帰り道
馬車がスウィヤの見慣れた通りにゆっくりと停まった。車輪が石畳を叩く最後の一音が、このストラトス・ヴィアへの旅の公式な終わりを告げた。
俺たち三人が行李を手に馬車を降りると、遠くの我が家に煌々と明かりが灯っているのが見えた。アウグストゥスが胸の前で腕を組み、門の傍らに直立している。その厳格な佇まいは相変わらずだ。そして彼の隣には、枕を抱え、今にもその場で眠り落ちそうなほど目を細めたセシルがいた。
「久しぶりだな、シエン」アウグストゥスは低く頷いた。落ち着いた口調だが、その深い眼差しが俺たち三人を捉えた時、年長者らしい安堵の色が混じった。
「あら? あんたたち、ようやく……付き合ったの?」
挨拶をする間もなく、セシルの極限まで無気力な、それでいてどこか空霊な声が漂ってきた。彼女は首を傾げ、眠たげな視線を俺とアイリンのまだ不自然に近い距離感へと正確に落とした。
「あー……ハハ、まあな」俺は照れ隠しに鼻をこすりながら、バツが悪そうに応じた。十三歳の飛び級天才にあっさり見抜かれるのは、言いようのない気恥ずかしさがある。
馬車の中ではあんなに威勢が良かったアイリンは、今や胸元に顔を埋める勢いでうつむき、バッグの持ち手をぎゅっと握りしめて俺の後ろで息を潜めている。真っ赤になった耳たぶが、彼女の心中を雄弁に物語っていた。
「リナ姉様……おめでとう」
セシルは付き合った話に深入りはしなかった。彼女はしなやかな猫のように俺とアイリンを通り過ぎ、面具をつけた良奈の元へ駆け寄った。そして何の躊躇もなく、安心感を求めるように良奈の腰や腕にすり寄った。
エネルギーの感知に長けたセシルは、良奈の身に纏わりつく、まだ消えやらぬ漆黒の魔力の気配を察知したのだろう。
良奈はまだ体が強張っていたが、セシルの「無差別甘え」攻撃を前に、冷徹な空気は瞬時に瓦解した。彼女は少し慌てながら銀の武士刀を置き、空いた手でセシルの頭を優しく撫でた。面具越しの声も、自然と柔らかなものになる。
「……ありがとう、セシル」
その光景は、ついさっきまでリングの上で死闘を繰り広げていたことを忘れさせるほど温かかった。アウグストゥスは、騒がしくも強い絆で結ばれた俺たち若者を見つめ、微かな笑みを浮かべてドアを開けた。
「中に入れ。スウィヤの夜風は冷える。温かいものを用意してある、まずは中へ」
家に入ると、オレンジ色の温かな光が溢れ出し、濃厚な脂の焼ける香りとスパイスの芳香が鼻をくすぐった。
リビングに足を踏み入れた俺は、その光景に門口で立ち尽くした。普段は古書や部品で溢れている長机が綺麗に片付けられ、そこには湯気を立てる料理が並んでいた。こんがり焼けた丸鶏のロースト、濃厚なホワイトソースがかかった温野菜、そして香りを振りまきながら煮え立つ肉じゃがのような煮込み料理。
「なあアウグストゥス……お前、いつからこんなに料理が上手かったんだ?」俺は呆然として、普段は古美術や魔法公式としか向き合っていないはずの男を見つめた。
「ああ。この程度、誰でもできるだろう?」アウグストゥスは腰のエプロンを外し、まるで「魔法の構造は簡単だ」と言うのと同じくらい当然のように言い放った。
「……はいはい、勝手にしろよ」俺は返す言葉もなく、心の中で「これがいわゆるデキる男か」と毒づくしかなかった。
いつもの席順で椅子に座る。隊長である俺が中央に座り、アイリンは照れながらも俺の左側にぴったりと寄り添った。良奈は何も言わず右側に座ったが、刀を置く動作は優雅でリラックスしていた。
そして向かい側には、アウグストゥスとセシル。
いざ箸を動かそうとした時、俺の目玉が飛び出すような光景が飛び込んできた。セシルの小さな体は自分の椅子に座る気配など微塵も見せず、極めて自然に、それこそ「当然」といった風にアウグストゥスの膝の上に座ったのだ。彼女はそのままアウグストゥスの肩に頭を預け、満足げにふぅと溜息をついた。
アウグストゥスも彼女を突き放すことなく、手慣れた様子でフォークを取り、切り分けた肉をセシルの口元へと運んでいる。
その「異常」なほど調和の取れた光景を前に、俺の持つ箸は空中で凍りついた。
ここ数日……俺たちがストラトス・ヴィアで死ぬ思いで戦い、必死に仲を深めていた間、この家の中で一体何が起きていたんだ!?
