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異世界の観測者 ~今度こそ、大切に生きていく~  作者: WE/9
忙しい日常

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42/60

考核結果

再び目を開けたとき、視界に映ったのは東京のような無機質な蛍光灯ではなく、ほのかな木材の香りが漂う、見慣れたスウィヤの自室だった。

頭が鉛のように重い。昨夜の魂が抜けていくような恐怖感がまだ指先に残っている。二十時間の「考核テスト」のこと、冷めてしまったかもしれない朝食のこと、そしてまだ伝えきれていない無数の謝罪が頭をよぎる。俺は焦燥感に駆られ、肘で体を支えて起き上がろうとした。その拍子にベッドがギィと音を立てる。

「病人、動かないで」

柔らかいが、拒絶を許さない力強さを持った小さな手が、俺の肩をしっかりと押さえた。

俺は硬直したまま、視線をゆっくりと上へ動かした。

アイリンだ。彼女は俺のベッドの脇に座っていた。徹夜明けのせいか目元はわずかに赤いけれど、人を寄せ付けないような冷たい氷はもうほとんど溶けていた。彼女は俺が作ったベーコンパンを、はしたなくもパクりと口に含んだまま、もごもごとした口調で喋っている。そして、俺が命を懸けて手に入れた虹色の魔石のネックレスは、彼女の白い首元で静かに、温かな光を放っていた。

俺が目覚めたのを見て、彼女はパンを飲み込み、馬車で初めて会った時のように活発で生き生きとした笑顔を浮かべた。

「聞いたわよ……朝食と、この頭痛を吸い取ってくれる魔石のほかに、一番大切な贈り物があるんですって?」

俺は二秒ほど呆然としたが、すぐに彼女が何を指しているのか理解した。

「アイリン……ああ、あそこだ」俺は弱々しく指を差し、デスクの後ろ、昨夜アウグストゥスが魔法を使った後にこっそり隠しておいた影の部分を示した。

アイリンは好奇心に満ちた足取りでデスクへ向かい、隅々をガサゴソと探った。

「これ、何かしら? シエン、こんなに深く隠しちゃって」彼女は、ひんやりとした冷気を放つ透明で巨大な氷の立方体を提げて戻ってきた。

氷の層を通して、中にある精巧なスイーツのパッケージが微かに見えている。

「俺に貸してくれ」上半身を起こした。魔力は空っぽに近いが、この程度の制御ならまだできる。

俺は掌に熱を込め、その重い氷を受け取った。今回は火魔力で強引に溶かすのではなく、「観測者」でアウグストゥスが残したあの赤い点の構造を解析した。軽く力を込めると、鉄のように硬かった氷は一瞬にして温かな水へと変わり、床にこぼれ落ちた。

パッケージに水一滴すらついていない、完璧な状態の濃厚なチョコレートケーキが、奇跡のように俺の手の上に現れた。

「アウグストゥスと選んできたんだ。……君が、好きだと思って」俺は十キロ走った後のように鼓動を早めながら、ぎこちなくケーキを差し出した。

アイリンは、氷封され守り抜かれたケーキを見つめ、それから俺の青白い顔を見た。彼女はすぐには受け取らず、悪戯っぽく微笑んでベッドの縁に腰を下ろした。

「そういえば、あなた一晩中忙しくて朝ごはん食べてないわよね」アイリンはふと思い出したように、伏し目がちに考え込んだ。彼女は自分がかじり、歯形が残っているベーコンパンを見つめ、それから俺を見た。

キッチンへもう一つ取りに行くのかと思ったその時、彼女は鮮やかな青い長髪を優雅にかき上げ、白いうなじと虹色に輝く魔石を露わにした。そして、その半分残ったパンを口元でフーフーと、まるで俺を火傷させないように冷ますふりをして、そのまま俺の口元へと運んできた。

それは彼女の体温と気息が混じった、最も親密な分かち合いだった。

俺は息を止め、彼女の海のような青い瞳に宿る期待を見つめた。鼓動が一つ跳ね、俺は素直に口を開け、ベーコンの塩気と彼女の優しい想いが混ざり合ったパンを食べた。これまでの人生で食べたどんなものより美味しく、救いを感じる食べ物だった。

