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「オラァ!どかねぇか!ぶち飛ばされてぇのか!」
男とその集団はファミレスに入るや否やいきなりそう怒鳴り、やたらめったらものを蹴飛ばし破壊しながら席に着く。
「こらぁ!とっとと注文来いや!」
まあ、えらい有様である。他の来店客や店員は、そのヤンキー集団の暴挙を止めることはできず、ある人は食事を中断し、店の隅により、ある家族は子供が泣かないよう必死で静かにするようなだめていた。
この周囲の人たちのリアクションは至極当然といえる。何せこの集団はこの町でも凶暴凶悪で名をはせる、『ドン・ペリ』なのである。
犯した罪は数知れず、この世界における警察である治安部隊が取り押さえようにも、その治安部隊をぶちのめし、半年間の病院送りにしてしまう。誰も手の着けようがないのである。
少しでも気に食わないことがあれば女子供容赦なく手を挙げるので(しかもすぐ機嫌が悪くなる)、こいつらを見た瞬間、周囲の人たちは半径二十メートル以上は距離をあける。
ただ、中には例外もいるものなのである。
「あ~ぁ、物語の始まりからこんな荒っぽくて大丈夫なのかねぇ?」
「え~、いいんじゃない?別に。」
「それにしても、ジャイアニズムの権化のような人たちですね。」
「うるせーヤロー共だ、ったく。」
この、だれが見ても逃げるという選択肢をとる、泣く子も黙るこの状況で、のんきにデザートを突っついている四人組がいた。あまりに堂々としていたので、それまで誰も気づいていなかった程だ。
ドン・ペリのボスらしき男は立ち上がり、その四人組がいる席へと向かう。身長は優に二メートルを超えるような大男である。普通ならどうしようもなく怯えてしまうものなのだが・・・
「おい、おめぇら、何やってんだ。あぁ?」
「何って、見ての通りデザート食べてるんだけど。迷惑だった?」
物怖じ一つすらしていない。
「それにしても感心しないよね。ここに入ってくるなり中のもの破壊して、ちゃんと弁償できんの?それに、他の来店客をあんな隅に寄せて何様のつもりなんだか。ぱっと見、もうすぐ成人しそうに見えるけど、まだガキ大将やってんの?さすがに滑稽なんだけど。」
普通ならこんなことは言えない。絶対に。案の定、ボスらしきその男は今の言葉でプッツンきてしまったようだ。その様子を見て、四人組の冥福を祈る人まで現れた。
「ちょっと、ルイン。見るからに荒っぽそうなやつをそんな馬鹿にしちゃダメでしょ。」
「まあ、そうなんだけど。でも嫌いなんだよね。こういう威張り散らすことにしか能がない奴ら。」
「てめぇら、ぶち殺す!」
ついに男が最大限にまでキレた。懐からナイフを取り出し、ルインに向かって振りおろす。しかし、ルインはそれを見もせずに左手で止めた。右手では、自分のデザートである、バニラアイスを食べながら。
「ちょっと待った。今デザート中。相手ならその後でするから。なかなか食べないんだよ。バニラアイス。」
自分よりも二回りも小さい相手に、片手で難なく自分の攻撃を受け止められ、しかもそれを振りほどくこともできない。信じられない光景にボスらしき男以下、その場にいた全員が目を疑う。
「お前さあ、確かに腕力はあるみたいだけど、全然孔が使いこなせてないよね。そんなんじゃ僕にけが一つ負わせられないよ?」
「何だと?」
「今のこの状況からわかるでしょ。自分よりもはるかに弱そうな奴に腕つかまれて、何一つ出来てないんだから。というか、片腕掴まれてるんだったら、普通蹴りなり何なり反撃するでしょ。正直戦闘の経験とかほとんど無いんじゃない?」
その言葉に触発されたからなのか、それともそのとき初めて気づいたからなのか。ボスらしき男はもう片方の手で殴りにかかる。
だがその前に、
「でもそれはしない方がいいよ。そんなことしたら、お前が僕を攻撃する前に、この腕の骨折るから。とりあえず、みんなが食べ終わるまで待っててくれないかな。さっきも言ったけど、相手ならちゃんと後でするし。」
鋭く睨まれ、男は動きを止める。まるで、ヘビに睨まれた蛙のようだ。その状況のまま数分がたち、四人組全員がデザートを食べ終えた。
「さて、と。じゃあ、ここじゃ迷惑かかるから、外でやろうか。」
「おい、待てよ。」
「何?グロウが相手するの?」
「おう、久々だ。オレにやらせろ。」
「やれやれ、血気盛んだよね。グロウは。というわけで、こっちが相手するみたいだけど、それでも構わないかな。」
まるで、合コンで何かと仕切りたがる男が、お目当ての彼女に話しかけるような感じである。思いっきりなめられていることを肌で感じていた男は、精一杯凄んでくる。
「てめーら、全員地獄で後悔させてやる!」
「おぉ怖。まあ、がんばって。」
そう軽く受け流し、ルインは立ちあがった。見るとその左腰には刀が携えられている。ルインだけではない。グロウと呼ばれる男(こいつも結構体がでかい)の手にもハンマーが握られている。他の二人、眼鏡をかけヘッドホンをつけた、いかにもパソコン大好きそうなオタ系少年と、まるで水兵帽のような帽子をかぶった普通の女の子は何も持っていないようである。
店の外に出たグロウとボスらしき男は、お互い向き合う。
「おい、おめぇそのハンマーは使う気なのか?」
「あぁ?別にどっちでもいいだろ。てめーの強さを見てオレが決めっからよ。」
「ふん、おめぇはそのハンマーを使わずに」
男は突進してきた。
「死ぬことになるけどな!!」
そしてその大きな拳で殴りかかってくる。瞬間、その手の中から釘のようなものが現れ、それをグロウの眉間に叩き込んだ。野次馬たちから悲鳴が上がる。
「うわー、せこーい。」
「そういっちゃ悪いですよ。アコさん。あのナイフはどうやらああやって使う隠し武器のようですから。」
「でも、あれだけ図体でかいくせに、そんな攻撃しかしないなんてせこくない?」
「まあ、いいじゃないですか。そのせこい武器をくらって、倒れるようなグロウさんではないんですから。」
その言葉通り、ナイフはグロウの眉間に確かに命中しているのだが、全く突き刺さっていない。
「なんでえ、期待はずれなことしやがって。おまけにこんなもん使ってこの威力かよ。情けねえにも程があるぜ。」
グロウの眉間からナイフが離れる。そこには、一滴の血も流れていない。反対に、男の指は殴った反動で折れていた。
「がっ・・・・あああ!?」
「ルインが言った通り、てめーまったく孔を使えてねえな。そんな奴にこいつを使ったら殺しかねねぇから、これで我慢してやる。」
そういうとグロウはハンマーを置き、軽く一発男の頭にこぶしを当てた。
本当に、軽く頭をこつん、と小突いただけである。しかしその瞬間、男の体は数メートル先まで吹き飛ばされた。
「グロウ、やりすぎ。」
「あ?力は抜いたぞ?」
人々があっけにとられている中、突然悲鳴が上がった。見ると四人組のうちの残りの二人が羽交い絞めにされている。羽交い絞めにしているのはドン・ペリの一味のようだ。
ただ、悲鳴を上げたのは二人ではなく、野次馬の中から上がったようである。
「動くんじゃねえぞ、てめぇら。このお仲間の首が飛ぶことになるぜ。」
ルインとグロウはおとなしく動きを止める。その顔はいたって平然としている。その理由はすぐ分かった。
まず、アコと呼ばれる女の子を羽交い絞めにしていた男が吹っ飛んだ。そして、メガネ君を羽交い絞めにしていたやつは、バヂッ!という激しい音とともにくずれ落ちる。
「残念でしたね。確かに、僕らはルインさんやグロウさんのように戦うことはしませんが、それでも護身用の技は持ち合わせているんですよ。」
「ツェル。もう気絶しているみたいよ。何言っても聞こえないって。」
この様子を見ていたほかの一味は、もう近づこうとしなかった。
さっきまであんなに自分たちがおびえていた集団が今、四人の手によってあっさりと倒された。まるで幻のようである。
「さてと、じゃあ治安部隊でも呼んで退散しますか。」
「さんせ~い。」
そして携帯をとりだし、治安部隊に連絡を入れた後、きちんとお勘定を払って四人は退散した。後には、あいつらはいったい何者なんだと囁いている人達だけが残された。
さて、ルインが言ってたように、いきなり荒っぽく始まったが、とりあえずこの世界のことについて、いくつか説明をしておく。
ここは、『イーセ』と呼ばれる世界。正直、街並みを見る限りは、道行く人の格好が割かし変な感じがすることを除けば、この地球のこの日本の風景と見分けがつかない。
ただ、この世界は決定的に違う部分がある。それが「孔」である。
孔とは何なのか。実はこの世界でもよく知られていない。ただ、孔とは精神力みたいなものなのではないかという考えが一般的である。他にも、知られていることを挙げておく。
孔は、この世界に生きる全ての人に宿っている。
孔は、鍛えることにより強くなるが、孔の絶対量を増やすことはできない。また、孔の絶対量は生まれながら人によって違う。
孔の使い方次第で、色々なことができる。例えばグロウがやったように、軽く小突いただけで相手をふっ飛ばしたりできる。
他にも、孔を武器にまとわせて、武器から炎や電撃を出すことも可能。ただ、その人が持つ孔と技とは相性があり、武器から炎が出せるからといって電撃が出せるとは限らない。というか、そういうことができる人は稀である。
あと、『イーセ』についてもいくつか説明を。
このイーセでは、冒頭で行われた物騒なやり取りは、実はそこまで珍しくない。
前に書いてあるように、この世界全ての人に孔は宿っているので、それを使って悪事や横暴を働く人間がいるのだ。
また、この世界では武器の携帯は結構一般的である。だからルインが刀を所持していても、銃刀法違反で捕まることはない。