俺は今さら気づいた。俺たちが不在の間、この性格の両極端な二人は、毎日この家で「二人きり」だったのだ。
「……まさかあいつらも?」俺がアイリンの方を見ると、彼女もまたあんぐりと口を開けて向かい側を見つめており、照れなど忘れて固まっていた。
良奈もこの奇妙な雰囲気を感じ取ったのか、面具の下の視線がアウグストゥスとセシルの間を往復している。
「シエン、飯だ」アウグストゥスが顔を上げ、静かな瞳で俺を射抜いた。その口調に揺らぎはない。「それとも、セシルのように俺に食べさせてほしいのか?」
「い、いやいい! 自分で食う!」俺は慌てて飯をかき込んだが、心臓は告白の時より早く跳ねていた。
祝勝会が終わり、室内には満腹後の気怠い空気が漂っていた。アイリンは良奈を連れて重たいトロフィーを愛でるために部屋へ戻り、俺はキッチンに残ってアウグストゥスの片付けを手伝っていた。
水道の蛇口から水が流れ、洗剤の泡が皿の上で弾ける。俺は隣で一心不乱に机を拭くアウグストゥスを横目で見た。その涼しい顔を見ていると、心の中の野次馬根性がどうしても抑えきれなくなった。
「なあ、アウグストゥス」俺は声を潜め、深刻な顔で近づいた。
「なんだ?」彼は顔も上げず、一定の速度で布巾を動かしている。
「お前とセシル……」俺は唾を飲み込み、隊長としての正義感(という名の好奇心)を込めた。「お前、あんな小さい子を誑かしてないだろうな? あいつはまだ十三歳だぞ。実力がどれだけ凄かろうが飛び級してようが、法律上は子供なんだからな!」
俺の脳内には、寝ぼけて無防備なセシルの「寝られるなら何でもいい」という性質を利用して、アウグストゥスが彼女を大きなぬいぐるみのようにおもちゃにしている(?)という、とんでもない妄想が広がっていた。
「何を言っているんだ?」アウグストゥスはようやく手を止め、心底軽蔑するような、知能の低い生き物を見るような目で俺を見た。「俺は彼女の面倒を見ているだけだ。変なことはしていない」
「え?」俺は拍子抜けして、勢いが半分削がれた。「面倒を見てるだけ……?」
「彼女は食事の道具を持つのすら億劫がる。放っておけば、嚥下するのを忘れてソファの上で餓死しかねないからな」アウグストゥスは鼻で笑い、最後の汚れを拭き取りながら淡々と言った。
「俺は同居人としての義務を果たしているだけだ。必要な栄養と水分を摂取させ、床に転げ落ちる前にソファへ戻してやっている」
そのあまりにも生真面目すぎる顔を見ていると、俺のピンク色(というか下劣な)邪推は霧散し、逆に自分が考えすぎだったような気がしてきた。
「それに、俺には元々妹が二人いる。もう一人増えたところでどうということはない」アウグストゥスは仕上げに布巾を綺麗に掛け、淀みのない動作で付け加えた。「面倒な女の扱いは、慣れているんでね」
「……お兄ちゃん気質が爆発しただけかよ」俺は苦笑したが、どこかホッとしていた。
だが、彼が当然だと思っている一方で、セシルのあの「べったり」した甘え方は果たして本当にただの怠惰なのか、それとも別の意味があるのか。この屋根の下の関係は、俺が思うほど単純ではないのかもしれない。
「それよりお前だ」アウグストゥスは作業を終え、流しに手をついて、まるで審判官のような冷徹な眼差しで俺を射抜いた。
「大会から送られてきた魔法データの記録を見たが、重要な局面で陣を破り、血を流し汗をかいていたのは、ほとんどが良奈だ。お前はどうなんだ?」
彼は長い指を伸ばし、連夜の作戦会議と魔力消耗でひどくなった俺のクマを無情にも指差した。
「二人の美少女の間でハーレム気分に浸り、勝手に自滅して疲れ果てている以外に、お前は一体何の役に立ったんだ?」
「そ、そんなことないだろ!」尻尾を踏まれた猫のように、俺は声を荒らげて弁解した。「俺は指揮官だ! 戦術分析担当だ! それに……さっきも保健室で良奈の魔力誘導をやったんだぞ、あれは精神を削るんだからな……」
