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異世界の観測者 ~今度こそ、大切に生きていく~  作者: WE/9
スウィヤ編

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23/60

初陣

早朝の陽光が食堂の長い木テーブルに斜めに差し込み、空気中にはトーストの香ばしい匂いと共に、任務前特有の緊張感が漂っていた。

「ふわぁ……みんな、おはよう……朝ごはんはどこ?」

二階の階段から、とろけるような眠たげな声と、規則正しいスリッパの音が聞こえてきた。セシルは相変わらず乱れた金髮をそのままに、腕にはなぜか縮小版の抱き枕を頑固に抱え、ふらふらと食堂に入ってきた。今にも誰かの皿に突っ込みそうな足取りだ。

「ここよ、セシル。早く座って」

アイリンはセシルを見るなり、口に運ぼうとしていたベーコンを置き、すぐさま「お姉ちゃん」の情熱を発揮した。親切に椅子を引き、盛り付けられた熱いスープを冷ますためにふーふーと息を吹きかけ、彼女の手が届きやすい場所へ置いた。

「さっきマキシ先生が挨拶に来たよ」

俺はバターを塗ったトーストを手に取り、窓の外の官邸前に停まっている魔導馬車に目をやった。「朝食を食べ終わったらすぐ出発だそうだ。チーム全員での初出動だし、遅れるわけにはいかない」

アウグストゥスは黙々と目玉焼きを切り分けていたが、彼の周囲に漂う微かな冷気は、彼がすでに戦闘態勢に入っていることを物語っていた。隣に座る良奈は、すでにあの象徴的な黒い制服に着替え、昨夜の月光の下で見せた素顔は白い面の下に隠されている。「イン(隠)」としての、無駄のない冷徹な空気を取り戻していた。

彼女は時折俺を盗み見る。昨夜の「冗談」によって、俺が何か疑いを抱いていないかを確認しているようだった。

「出発……任務……」

セシルは目を閉じたままスープを一口啜り、何かの指令を受け取ったかのように小さな体を震わせると、一瞬だけ瞳に理性が戻った。

「任務先に……寝る場所があるなら……どこでもいいよ」

「呑気な奴だな」

俺は苦笑した。

手元にある墨淵に触れると、刀身から低い共鳴が伝わってくる。昨夜の良奈の「別の世界」という言葉がまだ脳裏を離れないが、今は深く追求している時ではない。

俺たちは家を出た。早朝の涼風が最後の一欠片の眠気を吹き飛ばしていく。

門の前には、いつもの導師の長袍ローブではなく、動きやすい濃色の軽裝に身を包んだマキシ先生がいた。彼は豪華な魔導馬車に無造作に寄りかかり、手にはまだ食べかけのトーストを握って、美味しそうに咀嚼していた。

「食べるのが早いね」

俺たちの整った武裝を見て、マキシ先生は子供のような笑みを浮かべ、手のパン屑を払った。「よし、気合十分だ! 行こう、出発だ!」

俺たちは次々と馬車に乗り込んだ。車内は外見から想像するより遥かに広く、明らかに空間拡張魔法が施されていた。車を引いているのは普通の家畜ではなく、全身が漆黒で、瞳とひづめが神秘的な黄色の光を放つ二頭の戦馬だった。

マキシ先生は御者台へ行き、黒馬の一頭のたてがみを撫でながら、静かに囁いた。

「頼んだよ。この子たちに、少し『見学』させてやってくれ」

直後、黒馬が低い嘶き(いななき)を上げ、石畳を叩く蹄の振動も一切感じさせないまま、馬車は放たれた矢のようにスウィヤ郊外の未知の領域へと突き進んだ。

車内では、アイリンが興奮気味に籠手をチェックし、アウグストゥスは目を閉じて精神を統一し、良奈は銀刀を抱えて沈黙を守っていた。その時、うたた寝していたはずのセシルが動き、小猫のように音もなく移動して、俺の隣にそっと寄り添ってきた。