こう書くと、この世界はさも弱肉強食、物騒で、危険だらけのように見えるが、そうでもない。なぜなら、この世界の住民はなんかタフというか、死に至ることが少ないのだ。なぜかと聞かれても答えることはできない。だってわからないし。
さらに、孔を悪用してちゃらんぽらんしている馬鹿なヤンキー共よりも、はっきりと自分の正義と戦う意志を持っている人間のほうが、圧倒的に孔が強かった。
それゆえに、孔は精神力のようなものではないのかという説が挙がっているのである。
え?じゃあ、なんでさっきの『ドン・ペリ』の奴らは恐れられていたのかって?それはこの町『キブ』はのほほんとしていて、基本的に争い事とは無縁の生活を送っているからである。
よくいえば温厚、悪く言えば軟弱なこの町に、一部の人たちから有名な四人組がいた。
それがさっきのルイン、グロウ、アコ、ツェル(本名はツェリライ)である。
この四人は普段は郊外に住んでいるため、あまり存在は知られていないが、先ほどのような圧倒的強さを持っているため、知る人ぞ知る最強の四人と呼ばれ、畏怖されているのだ。
ただ、畏怖されているからといって、四人が何かと番長風を吹かせたり、子分を従えるなどということはしない。そんな事をする柄でもない。そんなわけで最強とうたわれながらも、四人はのほほんと日々を過ごしていた。
因みに、先ほどアコとツェルを羽交い絞めにしたやつらが倒されたのは、アコの方は孔で吹き飛ばしたのだが、ツェルのほうは違う。彼はその見た目に違わぬ機械系で、自分のどこかに仕込んでいるスタンガンのようなもの(でも発せられる電圧はその比ではないが)で感電させたのだ。
ただこれもどうやらツェルの孔に反応して作動するようなので、やはり孔のおかげなのかも。
まあこんな四人なので、四人の周りには本人たちの意思に関係なくしょっちゅうトラブルが起こる。
一人を除いてその状況を好ましく思っていないので、基本的に外に出ることはないという軽いひきこもり状態の生活を送っている。ただ、そんな生活を送っているせいで余計に噂が噂を呼び、畏怖されている感は否めないのだが。
というわけで、ルインは久しぶりの外出から帰ってきた。
「ただいま、大家さん。」
「あら、お帰りなさい。ルインちゃん。どこ行ってたの?」
「いつも言ってるけど、そのルインちゃんっていうのやめてくんないかな?ちょっと久しぶりに皆でファミレスに行ってただけだよ。」
「あんたたち、出不精すぎるのよ。もう少し外の空気を吸いなさい。」
「そんなこと言ったって。外に出たら出たで、何かしら問題が起きるんだもん。現に、今さっきだってヤンキーに絡まれてきたばっかだし。出不精にもなるよ。そんなことより、その手紙は?」
と、ルインは大家さんが手にしている手紙について尋ねる。
「これねぇ、ちょっと見てみる?」
そう言って渡された手紙の文面は、大体こんな感じだった。
『ここら一帯になんかよくわかんない研究施設と工場を建てるから、このアパートを引き払え。立ち退き料は払う。(文章大幅要約)』
「ふ~ん。ここに工場ねぇ。」
「まあ、私も老い先短いからこれだけのお金をもらえれば楽に生活できるけど、やっぱり長いこと生活してきた場所だからね。」
「思い入れはあるよね。やっぱり。それよりこれ、このアパートの住民について何も書かれていないんだけど。」
「そりゃあんたね。十四、五年前にひょっこり現れて突然居候し始めた人間のことなんか勘定に入るわけないでしょ。家賃もほとんど払っていないのに。実際、何の手続きもしてないからあんたは正式な入居者じゃないよ。」
そう、ルインは十四、五年前、どこからともなくこのアパートの前に現れた。
その時のルインは以前の記憶がなく、当然身寄りもない行くところもないところをこの大家さんが拾ってくれて、以来ろくに働きもしないこの青年の面倒を見てくれているのだ。
「え~~?でもまあそれは一理あるかも。となるとこのアパートは入居者ゼロか。向こうも遠慮なく立ち退けと言ってくるわけだ。」
「そうなの。どうしたらいいかしら。」
「う~ん、・・・よしわかった。十数年間世話になってきたんだから、この問題は引き受けた。」
「いいのかい?」
「ノープロブレム。任せてよ。」
「それで?早速僕に連絡してきたわけですか。」
「そゆこと。」
「それって大家さんに言った『任せてよ』という言葉と矛盾する気がするのですが。」
「そんなことないよ。だって『任せてよ』の前に、『僕に』って言ってないもん。つまり、僕がだれに頼ろうと、それは自由だということさ。そんなことより、何?このハマチテラニクスって。」
「ハマテチラニックスです。最近開発された超合金ですよ。摂氏二千度で熱すれば容易に変形し、加工がしやすいという半面、反対に冷やせばレニウム並みの高度を誇るとされています。近年、この超合金を使った新しい軍用兵器も開発されるんだとか。」
「れにうむ?」
「自分で調べてくださいね。説明はしませんよ。」
「ケチ。」
「まあとにかく、今科学においてこの超合金は注目の的です。その会社も、何としても研究に着手したいんでしょうね。」
「ふ~ん。それで?どうすればいいわけ?」
「別にどうする必要もないですよ。ただ普通に断ればそれで終わりです。ただ、悪質な業者は嫌がらせをして、半ば強制的に立ち退かせることもありますけどね。そちらのほうは心配する必要はありませんよね。」
「もち。そんなことしたら地獄で後悔させてあげるだけだからね。わかった、じゃあ今のところは特に何もする必要がないってことだね。じゃあ、また何かあったら連絡するよ。」
「また?」
「うーん、なんとなく『また』があるような気がするんだよね。」
「根拠は?」
「無い。でもなんとなくやな予感がするってだけ。」
「はあ・・・まあとにかく、一旦はそれで落ち着くと思いますので、心配する必要はないと思いますよ。それじゃ。」
「さんきゅー、感謝します。今度お礼するから。」
「この間、二千セラ(この世界の通貨のことね)を貸した時にもそんなこと言いましたよね。でも、お礼された記憶は全くありません。さらに付け加えるとまだ返してもらってないはずですが?」
ブツッ。
「・・・・・・・・・・・。」
ルインは今の話を大家さんに聞かせ、一旦は事の終息を見た。
ただ、悪い予感は当たるというもの。当然、これで終わりになるわけがない。
その翌々翌々日の朝、つまり四日後の朝。
ルインはいつものように目を覚まし、自分の部屋がある二階から一階の大家さんの部屋に行く。そこでいつもコーヒーをねだるのが習性なのだ。
だが、そこに毎朝いるはずの大家さんの姿がない。いないだけならまだしも、開け放たれ、中身が散らばった戸棚。机の上の食器類も割れている。
これは、明らかに部屋が荒らされたあとだった。
ルインはしばらくその光景を眺めていた。そしてキッチンに向かいいつもは大家さんが淹れてくれるコーヒーを自分で淹れる。自分で淹れたコーヒーはいつもより味が薄い。
「やっぱ大家さんが淹れてくれたコーヒーじゃないと飲みごたえがないな。」
そう独りごちる。
しっかりと飲み干してからキチンとシンクの中にカップを入れる。ここあたりは大家さんの躾が行き届いている証拠である。
そしてルインは自分の部屋に飛び戻り、即刻ツェリライに電話する。
「ツェル、大変だ。大家さんが攫われた。」
「え?なんですって?大家さんが攫われた?」
「さっき大家さんの部屋に行ったら部屋が荒らされてて、いつも必ずいるはずの大家さんの姿がない。」
「なるほど、下手人はタイミングから考えて例の件で立ち退きの要求をしてきた会社なんでしょうね。」
「まず間違いないと思うな。やれやれ、よりによって僕の前でそんな愚行を犯すとはね。」
「その前にまず一番近くにいたルインさんがまっさきに気づくべきだったと思うんですけど。」
「寝てたんだからしょうがない。」
「・・・・・。それにしても、その会社は研究開発社の風上にもおけない低俗企業ですね。同じ立場に立つものとして腹立たしいものがあります。」
そういやここまで書き忘れていたが、ツェリライは齢17ながら研究者である。ルインとは違い、ネットワーク上で何か色々と仕事をしているらしい。
さらにお手製のメカを作り上げ、それをネットで販売することもしている。つまりルインよりはるかに立派に自立生活を送っているのである。
ただ・・・
「そもそも、自分たちの研究のために無関係の人間を巻き込もうとしているところでまずアウトですよね。ハマテチラニックスは人工の超合金なんですから場所はどうとでもなるはず。それをやりやすい場所があるからそこに住民がいてもお構いなしというその精神は恥ずべきもの。研究とは開発とは常に人のためにあるものですから、開発のためというふざけた大義名分を振りかざしてなんでも手に入れようというジャイアニズム精神を持ったキチガイは早々に消え失せて欲しいものです。開発を商売としか見れない人間は哀れでしょうがありません。もっと視野を広げればそこには無限大の可能性が広がっているというのに、それなのにああいう組織はすぐ目の前にある金と利益のことし――――――――
でしょう。そう思いませんか?」
そう、彼は研究開発というものに、そして知識を持っている自分に大きな誇りを持っている。
回りくどく着飾った書き方をしないで簡単に書くと、ツェリライはタカビーなナルなのである。
ツェリライが演説を繰り広げている最中、ずっと受話器を放り出していたルインは、ツェリライの話が終わったことを直感で感じ取り(ルインは直感が鋭いのだ。なぜか)、適当な相槌を打つ。
「あーうんうん、そうだね、その通りだと思うよ。」
「・・・やはり聞いていなかったようですね。」
