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異世界の観測者 ~今度こそ、大切に生きていく~  作者: WE/9
忙しい日常

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一分間の計画

「合意は取れたみたいね。それじゃあ、グッドラック。バイバイ」

ゲンリ先生が狡猾にウィンクし、その神秘的な微笑みが消える前に、周囲を覆っていた窒息しそうな漆黒が潮が引くように消え去った。

現実世界の色彩が視界を埋め尽くす。俺とアイリンが今の決定に異議を唱える間もなく、空間転移特有の無重力感が伝わり、気づけば俺たちは寸分違わず教室の後ろへと戻されていた。

三秒間、静寂が流れる。

「あ……え? ちょっと待って! 今ので決まり!? ちょっとぉ!」

アイリンがようやく意識を取り戻したように絶叫した。周囲のクラスメイトたちが好奇の目でこちらを見るのに気づき、彼女の顔は一瞬で真っ赤に染まった。普段は荒れ狂う雷電を操るその手が、今は驚くべき力で俺の肩を掴む。彼女は俺を大型の荷物か何かのように押し出し、強引に教室から連れ出した。

そのまま校舎の隅にある、薄暗くて人気のない階段の踊り場まで押し込まれる。

「シ……シエン! あんたのせいよ! なんであんな風に私を押し付けたりするのよ!」

人目に付かない場所に入った途端、アイリンは手を離し、ショート寸前の機械のように狭い空間をうろうろと歩き回った。

「卒業式なのよ!? 全校生徒が見てるのよ! 各地の学者や貴族、別の大陸の使節だっているかもしれないのに……あんな場所でスピーチ? 無理! 私、その場で石化して、電気を放つ人間化石になっちゃうわよ!」

彼女は猛然と立ち止まり、俺の前に詰め寄ると、俺の襟首を力いっぱい掴んだ。海のような大きな瞳には不安で涙が浮かび、声は緊張で鋭くなっているが、そこにはどこか甘えるような響きがあった。

「もうっ! 本当に怖いのよ! 途中で言葉を忘れたらどうするの? 緊張しすぎて手が滑って、雷で校長先生のカツラを消し飛ばしちゃったらどうするのよ!? シエン、この大バカ! 責任とってよね!」

彼女は胸の内のプレッシャーをぶつけるように、俺の襟を掴んだまま前後に激しく揺さぶった。俺は視界が回るのを感じ、鼻腔をくすぐる彼女の香りと、必死に抗いながらもどうしようもない可愛らしい姿を見て、内心で苦笑した。――これこそが隊長としての、最悪で最高な愉悦だ。

「わかった、わかった。そんなに揺らすな。これ以上揺らされたら、助けてやれる奴がいなくなるぞ」

俺はそっと手を伸ばし、彼女の手の甲に重ねた。ようやく声のトーンを和らげる。

薄暗い階段室で、アイリンの焦燥は突如として降り出した雷雨のようだった。俺はその避雷針になるしかない。

「落ち着け」

俺は両手で、不安に震える彼女の肩をしっかりと支えた。混乱した思考を鎮めるように、極めて穏やかな口調で語りかける。

「原稿は俺が責任を持って書き上げる。練習も、何度だって付き合ってやるよ。お前は小難しい言い回しなんて気にしなくていい。ただ、あそこに立つ覚悟だけを決めておけばいいんだ」

それを聞くと、俺の襟を掴んでいたアイリンの力が少しだけ緩んだ。けれど、手は離さない。彼女は支えを失ったようにガックリと項垂れ、額を俺の胸に押し付けた。怯えた小動物のように小さく頭を擦り寄せる。青い長髪が俺の顎をかすめ、くすぐったい。

