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異世界の観測者 ~今度こそ、大切に生きていく~  作者: WE/9
スウィヤ編

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19/60

悪夢


雲をも突き抜けるような高層ビルから出た時、外の陽光は相変わらず刺すように眩しかった。バスリン商圏の人波は絶え間なく、笑い声と魔導車両の警笛が平和な繁栄の調べを奏でている。

「君たちの初日はまだ休暇みたいなものだよ。どこか行きたいところはある? それとも、このまま家に戻って休むかい?」

マキシが先頭を歩き、軽やかに振り返って尋ねた。

「そうですね……俺は……マキ……シ?」

言い終わる前に、脳の奥底に激しい引き裂かれるような感覚が走った。目の前の繁栄した景色は、まるで焼き焦げた画巻のように急速に黒ずみ、丸まっていく。周囲の活気に満ちた色彩は一瞬で褪せ、代わりに窒息するような漆黒の荒野が広がった。

潮のように押し寄せる恐怖。そして何より俺の全身を凍りつかせたのは――目の前に立つマキシだった。

さっきまでの温和な「迷弟ファン」のような導師は、今は無表情に闇の中に立っている。光魔法を宿したその瞳に温もりはなく、死人を眺めるような、骨まで凍る敵意が透けていた。

「クレドさん……?」

俺は震えながら振り返った。

クレドさんの燃えるような赤髪は、暗闇の中で滴る鮮血のように見えた。彼はいつの間にかマキシの傍らに現れていた。二人は低い声で何かを話し、ゴミ袋の処置でも決めるかのように、冷淡な視線で俺をなぞった。

「おい……助けてくれよ……マキシ……クレドさん……」

助けを求めて手を伸ばそうとしたが、四肢は鉛を流し込まれたように重い。

「片付けよう」

クレドさんが冷たくその四言を吐き捨てた。そこにはかつての情など微塵もなかった。

シュッ!

金属が空気を切り裂く音。クレドの「天火のイグニス」が極限の瞬獄の熱を帯び、マキシの極限まで圧縮された光魔法の束と同時に放たれた。二つの破滅的な力が、一点の躊躇もなく俺の胸を貫いた。

「な……んで、俺が何をしたって言うんだ……アイリン、良奈……」

劇痛が瞬時に炸裂し、その後に底なしの冷たさが訪れる。自分の胸に開いた透明な大穴を見つめながら、視界は急速に闇へと沈んでいった。

「あぁぁーーー!」

俺はベッドから飛び起きた。全身、水から引き揚げられたばかりのように冷や汗でびっしょりだ。胸を貫かれた幻の痛みは消えず、心臓は胸を突き破らんばかりに激しく脈打っている。

「シエン! どうしたの? 悪夢でも見たの!?」

アイリンの焦った声が耳元で響く。

俺は大きく息を吐きながら、次第に視点を定めた。そこは漆黒の荒野ではなく、官邸にある俺の新しい部屋だった。窓の外は夕日が沈みかけ、室内を温かいオレンジ色に染めている。

アイリンはベッドの脇に座り、俺の汗を拭こうとタオルを握りしめたまま、心配そうに俺を見つめている。部屋の隅では、良奈が相変わらず面をつけたまま立っていたが、銀の刀を握る手は微かに震え、俺の方へ踏み出そうとする動きが、彼女の動揺を物語っていた。

「……今、何が起きたんだ?」

俺は必死に空気を求めた。胸に残る貫通感に耐えきれず、無意識に自分の胸に手をやった。柔らかいシーツと確かな肋骨の感触。それでようやく、あの極限の寒気が少しだけ和らいだ。