「イヤイヤソンナコトナイッテ。チャントキイテタヨ―。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「いやごめんって。僕は難しい話わかんないから。そんなすねないでさ。ねっ?」
「別に拗ねてはいませんが。それで、どうするつもりなんですか?」
「それは聞くまでもないことでしょう。僕から朝の有意義なコーヒータイムを奪ってくれた悪の秘密結社にお礼してあげるだけだよ。」
「当然そうなりますよね。でも勘弁してくださいよ。この前のような事態引き起こしたら、今度こそ禁固刑を喰らうことになりますよ。」
ルインは以前コンビニを占拠したヤンキーグループを崩壊させたことがあるのだ。
相手は孔が扱えてその上武器持ちだったのだが、グロウと二人で正面突破を敢行し、誰ひとりとして死人を出すことなく事を終えた。
まあ最もそのヤンキーグループは一番軽いやつで全治三ヶ月だったらしいが。
おまけに店内もかなり凄惨な風景に変わっていたため、警察にかなりこってりと絞られることとなった。
「大丈夫だって。今度は手加減するよ。おとなしく殲滅されてくれればね。」
「大丈夫と言っておきながら早々に暴走フラグを立てるのはやめてください。穏便に頼みますよ本当に。」
「了解!!」
「大丈夫なんですかね・・・。」
この一連のニュースに不安は多々つのれど、こうしてルイン、ツェリライ、グロウ(アコは話を聞いてすぐ撤退した)のお三方は、大家さんを攫っていったと思われるエレクトンゴーダツカンパニーへと向かっていった。
「しかしあれだね。」
敵陣、じゃなくて本社へと向かう道中、ルインが切り出す。
「なんでまたわざわざ誘拐なんてヘンテコな真似したんだろうね?」
「それはてめーが住んであるアパートが邪魔だったからだろ?」
「いや、それでもおかしいでしょ。一応誘拐は犯罪行為なわけで、それが露呈した時ハマなんとかの制作なんて言ってる場合じゃなくなる。そんなことも分からない馬鹿じゃないと思うし。ツェル、敵企業ってどのくらい大きいの?」
「そうですね。大企業と言い切るには少し語弊がありますが、ここ数年の成長率は著しいですね。まあ準大企業といったところでしょうか。」
「じゃあそのくらいの企業なら金で釣り上げて色々ともみ消すことができると思う?」
「その色々がどのくらいの物かによりますが、大抵の事象ならなかったことに出来るかと。しかし、それを考慮したとしても、腑に落ちない部分はありますけどね。」
「何が?」
「ルインさんの言うとおり、何も誘拐なんてする必要はありません。ただその辺りにうろついているゴロツキを金で釣り上げればいいだけです。」
「それだと自分らの仕業だってバレると思ったからじゃねえのか?」
「別に釣り上げるのにわざわざ身分を明かす必要なんてありません。そういう連中は金さえあれば動くと思いますし、ただ出て行かせるように毎日周辺で騒ぎ立てるだけですから、特別何か技量が必要というわけでもありません。」
「まあ、確かにねぇ。」
「そもそも、なぜあの企業はルインさんのアパートにこだわるのでしょうか?そこにも納得がいきません。」
「ん~~~~・・・。僕のアパートを狙わなければならない理由があるとか。」
「そういうことになるでしょうね。」
「でも別に僕ん家に特別な何かがあるとは思えないけどなあ。」
「うるせーな。そんなもん奴らに直接吐かせりゃいいだろうがよ。」
「ま、それもそうなんだけどね。」
「本当に、くれぐれもやりすぎには注意してくださいね。あ、到着しましたよ。」
三人は一つのビルの前で立ち止まる。
「悪の秘密結社のアジトにしては、外観普通だね。」
「いやいや、風変わりな外観にする必要はないでしょう。」
「おい、ぐだぐだくっ喋ってねーでとっとといくぞ。」
いきなり襲撃に行こうとするグロウをツェリライが制する。
「待ってください。その前にまずこれを持っておいてください。」
そう言ってツェリライが渡したものは、各個人の顔写真の載った一枚のカードだった。
「なにコレ?」
「治安部隊の隊員証です。もちろん偽造物ですが。急ごしらえで作成したものなので、精密に検査されれば一発で偽物だと看過されてしまいますが、少なくとも一般大衆の目を欺くことぐらいは簡単にできます。」
「よくまあこんなものを作ったね。ちゃんと見る角度を変えたら模様が変わる仕掛けも作ってあるし。」
「その程度の玩具なら一晩で作成できます。」
「で?コイツでどうするつもりなんだ?」
「まず第一に、大家さんを誘拐した黒幕がここであると確定できないことがあります。」
「え?タイミング的に間違いなく真っ黒だと思うけど。」
「その点に関しては同意しますが、逆に言えばその状況証拠しか存在しません。もし偶然このタイミングであのアパートに強盗などが入ったという可能性もありますから。」
「ずいぶん都合いい偶然だな、オイ。」
「ですが、直接証拠がない以上、ただ押し入ったところで白を切られたら手も足も出ません。それどころかこちらが悪人にされてあのアパートは完全に向こうの手に落ちるでしょうね。」
「だから、治安部隊の振りして中に入って証拠を見つけると。」
「そういうことです。お二人は何も話さなくて大丈夫ですから、僕に任せておいてください。」
「わかった。じゃあ、潜入しますか。」
三人はビルの中へと足を踏み入れていった。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で――――。」
受付係が皆まで言う間もなくツェリライは異常なまでにカウンターに近寄り、さっきの偽造隊員証を見せる。
「お手数をおかけして申し訳ありませんが、責任者の方はいらっしゃいますか?」
「え?あ、はい。かしこまりました。少々お待ちください。」
戸惑いながらも電話を手にとり連絡を取る連絡係。
その戸惑いは、なぜ治安部隊がここへ来たのか、それともツェリライがやたらと近づいてきたから警戒したのか、はたまた見た目的に本当に治安部隊なのか訝しんだのか、それは誰にもわからない。わからないが連絡は取ってもらえたようだ。
少しして社員がやってきた。案内されるままについていく三人。ルイングロウの二人は今のところおとなしくついてくる。
やがて重厚な扉に通され部屋に案内される。
「こちらで少々お待ちください。」
そして三人が残された。
やがて扉が開き一人の男が現れた。
「お待たせいたしました。」
相手が入ってくるや否や偽造証明証を提示するツェリライ。
「こちらは治安部隊捜索係課長のツェリライといいます。後ろは部下のルインとグロウです。」
「ああ?誰がぶっ!」
突っかかろうとするグロウを瞬間的にルインが抑えた。相手はそこまで怪しまなかったようだ。
「私はエレクトンゴーダツカンパニー専務のスナッチと申します。この度はご苦労様です。それで、一体どんなご用件でしょうか?」
「いえ、今一つ誘拐と見られる失踪事件が起こっていましてね。失踪したのはアパートの大家を勤めている方で、先日の朝頃に住民から通報が来たんです。どうやら一切住民に気づかれることなく事を終えたようで、犯人の姿を目撃したという情報は今のところ挙がっていません。そこで犯人が逃走したと思われるエリア近辺の情報を集めているのです。」
単刀直入に切り出すツェリライ。
「そうなんですか。ご苦労様です。しかし、なぜまた誘拐だと断定できたのですか?ただの失踪だけでは誘拐だと言い切れないのでは?」
「はい、その通りなのですが、住民の通報によると被害者が毎朝いる部屋が異常に荒らされていたため、誘拐である可能性が高いと見て捜査しているのです。」
「そうですか。ですが、先ほど犯人は住民に気づかれることなく犯行を成し遂げたとおっしゃっていましたが・・・」
「ええ。それはどうやら住民がそれだけの騒ぎが起こったにもかかわらず目を覚まさなかったことが原因であるようですね。こう言っては通報された方に大変失礼ではありますが、捜査する側としては騒ぎに気づいてすぐに通報してもらいたかったものです。」
非常に当て付けがましい台詞に、思わずルインが口を挟む。
「ま、まあまあ課長。通報者も眠かったんでしょうし、過ぎたことを愚痴っていてもしょうがないでしょ?今は情報を集めましょう。ねっ?」
「・・・・・・まあそういうことにしておきましょう。そのような事情により、貴社にも協力をお願いしたのです。」
「そういうことでしたら喜んで協力いたしましょう。」
「それでは早速質問させていただきます。 貴社は誘拐犯を匿っていませんか?」
「!?」
あまりにも唐突にどストレートに直球質問をぶつけたツェリライに、場の空気が一瞬凍る。ルインもグロウも驚いたようだ。
「・・・・それは一体どういうつもりですかな?」
「額面通りに受け取ってもらえば結構です。」
「つまりわが社がその誘拐事件の黒幕であると疑っていると解釈するのが正しいということですかな?」
「少し違いますね。若干ながらあなた方が黒幕であるという可能性があると考えているというのが正しいです。」
「質問に質問を返すようで失礼だが、そう考えられた根拠をうかがっても?」
「通報された住民の話によると事件発生の数日前、貴社が新しい工場の建設計画を立て、件のアパートを引き払ってほしいと通知を送ったそうですね。それに対する被害者の対応はNOだったそうで。」
「ええ、確かに我々はそのような通知を送り、ありがたいお返事をいただくことはできませんでした。ですがそれは我々の勝手ですから。また新たに工場建設の計画を企画しようと考えているところです。まさか、あなたはたったそれだけの理由で我々を疑っているのですか?」
「いえ、いくらなんでもたったそれだけの証拠とも言えないようなもので犯人だと決めつけるほど無粋ではありません。