「シエン……本当、だよね?」

俺の胸に籠もった彼女の声は、普段は決して見せない脆さと依存に満ちていた。

「絶対に一緒にいてよね。原稿を書く時も練習する時も、一歩も離れちゃダメ。じゃないと、私、絶対に逃げ出すから……」

その全幅の信頼を寄せる姿を見て、俺の悪戯心は一瞬で吹き飛んだ。俺は力を緩め、彼女の背中を優しく撫でて、張り詰めた神経を解きほぐした。

「ああ、もちろんだ」

俺は顔を近づけ、彼女の耳元で、二人だけにしか聞こえない低く力強い声で言った。

「お前は俺の彼女なんだからな。責任を持って、最後まで支えてやるよ」

「彼女」という言葉を聞いた瞬間、アイリンの体がビクッと硬直した。次の瞬間、雷に打たれたように耳の付け根から首筋までが鮮やかなピンク色に染まっていく。首元の魔石が、主人の高鳴る鼓動に呼応するように、激しく、明るく点滅を繰り返した。

「あ、あんたって奴は……普段は言わないくせに、こういう時にそんな恥ずかしいこと……っ!」

彼女は恥ずかしそうに顔を上げた。瞳にはまだ涙が残っていたが、赤らんだ顔はどんな時よりも美しかった。彼女はやっと襟から手を離すと、代わりに俺の腰に抱きついた。俺が消えてしまうのを恐れるかのような、強い力だった。

「言ったわね! もし恥をかかせたら、あんたを黒焦げにして、一生あんたの隣に居座ってやるんだから!」

活力を取り戻した彼女を見て、俺の口角は自然と緩んだ。これこそがアイリンだ。怖くて震えていても、俺の支えがあれば突き進んでいける、最強の雷電少女。

俺とアイリンは前後して教室に戻った。数歩の距離を保ってはいたが、密室での対峙を経て生まれた微妙な空気が、二人の間に漂っていた。

俺は窓際の席に座り、頬杖をついて外を眺めた。頭の中では、アイリンの負担にならないようなスピーチの構成を練り始める。少し離れた場所では、アイリンが女友達に囲まれ、「なんで私がスピーチなのよ」と愚痴をこぼしながら、怒りに任せてチョコを口に押し込んでいた。悲憤を食欲に変えるその姿に、周囲の女子たちはケラケラと笑っている。

しばらくして、俺は用を足しに席を立った。

廊下に出ると、角の向こうから低学年の男子たちの話し声が聞こえてきた。

「おい、見たか? アイリン先輩、マジで可愛いよな。さっきグラウンドで魔法使ってた時のあの目、たまんねえわ」

「ああ、性格も活発だし、最高にタイプだわ。一度でいいからデートできたら人生上がるのにな」

「でもさ……」一人が声を潜め、疑わしげに続けた。「最近、あの地味な先輩にべったりじゃないか? シエンだっけ。まさか、もう付き合ってるとか?」

俺は歩調を緩め、無表情に壁に寄りかかって、俺とアイリンについての噂話を聞き流した。

「まさか! あの先輩、これといった特技もなさそうだし、見た目も普通じゃん。アイリン先輩の目がそこまで悪いわけないだろ」

「でも……さっき二人で暗い階段から出てくるの見たんだよ。アイリン先輩、顔真っ赤にして目を泳がせてたし、あれはどう見ても『何かあった』後の顔だろ……」

「ケッ、先生に怒られてただけだろ。変な推測すんなよ」

内心、波風は立たなかった。前世で社会を経験した俺は、引き際を心得ている。他人にどう評価されようが――「普通」「地味」「不釣り合い」――それは俺にとって完璧な隠れ蓑だ。静寂を邪魔されない限り、好きに推測させておけばいい。

ただ、心の中で一本の線を引いた。もしこいつらが口を汚し、アイリンを貶めたり傷つけたりする言葉を吐くようなら、迷わず「観測者」の構造解析を見せてやる。魔力を一時的に麻痺させるくらいは造作もない。