「シエン! 大丈夫!? 帰る途中に急に倒れちゃうから、本当に死ぬほど驚いたんだから!」

アイリンはベッドサイドに座り、濡れタオルをぎゅっと握りしめている。普段は元気いっぱいの青い瞳に涙を浮かべ、顔全体に不安が張り付いている。

「アウグストゥスは?」

俺はまだ疼く頭を振り、這い上がるように体を起こした。

「薬を買いに行ったわ。ついでに軍医にも連絡しにね」

微かに冷たい手が、そっと俺の肩を押さえた。力は弱いが、拒絶を許さない意志を感じる。振り返ると、そこには面を外した良奈が立っていた。清廉なその顔は憂い一色に染まっている。彼女の視線は壁際に立てかけられた黒い光を放つ「墨淵」に落ち、それから再び俺の顔に戻った。その声は、怯えた獣をなだめるように優しい。

「まずは休んで……シエン」

「おや? 目が覚めたかな?」

軽やかな足音と共に、マキシがドアを押し開けて入ってきた。夕日の余韻の中で、彼の金髪は温かく柔らかに輝いている。顔には相変わらず、少し照れくさそうで、それでいて頼りになる微笑みが浮かんでいた。

「スウィヤで熱中症になる人は珍しいんだけどね。大丈夫かい? どこか具合が悪いのか、それとも古傷が……」

「うっ……!」

その瞬間、マキシの言葉が耳の中で夢の中の冷酷な命令へと変換された。一歩ずつ近づいてくる彼を見て、視界に光の束を握りしめ、冷徹な瞳をした「殺し屋」の残像が重なった。

俺の体は無意識にベッドのヘッドボードまで後ずさり、心臓が激しく収縮した。「殺される」という恐怖が、生理的な焦燥となって突き上げてくる。

「……来ないでくれ……来るな」

低い声でうめきながら、指先でシーツを死ぬほど強く掴んだ。こめかみから冷や汗が再び流れ落ちる。

部屋の空気が一瞬で氷点下まで冷え込んだ。

アイリンは呆然とし、タオルの手が滑り落ちそうになる。良奈は極度の驚愕を見せた。彼女ははっきりと感じ取っていた。俺が新しい導師に向けているのは「警戒」ではなく、絶望に近い「畏怖」であることを。

「おや……。なら、あとは君たちに任せるよ」

俺の痙攣に近い拒絶反応を見て、マキシの瞳に複雑な感情がよぎった。彼は深く追求せず、強引に近づくこともしなかった。ただ心得たように部屋を去り、静かにドアを閉めた。扉が閉まる「カチッ」という音と共に、強光にロックオンされていたような圧迫感がようやく和らいだ。

「はぁ……はぁ……」

枕に力なくもたれかかり、激しく息をつく。頭が針で刺されたように疼き、夢の中で体を通り抜けた氷の感触が胸にこびりついている。

「シエン……一体どうしちゃったの?」

アイリンが不安そうに尋ねる。その澄んだ瞳は落ち着かない様子で揺れている。

「ただの夢には見えなかった。……まるで、突発的にどこか恐ろしい『悪夢の領域』に引きずり込まれたみたいだった」

良奈は冷静に俺を観察していたが、シーツを握る彼女の指先は白くなっており、内心の穏やかでないことが伝わってきた。

「アイリン……良奈。俺、本当に……悪夢を見たんだ」

震える声で、生理的な恐怖を必死に抑え込もうとした。

それを聞いて、アイリンと良奈はベッドの両脇に座った。まるで俺を真ん中に挟んで守るかのように。

「どんな夢だったの? そんなに怖がるなんて」

アイリンが顔を寄せた。彼女の吐息から微かに甘い香りがして、ようやく自分が本当に生きていることを実感できた。

「俺……俺……殺されたんだ! クレドさんとマキシに殺された!」

夢の中の冷淡な視線と破滅的な魔法を思い出し、抑えきれなくなった感情が崩壊するように溢れ出した。顔を覆い、泣き声の混じった声で叫ぶ。

「あいつら……暗闇の中に立って、蔑むような、まるでゴミを見るような目で俺を見てたんだ。それから少し相談して、クレドさんが『片付けよう』って言った。次の瞬間、天火の刃と光魔法が直接俺を……」

