氷の軍師と不倫疑惑の神託
ヴォルガが「精神的炎上」で再起不能となった数日後。一行の前に、氷の結晶を纏った美しい軍師、イゾルデが立ちふさがった。
彼女は冷ややかな目で阿久津を見下ろし、パチンと指を鳴らす。周囲の温度が一気に下がり、騎士たちの足元が凍りついた。
「ヴォルガは四天王の面汚し……。感情に流されるから隙ができるのです。私は違いますわ。すべては論理と規律。勇者、貴方の無秩序な予言など、私の氷の数式で上書きして差し上げます」
「(……うわ、出たよ。理論派気取りの完璧超人キャラ……。こういう奴に限って、裏では【ふ】……【不謹慎】なことしてたり、【ふ】……【不祥事】隠してたりするんだよな……。……【ふ】……【不倫】とかさ……)」
阿久津は、あまりの寒さに震えながらスマホを連打する。
「神託ですわ!」 ルミナスが、もはや呼吸を合わせるように叫ぶ。
「『【ふ】不潔な、 【ふ】不倫よ! 【ふ】不意を突いて、 殴り込みなさい!』」
「…………ふ、不倫!?」
イゾルデの完璧なポーカーフェイスが、初めてピクリと動いた。
「何を……デタラメを! 私は魔王様に忠誠を誓う身。色恋沙汰など論理的にあり得ません!」
「(……いや、誰も魔王と不倫してるとは言ってないだろ。……過剰反応乙。……怪しいな。……【こ】……【公私】混同……。……【こ】……【個別】チャット……。……【こ】……【告白】……)」
「追加神託! 『【こ】降臨せよ、 【こ】公私混同の、 【こ】告発よ!!』」
「告発!? 勇者様、イゾルデの裏アカウント(秘密の魔導通信)を特定されたのですか!?」
セレナが色めき立った。彼女は承認欲求モンスターゆえ、「他人の秘密の暴露」が三度の飯より好きだった。
「シオン、彼女の影を『特定』なさい!」
「……了解だ。影の中に……見つけたぞ。これは……『魔王様への熱烈なポエム』と……『部下に対する愚痴』、そして……『深夜にこっそり食べている激辛ラーメンの自撮り』か」
シオンが影の中から、イゾルデの魔導通信記録を実体化させて引きずり出した。
「なっ、何をするのですか! それは私のプライバシー、論理の外側にある聖域ですわよ!」
イゾルデが必死に氷の壁を作るが、阿久津は冷酷にスマホをタップし続ける。
「(……あ、こいつ。魔王に『好きです』って送りかけて、送信取り消ししてる履歴がある。……【さ】……【晒】し決定。……【さ】……【最後】まで……【さ】……【最悪】の気分にさせてやる……)」
「女神のトドメの神託! 『【さ】最も、 【さ】最悪な、 【さ】晒しものよ!』」
「やめてぇぇぇ! そのログだけは投影しないでぇぇ!!」
イゾルデの悲鳴と共に、空には「送信取り消し」だらけの恋文モドキが特大サイズで映し出された。
完璧な軍師だったはずの彼女は、今や「恋に浮かれて深夜に激辛麺を啜りながら愚痴を吐く、人間味溢れすぎた魔族」として世界に知れ渡ったのである。
「……計算外……。私の完璧なキャリアが……すべて不祥事としてアーカイブされてしまった……」
氷の壁と共に、イゾルデの心も粉々に砕け散った。
「……ふぅ。……一丁あがり。……完璧主義者に恥をかかせるのが一番効率いいな。……あ、今のイゾルデの顔、【と】……【尊】い。……いや、【そ】……【素材】にするか……」
「神託! 『尊い素材として、一生いじり倒しなさい!』」
「ルミナス、今の『尊い』はオタク的な意味だから! 彼女をこれ以上追い詰めないで!」
阿久津のスマホには、新たな「四天王の弱み(動画)」が、神話級の画質で保存されたのであった。




