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異世界の観測者 ~今度こそ、大切に生きていく~  作者: WE/9
世界を理解する

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3/5

レオン

窓枠を通り抜けた月光が木の床に降り注ぎ、冷徹な銀色の輝きを放っている。

俺は重い瞼を持ち上げた。頭全体が重槌で叩かれた後に無理やり縫い合わされたかのように、ひどく重苦しい。左の眼窩がんかの周りにはまだ余熱が残っており、その灼熱感は魂の深淵にまで焼き付けられたかのようだった。

シニィがベッドの端で突っ伏して眠っている。その茶髪は少し乱れ、眠りの中でも眉間に深く皺を寄せ、俺の服の裾を無意識に握りしめていた。

(父さんも母さんも……きっと肝を冷やしただろうな)

申し訳なさを感じながら、強張った体を動かそうとした。

「やあ、ヒデヒコ」

唐突に、澄んでいて幼い、だがこの世のものとは思えない空霊くうれいさを孕んだ声が、脳髄に直接響いた。

「っ?! 誰だ?」

驚きで跳ね上がりそうになったが、四歳の体では短い叫びを漏らすのが精一杯だった。警戒して周囲を見渡すが、眠っているシニィ以外、誰もいない。

「探さなくていいよ、僕は君の意識の中にいる。僕は『ギン』。君をこの世界へ送った神様さ。まあ……今は新米の修行中ってステータスだけどね」

「……あんたか」

激しく波打つ心臓を鎮め、心の中で問い返す。

「さっきのはどういうことだ? 体の中のものが完全に暴走した。あれが魔法なのか?」

「いいえ、それは君のスキルだよ」

銀の声には、面白い実験を眺めるような茶目っ気が混じっていた。

「君を送る前、左眼に口づけをしたのを覚えてる? あれは転生のお祝い――【観測者オブザーバー】だ」

「【観測者】……」

俺は無意識に手を上げ、左眼をそっと指先でなぞった。

「そう。神が世界を観察し、構造を解析する『造物主の視点』の欠片を君に分けたと理解していい。さっきカイルが君の魔力を誘導しようとした時、君の左眼が外部エネルギーに反応して、自動的に『解析プログラム』を起動させちゃったんだ。四歳のハードウェアには、当然オーバーロードでシャットダウンだよね」

「解析プログラム……」

デザイナーである俺にとって、その言葉は致命的なまでに魅力的だった。それは、世界を見る方法が「感性」から「情報の読み取り(リード)」へと進化することを意味する。

「銀、あんたは僕のシステムガイドか何かなのか?」

「うーん……ちょっと違うかな」

脳内で銀が肩をすくめたような気配がした。「君から能動的に僕を呼ぶことはできないし、僕も気が向いた時にヒントを出すだけ。つまり、この眼の取扱説明書は自分自身で書くしかないんだ。残りの時間は、その『すぐ落ちる(フリーズ)』体に慣れることだね。おやすみ、デザイナーさん」

声は次第に遠ざかり、最後は静寂の中に消えた。

俺はベッドに横たわり、天井を見つめた。今度は意識を左眼に集中させてみる。

何の変哲もない木製の天井が、視界の中でゆっくりと変容していった。ただの木材ではなく、繊維の走行、荷重の均衡点、そして木紋の間を血管のように緩やかに流れる微かな魔力の光点が見えた。

「【観測者】……これが今世の、俺の道具か」

小さな拳を握りしめた。前世のインテリアデザインが空間を美しくするためのものだったなら、今世はこの眼で、この世界の魔法論理ロジックそのものを再設計してやる。

翌朝、工房には微かな木屑の香りと冷たい霧が満ちていた。ほとんど一睡もできなかったが、脳内は銀の言った【観測者】と、世界を解析する快感で支配されていた。

「父さん! もう一回、やりたい!」

木材を整理しているカイルの前に走り寄り、四歳児とは思えない断固とした口調で言った。昨日のダウンが偶然なのか、それとも解析の力を制御できるのか、確かめなければならない。

