談って何?」

蟻地獄の主は、躊躇いなく獲物を飲み込む。

「レックって、何か目的があって風来坊やってるわけじゃないんだよね?」

「うん、まあそうだね。」

「この先、行くあてとかはあるの?」

「いや、ないよ。」

「そう。じゃあさ、この家に住まない?」

「うん      ・・・・・え?」

鳩が豆鉄砲の直撃を受けた顔をするレック。ルインのターンは終わらない。

「いやー、見てもらったらわかると思うけど。この家、ひょんなことで自治会からもらった家でね。一人暮らしするには大きすぎるんだよね。」

「ま、まあそうだね。それで、なんでボクが住むっていう話に?」

「いやね、やっぱりもらった以上は有効活用したいんだけど、一人だと限界があるなって思い始めてさ。だからレックを勧誘するわけ。」

「うん、まあ気持ちはわかるけど・・・。」

「どう?家賃はタダだよ?」

最後の一撃。

決して押しに強くないレックには、十分すぎる威力をもっていた。

しばらく悩んだ末、レックが答える。

「じゃあそう言ってくれるのなら、お世話になろうかな。ボクも一人で風来坊するのには疲れてきたし、役に立てるんだったら、それでいいよ。」

「よし、交渉成立!じゃあ、あとで住民登録しないとね。」

素晴らしくイキイキと積極的に話を進めだすルインを見て、嬉しそうな顔をするレック。

(これは・・・・)

(地獄を見るわね・・・・)

ただ二人、アコとツェリライだけはレックの行く末を案じつつ、心の中で合掌した。



実際、それが現実となるのは、そう遠い日の話ではなかった・・・




みなさん、初めましての方は初めまして。久々だという方はありがとうございます。

今回は、新メインキャラ、レックの登場です。

前髪が若干長めの、少なくともクラスの中心に立つような感じのしない棒術使いといったところです。今のところ公開できる設定といえば、この位ですかね。若干話の中で触れたレックの過去については、また別の話でする予定です。

因みに、他のメインキャラ四人も、同様の理由で詳しい設定はまた別の話で。

余談ですが、今回出てきたフィンドは、再登場の予定はありません。ついでに言うと、一話に出てきた大家さんも、再登場の予定はありません。二人はストーリー構成上、必要になったから作ったまでです。

・・・って、偉そうに言うことではないんですがね。

あ、そうそう。本文では話の流れの都合上(という名の作者の力不足のせいで)なぜ切れにくい鞭が、レックの火であっさり切り落とされたのかというと、あの鞭は動物性の合皮で作られており、炎には弱いという欠点があったためです。

あともう一つ、レックの一人称は「ぼく」でも「僕」でもなく、「ボク」で行こうと思っています。別に理由はないのですが、そっちの方が誰が喋っているのかわかりやすいと思うので。他のメインキャラでも同様にしようと思っています。

でも、もし間違って一人称書いていたら済みません。一応見直しはしているんですが・・・。

しかし、あれですね。

今回の話でルインとレックは名前付きの技を出すはずだったんですが、気づいたらお流れに・・・。

やっぱりプロットとかロクに考えずに、思いつくまま書くからダメなんでしょうか。

でもプロットとか、どやって考えるの?(´ω`::;;:;//./...

こんなずぼらなやつですが、最後までお付き合い願えたら幸いです。

ご精読、ありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