パンを咀嚼しながらも、俺はまだ不安だった。シーツを見つめ、落ち着かない様子で手を組み、勇気を振り絞って小声で尋ねた。

「それで……考……考核テストは合格したのか?」

アイリンはチョコレートケーキを一口、口に運んだところだった。クリームの甘さが、彼女の鋭かった瞳を三日月のように和らげた。彼女はリスのように頬を膨らませ、もぐもぐとさせながら、少し茶目っ気たっぷりに答えた。

「考核? んー……死にかけたお祝いに、合格にしてあげてもいいわよ」

彼女は舌先で口角についたチョコをペロリと舐め取り、安堵して泣きそうになっている俺の情けない顔を見て、思わず吹き出した。それから、手の甲で俺の頬を軽く叩いた。

「でもシエン、今度また勝手に姿を消したりしたら、今度は本当に黒焦げにして、その氷の塊をあなたの墓石にしてあげるからね」

窓から差し込む陽光が彼女の笑顔を照らし、一日中張り詰めていた心がようやく地面に着地した。俺のすべてを奪い去りそうだった嵐は、チョコの甘さと彼女の笑顔の中で、ようやく凪いだのだ。

俺が緊張を解いた瞬間、アイリンは突然声を低くした。温かかった口調に、少し不穏な悪戯心が混じる。

「でも、まだ正式に許したわけじゃないんだからね」指先に残った生クリームを舐めながら、海のような瞳を細めた。獲物を狙う子猫のような目だ。

「え?」俺の心臓がドクリと跳ね、思わずシーツを握りしめた。「『別れる』とか『出ていく』以外なら……好きにしてくれ」

「それは――あの賭けのことよ」彼女は眉を上げ、指先で俺の胸元を軽く突いた。

脳内で眠っていた記憶が呼び起こされる。

数日前、良奈の試合中、俺とアイリンは観客席で試合終了の時間を賭けた。勝ったのは俺だ。アイリンはあの時、皆の前で真っ赤になりながらも潔く認めた。「これからの三日間、手を繋ぐのも、抱きしめるのも、キスするのも、あなたの自由よ」

しかし、この三日間は災難続きだった。一日目は任務帰りの疲労で二人とも泥のように眠り、二日目はあの激しい衝突。この賭けは一生の心残りになると思っていた。

そして今日が、最後の一日だ。

至近距離にある彼女の、わずかに赤らんだ顔を見て、俺の心に奇妙な騒めきが起きた。俺は少しだけ口角を上げ、試すように笑ってみせた。

「こんな状況だけど……キャンセルしなくていいのか? 俺は『死の淵から戻ったばかりの病人』だぞ」

「キャンセル? 寝ぼけないで」アイリンは鼻を鳴らした。瞳には羞恥の色があったが、口調は断固としていた。彼女はケーキの皿を置き、ゆっくりと俺に覆い被さるように身を乗り出した。青い髪が枕の両サイドに垂れ、二人だけの小さな世界が作られる。

「シエン、あなたにはこの権利を行使する最後の時間が残っているのよ」

彼女の頬はますます赤くなっていくが、視線だけは逸らさない。鎖骨の間で虹色の魔石が揺れている。

「昨夜、あんなに必死に私を引き止めようとしたんだから……今度は、あなたが自分で『戦利品』を受け取りなさいよ」

空気が一瞬で熱を帯び、互いの呼吸音が重なるのが聞こえた。情愛に満ちたその瞳を見つめ、俺はゆっくりと手を伸ばし、彼女の柔らかい手を握った。

「その前に、ちょっと待ってくれ」俺は低く、重々しい声で言った。

「え?」アイリンが不思議そうに首を傾げた。

俺は深く息を吸い、彼女の目を見て、卑屈なまでに誠実に言った。「その……ごめんなさい!」

アイリンは一瞬呆気に取られたが、やがて口元を面白そうに歪めた。彼女は優雅に背筋を伸ばし、審判官のように腕を組んで俺を見た。

「あら。シエン、今さら正式な謝罪? いいわよ、誠意があるなら聞いてあげる。自分がどこを間違えたか言ってみなさい」

「アイリン、本当に済まなかった。これからは……誰が相手でも、他の女の子との距離感は絶対にわきまえる。誓うよ」俺は誓いを立てるように手を挙げ、早口だが一音ずつはっきりと伝えた。「それから、良奈にもはっきり言う。俺の心には君しかいないって。二度と誤解させたり、一線を越えるような真似はさせない……」