言えば言うほど激昂し、肋骨の奥まで痛み出すような錯覚に陥る。

「あいつらは俺の『兄貴』で……『先生』のはずなのに! なんで夢の中であんな目をして俺を見るんだよ!」

部屋は死のような静寂に包まれた。

アイリンは呆然と立ち尽くし、俺をなだめようとした手は空中で止まっていた。彼女の知るクレドは尊大だが豪快に笑う英雄であり、マキシは温和で謙虚な導師だ。俺の語る夢は、彼女の認識を根底から覆すものだった。

感情が限界に達しようとしたその時、肩にしっかりとした重みが伝わった。

パシッ!

アイリンが豪快に俺の肩を叩いた。静かな部屋に小気味よい音が響き、心にまとわりついていた寒気を散らしてくれた。

「大丈夫! 私と良奈がいるんだから、私たちがシエンを守ってあげる!」

アイリンは胸を張り、青い瞳に断固とした光を宿した。「クレドだろうがマキシだろうが関係ないわ。もし本当に変なことしようとしたら、私が雷で黒焦げにしてやるんだから!」

反対側に座る良奈の手が、そっと俺の手の甲に重ねられた。少し冷たい体温が、逆に心地よく安心させてくれる。彼女は横を向き、壁際の黒い長刀に視線を送った。低いが、殺伐とした決意を秘めた声で言った。

「……墨淵が、あんたの夢魔を斬ってあげる」

普段は騒がしかったり冷淡だったりする二人の少女が、今、これほどまでに確かな、どこか悲壮なまでの決意で俺を見守ってくれている。激しかった呼吸が、次第に平穏を取り戻していった。

「ありが……ありがとう」

弱々しくも、本心の微笑みを漏らした。

心拍数は落ち着いたが、「殺された」感覚は魂の深くに刻まれたままだ。夢だと分かっていても、胸から広がる氷の感触、信じていた者に裏切られる絶望感はあまりにリアルだった。マキシの微笑みを思い出すだけで、まだ体が震えてしまう。

その時、一階の重厚な大扉が開く音が聞こえ、二階の気まずくも温かい雰囲気を破った。

「ただいま! ぶっ倒れた奴の具合はどうだ?」

アウグストゥスの活気ある、呆れつつも心配を隠しきれない声がホールに響く。続いて、マキシの相変わらず穏やかで落ち着いた返答が聞こえた。

「おかえり。彼は……少し良くなったみたいだよ。薬を買ってきたなら、しっかり看病してあげて。僕はもう行くよ。水入らずで過ごしなさい」

遠ざかっていくマキシの足音を聞きながら、俺は無意識にシーツを握りしめた。

彼は去った。

だが、左眼の残像には、先ほど彼が入室した時に放っていたエネルギーの波動が見えていた。それはスウィヤを覆う桃色の魔法陣の周波数と完全に一致していた。あの優しく守護する「光」が、夢の中では俺の胸を貫く刃になったのだ。

「シエン? 薬を買ってきたぞ、さっさと飲んで寝ろ」

アウグストゥスの急ぎ足がドアの外まで来ていた。

部屋の灯りが落とされ、窓の外、スウィヤの夜空は繁華街のネオンに深紫色に染まっていた。薬が効いてきたのか、混乱していた脳にようやく静寂が戻ってきた。

「夜も更けてきたね、シエン」

アウグストゥスは長袍の埃を払いながら立ち上がり、皮肉げな、だがどこか楽しげな悪い笑みを浮かべた。

「じゃあ……僕たちは撤収するとしよう。ところで、夢を見ただけであんなに震えていた『救世の英雄』殿は、今夜一人で眠れるのかな?」

「ね、眠れるよ! 子供じゃないんだから!」

図星を突かれた猫のように、俺は虚弱な体で言い返した。「あれはただの突発的な事故だ。俺の精神力は強靭なんだよ!」

「へぇ? そう?」

アイリンはベッドサイドに座り、俺の強がりを見てクスクスと笑った。彼女はタオルを丁寧に畳んでナイトテーブルに置き、立ち上がった時、湛青たんせいの瞳に温かい笑みを湛えた。「本当に? もし夜中に怖くて泣き出しちゃったら、私と良奈の部屋は向かい側だからね。じゃあ、おやすみ」

