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異世界の観測者 ~今度こそ、大切に生きていく~  作者: WE/9
選抜大会

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29/60

第一回戦

宿舎を一歩踏み出すと、昨夜まで静かだった学園の裏山は、その姿を完全に変えていた。

俺たちが想いを通わせ、初吻はつもんを交わしたあの断崖の傍らに、そびえ立つ円形の巨大会場が忽然と姿を現していた。前世で多くの建築を見てきたインテリアデザイナーとして、坂道からその建物を俯瞰ふかんし、俺は心の中で密かに感嘆した。流線型の外壁には強化魔力素材が使われ、幾層にも重なる観客席が放射状に広がっている。視覚的なプロポーションも構造的な安定感も、その規模はまさに東京ドーム級。魔法の灯りに彩られたその姿は、より雄大で神秘的だった。

俺たちは三人並んで、薄暗い選手入場口へと歩を進めた。

通路の両側の壁には、歴代の選抜大会優勝者の名が刻まれている。冷たい空気の中には、濃厚な火薬の匂いと魔力の緊張感が漂っていた。前方の出口から差し込む光が、俺たち三人の影を長く伸ばす。

俺が中央を歩き、右側にはアイリン。彼女は不安げに周囲を見渡していた。普段は活発な彼女が沈黙するのを、俺は初めて見た。左側には、戦闘態勢に入った良奈。面の後ろの気配は恐ろしいほど平穏で、銀の武士刀が歩調に合わせて規則的な金属音を立てていた。

「準備はいいか?」俺は低い声で尋ねた。

「ええ」アイリンは深く息を吸い、指先にはすでに青白い火花が躍っていた。「あなたの傍にいれば、負けないわ」

良奈は言葉を返さず、ただ微かに頷いた。右手を刀の柄に置く――それが彼女の臨戦態勢の合図だ。

通路を抜けると、津波のような歓声が鼓膜を突き刺した。数万人の観客の叫び、実況の熱狂した声、そして空気中でうごめく元素。すべてが俺たちに告げていた――これはもう模擬特訓ではない、未来を決める真の選抜大会なのだと。

ドームのような壮大な視界が広がる。ドームの開口部から陽光が降り注ぎ、中央の純白の石畳を照らしていた。足元から伝わる重厚で安定した魔力の波動。この床は高強度の補強がなされ、あらゆる技能の爆撃に耐えうるよう設計されている。

審判の紹介する声が会場に響き渡る。

「第一組、ストラトス・ヴィアより――シエン・スライ、アイリン・フロモネシュ、イン!」

俺たちが定位置につくと、対面から現れた三つの影が会場の空気を一瞬で氷点下まで凍りつかせた。龍族の特徴を持つ三人の少年。肌は細かな鱗に覆われ、瞳は野獣のような縦瞳。背中には寒光を放つ重厚な三叉戟トライデントを背負っていた。

「対するは、龍之國りゅうのくにより――セキハクアン!」

俺は微かに眉をひそめた。あの騒動の後、これほど早くチームを再編して送り込んでくるとは、背後の勢力は侮れない。

先頭の赤い龍人「赤」がゆっくりと前に出た。一歩踏み出すたびに、周囲の空気が熱で歪む。彼は深紅の鱗に覆われた手を俺に差し出した。悪意はないが、戦士としての純粋な闘志が宿っていた。

「赤だ」その声は掠れているが力強い。

「シエンだ」俺はその手を握り返した。瞬間、溶岩のような熱さが掌から伝わってきた。

俺の左眼**【観測者】**が無意識に脈打ち、視界には赤いエネルギーのラインが張り巡らされる。驚いたことに、この三人の魔力の流れは異常なほど一致しており、すべてが極限の火属性だった。

「惜しいわね。氷や水の使い手は連れてこなかったみたい」

良奈が俺の傍らに立ち、銀刀に手をかけ、面越しに冷静な声を放った。一流の剣客である彼女は、属性の相性の欠如を一目で見抜いたのだ。

「大丈夫だ、俺たちでもいける」

俺は手を離し、戦闘隊形に退いた。アイリンの指先からはすでに白雷が溢れ出している。彼女は俺を振り返り、昨夜の信頼を宿した瞳を、臨戦の冷徹さへと切り替えた。

「火、ね?」アイリンは不敵に口角を上げた。「あいつらの火がすべてを焼き尽くすか、私の雷がすべてを貫くか。見ものね!」

「試合開始の前に、各選手はこの薬を服用してください」

審判が厳かに掌を広げると、淡い光を放つ六粒の半透明な錠剤があった。中には奇妙な生命エネルギーが流れている。

「これを飲めば、会場内にいる限り、致命傷を負っても保護機能が働き、即座に安全圏へ転送され復活します」審判は全員を見渡し、厳粛に告げた。

「これは、取り返しのつかない悲劇を恐れることなく、真の実力を発揮してもらうための措置です。ただし、会場外では効果を失います」

俺たちは互いに顔を見合わせた。まさにストラトス・ヴィアとスウィヤが共同開発したハイテクの産物だ。

俺は迷わず一粒を飲み込んだ。アイリンと良奈もそれに続き、薬は口の中で溶けて温かな流れとなり、心臓の近くへと潜伏した。

再び定位置へ。

俺は中央に立ち、深く息を吸った。左眼を戦闘モードへ切り替える。銀の紋様が広がり、世界がスローモーションに変わる。床下の魔力、対戦相手三人の火山のような火属性の経路、すべてが鮮明に見えた。