カイルはかんなを手に取ろうとしたところで手が止まった。俺を見下ろす彼の瞳には昨日の興奮はなく、迷いと葛藤が浮かんでいた。

「シエン、それは……」

「シエン」

シニィが布巾を置いて歩み寄り、カイルより先に口を開いた。彼女は屈み込み、優しく、だが力強く俺の肩を掴んだ。いつも笑みを絶やさない瞳が、今は厳粛さと憂慮に染まっている。

「昨日のあなたは、見ていて本当に怖かった。倒れた時、顔が雪のように真っ白だったのよ」

シニィは静かに、だが震える声で続けた。「これはとても危険なことなの。人の体には生まれつき魔力の循環に耐えられない『魔法拒絶』という体質があるわ。無理をすれば、あなたの脳が壊れてしまうかもしれない」

カイルも溜息をつき、俺の頭を撫でた。

「母さんの言う通りだ。村の長老にも診てもらう必要があるかもしれない。体の状態がはっきりするまで、もう無闇に試させるわけにはいかないんだ」

心配に満ちた二人の顔を見て、俺の勢いに冷や水が浴びせられた。

(魔法拒絶……いや、ハードウェアがソフトウェアを読み取る時のディレイに過ぎないんだ)

俺は心の中で苦笑した。

これが拒絶反応ではなく、この「神の眼」があまりに先進的すぎるせいだと知っている。だが銀の存在を説明することも、中身がインテリアデザイナーの魂だと言うこともできない。もし本当に魔法を禁じられたら、俺は今世、ただの木工見習いとして終わってしまう。

「父さん、母さん……本当に大丈夫なんだ、僕はただ……」

食い下がろうとしたが、シニィは優しく首を振り、俺を抱き寄せた。

「いい子ね、シエン。数日はお父さんの横で木の性質を学びなさい。魔法のことは、また今度話し合いましょう」

シニィの肩に顔を埋めながら、俺は左眼をこっそりと開いた。

彼女の背越しに、工房の隅にある古い木椅子を見る。【観測者】の微弱な稼働により、一本の脚が亜安定状態メタステーブルにあり、長年の荷重によって内部繊維が歪んでいるのが見えた。

(表立って練習させてくれないなら……)

俺は心に決めた。前世、最も過酷な工期の中でデザインを完成させてきた俺だ。今世も二人の監視を潜り抜け、独力でこの体の「システムアップグレード」を完遂してやる。

あの「事故」以来、俺の修行は地下へと潜った。毎晩夕食を終えると、眠いふりをして二階へ這い上がり、古い紙の匂いが漂う屋根裏へと忍び込む。

表紙の剥げた『魔法入門:初心者の第一歩』を広げ、微かな月光と【観測者】による暗視機能を頼りに、一行ずつ読み解いていく。

「人にはそれぞれ、生まれ持った属性がある……」

俺は独り言を漏らす。「これは建築材料の特性と同じだ。木材は圧縮に強く、鋼材は引張りに強い。属性を間違えれば、どんな完璧な構造も崩壊する」

深く息を吸い、最も軽やかで殺傷力の低そうな「風」から試すことにした。目を閉じ、本に従って大気との共鳴を試みる。

「風に縁あらば、汝、強風の力を貸し与えん……」

体内の魔力が僅かに波打った。静かな湖面に小石を投げ入れたような、小さなさざなみが起きただけで……何も起きなかった。屋根裏の埃は静止したままで、紙の端一つ揺れない。

「どうやら、風属性とは相性が悪いらしいな」

俺は唇を尖らせたが、落胆はしなかった。デザイナーにとって、試行錯誤トライアル・アンド・エラーは仕事の一部だ。

次に、火属性のページをめくる。

「火に縁あらば、汝、祝融しゅくゆうの力を貸し与えん……」

「ドッ――!」

詠唱が終わった瞬間、心臓を重槌で叩かれたような衝撃が走り、狂暴で熱く、侵略的なエネルギーが腹部から炸裂した! さっきの風とは全く違う。それは煮えたぎる溶岩のように、一瞬で全身の経絡を埋め尽くした。

