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異世界の観測者 ~今度こそ、大切に生きていく~  作者: WE/9
スウィヤ編

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28/60

関係確定

それからの一週間、ストラトス・ヴィア学院の裏山演習場は、実質的に俺たち三人の私有地となった。

あの夜、女子トイレの外で「平和協定」が結ばれて以来、アイリンと良奈の連携は質的な変化を遂げた。以前なら互いに干渉し合っていた雷電と剣気は、今や交錯する螺旋らせんのように、異常なまでの調和を見せている。

この三日間の重点は「反応速度」だ。俺は直接攻撃に参加せず、演習場の中央に立ち、全力で**【観測者かんそくしゃ】**を起動する。左眼には銀色の光が躍り、空気中の微かな魔力の流れを解析していく。

「良奈、左後方30度。三秒後にアイリンが雷を放つ、それを踏み台にしろ!」

「アイリン、標的を狙うな。良奈の刀の先を狙え!」

良奈の姿が鬼魅きみのように場を駆け抜け、彼女の銀刀はただの木偶デクを斬るのではなく、アイリンが放つ白雷を正確に受け止める。刀身の導電性を利用し、良奈の一撃は「電磁加速」を伴う爆発的な威力を生み出した。その破壊力は平時の二倍に達する。

その後、俺たちは疲弊した状態でいかに互いを守るかの訓練に移った。

大技を放った後の虚脱期にあるアイリンを、いかに迅速に良奈の剣圏内へ引き込むか。そして俺は**【墨淵ぼくえん】を使わず、【觀測者】**の予判だけで、最小限の体力で二人を危険から遠ざける練習を繰り返した。

「シエン、無理をしすぎだ」

休憩中、良奈が汗を拭いながら冷ややかに言った。

「あなたの目はもう血走っている。すべてを一人で見ようとするな」

隣ではアイリンが心配そうに濡れタオルを俺の左眼に当ててくれた。口には出さないが、その瞳には「これ以上休まないと電撃をお見舞いするわよ」という脅しが満ちていた。

特訓の最後、俺たちはこの小隊だけの切り札を編み出した。

その技の名は、「穹頂幻影スカイ・ファントム」。

アイリンが**【キュウ】**を発動して戦場の雷元素を支配し、良奈はそのエネルギーを利用して無数の攻撃的残像を作り出す。そして俺が敵陣の唯一の活路を見出し、二人の攻撃を終着点へと導くのだ。

夕陽がストラトス・ヴィアの裏山を美しいオレンジ色に染め上げ、演習場の土埃がまだ舞う中、空気には雷電の焦燥感が残っていた。

「……飲み物、買ってきてあげる」

良奈が唐突に口を開いた。面越しに聞こえる声はどこかこもっている。俺の返事も待たず、彼女は素早く刀を収めると、逃げ出すような足取りで校舎の方へと去っていった。

「それじゃ、アイリン、俺たちも行くか?」

隣の青髪の少女に声をかける。

「シエン、山頂の景色が見たいの。一緒に来てくれる?」

アイリンは校舎ではなく、裏山のさらに高い場所にある断崖の展望台を指差した。

俺は林の角に消えゆく良奈の黒い後ろ姿と、隣で不安げに、それでいて祈るような瞳をしたアイリンを見比べ、溜息をついた。

「いいよ。でも……良奈のやつ、変じゃないか? いつもなら戦術議論に加わるのに」

俺は首を傾げながら、アイリンに従って山を登った。

俺の「観測者」は、微細な魔力の流れは見通せても、この二人の美少女が何を考えているのかまでは全く解析できなかった。

「……きっと、私たちに時間をくれたのよ」

アイリンの小さな呟きは、夜風にさらわれて消えそうだった。

展望台の端に辿り着くと、ストラトス・ヴィアの全景が見渡せた。空中階段で繋がれた無数の建築物が、夕闇の中で瞬いている。学者之城がくしゃのまちの壮麗な景色だ。

アイリンは静かに俺の隣に立ち、風に青い髪をなびかせていた。彼女は突然、バスリン大通りであの日したように、俺の小指をそっと絡めてきた。

「シエン、知ってる? 良奈がさっき女子トイレでね……」

彼女は言葉を切り、金紅の影を宿した碧眼で俺を見つめた。

「あなたはとても優しいけれど、そのせいで時々すごく鈍感だって言ってたわ」

俺は絶句した。それは褒め言葉なのか、それとも貶されているのか。

「明日は選抜大会。本当の命懸けの戦場よ」

アイリンは俺の手を強く握り、その体温が俺の鼓動を速めた。

「もし……もし私たちが最後まで勝ち残ったら、一つだけ約束してくれる?」

「何を?」

アイリンは目を閉じ、山頂の風を感じながら、かつてなく真剣な口調で言った。

「これから何が起きても、あなたの『観測者』がどんな絶望的な未来を見ても……今みたいに、絶対に私の手を離さないで」

最後の一筋の夕光が地平線に沈み、裏山の展望台は深いブルーに包まれた。

アイリンは夜風の中で、震えるほどの勇気を振り絞るように深く息を吸った。

「シ……シエン、好きよ!」

ずっと胸に秘めていた言葉が、ついに解き放たれた。

俺は立ち尽くし、一瞬心臓が止まったかと思った。このところ毎日手を繋ぎ、背中を預け合ってきたが、この決定的な一線だけは超えられずにいた。今、純粋な告白が鼓膜を叩き、前世のデザイナーとしての理性が崩壊した。