これで彼女も満足し、さらなる「説教」が始まるだろうと覚悟した。

「ああ、それはいいわ」アイリンはあっさりと俺の言葉を遮り、耳元の髪を整えた。その口調は驚くほど軽やかだった。「もう彼女とは話したから」

「話した?」俺は目を見開いた。

「昨日、あなたが出て行った後に彼女が部屋に来たのよ」アイリンは胸元のネックレスを弄びながら、事も無げに言った。「謝られたわ。あの『身体検査』は彼女が誘ったんだって。ただ確かめたいことがあっただけで、あんなことになるとは思わなかったって」

彼女は言葉を切り、海のような瞳に複雑な感情を走らせた。

「彼女、私より激しく泣いてたし、私を外から抱えて帰ってきてくれたでしょ。だから、とりあえず許してあげたわ。今まで通りの『正常な』交流なら認めてあげる」

アイリンは唇を尖らせると、しなやかな猫のように俺の上に飛び乗り、そのまま俺の隣のスペースへ滑り込んだ。横向きに寝そべり、手枕をしながら至近距離で俺を見つめる。

「でも! シエン、よく聞きなさい! もし次、あんな風に『指を絡ませたり』、あの日みたいに『一緒に寝ていたり』するのを見つけたら、どっちが誘惑したかなんて関係なく、二度と考核チャンスなんてあげないから。分かった?」

嫉妬を滲ませながらも真剣なその表情を見て、俺の心はようやく完全に解き放たれた。最高禁令は出されたが、良奈が俺たちを避ける必要はなく、チームが崩壊することもない。

「じゃあ、今は……快復後の一食目を頂くことにするよ」

俺は彼女の耳元で囁き、少し掠れた声で言った。彼女の細い腰を抱き寄せ、胸の中に引き寄せる。彼女は拒まず、俺の胸に身を預けた。爽やかな髪の香りと、雷魔石の微かな魔力の気配が俺を包む。

「え?」アイリンが聞き返す前に、俺は顔を上げ、その柔らかい唇を捉えた。

キスをした。

あの月夜の告白と同じ、けれど死地から生還した後の狂おしさと愛着が混じったキス。俺の手は彼女の後頭部を支え、シルクのような青い髪に指を滑らせる。

アイリンは微かな声を漏らし、昨夜の俺の奮闘に応えるように、俺の首に腕を回した。温かな口内が混じり合い、呼吸を奪い合い、壊れかけていた魂を繋ぎ合わせる儀式。これは単なる欲求ではなく、二十時間の考核を終え、魂がようやくあるべき場所へ帰ってきた証だった。

やがて名残惜しく唇を離すと、二人の間に細い銀の糸が引いた。

「ふぅ……はぁ……」アイリンは激しく肩で息をしていた。白い頬は熟した果実のように赤く、潤んだ瞳で俺を睨んだが、そこには何の殺気もなかった。

「あなた……やっぱり変態だわ」彼女は甘えたような声で呟いた。

「ああ、認めるよ」俺は厚かましく笑った。このキスで、体内に生気が戻ってくるのを感じた。

額を合わせ、愛おしさに満ちた彼女の目を見つめる。

「この『快復食』は、長くかかると思うよ」

アイリンは顔を赤くし、俺の頬を力いっぱい抓った。「もう、からかわないで! 早く起きなさい、アウグストゥスたちが待ち兼ねてるわ。これ以上降りていかないと、セシルが呼びに来ちゃうわよ」

俺たちは並んで部屋を出た。アイリンは胸元の虹色の魔石を愛おしそうに撫でていた。

「それにしても、これ、本当にどこで見つけたの?」彼女はネックレスを光にかざした。「魔力構造が変よ。雷のようで、水のようで……。スウィヤの商圏にこんなの売ってたかしら?」