ですが、私たちの調査では事件前のそれらしい接触といえばこの一件しかなかった。証拠ともいえない細い藁にすがるしかない。それだけ私たちは情報に飢えているのです。
不躾な質問をしたのは、私は回りくどい質問を繰り返すのは不得手でして、最初に私の意図を汲んでいただいたほうが後の質問がスムーズに流れるという私の自論によるものです。
ですので、不愉快な思いをさせてしまうようで申しわけありませんが、質問にお答えいただけたら幸いです。」
笑顔でそう返すツェルライに、若干訝しがりながらも応じる。
「そういうことでしたか。こちらこそ失礼な対応をしてすみません。さらに申し訳ないのですが、その御質問にもNOと言わざるといえませんね。」
「いえ、私が今までにそういった質問をした方の中には激昂して追い出そうとした方もいましたから。お気になさらず。そうですか、わかりました。後は形式的な質問をいくつかさせていただきます。個人的な嗜好の質問もありますが、答えてくださるとありがたいです。」
「わかりました。」
「それでは―――――」
そして数分がたち、グロウとルインの二人が大分退屈してきたとき、ドアと床の隙間から何か紙のような薄っぺらいモノが入ってきた。
しかしそれは、明らかに風で動いているとは思えない(そもそも部屋の窓が開いていない)動きでするするとツェリライの元へと漂ってきた。あっけにとられている相手をしり目にツェリライはその紙を手に取り、身につけているヘッドホンに張り付ける。
しばらくその状態で固まっていたが、やがてその紙をはがして懐へ戻した後、質問を再開した。
「すみません。お待たせいたしました。それでは最後の質問です。」
わざとらしく間をおいた後、最後の質問をした。
「このビルの地下に、巨大な研究施設、さらには危険工作物製造法に違反するほどの大型で強力な機械や兵器の類を所有していませんか?」
その質問に、相手は再び固まった。
「なんだ?その危険うんちゃら法ってのは?」
「確か、許可なく規定外のパワーや大きさがある機械とか、大量に人を殺傷できる兵器類を製造・保有したらダメっていう法律じゃなかったっけ?」
「その通りです。それで、まだ回答をいただいていませんが、YESかNOでお答えいただきたい。」
相手は固まった状態のまましばらくそのままでいたが、やがて誰が見ても作り笑いだろと突っ込まれそうなぎこちない笑みを浮かべ、答えた。
「い、いやあ突然何を言い出すかと思えば。そんなもの所有しておりませんよ。」
「とぼけてもアシは付いているんです。先ほど僕の手元に戻ってきた紙のようなもの。あれは僕の制作物で、指定したエリア・建造物をくまなく探索し情報を収集するものでして、『ディテクトリー』と名付けています。」
「ああ、なるほど。最初にやたらとカウンターに張り付いたのは受付のお姉さんをナンパするためじゃなかったわけだ。」
「ええ。ディテクトリーを張り付けるところを誤魔化すためです。というか、僕は生まれてこのかた一度もナンパなんてしたことありませんが?」
「んで?その調べた結果は?」
「文句なしのギルティーです。地下に巨大な研究施設を発見しました。中には随分といかがわしく素敵なものがずらりと並んでいましたね。というわけです。おとなしく認めてくれませんか?」
いきなりの急展開に、スナッチは動揺を隠せず言い返す。
「き、貴様たち、ロクな証拠もないのにそんな家捜しみたいな真似が許されると思っているのか?」
「ええ、治安部隊としては思い切り違反ですね。でも関係ないんですよ。なぜなら僕たちは治安部隊隊員ではありませんから。」
「何?」
「最初に掲示したあれは偽造です。僕たちはもとより治安部隊と何の所縁もありません。」
「それって思い切り身分詐称してますってカミングアウトしてるのと同じだけどね。」
「構いませんよ。こちらの方がよほど大きな違反を犯しているわけですし、そもそもそんな小さなことを気にするような二人ではないでしょう?」
「まーね。それで?大家さんは?」
「いましたよ。地下牢に収容されています。他にも人の姿がありましたね。もしかしなくても本物の治安部隊が動いているでしょうね。」
「てことはだ。とっとと済ませてずらかった方がいいということか?」
「そうなりますね。今回もまた色々とやってますから。」
「でも今回のはツェルが単独で違反してんだからノータッチの僕らは安全圏だね。」
「何のんきなこと言っているんですか。違反だと知っていてそれに乗ったということは、思い切り共犯じゃないですか。」
「あ。」
「それに、今から思い切り暴れるんでしょう?」
「あ~~~~。」
「だからとっとと済ませようぜ。」
「ま、そだね。で?そこの幹部さん。おとなしーく降参してくれるなら手荒なことをするつもりはないけど?こちとら別にここを潰そうと画策しているわけじゃないし。どする?」
と、ここまでほったらかしにされ続けてきたスナッチはしばらく顔を下げ続けたままだが、やがて肩を揺らし始めた。
「なんだ?頭のネジでも外れたか?」
「いや、それはもともと外れてたでしょ。見た感じだと余裕の笑いって感じがするけど。」
スナッチは肩を震わせながら答える。
「ああ、そうだ。おかしくてたまらないのさ。
――――――たった三人でこの堅牢な城に突っ込んできた愚かさがな!」
その言葉を合図に、扉から一斉に武装した集団が押し入ってきた。
「人数は大体15人ってとこかな。」
「正確には17人ですけどね。」
「・・・いや、せっかく少しかっこつけたのに揚げ足取らないでよ。」
「なんのことですか?」
「おいこらテメーら、だからいつまでくっ喋べってんだよ。とっとと構えろよ。」
「ほいほ~い。」
既にハンマーを構えているグロウに促され、ルインも刀を抜く。その様子を見てスナッチは悲しそうに肩を振る。
「やれやれ、これだけの武装した兵士を前に戦えると思っているとは。可笑しさを通り越して哀れみを感じるよ。」
「数の暴力というやつですねわかります。でもぶっちゃけそんなにご親切に負けフラグ立てちゃうような奴が本気で勝てるなんて思ってる方が哀れだと思うけど。」
「ふん。せいぜいあの世でほざいてるがいいさ。かかれ!」
「いやだからそれ負けフラグだってば。」
とルインが言い終わらないうちに一斉に襲い掛かってくる。
その5.57秒後には全員が吹き飛ばされ倒されていた。
あっという間にスナッチ一人となり、茫然と立ちすくむ。
「ほーら、言った通りになった。で?もっかい聞くけど、どする?」
「ぐっ・・・!」
そして扉の奥に姿を消した。ルインたちもすぐにあとを追ったが、すでにその姿はない。
「あの野郎。どこ行きやがった?」
「多分ツェルが見つけた地下施設だろうね。」
「つってもこの廊下は結構な長さがあるぞ。今の時間だけで角まで行けんのかよ?」
「それは恐らく・・・・あ、ありました。」
と、先ほどから壁に張り付いて移動していたツェリライが声を上げる。そこはぱっと見は何の変哲もない壁である。
「あ?何があったんだよ?」
「こういうことですよ。」
そう言い、ツェリライが壁を叩くと壁が反転し、奥に通路が現れる。
「なるほど、隠し通路ね。」
「ええ、恐らくこういう事態が生じた際に最短で地下に行けるように直結した通路を用意していたのでしょう。」
「それはつまり、敵さんはそのいかがわしく素敵なガラクタによほど自信があるということだね。」
「そういうことになりますね。では行きますか。」
「おい、なんでこの通路がガラクタの自信につながるんだよ?」
「あー、はいはい。移動しながら説明するから、とにかく行くよ。」
そして三人は通路の中に入って行った。
「うわ!」
「うお!!」
「ひでぶっ!!!」
隠し通路を猛烈な勢いで滑り下りて行った三人は勢い良く外に投げ出される。
「痛たた・・・まさか中が滑り台だったとはね。てっきり梯子だと思ってた。」
「僕も同じです。誤算でした。」
二人が地面に衝突した痛みで座り込んでいる中、グロウだけはなんてことないように立ち上がる。
「おいコラ、いつまでも座り込んでんな。」
「わかったよ。スパルタだね、全く。それで、なんで隠し通路がガラクタの自信の証明になるかの説明だったよね。ツェル、よろしく。」
「僕ですか?ルインさんがすればいいのでは・・・」
「やだなあ、せっかくだから説明役というおいしい役どころを譲ってあげてるんじゃないか。」
その言葉にツェリライは不服そうながらも説明を始める。
「いいですか。隠し通路というのは、その名のとおりその存在を隠していなければなりません。そうしなければ隠す意味がなくなりますから。ここまでは大丈夫ですよね。」
「いいから続けろ。」
「随分と偉そうですね全く。
まあ、そういうことですから本来隠し通路は部屋の片隅など、目立たない場所に仕掛けられていることが多いんです。なぜなら、そうしなければ後から追ってきた敵にすぐその存在を察知されてしまいますから。ましてやあんな何もない廊下のど真ん中に仕掛けるなんてアホです。愚の骨頂です。
ですが、連中もそんな馬鹿ではないでしょうから、あれは敵をおびき寄せるための罠。
そんな罠を仕掛けた理由を考えれば、先ほどのグロウさんの疑問の回答になるでしょう。」
「つまりあいつらは俺たちをここにおびき寄せて一気に潰してやろうと企てているってことか。」
「そういうことだよ。愚かな火の虫諸君。」
高笑いとともに偉そうな声が響く。
「今まであの罠にかかって無惨に散っていった虫たちは多数いたが、君たちのようなタイプは初めてだ。まさか罠と知りつつかかってくるとはな。なかなか面白い体を張ったギャグじゃないか。」
「偉そうに能書きたれてないでとっとと名乗れ。あと首上げんのだりぃから降りてこい。」