「いつでもノックしていいわよ」と言わんばかりの茶目っ気たっぷりの表情に、俺は顔が熱くなるのを感じ、あえて視線を逸らして手を振った。

「あぁ……みんな、おやすみ」

「おやすみ、弱虫シエン」

アウグストゥスは大笑いしながら部屋を出ていき、アイリンもその後に続いた。去り際、俺にガッツポーズを見せるのを忘れずに。

ドアが閉まる直前、最後に歩いていた良奈が足を止めた。

彼女は振り返り、アウグストゥスとアイリンが遠ざかったのを確認した。柔らかな常夜灯の下で、彼女はゆっくりと手を伸ばし、あの無機質な白い面を外した。

それは極めて信頼している者の前でしか見せない真実――白く滑らかな肌が微光の中で陶器のような光沢を放ち、普段は冷淡な双眸が、今は温かなさざ波に満ちている。

「また明日、シエン」

良奈は、極めて珍しい微笑みを俺に向けた。その瞬間、夢の中の貫通する激痛が完全に消え去り、代わりに心の底から温かい何かが湧き上がってきた。彼女の笑顔には、この街の冷たい「防衛機構」を窓の外に遮断するような魔力があった。

ドアが静かに閉まり、廊下の微かな足音も静寂に帰した。

俺は一人、広いベッドに横たわり、無意識に枕元にある「墨淵」の柄を握った。漆黒の刀身から伝わる冷たくも確かな質感が、「あの残酷な夢は幻影に過ぎず、今の仲間の気遣いこそが真実だ」と教えてくれている気がした。

目を閉じ、スウィヤの微かな桃色の魔法陣の周波数を感じる。

『誰がこの陣を敷いたにせよ、誰が夢の中で俺を殺そうとしたにせよ……』

俺は穏やかに思った。

『こいつらが傍にいる限り、俺はあの恐怖には負けない』

俺は広いベッドに横たわり、天井の精緻な装飾をぼんやりと見つめながら、深く息を吸い込んだ。

「ふぅ……」

良奈のあの笑顔が、温かな障壁となって、突き刺さるような恐怖を一時的に防いでくれた。俺は冷静さを保ち、理性で幻視の細部を解体しようと試みた。マキシの冷酷さ、クレドの粛清、光と炎の交錯……。だが思考が核心に触れようとするたび、脳に鋭い痛みが走る。

駄目だ、全く見当がつかない。これは普段のような、ロジックで解析できる「エネルギー構造」ではない。理解の範疇を超えた、純粋な「悪意」のようなものだ。

分析を諦め、疼くこめかみを揉みながら、無理やり体をリラックスさせて目を閉じた。

『寝よう……明日は報到(手続き)の日だ』

意識が朦朧とし、深い眠りに落ちようとしたその瞬間、予想していた平穏は訪れなかった。逆に、全身がふわりと軽くなる感覚に襲われた。身の下にあるはずのベッドが消え、無限の無重力状態へと投げ出されたような感覚。

「えっ?」

叫び声を上げ、目を見開いた。

視界にあるのは官邸のオレンジ色の灯りではない。代わりに広がっていたのは、際限のない、眩しいほどの純白の世界。重力もなく、音もなく、時間の流れさえ感じられない場所。