「昨夜、突飛なことを思いついて作ったんだ」

俺は昨夜の狂気じみた経験を話して聞かせた。閉店間際の店へ走り、アウグストゥスの窓から忍び込み、最後は屋根の上でセシルを抱き抱えながら複数の属性を融合させたこと。

淡々と話したが、アイリンの足取りは次第に遅くなっていった。

「私のために……魔石を買いに? 屋根の上で一晩中?」彼女は驚きと心痛が混じった目で俺を見た。「ケーキ一つでも、許してあげようと思ってたのに……」

彼女は階段で立ち止まり、うつむいて魔石をぎゅっと握りしめた。

「ありがとね、シエン」彼女はパッと顔を上げ、朝日のように燦然と輝く笑顔を見せた。「次は私がおごってあげるわ! 何でも好きなものを食べなさい!」

「えっ、アイリンにおごってもらえる日が来るなんて」俺はわざと大げさに驚いてみせた。

「ちょっと! その反応は何よ!」アイリンは恥ずかしそうに地団駄を踏み、俺の腰を抓ろうとした。「せっかくの慈悲なんだから、感謝しなさい!」

「いや、光栄だ。一番高い店を選ぶよ」俺は笑いながら避け、確かな手応えを感じていた。家の暗雲は完全に消え去った。

リビングに入ると、一瞬の静寂の後、強烈な「身内」ならではの野次が飛んできた。

「やれやれ。僕の窓を犠牲にして仲直りできたようで何よりだ。ねえ、シエン?」アウグストゥスは優雅に茶を啜りながら、眼鏡の奥から皮肉っぽく笑った。

「やれやれ。私の睡眠を犠牲にして仲直りできたようで何よりだ。ねえ、シエン?」セシルはアウグストゥスの背中にへばりつき、その言葉をなぞる。

俺は顔を赤くしつつ、アイリンが俺の腕を強く掴むのを感じた。俺はみんなに深く頭を下げた。

「みんな、済まなかった。この二日間、心配をかけたな」

良奈が立ち上がり、温かい茶を運んできた。彼女の瞳は澄んでいて、俺とアイリンが並んでいる姿を見て、幸せそうな、慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。

彼女は言葉を交わさず、静かにアイリンが決めた「ソーシャルディスタンス」を守る席へと戻った。その温かな眼差しだけで十分だった。

「問題は解決したようだな」

マキシ先生が、なぜか物置のドアから埃を払いながら出てきた。

「先生、なぜまたそんなところから……。手に持っているのは何ですか?」

「これか? これは君たちの卒業試験さよならテストの問題用紙だ! まだ見せないがね」

「「「卒業試験!?」」」俺たちは声を揃えて叫んだ。

「当たり前だろう。あと半年もすれば卒業だ」マキシ先生は真剣な表情で、俺たち五人を見渡した。「スウィヤにおいて卒業とは、この大陸で生き抜き、世界のルールを変える実力を備えた証だ」

彼はパンをかじりながら続けた。「シエン、お前の『観測者』はどこまで開発できるか? アイリン、気絶せずに『蒼』と『穹』を使いこなせるか? これからの半年が、君たちのラストスパートだ」

「半年……」俺は拳を握った。隣でアイリンも背筋を伸ばした。

「だから今のうちに休んでおけ」マキシ先生は玄関へ向かった。「試験内容はレオンとレドノ将軍に確認してもらう。シエン、体力を壁登りや徹夜に使い果たすなよ。これからの訓練は死ぬほどきついからな」

マキシが去った後、俺たちは顔を見合わせた。温かなブランチの空気は、決戦への使命感へと変わっていた。

「卒業したら、シエンは何をするの?」アイリンが好奇心に満ちた目で尋ねた。

「俺? 建築士かな。この大陸にちゃんとした家を建てたい」俺は苦笑した。前世の知識と魔法の融合。それはきっと面白いものになる。

「シエンらしいわね、現実的で退屈。私はね、卒業したらこの大陸の隅々まで旅をして、美味しいものを食べ尽くすって決めてるの!」

「旅費がかかるぞ」と突っ込むと、アイリンは俺に顔を近づけ、狡猾に瞬いた。

「だからシエン、稼げる職業に就きなさい! 私の旅費はあなたに任せたわよ!」

「そんな簡単にスポンサーにはならないぞ」と冷たくあしらってみる。

「いいじゃない、キス一回につき……あ、今のなし!」アイリンは赤くなって話題を逸らした。

良奈も、セシルも、アウグストゥスも、それぞれの未来を口にする。バラバラのようで、どこか繋がっている。

俺は騒がしくも温かな仲間たちを見つめ、思った。

みんなの願いが「旅」に関わるものなら、卒業しても、俺たちが離れる必要なんてないんじゃないか。

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