「わかった、その減らず口を閉じろ」俺の薄っぺらな弁解が終わる前に、アウグストゥスは苛立たしげに舌打ちし、俺の手から汚れた布巾を奪い取った。
「その魂の抜けたような面を見ろ。皿一枚洗うのに三分も上の空でいやがって」
彼は背を向け、手際よく布巾を絞りながら、俺に向かってシッシと手を振った。口調は相変わらず冷たいが、そこには彼なりの不器用な気遣いが隠されていた。
「小彼女の相手でもしてこい。それから、優勝したばかりの『可愛い妹分』のところへもな。ここは俺がやる。邪魔だ」
俺は呆然と立ち尽くし、アウグストゥスの大きく頼もしい背中を見つめた。暖かなキッチンの明かりの下、皿を洗う彼の動作は優雅で迅速だ。現代人である俺よりも、よっぽど効率的に見える。
「……」
俺はトボトボとキッチンを出た。胸の内に、微かな悲しみが込み上げてくる。
硝煙漂う戦場でも、この生活感溢れる家の中でも、俺はどう見ても「給料泥棒(冗員)」ではないか? 外では良奈が武力を担い、アイリンが殲滅を担当する。家の中ではアウグストゥスが家事と食事を完璧にこなし、セシルは……セシルはプロの「甘え役(飾り)」だ。
俺は頭を掻き、やり場のない思いでリビングへ向かった。
だがリビングの光景を見た瞬間、俺の「冗員」としての悲しみは、形容しがたい温かさで満たされていった。
ソファの隅では、アイリンが完全にリラックスして、良奈の面具をそこらへんに放り出していた。希少な宝物でも揉みしだくかのように、良奈の赤い頬をむぎゅむぎゅと弄り回している。対する良奈は完全に抵抗を諦め、アイリンの「蹂躙」に身を任せていた。その瞳には、諦めと深い慈しみが透けて見える。
そして彼女たちの足元では、いつの間にかセシルがシャットダウンモードに入り、ソファのクッションに寄り添って、規則正しい寝息を立てていた。
家事はアウグストゥス、戦闘は美少女たち。俺は溜息をつき、キッチンに戻って取っておきの茶葉を取り出した。今、俺ができる唯一の役割、お茶を淹れることにした。
数分後、トレイを手にリビングへ戻ると、立ち上る湯気と共に清々しい茶の香りが広がった。
「あら、シエン。気が利くじゃない!」アイリンはようやく良奈の頬を解放し、ニヤニヤしながら俺を見た。海のような青い瞳が悪戯っぽく輝いている。
「ん……アウグストゥスほどじゃないけど、いい香り……」セシルが奇跡的に一瞬だけ目を開け、鼻をひくつかせた。そしてまた気怠そうに目を閉じ、独り言のように言った。
俺は呆れて溜息をつき、彼女たちの前にカップを置きながら反撃した。「お前ら、この家の中で俺に文句言える立場じゃないだろ。食う専門と、寝る専門のくせに」
「へへ、これを分業って言うのよ!」アイリンはぺろりと舌を出し、全く悪びれずにカップを手に取った。
最後に、俺は良奈にカップを差し出した。アイリンに弄られたせいで、彼女の精巧な顔には不自然な赤みが残っており、リングの上の冷徹な姿とは比べものにならないほど親しみやすかった。
「あり……がとう」良奈は少しぎこちなく細い指を伸ばしてカップを受け取った。その小さく柔らかな声と、一瞬こぼれた少女のような仕草に、俺の心臓は不覚にも一拍飛び跳ねた。
俺は椅子を引いて彼女たちの向かいに座り、三人の少女たちが暖かな光の下でお茶を飲む姿を眺めた。散々けなされたが、彼女たちのリラックスした表情を見ていると、ストラトス・ヴィアでの冒険の疲れが、全て消えていくような気がした。
アウグストゥスの静かな足音が二階の角に消えると、リビングの明かりは一層静まり返った。彼の残した最後の手短な言付けが空気中に漂い、この空間を深夜の静寂と俺たち二人に委ねていった。
「良奈、俺ももう上がるよ……」俺は欠伸をしながら立ち上がり、この長い一日を終えようとした。
その瞬間、服の裾に微かだが、確かな力がかかったのを感じた。
