呪いのキャンプファイヤー
魔王軍の追撃を振り切り、一行は森の開けた場所で野営をすることになった。
阿久津は、他人に干渉されたくない一心で、一人離れた木陰に陣取っていた。
「さあ勇者様! 共に食事を楽しみましょう!」
ガストンが丸太のような腕で獲物の巨大イノシシを担いでくる。
「勇者様、私の新しい魔法で、この肉を『映える』焼き加減にしてみせますわ!」
セレナが杖を構えて鼻息を荒くする。
阿久津は、騒がしい連中を横目にスマホの画面をタップした。
(……あー、大勢で飯とか一番苦手。自分のペースで食べたい。【ひ】……【一人】で……【ひ】……【干物】でも……【く】……【食いたい(くいたい)】……)
女神ルミナスが、焚き火の煙を聖なる霧に変えながら、高らかに叫ぶ。
「神託です! 『【ひ】秘術を。 【ひ】引き摺り回して、 【く】食い尽くしなさい!』」
「引き摺り回して、食い尽くす……ッ!?」
ガストンが戦慄した。
「なるほど、ただ焼くのではない! 獲物の繊維を徹底的に破壊し、骨の髄まで吸い尽くせという、野生の極意か!」
ガストンは叫びながらイノシシの死体を地面に叩きつけ、猛烈な勢いで「引き摺り回し」始めた。
「勇者様、見ていてください! 私も『食い尽くし』に相応しい、残虐な(映える)デコレーションを施してみせますわ!」
セレナが闇属性っぽい禍々しい魔法を肉に叩き込み、キャンプ場は阿鼻叫喚の調理場と化した。
阿久津は、土埃を上げながらイノシシを引き摺り回す男と、紫色の炎で肉を焼く女を、死んだ目で見つめた。
「(……何してるの、あいつら。……あ、今の土埃、俺のスマホの充電端子に入ったかも。【ぜ】……【絶許】。……【ふ】……【不潔】……【き】……【消えろ(きえろ)】……)」
女神ルミナスが、肉の焼ける異様な臭いの中で、さらに神託を上書きする。
「追加の神託! 『【ぜ】全滅させなさい! 【ふ】不浄なモノを、 【き】斬り刻め!!』」
その場にいた一同に衝撃が走った。
「ぜ、全滅!? ここに不浄なモノ……つまり、魔王軍の隠密が潜んでいるということか!」
騎士団から同行しているガストンたちが、抜剣して周囲の茂みに突っ込んでいく。
「きゃあああ! 不浄なモノを斬り刻め!? 私のドレスに付いたこの返り血のことね!? 全部、焼き払いますわぁぁぁ!」
セレナがパニックになり、自身の周囲に無差別な爆炎を放ち始めた。
「……あ、もうだめだ、これ」
阿久津はスマホをポケットにねじ込み、体育座りで耳を塞いだ。
しばらくして。
周囲の森は半壊し、隠れていた魔王軍の偵察兵(不浄なモノ)はセレナの爆炎で本当に全滅していた。
ボロボロになったガストンが、炭のようになった肉の塊を差し出してくる。
「勇者様……お陰で敵を仕留められました。……さあ、これが神託の通りに『引き摺り回して全滅させた肉』です」
阿久津は、目の前の「黒焦げの物体」を眺め、ボソボソと呟いた。
「(……こんなの食べたら、**【し】……【死ぬ(しぬ)】わ。……【ば】……【バカ(ばか)】**なの……?)」
「神託! 『【し】至高の、 【ば】化け物料理よ!』」
「おおおぉ! 勇者様が『至高』と認めてくださったぞ!」
「この、ドロドロの肉(バケモノ料理)が、私たちの絆の証ですわね!」
泣きながら黒焦げの肉を貪り食う仲間たちを背景に、阿久津のバッテリーはついに**70%**を切った。
(阿久津の心境:……今日の夕食代、あいつらの給料から天引きしてやる。予測変換に『給料未払い』が出るまで検索してやるからな……)
彼の「恨み帳」に、またしても深い一筆が加わったのであった。