だが、俺の平凡さを笑うだけなら……放っておいてやろう。

俺は襟を整え、驚いて気まずそうに黙り込んだ男子たちの前を、何も聞こえなかったかのような平然とした顔で通り過ぎた。

これが俺とアイリンの日常。一人は光の中で輝き、一人は影の中で見守る。少しのざわめきはあるが、二人きりの部屋に戻れば、すべては俺の掌握する中にある。

深夜、学者の街特有の静かな虫の音が窓の外から聞こえる中、部屋の中は凄惨な空気が漂っていた。

アイリンはぐしゃぐしゃになった原稿を握りしめ、空気が抜けた風船のように長い呻き声を上げると、大袈裟に俺のベッドに突っ伏した。

「シエン……無理……覚えられない……」

布団に顔を埋めたまま、完全にストライキモードの声を出す。

「なんで卒業スピーチってこんなに長い文章なの? 『未来を担う光』なんて、私に似合わないわよ!」

ベッドの上でバタバタと暴れる彼女の足を見て、俺は思わず吹き出した。魔力ペンを置き、ベッドの端に腰を下ろすと、挫折した小動物をなだめるように彼女の背中を軽く叩いた。

「進歩してるだろ。さっきは三行で詰まってたのが、今は四行目まで完璧だ。難読な『魔法構造論』の単語も正しく言えてた。このペースなら、もう一晩練習すれば半分は覚えられる」

アイリンは勢いよく寝返りを打ち、乱れた青い髪を俺の枕に散らした。海のような瞳が、最後のががきのように俺を見つめる。

「やっぱり……シエンが代わりに出てよ」

俺の袖を掴んで揺らしながら、猫なで声で言った。

「隊長だし、原稿の作者なんだから、あんたが出たほうが百倍格好いいわよ。お願い……」

「ダ・メ・だ」

俺は胸の前で大きく、交渉の余地なしのバツ印を作った。

「言ったはずだ。これは卒業生代表としての名誉で、全校生徒が認めた証なんだ。いつまでも俺の後ろに隠れてちゃいけない、アイリン」

俺は彼女の隣に座り直した。重みでベッドが沈む。不満げな彼女の顔を見ると、俺の目も少し柔らかくなった。

「お前は未来の『幻光』が誇る、最強の雷電使いだ。この数枚の紙もこなせないで、どうやってみんなを引っ張るんだ? 自分の力であそこに立て。あれはお前の舞台なんだ」

アイリンは唇を尖らせ、俺の決意が固いのを悟ったようだ。彼女は渋々原稿を拾い上げ、文字と戦うように起き上がった。

「わかったわよ……シエン様! 本当に厳しいんだから……」

不貞腐れたように呟きながらも、彼女はちらりと俺を見て、顔を赤らめた。

「でも……もし今夜中に半分覚えたら、クリームケーキ奢ってくれる?」

「それはお前の頑張り次第だな」

俺は不敵に笑い、彼女の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「おい、ペンを噛むな。壊れるぞ」

俺は苦笑して、彼女の口から可哀想な魔力ペンを救出した。

「だって、シエン……どうしようもないのよ……」

アイリンは俺に促されて座り直したが、骨が抜けたように俺の体に寄りかかってきた。青い長髪からシャンプーの香りが漂う。

「数千人の前で話すって想像するだけで、手のひらがびしょびしょになるんだから……」

戦場では無敵の雷を放つ彼女が、今は守りを求める子猫のように甘えている。俺は胸が熱くなるのを感じ、その細い体を腕の中に引き寄せた。

「怖がるな。緊張した時は、下の観客のことなんて考えるな」

背中を規則正しく叩き、乱れた魔力波動を鎮めてやる。

「安心できるもののことだけを考えろ。例えば、スピーチが終わったらすぐにあのお気に入りの店に夕食に連れて行ってやるとか。卒業後はケーキを好きなだけ奢ってやるとかさ。今は運動量も増えてるし、体重なんて気にしなくていいだろ?」