「アイリン、広範囲の圧制を頼む。奴らの火の海を繋がせるな!」

俺は低く命じ、右手を**【墨淵】**の黒い柄にかけた。

「任せて!」アイリンが一歩踏み出し、白雷「ソウ」が解き放たれるのを待つ。

「良奈、回り込め。狙いは一番静かな『暗』だ。あいつの魔力波動は奇妙だ。溜めを担当している可能性がある」

良奈は静かに頷いた。黒い制服が風にたなびく。彼女は何も言わなかったが、その神出鬼没の冷徹な気配はすでに獲物を定めていた。

対面の三人が龍吟のような咆哮を上げ、三叉戟を地面に叩きつけた!

ドドォォォン!

「ストラトスのガキども、龍之國の怒りを味わえ!」

赤が叫び、赤い残像となって俺に突き進んできた。

戦いは、一撃で火蓋を切った。

戦場は瞬時に二つの極端な領域に分割された。

焦げた匂いと電離した刺激臭が立ち込める。予定通りの戦術。俺たちは戦線を広げ、相手の火の海に包囲されるのを防いだ。

「くらえ!」

アイリンが叫び、白雷**「蒼」**が空中に奇怪な弧を描き、龍人たちの死角を突く。俺は身を低くし、左眼をフル回転させた。微小な火球を次々と連鎖爆發させ、彼らの足場を封鎖する。

「そこだ!」

だが、龍之國の戦士は想像以上に狂暴だった。

「小ざかしい!」

赤の全身の鱗が赤く充血する。彼は足元の炎を無視し、弾丸のような速さで俺の鼻先に現れた。その圧倒的な圧迫感に心臓が縮み上がる。

俺の脳が解析するより早く、一週間の地獄の特訓で鍛え上げた筋肉が反応した。

「ギィィン!」

漆黒の**【墨淵】**が抜き放たれ、重厚な三叉戟と真っ向から衝突した。金属の摩擦による火花が顔に飛び散る。腕を伝わる衝撃が虎口を痺れさせる。

俺と赤は戦場の中央で硬直した。野獣のような縦瞳が俺を射抜き、彼の口角には残忍な興奮が浮かんでいた。俺は歯を食いしばり、左眼の銀光を強め、次の一撃の出力点を解析した。

反対側では、アイリンが「白」と高頻度の遠距離戦を繰り広げていた。雷と炎が空中で混ざり合い、光の幕を作っている。

その喧騒とは対照的に、戦場の端は恐ろしいほど静かだった。

良奈は幽霊と化していた。ターゲットは「暗」。紫色の炎を広げて良奈を捕らえようとする「暗」に対し、良奈は空間の隙間を縫うように、一歩ずつ死の距離を詰めていた。

俺と赤の三叉戟がせめぎ合い、不快な金属音が響く。

「その程度か、龍之國の名を背負うには軽すぎるぞ!」赤が咆哮する。

だが、俺は図面を引くだけのデザイナーではない。良奈の特訓によって、神出鬼没の斬撃と非人間的な動体視力は筋肉に刻まれている。俺は足運びをずらして衝動を逃がし、墨淵を滑らせてこの近戦の狂人と渡り合った。

その瞬間、良奈の視線が面越しに俺と交わった。分かっている。

「どけ!」

俺は反動を利用して後退し、同時に掌から狂暴な青い電撃を放った。それは殺傷のためではなく、赤に三叉戟で防御を強いるためだ。赤が電撃に視界を遮られたそのコンマ一秒。

「暗」に追われていたはずの良奈が、物理法則を無視して空中で反転した。彼女は漆黒の閃光となり、銀刀で完璧な直線を描き、赤の背中を貫いた。

「グフッ……」

赤の三叉戟が手から落ちる。「不死薬」が起動し、彼の体は白い光となって消滅、会場外へ転送された。

「隊長!」白が叫ぶ。

だが止まらない。良奈が赤を仕留めた瞬間、背後の「暗」が迫る。俺は良奈とすれ違いざまに突進し、彼女は俺の影に隠れた。良奈を追っていた「暗」を待ち受けていたのは、俺の**【墨淵】**だ!