「アイリン……俺もだ」

迷いなく一歩踏み出し、その華奢な体を強く抱きしめた。彼女の体の柔らかさと微かな震えを感じながら、耳元で秘めていた想いを伝える。

「学校へ向かう馬車の中で出会ったあの時から……ずっと、君が好きだった」

アイリンは世界で最も美しい旋律を聞いたかのように満足げな溜息を漏らし、俺の肩に顔を埋めて強く抱き返してきた。

「俺の彼女になってくれるか?」

少しだけ腕を緩め、彼女を見下ろして問う。

「……ええ、喜んで」

アイリンが顔を上げると、その碧眼には溢れんばかりの幸せが宿っていた。

俺たちはゆっくりと腕を解いたが、右手だけは引力に引かれるように再び十指を絡ませた。アイリンの潤んだ瞳と、夕陽よりも赤い頬。それは一人の人間を全心全意で信頼する者の表情だった。

俺は少し腰を落とし、ゆっくりと顔を近づけた。アイリンはそれを察したように、長い睫毛まつげを震わせ、従順に目を閉じた。この瞬間、俺は魔力の流れも伏兵の気配も観測しなかった。ただ、目の前の少女だけを見ていた。

二人の唇がそっと重なった。その感触は、どんな高級な布丁プリンよりも柔らかく、どの雷電魔法よりも熱かった。

ようやく唇を離した時、俺は心の中で自嘲気味に、それでいて至福の思いで呟いた。

(ああ……二つの人生を通じた初吻はつもん、ついに捧げちまったな)

アイリンは俺の独り言を聞いて、恥ずかしそうに顔を伏せたが、繋いだ手だけは離そうとしなかった。

月光が山頂を支配し、曖昧な空気を銀色のベールで覆った。

アイリンは俯きながら、普段は雷を操るその手で、緊張気味に俺の裾を握っている。

「……もう一回、いいかな?」

俺はたまらず、彼女をからかうように、それでいて切実な声で言った。

「この変態」

アイリンは羞恥に顔を上げ、俺の胸を叩く仕草をしたが、体は正直に俺の方へと寄り添ってきた。

今度は、彼女に恥じらう余裕を与えなかった。

再び唇を重ねた。先ほどのが確認のような甘さだとしたら、今度は独占欲を孕んだ侵略だった。花弁のような唇を味わい、アイリンが微かに震えるのを感じる。俺は大胆に舌を滑り込ませ、試すように触れた。

彼女の体が一瞬硬直したが、すぐに溶ける雪のように、不器用ながらも熱烈に応えてくれた。小さな空間で絡み合う舌先。湿り気を帯びた熱い感触が、互いの荒い吐息と共に、魂までも交じり合うような感覚を呼び起こす。

「ん……ぁ……」

アイリンが微かな声を漏らし、俺の首に手を回した。俺は彼女の肩をしっかりと支え、肌の戦慄を余すことなく感じ取った。この瞬間、前世の設計図も今世の魔法数式も消え去り、ただ原始的で強烈な渇望だけが残った。

呼吸が苦しくなるほど長く重なり合い、ようやく彼女を離した。

「はぁ……ふぅ……」

アイリンは肩で息をし、青い髪は乱れ、瞳には陶酔の霧が浮かんでいた。赤く腫れた唇を晒しながら、彼女は俺の胸に寄りかかり、コントロールを失った俺の心臓の音を聞いていた。

俺は彼女の細い腰を強引に、それでいて優しく引き寄せ、掠れた声で聞いた。

「これで、正式にお付き合いしてるってことでいいんだよな?」

アイリンは顔を俺の胸に埋め、籠もった声で答えた。

「……ええ、たぶんね」

その答えに満足して口角を上げ、彼女の髪から漂う、雷電と少女が混ざり合った独特の香りを深く吸い込んだ。たとえ明日、世界中の強敵を相手にすることになっても、この重みが腕の中にある限り、俺は何も恐くない。

部屋のドアが閉まった瞬間、廊下の喧騒は遮断された。枕元のランプが、部屋をひどくつやめいた雰囲気に染め上げている。

「今夜……一緒に寝てもいい?」

アイリンが廊下で言った消え入りそうな願いが、今も脳内で雷鳴のように響いている。交往初日にしてこの進展。二つの人生分の魂を持っていても、狼狽うろたえずにはいられなかった。