「シ……シエン。あの……お願い」
良奈の声は低かったが、静まり返った室内では驚くほど鮮明に響いた。俺は足を止め、振り返った。彼女はソファに座ったまま、深くうつむいている。普段、刀を握って氷のように安定しているはずのその手が、今は俺の服の裾をぎゅっと掴んで放さない。指先は力が入りすぎて白くなっていた。
「ああ、思いついたのか?」俺は再び彼女の隣に腰を下ろした。口調も自然と優しくなる。「言ってみろ。俺にできることなら何でも頑張るよ。お前は今回の優勝者、英雄なんだからな」
良奈は深く息を吸った。胸が上下し、心の中で何度も言葉を反芻しているようだった。やがて彼女は顔を上げ、光を反射してキラキラと輝く紫の瞳で俺を射抜いた。頬の赤みは瞬く間に耳たぶまで広がっていく。
「わたし……わたし、希望むの。……これからも、あなたの……魔力検査を」
その言葉を吐き出すと、彼女はすぐに視線を落とし、服の中に隠れるように身を縮めた。
その瞬間、保健室で起きた「魔力共鳴」の光景が走馬灯のように脳裏を駆け巡った。十指を絡ませ、体温が混じり合い、魂さえも融合するような、あの狂おしい熱感。俺はてっきり、彼女にとってあれは負担だったのだと思っていた。だが、まさかそれを自ら「お願い」として求めてくるとは。
これはお願いなんてものじゃない。ほとんど甘えた告白のようなものだ。
戦場では戦女神である彼女が、今は守ってあげたくなるような一輪の花のように脆く見える。俺の鼓動も、それにつられて早まっていった。
「……まさか、そんなお願いだとはな」俺は苦笑して頭を掻いた。けれど、心の奥底には甘い感覚がじわりと広がっていた。
「いいよ、了解だ。隊長として、隊員の魔力の乱れを整えるのは当然の職務だからな」
俺は言葉を切り、彼女の期待と羞恥の入り混じった瞳を見つめ、わざと声を潜めてからかった。
「でも、これはアイリンの前では絶対できないな。俺の命がアイリンの雷撃に耐えられそうにない。俺、かなり危ない立場だぞ?」
良奈はその言葉に、思わずぷっと吹き出した。強張っていた肩の力が抜けていく。彼女は小さく頷き、悪戯っぽく囁き返した。「……うん。これは……わたしたち二人の、内緒」
「わたしの……部屋へ来て」良奈はうつむき、深夜の微風に消えそうなほど小さな声で言った。彼女は銀の刀を手に取り、足取りは軽やかだがどこかぎこちなく、先に二階へと上がっていった。
良奈の部屋のドアを開けると、シダーウッドに紙と墨が混ざったような、清々しい香りが鼻をくすぐった。
部屋のしつらえは彼女のイメージそのもので、簡素で冷たさすら感じるほどだが、細部に女の子らしい温もりが宿っていた。予備の黒制服や私服が棚に整然と畳まれ、その折り目の幅まで精密に揃っているのは驚嘆に値する。机には厚手のウールマットが敷かれ、万年筆と分厚い革の手帳が置かれていた。外の世界では神秘に包まれた剣客も、私生活では日記をつけるような細やかさがあるらしい。
良奈はベッドの端に座り、隣の空いたスペースを軽く叩いて、俺に座るよう促した。
俺が座ると、マットレスが微かに沈み、お互いの体温を感じるほど距離が縮まった。部屋のメインライトは消され、机の上のスタンドライトだけが黄色い光を放ち、壁に良奈の影を長く映し出している。
彼女はまだ緊張しているのか、白く小さな手を伸ばすと、俺の胸元の襟をぎゅっと掴んで、甘えるように、あるいは急かすように揺らした。海のような瞳が暗がりで期待に輝き、枕元に置かれた面具の横で、全校を虜にするその素顔が、無防備に俺に向けられていた。
「……ああ、始めるか」
俺は彼女の意図を汲み取り、口元を緩めた。俺は手を伸ばし、微かに冷たさを帯びた彼女の細い掌を受け止めた。指先が重なった瞬間、彼女の手のひらから小さな震えが伝わってきた。
俺の手と彼女の手が完全に重なり合った時、俺は再び左眼の「観測者」を起動させた。
ウォンッ――!
