潔癖の暗殺者
キャンプの翌日。阿久津たちは魔王軍が放った刺客、暗殺者シオンの標的となっていた。
シオンは木々の影から、音もなく一行を観察していた。
(……ターゲットを確認。だが、あの重戦士は脂ぎっている。あの女魔導師は香水がキツい。……不潔だ。近づきたくない……)
シオンは手袋をはめ直し、苦虫を噛み潰したような顔をした。彼は極度の潔癖症。直接手を下すことすら「汚れ」と感じるため、遠隔トラップを好む特異な暗殺者だった。
一方、阿久津は歩きながらスマホの画面を見て、暗い顔をしていた。
昨日の「バケモノ料理」のせいで胃もたれがひどいのだ。
「(……あー。胃がムカムカする。あいつらの声、鼓膜に**【き】……【傷】がつくレベルでうるさい。……【き】……【汚い(きたない)】。……【し】……【死滅】**してほしい……)」
女神ルミナスが、阿久津のスマホに流れる「負の感情」を聖なる福音として読み上げる。
「神託を授けます! 『【き】輝ける、 【き】機密の、 【し】執行人よ!』」
「!?(輝ける機密の執行人……私のことか!?)」
シオンは息を呑んだ。存在を完全に消していたはずなのに、なぜバレた。
阿久津はさらに、スマホの画面をスワイプしながら呟く。
「(……さっきから視線を感じる。誰か**【と】……【特定】して、【た】……【叩】きたい。……【く】……【駆除】**しろ……)」
「追加の神託! 『【と】研ぎ澄まされた、 【た】魂を、 【く】口説き落としなさい!』」
「私を……口説き落とすだと!?」
シオンは衝撃のあまり、持っていた毒針を落としそうになった。
これまで「陰気な暗殺者」としてしか見られなかった自分を、これほどまでに気高く、かつ情熱的に(予測変換で)評価してくれた者がいただろうか。
シオンはたまらず木陰から姿を現し、阿久津の前に跪いた。
ただし、地面に直接膝がつかないよう、マイ座布団を敷いてから。
「……お初にお目にかかる。輝ける機密の執行人、シオンだ。勇者殿……貴殿の放つ『不潔な世界を憎むオーラ』に、私の魂が共鳴した」
「(……うわ、また変なの来た。……座布団持ち歩いてるよ、この人……)」
「勇者殿。貴殿の命じられた『駆除』……理解した。この世の不潔なゴミ(魔王軍)を、一匹残らず消毒(暗殺)して差し上げよう。ただし、私の装備に触れないでいただきたい。菌が移る」
「(……あ、今の態度。俺をバイキン扱いしたな? 【ぜ】……【絶許】。……【ふ】……【服】、**【は】……【剥】**ぐぞ……)」
「女神の神託! 『【ぜ】絶対の、 【ふ】福音を、 【は】放ちなさい!』」
「……福音。了解した。不浄なる者に、死という名の救済を」
シオンは無表情のまま、懐から強力な除菌スプレー(実は猛毒)を取り出し、周囲の茂みに向かって乱射し始めた。
「勇者様! 新しい仲間ですわね! これで私たちの『映え』がさらに加速しますわ!」
セレナが喜び、ガストンが「ハハハ! また一人根暗が増えたな!」と笑いながらシオンの肩を叩こうとする。
「触るな! アルコール消毒が間に合わん!」
シオンがガストンに毒スプレーを噴射し、キャンプ地は再びパニックになった。
阿久津は、スマホのバッテリー残量(65%)を確認し、深く深くため息をついた。
(シオン……お前の座布団、今度こっそり泥水に浸けてやるからな。……予測変換が『不法投棄』になるまで追い詰めてやる……)
パーティーが「脳筋」「承認欲求」「潔癖」で埋まり、阿久津の精神的ストレス(と予測変換の殺意)はピークに達しようとしていた。