「あ……ああ、もちろんだ」

声を平穏に保とうとしたが、握った手は汗ばんでいた。

ベッドの端に座ったアイリンは、俺に背を向けたまま、ストラトス・ヴィアの制服をゆっくりと解いた。布の擦れる音と共に、彼女はラベンダーの香りがする薄手のネグリジェに着替えた。半透明のシルクが彼女の美しい背中の曲線を浮き彫りにし、白い肌が淡い光を放っているように見えた。

俺の目は磁石に引かれるように、彼女から離せなかった。戦場での英姿えいしとは違う、壊れやすく、柔らかで、誘惑に満ちた姿。

唾を飲み込み、布団をめくって彼女の隣に横たわった。

二人の重みで沈むマットレス。アイリンも横になり、互いの肌の熱を感じるほどの距離になった。彼女は背を向け、丸くなるように肩を震わせていた。

俺は背後からそっと彼女を抱き寄せ、細い腰に腕を回した。アイリンが小さな悲鳴を上げ、すぐに安心できる港を見つけた小舟のように、俺の腕の中に深く収まった。

「シエン……」彼女が掠れた声で俺の名を呼ぶ。「あなたの心臓の音、すごく大きいわ」

「君もだよ」

俺は顔を彼女のうなじに埋め、その香りをむさぼるように嗅いだ。

外には選抜大会と未知の危機が待ち受けている。だが、この小さなベッドだけは、俺たちの最も私密しみつ避風港シェルターだった。

翌朝。カーテンの隙間から差し込む光が、乱れたベッドを照らした。

目を覚ました瞬間、胸にある確かな重みが、昨夜の熱い記憶を呼び覚ました。

アイリンは俺の腕の中で、目覚めたばかりの子猫のように丸まっていた。青い髪が俺の胸元に散らばり、彼女の安らかな呼吸に合わせて上下している。鋭い「雷電少女」の面影は消え、そこにはただ愛おしい柔らかさがあった。

俺は彼女の髪を慈しむように撫でた。

「アイリン、起きる時間だ」

「ん……シエン……?」

彼女は甘い声を漏らし、霧の立ち込める碧眼をゆっくりと開いた。俺を見て、一瞬状況を整理するように固まった後、その頬が爆発するように赤く染まった。

その初々しい様子に、悪戯心が湧いた。

「えっ? シエン!」

アイリンが反応する前に、俺はその細い腰を掴み、腰の力を使ってベッドの上で反転した。彼女をひょいと抱え上げ、俺の上にまたがらせる形にした。

密着した体から、薄い寝衣越しに彼女の柔らかさと、驚きで跳ねる鼓動が伝わってくる。俺は彼女を強く引き寄せ、耳元で囁いた。

「アイリン、おはよう」

彼女は固まっていたが、「バカシエン、朝から何……」と呟きながらも、俺の首に腕を回して顔を埋めた。昨夜の激情とは違う、寄り添い合うような確かな安らぎがあった。

「……恥ずかしいことはそこまでにして、そろそろ行くわよ」

良奈の冷徹で淀みのない声がドアを貫通し、甘い空気に突き刺さった。それはリマインドというより、「何をしてるか全部分かってるわよ」という揶揄からかいだった。

部屋の空気が一気に冷えた。アイリンは感電したように俺から飛び退き、顔を真っ赤にした。

「りょ、良奈!? いつからそこに!」

俺も慌ててベッドから飛び起きた。アイリンの胸の感触を味わう時間はもうない。制服を引っ掴み、片手でシャツのボタンを留めながら、大慌てで準備を整えた。

ドアの外からは、良奈が苛立ちを込めて剣気を放ったり収めたりしているのを感じる。タイムリミットのカウントダウンだ。

五分後、俺はドアを勢いよく開けた。

廊下の壁に寄りかかる良奈。白い面で表情は見えないが、腕を組み、右足で床を叩くリズムが彼女の呆れ具合を物語っていた。

「着替えた?」

彼女の視線が、俺たちの乱れた髪と、俺の首筋にある目立たない赤い痕(痕)を一瞥した。

「……ああ、準備万端だ。行こう」

俺は気まずさを誤魔化し、隊長としての威厳を取り繕った。

アイリンは俺の後ろに隠れ、良奈と目を合わせられずにスカートの裾をいじっている。

「シエン、左眼はまだ完全じゃないでしょう?」

良奈が歩き出し、戦いの冷徹さを取り戻した声で言った。

「入場したら、アイリンが援護、私が切り開く。……その『余った体力』は、試合会場で発散しなさい」

俺たちは寄宿舎の廊下を抜け、山間に建つ壮大な選抜大会の会場へと向かった。遠くから、観客席の地鳴りのような歓声が聞こえてきている。

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