「くっ、出力が強すぎる……!」

歯を食いしばる。体温が急速に上昇し、皮膚が赤らんでいくのが分かる。

慌てて本に目を落とした。魔力の振動で指が震える。

「早く……エネルギーを指先に集めろ。放出しなければ、体内を焼き尽くす……!」

右手の食指に全神経を集中させ、【観測者】を起動する。視界の中で、無形だった魔力が高度に圧縮された深紅のエネルギー球となり、内部で激しい分子運動が繰り返されているのが見えた。

(爆発させるな、一点に集束フォーカスさせろ!)

指先の「出口」に全意識を注ぐ。これは高圧ホースのノズルを設計するようなものだ。開口部が正確でなければ、ライン全体が破裂する。

凄まじい熱波が狭い屋根裏を席巻した。指先で跳ねる巨大な火球に、木製の床が悲鳴を上げ、空気が今にも発火しそうなほど乾燥していく。

「やばい! 家が燃える!」

頭が真っ白になった。前世、消防法規に厳しかったデザイナーとして、火災現場の惨状が脳裏をよぎる。

「やれやれ、手伝ってあげるよ」

銀の、冷徹ながらも呆れたような声が響いた。

その瞬間、脳の深部から氷のように冷たい気流が全身に流れた。脱走した馬のように狂暴だった火のエネルギーが、その気流に「整流」され、途端に従順になった。膨れ上がった火球は急速に収縮し、最後は一筋の黒煙となって指先から消えた。

「はぁ……はぁ……」

床に崩れ落ち、荒い呼吸を繰り返す。掌は冷や汗でぐっしょりと濡れていた。

「君はバカなの?」

銀の叱責が心に響いた。今回は明らかに怒っている。「そのボロい本に『保護者や導師の付き添いのもとで練習すること』って書いてあるでしょ。四歳のガキが、この木造建築を更地にするつもり?」

「……自分の属性を、確かめたかっただけだ」

心細く言い返したが、心臓の鼓動はまだ激しい。

「いいよ、もう。その【観測者】で自分を見てごらん」

呼吸を整え、左眼に神経を研ぎ澄ませる。

視界が切り替わった。俺は自分の小さな手と体を見下ろした。

自分の「構造」を解析するのはこれが初めてだった。俺の体はもはや単なる肉体ではなく、無数の透明な配管が張り巡らされた複雑な建築物に見えた。配管の中には発光する液状のエネルギーが満ち、高圧送電塔のケーブルのように脊椎や四肢に密集している。

「これが、俺の魔力か……」

「そう。でも見て、エネルギーの流れがめちゃくちゃでしょ。渋滞した交差点みたいだ」

銀が解説する。「練習不足だから、今の君には『総量』しか見えない。具体的な属性の色までは判別できないんだ。君の眼には、全部同じ色に見えてるはずだよ」

発光する線条を見つめる。銀は乱れていると言ったが、プロのデザイナーである俺からすれば、これは世界で最も完璧な「未開発の平面図」だ。今はまだ色が見えなくても、特定の回路を通る時だけエネルギーが驚くほどスムーズに流れるのを肌で感じていた。

「流れが悪いなら……配線し直すまでだ」

左眼を銀色に光らせ、俺は低く呟いた。

屋根裏を焼き払そうになって以来、家の木造構造は俺の「実験」にはあまりに脆弱すぎると痛感した。

そこで俺は毎日、家の裏にある広大な森へと通い始めた。四歳の子供にとってこの道のりは相当な遠征だが、魔法を心ゆくまで解析するためなら、この程度の体力の消耗など安いものだ。