アイリンは俺の腕の中で心地よさそうに鼻を鳴らし、服を掴む力が少し緩んだ。どうやら本当にスイーツのことを考え始めたらしい。

「それに、俺たちも側にいる」

俺は断固とした響きを込めて付け加えた。

「アウグストゥスもセシルもリナも、そして俺も、あそこで見てる。もし言葉に詰まったら俺の目を見ろ。合図を送ってやる」

「……じゃあ、あんたをじっと見つめてても、嫌がっちゃダメよ」

アイリンは俺の胸に顔を擦り寄せ、顔を上げて見つめてきた。信頼に満ちた瞳。

「もちろんだ」

至近距離にある赤い唇を見つめ、俺の中の『悪い心』が鎌首をもたげた。俺は顔を近づけ、彼女の耳元で囁く。

「ただ……スピーチがうまくいったら、この特訓と原稿の功労金として、キス一回か、無条件で一日中手を繋ぐ権利を貰ってもいいだろ? 悪くない報酬のはずだ」

「あ、あんた……この変態!」

アイリンの顔は一気に爆発しそうなほど赤くなり、飛び退こうとしたが、結局温かい腕の中からは離れられなかった。彼女は俺の肩を弱々しく叩いた。

「どさくさに紛れて何を……彼氏だからってやりたい放題なんだから……」

「これは『指導料』だ」

俺は不敵に笑って腕の力を強めた。恥ずかしそうに笑う彼女を見て、張り詰めていた空気は甘い喧騒に変わった。

俺は薄い服越しに、アイリンの細くもしなやかな腰を撫でた。確かな感触に鼓動がわずかに跳ねる。彼女の赤らんだ顔を見ながら、俺の脳内である計画が形を成した。

「……なぁ、リナも巻き込まないか?」俺は狡猾に声を潜めた。

「え? どういうこと?」アイリンが不思議そうに首を傾げた。

「こういうのは……『注意逸らしの大法』って言うんだよ」俺は彼女の耳元で、その「連環計」を囁いた。

翌朝。卒業式前夜の緊張と興奮が混じった空気の中、俺とアイリン、そして黒い制服に白い仮面の「イン」ことリナは、例の階段室に忍び込んだ。

「そ、そんな……そんなこと、私にはできません!」

リナの冷徹な声は完全に崩壊していた。細く震える声には恐怖すら混じっている。彼女は後退し、腰の武士刀の柄をぎゅっと握りしめた。それが唯一の命綱であるかのように。

「心配いらないって、リナ」俺は一歩近づいた。まるで少女を唆す悪党のような口調だ。

「俺の分析を信じろ。アイリンが壇上でミスをしない確率は、お前とセシルが結婚する確率より低い。もしアイリンが固まってしまったら、全校生徒の視線がプレッシャーに変わる。その時、それ以上の衝撃インパクトが必要なんだ」

俺は一呼吸置き、最後の餌を投げた。

「スピーチのあの一分間だけ、仮面を外す。それくらいなら、いいだろ?」

「そうよ、リナ!」アイリンもリナの黒い袖を掴んで、泣き出しそうな顔で訴えた。「昨夜、大好きなケーキも食べずに練習した私のために、お願い! 助けてくれないと、緊張で『キュウ』を暴走させて礼拝堂の床を全部帯電させちゃうわよ!」

「無理です、無理無理無理! 絶対に無理!」

リナは俺たち二人の挟み撃ちに遭い、仮面の下の呼吸が乱れていく。冷酷な神秘性は崩れ去り、極度の羞恥心が溢れ出していた。

「か、仮面を外すなんて……殺された方がマシです……」

声はどんどん小さくなり、最後は子猫の鳴き声のようになった。だが、拒絶の言葉とは裏腹に、白い指先が不安げに裾を弄っている。これこそ彼女が「佐藤良奈」である証拠。時折見せる、いじめたくなるほど可愛い乙女心だ。

「うぅ……二人とも……最低です……」

リナは力を失ったように、冷たい石壁を背にずるずると座り込んだ。黒いスカートが広がり、彼女は膝を抱えて武士刀を腿の上に置いた。一刀両断の鋭さはどこへやら、今はただ無力でか弱い姿だ。