視界が瞬時に深淵なエネルギー態へと切り替わる。午後の保健室の混乱した感覚とは違い、今の良奈の中の黒い魔力は「同類」の訪れを悟ったかのように、自ら狭い経絡から溢れ出し、俺の雷火の魔力と交わるのを待ちわびていた。
あの奇妙な共鳴が再び襲ってきた。それも前回よりずっと強烈に。俺の鼓動のリズムが、彼女のリズムに強制的に同期されていくのを感じる。絡ませた掌から、灼熱の感覚が全身を駆け巡った。良奈の頬は目に見える速さで緋色に染まり、彼女は甘い溜息を漏らすと、俺の肩に体重を預けてきた。
「シエン……今回の感じ、お昼よりも……ずっと……」彼女は目を閉じ、長い睫毛を震わせながら、断片的な声を空気中に溶かしていった。
窓の外のスウィヤの夜は深く、部屋の中の空気は発火したかのように、粘り気を帯びて熱い。
絡めた指の間を魔力が絶え間なく流転するにつれ、共鳴感は単なる「循環」を超越していった。それは魂の深淵を直接揺さぶる衝撃であり、極限の渇きの中で与えられた甘露のようでもあり、あるいは中毒性のある危険な劇薬のようでもあった。……前世で正直なインテリアデザイナーだった俺は薬物なんて触れたこともないが、脳裏が白くなり、魂が震えるような快感というものは、おそらくこういうものなのだろう。
「う、ん……」良奈が微かな声を漏らした。その瞳は厚い水霧に覆われ、清らかだった視線は混濁し、とろけている。
体内の魔力が出口を見つけた奔流のように、狂おしく絡み合い、縺れ合う。この究極の悦楽に全身の力が抜け、俺の膝は崩れ、良奈と共に柔らかなベッドの上へと倒れ込んだ。良奈の細い体は重心を崩し、俺の胸に飛び込む形になった。その柔らかな感触と、彼女から漂う淡い残り香が、混濁した意識に止めを刺す。
それでも、指を絡ませた手だけは決して離さなかった。それが、この魔力の渦に魂を呑み込まれないための唯一の支柱であるかのように。
「良奈……まずい……この共鳴……深すぎる……」俺は肩で息をしながら、理性が「今すぐ止めろ」と警鐘を鳴らすのを聞いていた。これ以上続ければ、二人の精神がこの漆黒の魔力によって完全に融け合ってしまう。
俺は死に物狂いの意志で魔力の出力を断ち切り、汗ばんで熱を帯びた彼女の小さな手を、ゆっくりと解いた。
だが、魂の深奥に刻まれた余韻は、波のように何度も押し寄せ、去ろうとしない。
「シ……シエン」良奈は俺の腕の中に縮こまり、頬を俺の胸にぴたりと寄せていた。恥ずかしさで強張っていた体は、今や究極の疲労と快楽後の虚脱感によって、異常なほど弛緩していた。
骨の芯から溢れ出すような倦怠感が潮のように押し寄せ、俺たちの最後の意識を完全に飲み込んでいく。薄暗いスタンドライトの下、俺たちは親密で曖昧な姿勢のまま、お互いの気配が混じり合う温もりの中で、いつの間にか深い眠りへと落ちていった。