「森の中で火魔法の練習……木に恨みでもあるの? それとも火葬場でも開くつもり?」

銀の毒舌混じりの声が脳内に響く。

「黙ってろ、銀」

巨大な枯れ木の前で屈み、左眼の熱を感じる。額の汗を拭いながら、脳内で魔力噴射の弾道を計算する。

「ここなら制御の練習ができる。家では出力を抑えなきゃいけないが、ここならエネルギーが実体に衝突した時の『構造フィードバック』を正確に読み取れる」

破壊実験を通じて材料の強度を確認する。これはデザイナーとしての職業習慣だ。

再び指先を突き出し、【観測者】で周囲の森を灰色のグリッド(格子)へと解析する。樹木内部の液体流動、空気中の微弱な風向きが見えた。

「火の属性……それは単なる燃焼じゃない」

物理学における分子の激しい運動原理を思い出す。「それはエネルギー放出を引き起こす『高周波振動』だ」

詠唱はしない。意識だけで体内の狂暴なエネルギーを操る。それを圧縮し、さらに圧縮し、指先に膨大な火球ではなく、極小で極めて明るい赤色の「点」を形成する。

(噴射ノズルをイメージしろ。出口径〇・五ミリ……圧力調整……)

「オン――!」

今回は爆発音はなかった。指先から髪の毛ほどの細さの紅い光条が射出され、赤熱した剣のように、三人がかりでも抱えきれない巨木を一瞬で貫通した。

「ふぅ……成功だ」

枯れ木に穿たれた、縁が滑らかにガラス化した円孔を見て、俺は今世で初めて満足げな笑みを浮かべた。「精密加工とは、こうあるべきだ」

「(ねえ、デザイナーさん)」

銀の声が急に険を帯びた。「『施工精度』に酔いしれるのもいいけど、前を見て。あの膨大なエネルギー源……森の土着生物じゃないよ」

心臓が跳ね、即座に振り返った。

【観測者】の視界越しに、森の奥から巨大で極めて不安定な魔力構造が猛スピードで接近してくるのが見えた。その密度と階層は、今まで見た誰よりも遥かに凌駕している。

その瞬間、俺の視界はその暴力的なエネルギーに焼き切られそうになった。

極速で飛来する流星のような魔力が、前方の墨のように濃い純黒の魔力を執拗に追っている。高階梯魔法による追撃戦の残光。そして、その純黒の魔力の中心には、目を赤く光らせた小山のような「影蝕黒牛エイショクコクギュウ」がいた。

「おい、危ない!」

鋭い叫び声と共に、力強い腕が俺の腰を抱きかかえ、四歳の体を草の上へと転がした。

「ドォォン!」

俺が立っていた場所は黒牛の重い蹄に踏み抜かれ、泥が飛び散った。

「な、なんだ……あ! 逃げろ!」

泥を払う暇もなく、再び突進しようとする不吉な黒気を纏った怪物を指差して叫ぶ。あの魔力は植物を一瞬で萎れさせるほど腐食性が強い。

「ふん、大丈夫だ」

俺の前に立ちはだかった少年が振り返り、自信に満ちた笑みを浮かべた。十七歳前後だろうか。燃えるような赤髪が林間に映え、その身には本でしか見たことのない「魔法学院」の制服を纏っていた。

彼が手をかざすと、左の掌に拳ほどの火球が瞬時に凝縮された。

(待て、あの火球のエネルギー密度じゃ……黒牛の防御を突破できない!)

デザイナーの計算が弾き出される。

「そのレベルの火球じゃ……」

言い終わる前に、魔法の常識を覆す光景が繰り広げられた。

「グシャッ!」

少年は五指に力を込め、その火球を掌の中で無理やり握り潰したのだ! 火元素は霧散するどころか、圧力によって極めて不安定なプラズマ状態へと圧縮された。間髪入れず、彼の右の掌が刺すような青紫色の雷光を放ち、電流が「ジジジ」と激しく鳴り響く。

彼は両手を打ち合わせた。属性の異なる二つのエネルギーが掌で激しい物理反応を起こす。

(エネルギー融合? 強引に魔法のインピーダンス(抵抗値)を変えているのか!)