グロウがいかにもかったるそうに言い放つ。その言葉を聞いて、聞きなれた声が飛んできた。
「貴様!なんという無礼を!この方はこのエレクトンゴーダツカンパニーの代表取締役であるぞ!」
「まあまあ、落ち着きたまえスナッチ君。彼らの言うことも最もだ。」
「いつまで古くせぇお代官劇繰り広げてんだよ?とっとと名乗れってつってんだろ。」
グロウはそろそろイライラしてきている。あとルインも。
「同感だね。で?さっきの会話から察するに、あんたがここの社長さん?」
「いかにも。私がこのエレクト・・・」
「肩書き省略!あとやっぱ名前もいいわ。なんとなくわかったから。」
「ほう?言ってみたまえ。」
「ゴーダツ。」
そっけなく答えたルインに、相手からの返事はない。
「げ!まさか図星?自己陶酔の塊みたいなやつだから、もしかすると自分の名前会社に使ってんじゃないかなと思ったんだけど。うわ~、流石にイタイわ。」
突如始まるルインの『口』撃に、相手は口を挟むことをしばし忘れる。
しかし、ルインのターンはまだ終了していない。
「そもそもさあ、自分のためなら他人の犠牲は当然って思考回路してる時点でイタイっていうか寒いよね。あんたらどこのガキ大将だよ。しかもその中身がもの凄い厨二病臭いし、何?大量のメカを開発して国を乗っ取ろうなんて考えているわけじゃないよね?そういえばまだあんたらの目的聞いてなかったけど、なんでこんなことしちゃったのかな?おいちゃんに教えてチョーダイ。ねっ?」
途中からあからさまに馬鹿にされ、怒りをあらわにしていたが、そこは責任者としてのプライドがあるのか、答えを返してきた。
「無知とは罪である。」
「は?」
「お前たちのことを言っているのだよ。お前が日々惰眠を貪っているあの古びた建築物の下に、どれだけの価値が眠っていると思う?」
「さあ?知らない。」
「教えてやろう。あの辺り一帯の地下奥深くには、大量のイーセントリニウムが眠っているのだ。」
また意味不明な単語の登場に、ルインはツェリライに視線を送る。
「はいはい、わかりましたよ。イーセントリニウムとは、この星に眠るレアメタルの一つですよ。この鉱石をわずか数g足すだけで、ありとあらゆる電子機器やメカのスペックが大幅に向上します。」
「例えば?」
「そうですね。テレビなら画質の向上はもちろん、今よりさらなる軽量化・縮小化が図れますし、ここにある兵器類なら機動性やパワーが比べ物にならなくなります。
これはイーセントリニウムに含まれるノースタンチーと呼ばれる物質が電子回路に作用し、処理能力が格段に向上することにより、それまでに得られなかったスペックを獲得することができるようになるんです。
さらにイーセントリニウムそのものに未だ解明されていないエネルギーが秘められており、その力も作用することにより今までの科学では考えられないような技術を開発することができるようになったんです。
しかしイーセントリニウムは地下深くに眠っており、また発掘できる場所も限られています。故に希少価値が高いんです。」
「なるほど。一言で言えばつまりそのイーセなんとかは超超レアアイテムってわけね。」
「まあそういうことです。よく僕の今の説明をそこまで要約できますね。すごいですよ。」
「すごいと言ってる割には全然感心してないよね?」
「さあ?ご自分で察してください。」
「お前たちはいつまで話しているつもりだ?」
上から半ば呆れ、半ば苛立ちを含んだ声が聞こえてくる。
「ああ、ごめんねボッチにして。で、それを掘り起こしたいから邪魔なものは排除すると。」
「否定はせんさ。」
精一杯ふんぞり返って答えたが、その返事に再びルインの口が火を吹く。
「なんだ。結局ただのわがままガキ大将じゃん。お前ん家に俺の欲しいもんあるからそこをどけつってんでしょ?で言うこと聞かなかったら武力行使でどかすとか。
まさしく精神がお子ちゃまのままなキチガイってやつだよね。『体は大人、頭脳も大人、でも精神はガキンチョ』みたいな。
さらに付け加えるにそう言う奴は自覚なしで自分のやっていることが絶対に正しく正義だなんて思い込んでるから始末に負えない。」
「さらにさらに付け加えさせていただくと、イーセントリニウムは先ほど述べたように非常に希少価値が高いので、発見・発掘した際はその町の自治会に報告しなければならない義務が存在します。
ですが最近イーセントリニウムが発見・発掘されたという情報は入ってきていませんから、その事実は隠蔽してあるみたいですね。ですから盗賊という呼び名もふさわしいと思いますよ。」
「なんにせよクズってことだろ?どーでもいいじゃねえか。こいつらをいちいち評価する価値なんざねえだろ?」
「同感だね。とっとと終わらせようか。」
ついにはルインだけでなく、ツェリライとグロウまで加担して一斉口撃を仕掛け始める。
ゴーダツはその口撃を受け、限界寸前まで怒りが溜まっているようだ。声を震わせながら脅す。
「貴様達、今の状況がわかっているのか・・・?」
ルインはまるで脅されていると気づいていないかのようにケロッと話す。
「へ?何が?あ、そうだ。一番聞いとかないといけないことがあったんだった。あのさあ、今までの話って地上にいる一般ピープルな社員さんたちは知ってんの?」
「ふん。規定と常識にとらわれた愚かな社員に、この重要な情報を伝えるわけはないだろうが。」
「あっそう。じゃあ地下だけを潰せばいいね。」
「大した自信だな。その虚勢が崩れ去るのが楽しみだ。」
そう言い放ち、ゴーダツが指を鳴らすと、照明が消え視界が効かなくなる。再び明かりがつき、眩しさに目が慣れた時にはすでに周りはメカや兵士に囲まれていた。
「ここを嗅ぎつけたのが運の尽き。自らを恨んで死んでいくのだな!」
「うわーお。極上の負けフラグもらっちゃったよ。」
「かかれ!」
もうゴーダツの耳にはルインの声は聞こえていない。と言うより、聞けば聞くほど腹が立つので聞かなかったというべきか。とにかく、ゴーダツの一声で敵が一斉に襲いかかってきた。
「ではあとはお二人に任せます。」
「了解。でも自分の身は自分で守ってね。」
「言われるまでもありませんよ。」
その言葉を聞いたルインは刀を抜き、瞬足というにふさわしいスピードで敵陣に突撃していく。因みにグロウはゴーダツがかかれ!と叫んだ段階で敵に突っ込んでいっている。
三対多数、いや実質二対多数というありえないハンディマッチ。戦局は当然、ルインたちが圧倒していた。いやもうはっきり言ってお約束だよね。こういう展開は。
ルインは敵が攻撃を仕掛ける前に倒してしまっているし、グロウは寄ってたかってくる敵を片っ端からハンマーで殴り飛ばす。しかもひと振りで7~8人をいっぺんに吹き飛ばすのである。
戦闘が始まったとたん劣勢に陥った戦局を見たゴーダツは、既に真っ青に青ざめていた。
「これは、私の目がおかしくなってしまったのか?」
「い、いえ。私の目にも同じ光景が広がっています。・・・どうしましょう。」
そう言われ、しばらく黙りこくるゴーダツだったが、やがてスナッチに指示を出す。
「急いで『あれ』を用意しろ。」
「あれですか!しかしあれはまだ試作段階で・・・」
「構わん!あの男どもを倒すためだ!背に腹は変えられんだろう!急げ!!」
「は はい!了解しました!」
そして後ろに姿を消すスナッチ。ゴーダツはそれを見送り、そして忌々しそうに暴れている二人を見下ろす。
「己、ゴミ虫ども。目にものを見せてくれる・・・!」
さり際にしっかりと負けフラグを立てるのは忘れなかったようだ。
「うおーーーーー!」
「うわーーーーーー!」
「ぎゃーーーーーーー!」
その様子を端に避難して見物していたツェリライは素直な感想を漏らす。
「果たして敵は気合の声を上げているのか、悲鳴を上げているのかわからないですね・・・・。」
「うわああぁぁああぁぁあ!?」
「お、お助・・・ぎゃーああす!?」
「あべしっ!!」
「ひでぶっ!!」
「・・・・訂正。敵は明らかに悲鳴を上げていますね。まあ、当然でしょうね。あの二人が相手では。」
その二人は、素晴らしいまでの無双を繰り広げている。様子を見るに、ルインはスピードテクニカルタイプで、グロウはパワー馬鹿タイプだ。二人がゲームキャラならどちらを使うか迷うところである。
と、ルインの後ろからメカが攻撃してきた。が、難なく回避し、腕を切り落としたあと忽然と姿を消した。
辺りを探そうとする操縦者。だが当然もう遅い。
「上だよ上。」
そう上から声が聞こえ、声のする方を見上げると、ルインが真っ逆さまに落下してくるのが見えた。そして
「琥獅刺し(くしざし)!!!」
背中についているエネルギーポッドに刀を突き立てる。動力を失ったメカはそのまま動かなくなった。
「ォラォラオラア!!」
グロウが吠えるごとに累々たる犠牲者の山が連なる。
「うぉりゃあああああああああああああ!」
▽とそこに雑魚兵Aが現れた!
▽雑魚兵Aのこうげき!
「喰らえ!!」
▽雑魚兵Aは剣を突き出してきた!
「オラア!!」
▽グロウははんげきをした!しかし雑魚兵Aにかわされた!
「動きが遅い。隙だらけなんだよ!!」
▽再び雑魚兵Aのこうげき!グロウの肩に剣が突き刺さった!
「へん。そんなノロい攻撃に誰が当たるんだよ!」
▽雑魚兵Aは勝ち誇った!
「ああ?」
▽しかしグロウは雑魚兵Aを睨みつけた!どうやらグロウは全くダメージを受けていないようだ。
「え?な、ちょ、おま、ま・・・」
▽グロウのはんげき!
「オラア!!」
ドン!
「グエべふ!!?」
▽痛恨のいちげき!雑魚兵Aは途方もないダメージを受けた!雑魚兵Aは立ち上がる力を失った。
▽グロウは雑魚兵Aに勝利した!!267の経験値を獲得した!
