表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

1.午后の授業

 感覚センスは武器だ。

 ――――――いやいや、比喩とか抜きに。


 この世界において、『感覚』は膨大な力で、器官が刺激を受け取るたび、それは己にも見えずして、魔力にも似たエネルギーに変換される。


 これを魔法とは言わず、『不可視技ふかしぎ』と呼んだ奴のネーミングセンスにゃあシビれるぜ。


 キーンコーンカーンコーン…


「きおつけー」

「れーい」

「「「おねがいしまーす」」」


 そんな事を考えているうちに、五分休みは終わってしまっていたらしい。やべっ…授業準備してないな。


 それに、学校なんてたまにしか行けない。授業の内容も飛ばし飛ばしだから、最早ただただ永遠に念仏を聞かされているようだ。


 何より、俺は勉強がニガテかつキライだ。


 ふぁぁぁ…眠くてしょうがない。脳が休息を求めては、太い首が前後にカクン、カクンと倒れる。


「―それでは、味覚技術の種類を答えられる人はいますか?」

「はい!」


 指されたクラスメートは、自信が無いのも押し殺す勢いで立ち上がって、滑舌の悪い早口で答える。どうだどうだ?


「え、えと!塩味技、甘味技、辛味技、酸味技、です!」


 ガタンと頬の赤いそいつが座る。

 おお、合ってそうだぞ?ほんの少しばかり、自分の巨体を机に突っ伏しながら感心した。しかし…


「そこまで学習したのは素晴らしい。ですが惜しくも不正解です。」

「教科書の193ページを開いてください。」


 ペラリ。


「近年のことですが、ヒト科の研究者が新たに、うま味という感覚を発見し、国王様が栄誉賞を贈られました。ですから、味覚技術は、先程のものにうま味技を加えた計五種類となります。」


「ヒト科は感覚の弱い種ですが、嗅覚、触覚を応用した比較的細やかな味覚を持ちます。他にも、ネコ科は聴覚が優れ、タカ科は高い視力を持ち、ミツバチ科は紫外線を感じ取れる…と言ったように、我々生物は種によって感覚の優劣が存在し、不可視技術の向き不向きもそれに左右されます。」


「つまり、その研究者のように、自らの種に適した不可視技を究めることに努め、ゆくゆくは戦場に赴く。お国の為、国王カルカロ様の為に力を捧げる義務があるのです。」

「良いですね?」


 はい!と大きく返事をするクラスメート達は、目をキラキラと輝かせて頷いているらしい。全くの真面目共だ。机から頬が離れない俺は、完全に睡魔に意識を持っていかれ…


「良いですか?」

「むにゃ…かあちゃん、もうたべられないよぉ…」

「良いですか?!リッシンくん!」


 …はっ!

 目を開けると、眼鏡のレンズがキラリと光る、先生の悍ましい顔が、真正面のド近くから、据えた両の目で睨んでいるじゃないか!控え目に言って大ピンチ、何か言い訳をしなければ…!


「いやいや先生!俺はちょっとこう…目を瞑ってただけです!」

「では、味覚技術の種類はいくつですか?」

「そっ、それは…。」


(クスクス)(ケラケラ)


「寝るのはご自由に。成績を下げるのもご自由に。」


 お、恐ろしや…この女教師。本当、氷の女王だぜ。俺の高めの体温が冷や汗と共に一瞬で逃げていった。


「では皆さん、己が不可視技術を究めるための第一歩として、今から塩味技の実技を行っていきます。」

「番号順に…と行きたいところですが、先の罰として、まずはリッシンくんにお手本を見せてもらいましょうか。」


 な、何?!まだ引きずんのかよ!ちょ、マジで頼むから、不可視技だけは…


「それでは、実技用の食塩を一粒舐めて、的に向かって塩味技を放ってください。」


 ええい!どうにでもなれってんだ!


 覚悟を決めよう。ペトリ皿の上の塩をひとつまみ、口の中に放り込む。

 半透明の小さな立方をコロリと舌の上で転がせば、純粋な塩味がほんの少しの痛みを伴いながら、味蕾を刺激してくる。

 それと同時に、俺の中に何らかのエネルギーが溜まりゆくのを感じる。力が漲った。電源が入ったように、体の歯車と歯車がかみ合って回り、掌を的へ向けさせた。丸っこい指先に力が篭っていく…


 あれ?そういえば昨日、しょっぱいものを食ったような。確かそう…あ!一晩置いたカレー!まろやかなしょっぱさで美味しかったな。もっかい食べたいなあ。流石に二日目のカレーは…


「あ!待ってそんな場合じゃなかった!」

 

 べちゃ…。的には茶色の液体…それと橙、黄土、白の混合物、そして何より、腹の空く匂い。

 まごうことなく、カレーライス。そう、昨日食ったカレーを意識しすぎて、威力のないただのエネルギーを放ってしまったのだ。

 

「…。」


 しばしの沈黙。


「…プッ」


 …打ち破るは笑い声。


「ぎゃはははは!」「何じゃあそりゃあ!」「冗談はそのメタボ体型だけにしとけよ!」


「デブじゃねえし!!ぽっちゃりって言えよ、このモヤシ野郎!」


 パチンと手を叩く音。先生が怒鳴った。

「貴方達!授業中の私語は慎むように。」


 ち、ち、ちくしょおおおおおお!!


 ―――――自己紹介が遅れたな。俺はリッシン。勉強と不可視技が苦手な、しがないヒト科の学生だ。

 チャームポイントはぽっちゃり体型。デブとかメタボとかって意見は無視させてもらう。

 

 そして、ここまでのクソ長い前置きを読んだあなたに。

 これから幕を開けるのは、ヘンテコな出会いと、俺の、ほんのちょっぴりの、心の成長の話。


『マゴコロ第一主義!』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