左眼が激しく点滅し、赤と青のエネルギーが螺旋を描きながら昇圧されていくのが見えた。

少年は右の指先を黒牛へ向け、口角を上げた。

「貫け、【雷火砲ライカホウ】」

「ズドン――!」

直径十センチに満たない光束が、観測者ですら追いきれない速度で射出された。火でも雷でもない、火の爆発熱能と雷の超高貫通力を兼ね備えた「レールガン」。

黒牛の装甲のような毛皮は紙のように容易く貫かれ、悲鳴を上げる暇もなく巨体は慣性のまま地面に沈んだ。

辺りに焦げた匂いとオゾンの香りが漂う。

少年は手を引き、大きく息を吐いてから俺を振り返った。そして気さくに手を差し伸べてきた。

「悪いなチビ、驚かせたか? 俺はレオン。学校から帰ってきたところだ。こんなところで何してるんだ?」

魔力の余熱が残る彼の手と、精密に撃ち抜かれた黒牛の死骸を交互に見た。

(火球を握り潰して昇圧し……雷をキャリア(搬送波)にして射ち出す……)

衝撃が収まらない。これは魔法というより、天才による「エネルギー力学の応用」だ!

「……シエンです」

彼の手を握った。今世で初めて、エンジニアリングの「同志」に出会えた気がした。

「家はどこだ? 送ってやるよ」

レオンは黒牛の死骸を軽々と脇にどけ、「迷子を助ける頼もしい兄貴」の顔をしていた。

俺は彼の掌でまだ小さく跳ねる雷光を見つめながら、脳内で「雷火砲」のエネルギー運行図を描いていた。カイルの生活に根ざした「道具としての魔法」とは違う。レオンの魔法には、暴力的な美学と精密なエネルギー変換があった。

「レオン兄ちゃん……さっきの、教えてくれる?」

見上げると、瞳の中の「究極構造」への渇望を隠しきれなかった。

レオンは一瞬面食らったが、すぐに豪快に笑い、俺の頭を乱暴に撫でた。

「ははっ、いい目をしてるな! だが、あれは魔力の耐性が相当高くないと無理だ。誰にでも教えられるもんじゃない。でも基礎ならいいぞ。スライ家の子供だろ? 親父さんには昔世話になったんだ」