「・・・・オイコラ。メガネ。てめーさっきから何字幕で遊んでんだよ?」
「え?いやまあ暇でしたから。細かいことは気にせずやっちゃってください。」
「・・・そんなふざけたことを言っている間に。」
とツェリライの体が突然影に覆われる。
「後ろから来てんぞ。」
そしてツェリライに剣が振り下ろされる。が、剣はツェリライに命中することなく、兵士とともにあっさりと崩れ落ちた。
「Noproblem(問題ない)ですよ。」
「流暢な英語自慢してんじゃねえよ。ったく。」
「そういえばルインさんどこに行ったんですか?」
「ああ?あいつが何処行ったかなんざ知らねーが・・・」
<わーーー!ぎゃーーーー!
<待て、来るなあああ!ぐはゥ!
<メディック!メディーーーック!!
「・・・・あっちじゃねーのか?」
「そうですね。間違いないでしょう。ではここ辺り一帯もグロウさんが戦闘不能にさせましたし、僕たちも向かいましょうか。」
そしてグロウとツェリライは、先程から悲鳴と絶叫が上がり続けている方へと向かっていった。
「くそ、一斉射撃用意!」
「だから無駄だって。」
そう言うと、ルインは真上にジャンプし、標準をそらしたところで後ろに回り、バッサバッサと薙ぎ払う。
「ふう、これで大体片付いたかな。」
辺りを見回し、一息つく。と、そこにグロウとツェリライが合流した。
「おお、二人共無事だったんだね!」
「反対に聞きますが、あなたは僕たちのことを少しでも心配していたんですか?」
「ううん。全く。」
あっけらかんと言い放つルイン。
「まったくもって非情ですね。あなたは。」
「非情だなんてとんでもない。これは信頼って言うんだよ。」
「戦いの最中にダベリングかね?」
唐突に後ろからマイク越しの声が聞こえる。
「少しは緊張感を持ちたまえ。君たちは今戦場にいるのだよ。」
「戦場?ここが?それは驚きだね。てっきり遊園地かと思ってたよ。」
そして振り返り、相手を仰ぎ見た。
「ふふふ、本来ならば児戯に等しいと一笑に付すところだが、貴様らはそれは実現させるだけの実力を持っているところが恐ろしいな。だが、これを見ても同じセリフがはけるかね?」
目の前にいるのは、全長十メートルにも上ろうかという巨大なメカ、いや人型兵器だった。
「うわーい。テラガ○※ム。」
「あほ言え。ガ□=ムは頭じゃなくて胴体に入るだろうが。ありゃニセもんだ。」
「お二人とも。軽々とアウトライン超えた会話するのはやめてください。」
「驚いてくれたかね。ちなみに私はこれをアンビシャン(大志)となずけている。」
「大志?どちらかといわなくても野望じゃないの?」
「好きに呼びたまえ。どちらにせよもうその名を呼ぶことはできんさ。それどころか、二度とその減らず口がたたけなくなるだろう。」
「――――――グロウ。ツェル。」
「了解しました。」
「おう。」
「さあ、貴様らをスクラップにして――――」
とゴーダツが叫び終わる前にツェリライが何かを投げつけてきた。それはコックピットに衝突すると同時に激しい光を放つ。
その光は機内にいるゴーダツとて、無事ではいられない。
「ぐわあ!」
思わず目を覆うゴーダツ。状態異常が回復する間もなく、真横から声が聞こえてくる。
「生憎、相手のセリフが終わるまで待っていられるほど慈善的かつ気長じゃなくてね。」
「貴様、アンビシャンの腕を伝って・・・!」
「戦いは勝つこと優先だということだよ。」
「こ・の、外道がぁ!」
「お前に言われたくないわ!」
激しく反論したのち、高く跳びあがったルインは、落下の勢いそのまま兵器を斬りつける。
「刈閃!!」
しかし攻撃は、機体に傷をつけただけにとどまった。
「!」
「どうだね。ハマテチラニックスの硬度は素晴らしいだろう?」
偉そうに自慢してくるゴーダツ。と、背中のハッチが開き、中からミサイルが発射された。
「うわっとと!」
間一髪で飛びのき、難を逃れる。ルインに向かってホーミングしてきたミサイルはそのまま機体に命中する。
だが激しい爆発が起こったにもかかわらず、損傷は見受けられなかった。
「ほぼ無傷か。あのミサイルの威力が水鉄砲並みだと考えるのは楽観的すぎるね。」
「やっと驚いてくれたか。だがもっと驚いてほしいものだ。なにせ、まだこのアンビシャンはその能力の1%も発揮していないのだからね。」
「へぇ、そいつは驚きだな。」
と、今度は足元でグロウがハンマーを構えた。
「オラァア!!」
グロウの気合の一撃。それでもダメージを受けている様子はない。そのまま巨大な足に蹴り飛ばされる。
「うお!?」
一気に攻守逆転した様子を見てハイになるゴーダツ。
「ハハハ!どうしたんだ!?ここは楽しい遊園地じゃなかったのかね?」
「ああそうだよ。だからゲストを攻撃する危険な遊園地を廃園にしようとしてるんじゃないか。」
「そんな無理をしないほうがいい。私とて若い命を散らせたくはないのだよ。」
「何故に僕らが死ぬこと前提?」
「貴様には記憶力がないのか?言っただろう。このアンビシャンはまだその能力の1%も発揮させていないと。」
「うん聞いた。で?お前はここで100%の力を発揮させる気?」
「何を馬鹿な・・・・・・・」
そこでゴーダツもルインが何を言いたいのかに気付いた。
「人の記憶力を心配する前に、自分のほうを心配するべきだったね。ここ、お前の会社の地下だよね?それ、どう見ても屋外で暴れさせる奴だよね?そんなものをここで使ったら、ビルが沈むよ?」
「・・・・・・・・・」
「あいつ、気づいてなかったのかよ。オレでもわかってたぞ?」
「やれやれ、社長がこんな『ど』のつく馬鹿だと、お先真っ暗だね。」
「そう言ってあげないでください。この人はただ単純に戦闘戦場というものに関する知識が皆無なだけです。まあ最も、そんなタイプの人間がこんな場所にいるのは間違いなく場違いなんですけどね。それで?どうするつもりなんですか?願わくばおとなしく降参してくれるとありがたいのですが?」
その問いかけに、ゴーダツは若干焦りながらも高圧的に返す。
「お前たちは何を勘違いしている?」
「は?」
「確かに、私がここでアンビシャンを全開で動かせばこの会社は間違いなく沈むだろう。そうなっては研究開発どころの騒ぎではない由々しき問題が発生する。ならば全開で暴れさせなければいいだけの話。簡単なことだ。」
その発言に一同沈黙。そしてルインが哀れみを帯びた口調で言葉を返す。
「えっと、さっきお前が言ったセリフそのまま返すね。何を盛大にド勘違いしてんの?」
「何?」
「なんかさっきからこっちが全力で戦っているみたいな感じで話してるけど、僕は一回もそんなこと言った記憶無いんだよね。」
「なん・・・だと・・・?」
「ぶっちゃけ、こちらの力も1%しか使ってませんって感じ?」
「ルインさん。虚勢を張らないでください。幾らなんでも1%ではないでしょう。」
「いちいち突っ込まないでよそういうとこ。もしかしてと思ったけど、やっぱり気づいてなかったようだね。コックピットにいたら無理もないけど。」
「何をだ?」
「そのロボットの右肩、さっき僕が技うった場所だけど、傷が付いてるのわかる?」
「ああ、わかるさ。このちんけな傷がどうかしたのかね?」
「うん、じゃあそこからは見えないと思うけど、さっき僕を打ち落とそうと打ったミサイルがあたった場所は、少し焦げただけで実質的なダメージはゼロだよね。
あと、さっきグロウがハンマーで殴った足もそっからじゃわかんないと思うけど、結構思いきりへこんでるんだよね。」
「それがどうした?」
「単純に考えてミサイルより僕らのほうがダメージがでかいってこと。」
「だから、それがどうかしたかね?いくらお前たちのほうがミサイルよりダメージが大きいといえども、この程度の傷で機能不全に陥ると思うかね?」
「いやだから、僕らは思いっきり手加減してたんだってば。」
「なら全力を出せばこのアンビシャンを破壊することも造作もないと?とんだ詭弁だな。いくらここの兵士を皆殺しにできるお前たちでも、それは不可能だ。」
「思い込みほど恐ろしい負けフラグはない。これ、覚えておくといいよ。って、ちょっと待った。今、皆殺しって言わなかった?」
「わたしは事実を述べたまでだが?」
「いやいや、思いっきり虚実だし。あそこに倒れているのは全員気絶してるだけだから。誰一人としてこの手に掛けてないんだけど。」
「その刀で斬り伏せておきながら誰一人殺していないか。とんだ茶番だな。」
「ああ、この刀刃引きしてもらってるんだよね。ツェルに。だから今はどちらかというと打撃武器に近いよね。さらに付け加えると、この刃引きはちょっと特殊で、僕の孔に反応していつでも切れるようになるという優れモノ。非売品だからどこ探しても見つかんないよ。」
「この程度の特殊コーティングなら、僕程度ならいくらでもできますよ。」
「いや~、いつもナルシーがかっててめんどいけど、こういうのは本当に頼りになるよね。」
「何か言いましたか?」
「いいえ何も。」
「あれだけの数を相手にしておきながら、だれ一人殺していないだと?そちらの男は・・・」
「オレも殺ってねえよ。オレが力入れたら腹に穴が開くか頭が飛ぶ。」
ここの兵士は軽く手加減しながら相手ができるほど弱いものではない。それは作った本人であるゴーダツがよくわかっている。ましてやたった二人で、百にものぼる戦力を殲滅させた?一人の死者も出さずに?
