聖地巡礼魔力蓄積の祭壇
「……あれだ。あそこに、伝説の『魔力蓄積の祭壇』がある」
阿久津は、震える手で崖の下を指差した。画面の輝度は最低、機内モードもオン。もはやただの「黒い板」と化したスマホの電池残量は、ついに3%。
「おお! あの禍々しいオーラを放つ遺跡が! 勇者様の神器を復活させるための『充電器』なのですわね!」
セレナが興奮して杖を振り回す。
「不潔な気配がするな。……魔王軍が守護しているようだが、構わん。勇者殿の『電池』を繋ぐため、全滅させてやろう」
シオンが物騒な液体を矢に塗り込み、無表情で告げる。
「(……頼むから、爆発とかさせないでくれよ。精密機械なんだからな。【せ】……【精密】に……【せ】……【接して(せして)】……【い】……【命】を大事にしろ……)」
女神ルミナスが、阿久津の祈りを福音として空に放つ。
「神託です! 『【せ】制圧せよ! 【せ】戦慄の、 【い】遺影よ!』」
「戦慄の遺影……! つまり、生きたまま敵を絵(石像)に変えて、見せしめにしろということか!」
ガストンが咆哮し、盾を構えて遺跡に突っ込んでいく。
「(……違う。遺影って。俺のスマホが死にそうだからって縁起でもないこと言うなよ、女神……。【こ】……【壊れる(こわれる)】……【わ】……【笑えない(わらえない)】……)」
「追加神託! 『【こ】木っ端微塵に! 【わ】災いを、 【わ】分け与えなさい!』」
「木っ端微塵! 災いを分け与える! 了解ですわぁぁぁ!!」
セレナの最大火力魔法が遺跡の正門を文字通り木っ端微塵に粉砕し、守備隊の魔族たちは
「何だこの狂った連中は!」
と叫びながら逃げ惑う。
阿久津は土煙の中を必死に走り、祭壇の中心にある「魔力のプラグ」っぽい石柱にスマホを叩きつけた。
「(……刺され! 認識しろ! 純正ケーブルじゃないけど、いけるはずだろ! ……認識……【し】……【始動】!)」
「女神の最終神託! 『【し】神滅! 【し】始動せよ、【し】終焉の刻!』」
その瞬間、遺跡全体が眩い光に包まれた。
祭壇に蓄積されていた数千年の魔力が、阿久津のスマホという「小さなブラックホール」に一気に流れ込む。
『ピロリン♪』
静寂の中で響いた、軽快な充電開始音。
画面には、神々しく輝く【100%】の文字。それどころか、魔力が溢れすぎて、アイコンが金色のオーラを纏って浮き上がっている。
「……ふぅ。……助かった」
阿久津は安堵の溜め息をついた。だが、ふと周りを見ると。
遺跡は半壊。魔族たちはセレナの魔法で「木っ端微塵」になり、シオンの毒で「石像(戦慄の遺影)」と化した敵が並んでいる。そして、背後には
「勇者様、充電完了おめでとうございます!」
と、血塗られた笑顔で拍手する狂信者たちがいた。
「(……こいつら、本当に絶許。……でも、電池は満タンだ。……検索履歴、また一から積み上げてやるからな。……【ね】……【粘着】、開始だ……)」
「神託! 『【ね】熱烈な、 【ね】念を、 【ね】練り上げなさい!』」
「熱烈な念! 勇者様がやる気になられたぞぉぉ!!」
フル充電されたスマホを手に、阿久津の(復讐という名の)救世の旅は、いよいよ加速していく。
(阿久津の心境:……あ、充電端子のところにセレナの髪の毛が挟まってる。……一回抜いて掃除して検索してやる。予測変換が『抜毛の刑』になるまで、徹底的にな……)