やはりこの小さな村、誰もが知り合いのようだ。

レオンは魔法学院での失敗談(俺には魔法開発のプロセスにしか聞こえなかったが)を語りながら、軽々と俺を家まで連れ帰った。

庭に入ると、シニィが玄関で焦燥しきった様子で外を伺っていた。

「カイル、レオン君が帰ってきたわよ!」

シニィが赤髪の少年に気づき、声を上げた。

カイルも工房から出てきて、教え子の成長を喜ぶように目を細めた。「レオン、立派になったな。その制服も似合ってるぞ」

「お久しぶりです、カイル兄さん、シニィ姉さん」

レオンは爽やかに笑い、俺を背中からひょいと持ち上げた。「ところで、この可愛い子は二人のお子さんですよね? 森の入り口で拾ったんです」

「まあ、シエン!」

シニィは血相を変えて駆け寄り、俺を抱きしめた。「いつの間に遊びに行ったの! 危ないって言ったでしょ!」

シニィの温かい胸の中で、彼女の心音の激しさを感じ、申し訳なさと同時に興奮が込み上げる。俺は隣で余裕の笑みを浮かべるレオンを指差し、子供らしく言った。

「レオン兄ちゃんが助けてくれたんだ。すっごく強かったよ。『ドーン』って怪物をやっつけちゃった」

カイルとシニィが顔を見合わせ、安堵と恐怖が入り混じった溜息をつく。

「レオン、本当にありがとう。この子は最近、魔法に興味を持ち始めて、まさか一人で森へ行くなんて……」

「ほう? 魔法に興味が?」

レオンが俺を見て、いたずらっぽく片目を瞑った。その視線には「お前の秘密は分かってるぞ」という共犯者のような響きがあった。

「ならちょうどいい。しばらくこっちにいる予定だし、もし良ければ俺がこの子の面倒を見てやりましょうか。本当の『基本』を教えがてらね」

両親の顔から不安が消え、喜びに変わった。魔法学院のエリートに直接指導してもらえるなんて、願ってもない機会だ。

だが俺には分かる。レオンが俺に目をつけたのは、単なる「興味」以上の理由だ。彼は森の中で、俺が精密な火線で撃ち抜いた枯れ木を間違いなく見ていたのだ。

裏山の秘密基地。レオンは大きな岩にどっかと座り、「天才の先輩」らしい不敵な笑みを浮かべていた。

「まず最初に言っておく。お前はまだ五歳だ。期待しすぎるなよ? この歳じゃ魔力を感じる(センス)ことすらできない奴が大半なんだ」

レオンはそう言いながら、懐から拳ほどの大きさの、半透明で晶瑩しょうえいとした石を取り出した。それが現れた瞬間、【観測者】は内部の極めて安定した結晶構造を捉えた。周波数を変換し、受信するための専門的なデバイスだ。

「これは『属性検知石』だ」

レオンがお手本として手をかざすと、石の内部で狂暴な青紫色の電弧が炸裂し、続いて底部から熾烈な紅い光が湧き上がった。雷と火の二つの力が結晶の中で交錯し、ミニチュアのビッグバンのように美しく輝いた。

「次は、お前の番だ。シエン」

俺は深く息を吸い、運命の結晶を見つめた。森で火を出せることは分かっていたが、正面からテストを受けるのはこれが初めてだ。

「……火、だろうな」

独り言を漏らし、前世の魂ゆえに異常に落ち着いた小さな手を、冷たい石の表面に重ねた。

最初は、ただの鉄屑のように静かだった。レオンが固唾を呑む中、俺は左眼を起動した。

視界の中で、体内のエネルギーが待機状態のパイプラインとして浮かび上がる。森で感じた「高周波振動」の焦熱を思い出すと、石の右側から小さな火花が飛び出した。火花は瞬く間に膨張し、安定した深紅の炎へと変わった。

「やはり火か。この熱、純度……いいセンスだぞ!」

レオンが満足げに頷く。

しかし、異変はその瞬間に起きた。

テストが終わったと思った矢先、俺の体内でレオンの「雷火砲」に誘発されたある律動が、行き場のない音符のように回路の中で狂ったように跳ね始めた。

(待て、これは……?)

結晶の左側から、蚊の鳴くような「ジジ……」という微かな音が聞こえた。【観測者】で拡大すると、極細の銀白色の線が石の内部を逃げ惑う蛇のように走り回っているのが見えた。

次の瞬間、火光の対極に、眩いばかりの青い電光が「バリッ」と強烈に弾けた。

レオンの余裕の表情が凍りついた。彼は弾かれたように立ち上がり、赤と青の両方の光を放つ石を凝視した。声が震えている。

「火……火といかずち……? シエン、お前……俺と全く同じ、二重属性ダブルなのか?」

俺も呆然とした。石の中で共鳴し合う二つのエネルギー。それはまるで製図ソフトで、一つのレイヤーだと思っていた背後に、もう一つの完璧なベクトルパスが隠されていたのを見つけたような感覚だった。

火は爆発的な動能を。雷は極速の貫通力を。

これは単純な 1+1 ではない。デザイナーの目には、これこそが「レールガン」を造るために誂えられた究極の素材に見えた。

「レオン兄ちゃん……」

俺は顔を上げた。左眼の銀光が電光に照らされ、深く、鋭く輝いていた。

「僕たち、本当の特訓……始められるよね?」



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