「貴様ら・・・・」
「いくら僕らでも簡単に人殺しなんてできないからね。で?どすんの?」
もう何度目かわからないほどゴーダツ頭を下げる。だがそれでも決然と吠える。
「それでも貴様らはこのアンビシャンには勝てん!絶対にだ!!」
そして攻撃を開始する。明らかにさっきまでより攻撃が激しい。
「成程。全能力の1%も使ってないという言葉はあながち世迷言ではなかったようですね。」
「のんきに解説してないで手伝ってくれないかなあ?」
思い通りにいかずに若干いらだつルイン。
「何を意味不明なことを。僕に戦闘能力がないことなど、百も承知でしょうに。それに、この程度で負けるほどあなたたちは弱くないでしょう?」
「ええそうですね!まったく。」
事実、こんな掛け合いを演じながらもルインは勝機を探っていた。そしてそれを確実に見つけ
(そこか!)
確実につかむ。
「いくら装甲が固かろうと、メカというものには継ぎ目があるんだよね!」
そして振り下ろされた攻撃をかいくぐり、腕の下に潜り込む。そこから一気にハイジャンプで斬り上げた。
「照閃!!」
関節部に命中した斬撃は、過たずアンビシャンの腕を切り落とした。
「何ィぃぃぃぃぃい!!!??バカな!?ハマテチラニックスの装甲が切断されるだと!?」
「なに驚いてんの。まだ終わってないよ。」
そう警告し、今度は足の関節部にまっすぐ突っ込むような技を放つ。
「突閃!!」
片足を切り落とされたアンビシャンはバランスを崩し、その場に倒れこむ。
「バカな!そんなバカな!!」
「あとはグロウ、よろしく。」
「おう。悪ぃがぶち抜かせてもらうぜ?」
そしてグロウはアンビシャンが倒れたことにより、目の前にあるコックピットの前に仁王立ちし、ハンマーを構えた。
「バカなバカなバカなバカなバカなバカなバカなバカなバカな!!!」
「ホームラン・・・!」
「バぁあカぁああなぁぁぁぁぁああああああ!!!!」
「ハンマァーーーーー!!!」
グロウの放つ強力な一撃が、コックピットにクリーンヒットした。シールドが破壊され、パイロットもろとも吹き飛ばされる。
「やっぱり、コックピットは胴体に搭載するべきだったね。」
宙高く放り上げられたゴーダツを見たルインが、素直な感想を漏らした。
もうもうと上がっていた煙幕がやっとおさまり、視界が明けると、床に力なく投げだされている人影が見えた。
「シールドに守られているとはいえ、やっぱダメージは受けてるみたいだね。」
「コックピットごとぶち抜いたからな。当然だろう。」
「全身くまなく打撲・骨折してますね。これは動くことすらままならないでしょう。」
「死ぬ危険は?」
「すぐに手当てすれば命に別条はないかと。」
「ツェル、じゃあちょっと応急処置しといて。僕はこいつに話がある。」
口調こそ先ほどと変わらず軽いものだが、先ほどまでにはない重さがある。それを感じ取ったツェリライは素直に了承する。
「さて、お前、しゃべることはできる?てか、起きてる?」
その言葉に反応を示す。それを見たルイン話を続ける。
「うん、起きているならいいや。あのさ、さっきお前『ここが沈んだら研究開発どころではなくなる』って言っていたよね。」
相手は無反応だがルインは構わず話を続ける。
「それってつまり、ここの部下はどうなろうと知ったこっちゃないということでおk?」
相変わらず相手は無反応のままだ。だがそれでもわかる。今にも失禁しかねないほど怯えていることに。
「そういや、さっき最初にオレらの相手をしていた幹部がいたな。社長に捨てられたとか何とか喚いてたから、鳩尾に入れて落としておいたが。」
「ふ~ん。それはいいことを聞いた。僕はそういう自我のために関係者だろうとなかろうと踏みつぶせる屑が大嫌いなんだよね。今回はそんなざまだから見逃すけど・・・」
ここで一呼吸入れ、睨みを利かせながら言い放つ。
「次はない。そう覚えておくと長生きできると思うよ。」
半分死刑宣告を言い放たれた被告人は震えながら微かにうなずいた。
息が詰まる緊迫感の中、ツェリライ軽く話を切り出す。
「あ、大丈夫ですよルインさん。この男はどちらにせよ次はありませんから。」
「え?なんで?」
「つい先ほど治安部隊に通報しましたから。」
「え゛っ!!?いつ!?」
「ルインさんたちが戦闘を始めた時、すなわちこの男の有罪が確定したときですね。」
「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ!!?やばいじゃんそれ!!早くずらからないと!てか、なんで通報なんてしたんだよ!?」
先ほどまでと打って変わっておたおたと慌てだすルインを見て、ツェリライが冷静に突っ込む。
「何を言っているんですか。これだけ派手に暴れて、しらばっくれるなんてことができると思っているんですか?
それに、しっかりとこの企業の悪行を報告し、あなたのアパートの大家さんが誘拐され、僕たちがここに入り込んだいきさつも、一部を改変して伝えてあります。
勝手な行動を起こしたことはお捻りがくるでしょうが、そこまで大きな罰則はないと思いますよ。正当防衛の面が大きいですし。」
「その改変した一部である身分詐称についてはどう誤魔化すつもり?」
「すでにあれは破棄してあります。突っ込んで聞かれてもとことんとぼけますよ。」
「おお、それもそうだね!」
と早速偽装身分証を刀で切り刻むルイン。ほっと一息ついた後、元気良く宣言する。
「よし、これで問題ないね。それじゃ、囚われた人たちを救いに行きますか。」
そして、それから十数分後。治安部隊も到着し、ぼろぼろになっているゴーダツ以下地下施設の存在を知っていたものは連行されていった。
何も知らない地上の社員はいきなり治安部隊の団体様が押し寄せてきたあげく、地下施設の存在を知ったあげく、さらにはその施設の存在理由まで知り、驚天動地の嵐だったそうで、なかには驚きのあまり顎が外れた人もいたんだとか。
そして、大家さんをはじめとする囚われていた被害者も無事解放・保護された。
「ありがとうねぇ。ルインちゃん。」
「何を水臭いこと言ってるんだか。初めに言ったでしょ。このことは任せてって。って、だからそのチャンづけはやめてってば。二人に聞かれたら―――――」
「時すでに遅しですよ。ルインちゃん。」
「!!!!??」
弾かれたぜんまい仕掛けの人形のような素早さで振り返ると、福笑いで派手に失敗した時のようなにやにや笑いを浮かべたツェリライとグロウの姿が。
「おら、やるこたぁやったんだからとっとと帰るぞ。ルインちゃん。」
「そうですよ、ルインちゃん。」
「二人ともォ・・・」
いつになく羞恥の渦に引き込まれていくルインを見て面白がる二人はヒートアップ。
「せっかくだからこの場にいないアコさんにも教えてあげましょうか。」
「いや、それよか効率がいい方法があるだろ。てめーならできるんだろ?町内の放送ジャックして自分の声流すことぐれぇよ。」
「ああなるほど。町内の皆さんにも伝えるわけですね。名案です。これは僕が一本取られましたね。」
「『今日からみんなで』」
「ルインちゃん(笑)。」
チャキッ!!(鍔鳴りの音)
「へぇ・・・二人ともそんなに若い命を散らしたい自殺志願者だったとはねえ・・・。
これは知らなかった。」
まさしく『ゴゴゴゴゴゴゴ・・・』という擬音がぴったりな状況。もしかしなくてもさっきゴーダツにヤキ入れていた時よりも殺気がこもっている。
「ちょうど良かった。僕でよければ手伝ってあげるよ。」
「あ・・・・・・・」
「お゛・・・・・」
「GO TO HELL!!!(地獄に堕ちろ!!!)」
情け容赦なしのルインの攻撃。こうなったら逃げるのが最良策である。
「ぬおわっ!危っぅ!!」
「ちょ・・・何をトチくるってるんですかルインさん!お、落ち着いてください!」
「ヒャーヒャヒャ!!!まずはその減らず口をたたく舌をさばいた後にそんなくだらないことを考える脳味噌えぐりだしてくれるわぁああ!!!」
「笑えねえぐらい怖いことぬかしてんじゃねええぇぇ!!」
この地獄絵図を、作り上げた元凶である大家さんは、いまにも縁側でお茶と団子をいただきそうなほどほのぼのとした雰囲気で眺めていた。
「若いっていいわねぇ。」
そして18分と23.7秒ぐらいたった後、体力切れを起こした三人は治安部隊に呼び出される。
「またお前たちか。」
「開口一番それですか。係長さん。」
「あたりまえだ。月一のペースでこんなことされたんじゃ、こっちもたまらんだろ。」
「でもいいじゃん。無駄に暴れてるんじゃなくてちゃんと悪人退治してんだからさ。」
あっけらかんと言い放つルインを無視して、係長は話を続ける。
「まず第一に、強いといえども一般人がこんなヤマにほいほい首突っ込むという段階でアウトだ。」
「そこはほら、みなさん治安部隊のお手伝いボランティアってことで。」
お茶らけながら返すルインを完全無視し、続ける。
「第二に、お前らは毎回やりすぎだ。今回もなんだ?最近行方不明者が相次いで起きていて、その身辺を洗っていたら出てきたこの企業に押し入ろうとしたらすでに終わっていて、そこの組合人は全員フルぼっこ。挙句の果てに黒幕は全治一年の重症だ?