彼女は震えながら、白い仮面越しに俺を見上げた。

「シ……シエン、一つだけ……約束してください」

初めて聞く、懇願するような声。冷酷な剣客の下に隠されていた少女らしさが、羞恥によって溢れ出していた。

「何を約束すればいい?」俺は視線を合わせるように屈み、優しく聞いた。

リナは数秒沈黙した後、意を決したように言った。

「将来……部屋をデザインする時……私を……アイリンさんの次に……シエンに一番近い場所にしてください」

言い終えると、彼女は全ての勇気を使い果たしたように膝に顔を埋めた。白いうなじは血が滲むほど赤くなり、耳まで真っ赤に染まっている。

俺は呆然とした。こんな瀬戸際で彼女が気にしていたのは、ギルド拠点の「地理的条件」だったとは。

俺は隣のアイリンを見た。アイリンは驚いて口を開けていたが、やがてその表情は驚愕から、包容力と少しの同情に変わった。

彼女は数秒ためらった後、妹を見守る姉のように、俺に小さく頷いた。『リナなら仕方ないわね』というメッセージだ。

「本妻」の許可を得て、俺はリナの震える頭にそっと手を置いた。

「わかった、約束する」俺は真剣に応えた。

「未来の『幻光』の拠点で、俺の部屋の両隣は、一軒はアイリン、もう一軒はお前の部屋にする。それでいいか?」

「……はい」

膝の中から、かすかな、けれど安心したような声が聞こえた。

「仮面を外す」という巨大なハードルの向こう側に、俺の側にいたいという彼女なりの決死の覚悟があった。……どうやら未来のギルド本部は、壁の防音性能を極限まで高める必要がありそうだ。

「よし、契約成立だ」俺は手を差し出した。「立て、未来の『幻光』の副手。お前の一分間の伝説を作りに行こう」

リナの頭から手を離し、立ち上がろうとした時、アイリンが再び粘着質なガムのように俺に貼り付いてきた。俺の肩に体重を預け、原稿を覚える苦しみを俺の襟元にぶつけてくる。この親密な光景が他人の目にどう映るか、彼女は全く気にしていない。

二人の最高戦力をなだめ、彼女たちが礼拝堂へ向かうのを見送った。リナの足取りはまだ覚束ないが、アイリンがその手をしっかりと握っている。

彼女たちの姿が消えた瞬間、俺の顔から温和な表情が消えた。

俺は視線を斜め上の、階段の死角へと向けた。そこには、石化したように立ち尽くす一組の男女の後輩がいた。目は皿のように見開かれ、表情は「とんでもない秘密を知ってしまった」という衝撃で固まっている。

次の瞬間、俺は風さえ立てずにその場から消えた。

「後輩諸君、こんにちは」

俺の声が彼らの耳元で響いた時、俺はすでに二人の間に立っていた。両肩にそっと手を置く。力は入れていないが、骨の髄まで冷えるような圧迫感を込めて。

「シ、シエン先輩……っ!?」

俺は何も言わず、左目をゆっくりと見開いた。

観測者かんそくしゃ」。

その瞬間、魔力を極限まで解放した。深邃だった瞳に、最も明るく、最も冷徹な白光が宿る。精密なスキャナーのように、周囲の空気、光、そして彼らの中の魔力流動を解析し、凝固させる。純白の魔力に照らされた俺の顔の半分は影に沈み、神秘的で危険なオーラを放っていた。

「……君たち、今のは『何も見ていない』よな?」

親切だが背筋を凍らせるような笑みを浮かべる。暗がりに浮かぶ白い眼光は、異様な威圧感を放っていた。

「な、何も! 目に砂が入って、何も見えませんでしたぁ!」男子生徒は飛び上がりそうな勢いで震え、声が裏返っている。

「そうです! 私たち、瞑想の練習をしてたんです! 二度と覗き見なんてしません!」女子生徒は蒼白な顔で手を振り回した。

「よろしい。いい子だ」

俺の目の白光が消え、いつもの地味で親しみやすい先輩に戻る。俺は手を離し、彼らの肩の埃を優雅に払った。

「卒業式の予行演習が始まるぞ。急げ。遅れたらゲンリ先生に目をつけられるからな」

転がるように礼拝堂へ逃げていく二人を見送り、俺は懐からハンカチを取り出して、ゆっくりと手を拭いた。

「全く、対人関係ってのは面倒だな」

俺は溜息をつき、アイリンに掴み皺がついた襟を整えた。彼女たちが舞台の上で何の憂いもなく輝けるように。影で「悪鬼」になるのも、隊長の役目だ。

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