彼女の明るい金色の髪が俺の腕をかすめ、甘い香りが漂う。

「シエンお兄ちゃん……」

彼女は半分閉じた目を上げ、前髪の奥に隠れた俺の左眼を覗き込んだ。その声は極めて小さく、俺たち二人にしか聞こえないほどだったが、俺の脳内には雷鳴のような衝撃を与えた。

「お兄ちゃんからは……二つの匂いがするね」

墨淵を握る指先に力がこもる。息を止めて彼女を見つめた。

「一つはこの世界の木の香り……」

セシルは鼻をひくつかせ、天気を語るような平淡な口調で言った。

「もう一つは、すっごく、すっごく遠い場所の……鋼鉄の匂い」

「……どういう意味だ?」

鼓動が激しくなったが、俺は必死に冷静さを保ち、ぼんやりとした口調で問い返した。

俺は「観測者」でセシルの魔力波動を読み取り、彼女が俺を試しているのかを確認しようとした。しかし、彼女の深海のように安定した魔力には一点の曇りもなく、その言葉はただの当然の「直覺」であるかのように響いた。

「ふふ、緊張しないで。さっきも言ったでしょ、チームメイト以外には言わないよ」

セシルは俺を見て、幼くも深淵を見通すような神秘的な微笑を浮かべた。そして再び小さな抱き枕に顔を埋め、気だるげな声に戻った。

「だって……みんな、家族だもん」

彼女の言う「家族」にどれほどの意味が含まれているのかを考える暇もなく、馬車外の空気が突如として異常に重くなった。粘り気のあるプールに飛び込んだかのような、呼吸すら困難な感覚。

「もうすぐ到着する。全員、戦闘準備!」

マキシ先生のいつもの柔和な声が、今は鞘から抜かれた刃のように鋭く、車内に響き渡った。

その指令は、空気中の火薬に火をつけたかのようだった。

チャキィン!

俺と良奈はほぼ同時に反応した。漆黒の墨淵と冷徹な銀刀が同時に鞘を走り、狭い車内に二つの異なる剣圧が交錯する。長年の修練が生んだ阿吽の呼吸だ。良奈は白い面越しに俺を一瞥した。その瞳から昨夜の星影は消え、代わりに空気を切り裂くほどの殺気が宿っていた。

「いよいよ、ね……」

アイリンが深く息を吸い込むと、その細い掌の上で「蒼」の白い雷が、無数の小さな蛇のように激しくのたうち回り、パチパチと音を立てた。彼女の碧眼には戦意が宿り、馬車の扉をじっと見据えている。

隣のアウグストゥスは手をかざし、掌の中に凄まじい冷気を放つ氷錐を凝縮させた。晶瑩しょうえいな氷の柱の周囲では、空気さえも凍りついて白い霧となっている。

そして最も驚いたのはセシルだ。彼女は座ったままであったが、彼女の周囲の空間が歪み始め、無数の純粋な水滴が虚空から浮かび上がった。それらは彼女の体を取り囲むようにゆっくりと回転し、半透明の流動的な防壁を形成していた。

「行くぞ」

俺は墨淵を握りしめ、その馴染み深い振動を感じながら、仲間たちに低く告げた。

その瞬間、馬車の扉が猛然と開いた。外はもはや緩やかな山道ではなく、不気味な紫黒色の霧に覆われ、不吉な気配を放つ薄暗い坑道の入り口だった。

「今回の任務目標は、この鉱山の掃討と再起動だ。魔物に注意しろ。地脈から溢れた汚染魔力に侵食され、極めて攻撃的になっている」

マキシ先生は最後の一句を、温度のない冷徹な口調で言い放った。

「了解、先生!」

俺たちは声を揃えて応えた。

「行け!」

マキシ先生の号令と共に、彼が真っ先に馬車を飛び出した。その瞬間、彼自身が人間閃光弾と化したかのように、眩い白光が彼から炸裂した。その強光は坑道の暗闇を照らし出すだけでなく、影に潜んでいた魔物たちに耳を裂くような悲鳴を上げさせ、一時的な盲目状態に陥れた。