お前らは加減というものを知らないのか?」
「いやぁ、一応は加減してんだけどね・・・。全治一年とは・・・そんなに重かった?」
その質問には答えず、係長は眉間を抑える。
「全く。前のコンビニジャック事件じゃ、治安病院が野戦病院に早変わりだ。『ここは加害者なのか被害者なのかわからない人物を治療する場所ではありません。任務において負傷した治安部隊員を一分一秒でも早く治癒させ、任務に復帰させる施設なんです。』って、散々クレーム飛ばされたんだぞ。少しは労わってくれ。」
「あれぇ?その発言は人を治療する病院としてはずいぶんと間違ったこと言ってない?」
「言ってない。治安病院を普通の一般病院と一緒にするな。クレームは至極正当だ。」
「あらー。係長さんも苦労症だねぇ。禿げないように気をつけてね。」
珍しく殊勝に他人を気遣うルインに対し、一切礼をいうことなく返す係長。
「もしそうなったら傷害罪でお前を訴えるから安心しろ。」
「えっ!?ひど!たかが髪の毛で!?」
「当たり前だ!ガキのお前らにとってはたかがでもな、俺にとっては切実なんだよ!・・・やめい!そんな哀愁の眼差しで俺を見るな!」
「あ、あの~。ヒネギム係長?よろしいでしょうか?」
と、実はルインとかけあいを始める前から待っていた部下が、ルインと同じような眼差しでおずおずと割り込んでくる。係長はその頭に鉄槌を落とした後、話を聞く。
「お前までそんな目で見るな。それで?どうした?」
頭をさすりながら係長に耳打ちする部下。
「・・・・うんそうか、分かった。ご苦労だ。」
そしてつかつかとルイン歩み寄り、有無を言わさずその手に手錠を下す。
「あ、あれぇ~~~~係長さん?これは一体何ですかな?」
「手錠だ。見てわからんか。」
「いや、典型的なボケかましてないで説明ぷりーづ!!」
必死で無罪を訴える容疑者と、完全に容疑者がクロである証拠をつかんで冷ややかに見降ろしている係長の図。
「お前、自分の罪を認識していないようだな。」
「いやいや、これは確かにやりすぎた感はあってもこれ嵌められるまではないでしょ!誰一人殺してないし!それにそんなこと言うんだったらあの二人も同罪でしょ!」
「違う。それじゃない。そのことはそこの二人を含め、後で絞らせてもらうがな。」
その言葉に同情を装いつつも内心笑っていた二人の顔が引きつる。
「じゃあなぜに僕だけ!?」
その質問に、係長は高らかにルインの罪状を告げた。
「十八時四十七分。ルイン容疑者を不法入居罪で逮捕する。」
「・・・え?」
「お前の『大家さん』から話は聞いている。お前、正式な入居手続きもせずにあのアパートに住んでいるそうだな。挙句家賃も払ってないとか。」
「・・・あ。」
「というわけだ。こいつを署まで連行しろ。」
「はっ!」
そのまま引っ立てられていくルインに、ツェリライとグロウの二人はハンカチを振り振り見送った。
「戻ったらムショの飯の感想教えてくれや。」
「御達者で~~~。」
「いやちょっと二人とも!少しは引き留め・・・いやまっ、あーーーーれぇ~~~~~.....。」
そのまま護送車にて引っ張られていった。
「他人事みたいにふるまっているが、お前らも後で連れて行くからな?」
しっかりと残りの二人に釘を刺すところは、流石キブ治安部隊実働係を一手に引き受けるヒネギム係長である。
そして5日後、四人はルインのアパートに集まっていた。
「それでは、ルインの出所を祝って、かんぱーい!」
アコの号令に従って、杯が三つ掲げられた。
「ちょっと、主役が乾杯しないでどうすんのよ?」
不満そうな声に仏頂面な回答が返ってくる。
「あのさ、出所祝いしてくれるのはありがたいんだけど、なぜに一切関わらなかったアコちゃんがここにいるのかな?」
「え?別にいいじゃないそんな細かいことは気にしなくても。お祝いは大勢の方が楽しいでしょ?」
アコが明るく返す一方で、ますます仏頂面になるルイン。
「まあそれも一理ある。ここに並んでいる豪勢な料理が、僕が拘置所行っているあいだに勝手に使われた僕のお金で作られたものじゃなきゃね!」
ドン!と派手にターブルを叩く音が響く。
「他人のお金使うとか絶対泥棒だよね?犯罪だよね!?」
「いやだってあったから。」
「あったから?あったから何!?今すぐ治安部隊呼んで逮捕してもらってやる!」
と、怒りまくっているルインに対し、ツェリライが冷静に反撃。
「まず前提として、このお金はルインさんのものではありません。大家さんのものです。そしてその大家さんからしっかりと承諾を戴いていますので、何一つ問題はない。No problemです。」
「ぐぅ。」
ルインの怒りは、ツェリライの迫撃砲の一撃により、あっけなく沈没した。
「まあいいじゃん。結局このアパートは無事自治会に売られて、大家さんとルインはそれぞれ家賃タダの家をもらえたんでしょ?」
そうなのである。その後自治会の調査隊の調査により、ルインの住むアパートの近くの地下に大量のイーセントリニウムが発見され、自治会から正式にアパート買取の話を持ちかけられた。
その話に大家さんは渋るかと思えば、それはもうびっくりするほどあっさりと快諾した。
その反応にものすごく引っかかったルインは大家さんに質問。
「あ、あれ?大家さん?たしか、この会社から立ち退きの話が来た時は、嫌がってましたよね?だから僕が無視すればいいというツェルのアドバイスを大家さんに伝えて、それでこんな騒ぎになったわけなんだよね?」
そう問いかけるルインに対して、大家さんはすっぱりと言ってのける。
「いやね、あんた。こんなにいい条件であのアパートを売ってくれって言われて断る理由なんてないわよ。」
「あの時確か大家さん、『このアパートに住んで長いから思い入れあるわー』みたいなこと言ってませんでしたっけ?」
「老い先短いなら、あとはどれだけ余生を楽しく楽に生きれるのかが勝負なのよ。」
そうはっきりと、そしてしゃあしゃあと言ってのける大家さんに、ルインはもう何も言えなかった。
「まあそれは良かったんだけどね。でも、あんなでかい家貰ったところで持て余すだけなんだけどなあ。」
「他人から物貰っといてグダグダいってんじゃねーよ。」
「どのくらい大きいの?」
「ん?8LDK。」
「・・・・・・・・・・・はぁぁ!!?」
一同絶句。
「ね?でかすぎるでしょ?」
「ま、まあイーセントリニウムはそれだけの価値はありますが、それにしても8LDKとは。謝礼としては大きすぎますね、確かに。」
「でしょ?大家さんは大家さんで別に家貰ってるから、もうコーヒーも自分で入れないといけないし、水道光熱費はタダじゃないし、なにより掃除をどうすればいいかわかんないし。」
「・・・・うん。確かになんか羨ましがっていいのかどうか悩むところね・・・。」
「アコちゃんも住む?ちょっとしたアパート状態になっているから、住むことはできるよ。本当のアパートじゃないから、めんどくさい手続きもいらないし。」
「いや、いいわ。」
「ツェルは?」
「僕も遠慮しておきます。」
「グロウ・・・」
「聞くまでもねえだろ。」
「ですよねー。あーあ、全く。どうしようかねえ。」
「売っちゃえば?」
「住む家がなくなる。それに、僕はもらったものを売りさばくような非人道的なことしないよ。」
そしてしばらく考えたのち、ルインは結論を出した。
「うん、いいや。あの家の2,3部屋だけ使おうっと。」
「うわ、もったいな。」
「しょうがないじゃん。ぼくひとりじゃ手に余るんだから。」
ピンポーン(呼び鈴)
「お?誰だ?」
と、ルインがドアを開ける。すると、見慣れぬスーツ姿の男たちが。
「何の用ですか?」
若干警戒しながら質問する。その様子に、相手は困惑しながら答えた。
「いえ、そろそろお時間ですので参ったんですが・・・。」
「え? あ。えっと、ちょっと待っててください。」
そう言い残し、ルインはテーブルで食べている三人に告げる。
「ごめん、みんな。あと5分ぐらいでそれ全部食べちゃって。」
「え?なんで?」
「引っ越し業者が来ちゃった。」
見るとスーツの後ろに、明らかに引っ越し業者の姿が。それを見たアコはあわてて抗議する。
「は!?なんでもう呼んじゃってるのよ!」
その抗議をあっさりと片付けるルイン。
「いやだって、家に戻ったらこんなことになってるなんて想像してなかったもん。ほらほら、いろいろ言ってないでとっとと食べて。僕は自分の荷物をまとめてくるから。」
そう言い残し、上へと上がっていったルイン。
その後、なんとか5分ですべてたいらげ、うっとこせ感とげんなり感が漂う三人とルインは、引っ越し先へと向かっていったのだった。
どうも。みなさん初めまして。初めましてじゃないよという方がいたらありがとうございます。
えっと、突然始まりましたがこれはいわゆる後書きです。興味ないという方は読み飛ばしちゃってください。
いやー、後書きってなんかこう、作者の意図とかそういうのが見えて個人的に好きなんですよね。舞台裏とかウラ話とか。というわけで、私も図々しくも書かせてもらいます(笑)。
さて、この小説は初のオリジナル小説なわけですが、大体どのくらい長く続くか全くもって皆目見当つきません。
というのも、一応最終話をどんな感じにするかは大雑把に決めてはいるんですが、基本的に一話完結型で書いていこうと思うので、その最終輪までにどのくらい話が入るかは全く計画していません。まあ、今浮かんでいる感じだけでも、20話は下らないかなあ、と。
あと、基本的に書きたいと思った時やいい文章が思い浮かんだときだけ作成しているので、更新期間もばらばらになると思います。
さらに、この一話目はまあだいぶ軽い感じですが、話が進むにつれ徐々に重くなっていく感じはします。
考えている中では大分鬱というか、スプラッタというか、R-15に近い感じの話もあるので。勿論その時にはちゃんと「残酷な描写あり」とか警告のタグ付けるから安心してくださいね。
というわけで、計画性も何もないこんな作者ですが、お付き合い願います。m(_ _)m
あ、最後に。感想やコメントはないよう問わずどんどん書き込んでください。参考にさせていただきます。誹謗中傷とかは勘弁ですけどね(笑)