「ガギィィン!」

俺の重斬が三叉戟を叩き、暗の魔力を乱した。

俺と良奈は背中合わせに立った。

「一対ゼロだ」俺は残る二人に冷たく告げた。

赤が消えた瞬間、戦場のリズムが狂い始めた。

右側のアイリンが苦戦していた。彼女は唇を噛み、碧眼に葛藤を宿している。

分かっている。これはまだ第一戦だ。今ここで**【穹】**や、昏睡を伴う強大な雷を使えば、次戦で俺たちは一人欠くことになる。彼女は体力を温存しながら、断続的な「蒼」で白の狂ったような火球に耐えなければならない。

俺は胸を締め付けられる思いだが、冷静に戦局を解析した。

「良奈、暗は任せた。いけるか?」

良奈は呼吸を整え、銀刀を横に構えた。その沈黙の剣気は、ここが彼女の絶対的なタイマン領域であることを宣言していた。

「三分で」

面越しの声は短く、凄まじい殺気を孕んでいた。

俺は頷き、アイリンのいる右側戦場へ向かって駆け出した。

「アイリン! 交代だ!」

アイリンは俺の声を聞き、表情を和らげると、華麗なバックステップで距離を取った。俺は彼女の前に立ち、**【墨淵】**を構えて白を見据えた。

だが、白との一撃目で、俺は後悔した。

白は逃げるどころか、不退転の構えで俺を待っていた。

「ギィィィン!!」

墨淵と三叉戟が激突した瞬間、赤に劣らぬ怪力が俺の肩を襲った。

俺の脳は即座に情報を書き換える。計算違いだ。赤が特攻隊長なら、真の「怪物」はこの冷静な白だ。彼こそが、このチーム最強の魔武両修の使い手だった。

「ストラトスの天才の力は、この程度か?」白が嘲笑い、三叉戟を押し込んでくる。

俺は必死に耐え、足元の石畳が砕け始める。

「シエン、無理しないで!」アイリンが叫ぶ。

白が俺の面前に掌を向け、小型の火球を凝縮させた。

「何っ?!」

至近距離での施法は自爆行為だ。俺は冷や汗をかき、反射的に体を海老反りにして後方へ仰け反った。

ドォォォン!

鼻先数センチで火球が炸裂し、熱風が前髪を焼き、顔に痛みが走る。爆風を利用してバックフランクで距離を取った俺は、地面に膝をつき、肩で息をした。左眼からは過負荷で血が滲んでいる。

「こいつ……狂ってやがる」俺は毒づきながら白を睨んだ。彼は煙の中で無傷のまま、氷のような瞳で俺を見ていた。

視線を左へ向けると、静寂の領域で良奈が「暗」の三叉戟を軽やかにかわしていた。彼女と目が合った瞬間、面越しに「蔑みの視線」を感じた。

(嘘でしょ? 二人で一人を相手に、そんなに無様な姿を晒してるの? シエン、昨夜の自信は全部アイリンとの親熱で使い果たしたの?)

その視線が、俺の勝負欲に火をつけた。

俺は頬の血を拭い、不敵に笑った。血の匂いが意識をかつてなくクリアにし、左眼が激しく明滅する。

「奥の手を、明日まで取っておくつもりはねえよ」

俺は背後のアイリンに告げ、再び動き出した。

「アイリン、合わせろ!」

俺は墨淵を握り、突進しながら左手で火と雷を螺旋状に放った。白は三叉戟でそれを防ごうとしたが、俺は衝突直前にエネルギー構造を微調整し、彼の目の前で魔法を自爆させた。閃光と煙が彼の視界を奪う。

俺は煙の中を地面を這うように滑り込み、彼のサイドを取った。

「何だと?!」

白が気づいた時には、俺の刃は届いていた。今度は探りではない、絶対的な侵略を伴う重斬だ!

「ギィィィン!!」

同時に、アイリンが好機を逃さず、白の頭上に位置取った。

「私たちの仲間を侮った代償……払ってもらうわよ!」

アイリンが手を合わせ、純白の雷柱が白の脳天を直撃しようとした。

白は咆哮し、驚異的な身体能力で空中で体を捻り、雷をかわした。

しかし、彼は俺の次の動きを読んでいなかった。

チャキッ!

俺は墨淵から手を離した。漆黒の刀は石畳に突き刺さる。

武器を捨て、動きはより流麗で迅速になった。

俺は右手を握りしめ、火球を練り上げて握り潰した。

同時に、左手には狂暴な雷電を凝縮させる。

八歳の時にレオンから学んだ――「電火砲エレクトロ・キャノン」。

白の瞳に恐怖が走った。俺が刀を捨てて自爆に近い至近距離魔法を放つとは、夢にも思わなかっただろう。

ドドォォォン!!

火と雷が空中で融合し、一本の太い電漿プラズマ砲となって、空中にいた白を直撃した。

悲鳴を上げる間もなく、彼の体は狂暴なエネルギーに飲み込まれ、白い光の粒子となって霧散した。

【撃破! 龍之國選手「白」!】

会場は天を衝くような歓声に包まれた。

そして、俺の耳に清らかな納刀の音が響いた。

良奈が銀刀を収め、その傍らで「暗」も光となって消えていく。

【撃破! 龍之國選手「暗」!】

審判が旗を掲げ、声を張り上げた。

「――試合終了! ストラトス・ヴィア代表チームの勝利!!」

俺とアイリンは顔を見合わせ、疲れ果てながらも勝利の喜びを分かち合った。アイリンが俺の胸に飛び込んでくる。

俺たちは勝ったんだ。

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