俺はその光に紛れ、跳び下りる瞬間に墨淵を抜いた。左眼の「観測者」が暗闇の中で最も近い混乱したエネルギーをロックオンする。弾け飛ぼうとしていた紫色の魔化スライムだ。

「はっ!」

身を低く沈め、墨淵の漆黒の刃が空中に完璧な直線を描いた。プシュッという音と共に、スライムの核を正確に貫く。刀身に込められた魔力で粘着質な液体を吹き飛ばし、俺はそのまま転がって着地し、警戒を強めて周囲を見渡した。

アイリンは両手を交差させ、白い雷「蒼」を無数の細かな電網へと変え、包囲しようとするコウモリ型の魔物をまとめて地面へと叩き落としていく。

アウグストゥスは鼻で笑い、地面を軽く叩いた。数層の氷壁が地中から突き出し、後方から押し寄せる魔物の群れを一時的に遮斷。次々と鋭い氷錐を射出していく。

良奈は黒い稲妻のようだった。無駄な動きは一切なく、銀色の武士刀が一閃するたびに魔物の命を奪い去る。その動作は優雅でありながら、あまりにも残酷だ。

セシルは最も特別だった。彼女は相変わらず小さな枕を抱えたまま、一見して無造作にチームの中央を歩いていた。しかし、彼女の周囲を巡る水流はまるで自我を持っているかのように、近づく魔物を自動的に弾き飛ばし、あるいは水の縄となってそれらを縛り上げた。

「私についてこい! 周囲の雑魚を抑えてくれ。私が汚染源の前方で上級魔法を放つ。とどめは良奈かシエンに任せる!」

マキシ先生の声が狭い坑道内に響き渡り、そこには否定を許さない威厳が満ちていた。俺たちはもはや体力を温存せず、湿っぽく腐敗臭の漂う坑道の深部へと全力で疾走した。

マキシ先生は暗闇を切り裂く灯火となって先頭を走り、俺と良奈がそのすぐ後ろに続く。手は常に刀の柄にあり、最後の爆発に備えて呼吸を整える。後方からは魔力激突の轟音が絶え間なく聞こえてくる――アイリンの雷が魔物を薙ぎ払い、アウグストゥスの氷壁が崩れては再構築され、追手を阻む。セシルは散歩でもしているかのようで、彼女の周囲の水流は無数の細かな水刃と化し、岩壁の隙間から這い出ようとする魔物を正確に刈り取っていく。

「邪魔だ、消えろ」

マキシ先生が猛然と足を止め、潮のように押し寄せる怪物群に向かって両手を広げた。掌から眩い白光が噴き出す。

「アロー・オブ・ライト!」

鋭利な光の束が流星のごとく暗闇を貫いた。その一発一発が前列の魔物の核を撃ち抜き、密閉された怪物たちの波の中に強引に道を作り出した。

「今だ、シエン、良奈、配置につけ!」

指令を聞いた俺と良奈は、阿吽の呼吸でマキシ先生の左右へと飛び出した。マキシ先生の体内の魔力が驚異的な速度で上昇しているのを感じる。左眼を通して、その光属性の灼熱感が伝わってくるほどだ。

【高等・反魔光界】

マキシ先生が両手を合わせると、複雑なルーンが彼の足元に一瞬で展開された。詠唱の終了と共に、前方の地面に巨大な魔法陣が出現する。陣の縁からは半透明の光の壁が立ち上がり、残った怪物をすべてその中に閉じ込めた。

暴れていた魔物たちは、光の壁に触れた瞬間に体が雪のように溶け始めた。

「はぁっ!」

マキシ先生の低い叫びと共に、魔法陣内から天地を揺るがすような白光が炸裂した。

強光が収まった後、混雑していた坑道は瞬時に半分以上が掃討されていた。残った魔物もすべて地面に崩れ落ち、体から黒煙を上げながら完全に戦闘能力を喪失していた。

「行くぞ!」

俺は隣の良奈に叫び、放たれた矢のように駆け出した。前方には、空間を歪ませ、不浄な気配を撒き散らす「鉱山の核」が待ち構えていた。

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