炎上する将軍と、粘着の勇者
魔王城へと続く『断罪の荒野』。
そこには、前回の敗北(自滅)を糧に、全身からどす黒い暗黒炎を噴き上げるヴォルガが待ち構えていた。
「勇者よ……! あの日の屈辱、片時も忘れたことはない! 我が誇りにかけて、今度こそ正々堂々と――」
「(……あー、またこいつか。しかも前回より声がデカい。鼓膜が**【き】……【傷】つく……。【き】……【嫌い(きらい)】なんだよ、こういう熱血……。【き】……【禁止】**しろ……)」
阿久津はフル充電されたスマホを片手に、死んだ目で画面を連打する。
「神託ですわ!」女神ルミナスが、もはや阿久津の「指の癖」を完全に理解したようなドヤ顔で叫ぶ。
「『【き】既読スルーよ! 【き】奇行を、実況しなさい!』」
「既読スルー!? 実況だと!?」
ヴォルガが放った渾身の火炎弾が、阿久津の数センチ横を通り過ぎる。しかし阿久津は、スマホでヴォルガの戦闘ポーズを連写しながら、ボソボソと独り言を続けていた。
「(……はい、今のポーズ、【だ】……【ださい(ださい)】。……【だ】……【妥協】の塊。…………【か】……【拡散】希望……)」
「追加神託! 『【だ】断罪の、【だ】脱衣よ! 【だ】大炎上を、【か】拡散しなさい!』」
「脱衣!? な、何を馬鹿な……うわぁぁぁ!?」
ヴォルガが叫ぶ。阿久津の神託に呼応したシオンが、超高速でヴォルガの鎧の継ぎ目を「除菌(切断)」し、セレナが「映えるエフェクト」として周囲に爆発を起こした。
爆煙が晴れると、そこには鎧を剥ぎ取られ、なぜかマント一枚になったヴォルガが、間抜けな格好で荒野に立たされていた。
「勇者様! ヴォルガの情けない姿、空に魔法投影しましたわ! 全人類が『ウケるw』と神託を返してきていますわよ!」
セレナが空を指差す。そこには、半裸で困惑するヴォルガの姿が、巨大な文字と共に映し出されていた。
【悲報】魔王軍四天王ヴォルガ、実力不足で炎上。
「な……な、なんだこの仕打ちをぉぉ! 殺せ! 潔く殺せぇぇ!」
「(……殺す? そんな【こ】……【効率】悪いことしないよ。……お前はこれから、【こ】……【個人】情報を……【こ】……【公表】され続けて、一生、【ね】……【ネット(ねっと)】の海を彷徨うんだ……。……絶望しろ……)」
「女神のトドメの神託! 『【こ】降臨せよ、 【こ】公開処刑よ! 【ね】粘着の、【ね】念を刻みなさい!』」
「ひ、卑怯だ……! 貴様、本当に勇者かぁぁぁ!!」
ヴォルガは、自分の過去のポエム(四天王会議の議事録に書いた落書き)が空に映し出された瞬間、精神が限界を迎え、泡を吹いて倒れた。
「……ふぅ。……一丁あがり。……あ、今のスクショ、保存しとこ。【ほ】……【保存】……【ほ】……【掘】り下げ……」
「神託! 『保存して、さらに掘り下げなさい!』」
「やめてルミナス! もうこれ以上は死体蹴りだから!」
倒れたヴォルガを尻目に、阿久津は次の四天王・イゾルデの「裏アカウント(魔力波長)」を特定すべく、スマホの検索画面を再び叩き始めた。
(阿久津の心境:ヴォルガ……お前が叫んだせいで、画面に唾が飛んだ。……これ、防水だけど絶許。……次は魔王城のWi-Fiパスワードを特定して、お前の部屋のスマート家電を全部勝手に操作してやる……)