この光景には見覚えがある。心臓が嫌な跳ね方をした――ここは、前世が終わり、スクウィタン大陸へ転生する前にいたあの空間と同じだ。

「また、ここか……」

俺は独り言をつぶやき、虚空の中で姿勢を立て直そうとした。

「やあ、ヒデヒコ。またしばらくぶりだね!」

茶化すような、どこか空霊で、それでいて聞き覚えのある声が背後から響いた。

振り返ると、そこには白い短髪、透明に近いほど精緻な顔立ちをした中性的な影があった。相変わらずギャップの激しい姿で宙に浮き、口角に皮肉めいた笑みを浮かべている。

**「ギン」**だ。

あの神であり、俺に「観測者」の左眼を授けた存在。

「その顔は何だい? 友人に会えたっていうのに嬉しくなさそうだね」

銀は優雅に空中で身を翻し、万物を見通す瞳を細めた。「それとも、さっきの胸を貫かれる『愉快な体験』を引きずっているのかな?」

「銀、今日起きたことを説明してくれ」

銀は透き通るような手を上げ、無造作に俺の背後を指差した。

「君の存在は……いくつかの混沌とした因果の輪廻と交じり合っているけれど。本質的に言えば、君はこの世界の『法則』と反発し合っているんだよ」

心臓が大きく鳴った。彼が指差した方を振り向くと、そこにはあまりに馴染み深く、同時に果てしなく見知らぬ人影が立っていた。

それは「彼」であり、俺だ――浅蒼秀彦アサクラ・ヒデヒコ

内装設計士として前世を生き、不慮の事故で死んだ平凡な男。この世界にそぐわない現代の私服を纏い、瞳は空洞で魂の欠片もない。まるで時の狭間に忘れ去られた蝋人形のように、死んだように立っている。かつての自分を見つめ、俺は強烈な拒絶反応と寒気を覚えた。

「どういう意味だ? 俺の存在自体が間違いだって言いたいのか?」俺は銀を睨みつけ、声は恐怖で掠れていた。「じゃあ、さっきの夢は本物なのか? 俺はこの世界の守護者に殺される運命にあるのか?」

「んー……そういうわけでもないよ」

銀は少し面倒そうに白い短髪をかき上げた。この複雑なシステムをどう説明すべきか考えているようだ。彼は地面に降り立ち、歩み寄ると「浅蒼秀彦」の抜け殻を一振りで塵のように消し去った。

「とりあえず、これまでの君の努力に免じて、少しだけヒントをあげよう」

銀が二本の指を立てて空中に振ると、二筋の微光を放つ文字が現れた。

1. スウィヤは安全だ。

2. 勇者は君の左眼を好まない。

浮遊する文字を見つめ、眉をひそめた。「スウィヤは安全だ……あの夢は嘘だってことか? だけど『勇者』って誰だ? クレドさんか……それともマキシか?」

「おい! もっと詳しく教えろ!」俺は銀に向かって叫んだ。

「ヒントがヒントである理由は、はっきり言えないからだよ。さもないと因果律が壊れちゃうからね」

銀の姿が次第に薄れ始めた。精緻な顔に意地の悪い笑みを浮かべて。

「ヒデヒコ、恐怖で左眼を曇らせるなよ。君が『観測』したものは未来とは限らないが、間違いなく何らかの『真実』だ」

「待て! 銀!」

俺は彼を掴もうと手を伸ばしたが、再び強烈な失重感に襲われた。純白の空間が歪み、回転し、銀の軽やかな別れの言葉が遠ざかっていく。

「バスリン大通りの『デート』を楽しんできてね、大師兄あにでし――」

シュッ!

俺は勢いよく目を開けた。窓の外、スウィヤの清晨せいしんの陽光が顔に降り注いでいる。ベッドの脇には誰もおらず、ただ「墨淵」が朝日に照らされて漆黒の光沢を静かに放っていた。

無意識に胸に触れる。鼓動は穏やかだ。痛みも、闇もない。

「スウィヤは安全だ……か」

独りごち、銀の二つ目のヒントを思い出した瞬間、左眼に微かな、疼くような痛みが走った。

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