承認欲求お嬢様
魔王軍との初戦を(勘違いで)終えた一行は、次なる仲間を求めて魔導公爵家を訪れていた。
そこで待っていたのは、煌びやかなドレスに身を包み、縦ロールを揺らす高慢な美少女――セレナである。
「おーっほっほ! 私こそがこの国最強の魔導師、セレナ・フォン・ローゼンバーグですわ! 勇者様、私の魔法を見れば、貴方の『予測変換』とやらも絶賛の言葉で埋め尽くされるはずですわよ!」
彼女は自信満々に、庭園の巨大な標的に向かって極大火炎魔法を放った。
「見なさい! この美しく、映える爆炎を!」
轟音と共に標的が消し飛ぶ。だが、阿久津はスマホの画面を見たまま、死んだ魚のような目でボソボソと呟いた。
「(……あー。エフェクトは派手だけど、溜めが長すぎて実用性ないわ。こういうキャラ、ゲームだと【こ】……【コスパ(こすぱ)】悪いんだよな。【こ】……【固定資産】みたいな動きしやがって……)」
女神ルミナスが、阿久津の指の動きを敏感に察知し、高らかに叫ぶ。
「神託です! 『【こ】降臨せよ、【こ】ゴミ! 殺意が足りない、このモブ!』」
「…………ゴ、ゴミ!? モ、モブ……っ!?」
セレナの顔から血の気が引いた。
公爵令嬢として、そして天才魔導師として「最高評価」以外を受けたことのない彼女にとって、それは呪詛に等しかった。
「いや、違うんだ。今の『こ』はコスパが悪……」
阿久津が言いかけるが、セレナはすでにガタガタと震えながら彼に詰め寄っていた。
「ま、待ちなさい! 今の私の魔法、何がダメだったというの!? 演出? 属性の解釈!? それとも私の『キャラ設定』が弱いの!? 教えて、エゴサしても出てこない『神の視点』を持つ勇者様!」
「(……うわ、食いついてきた。このタイプ、一番めんどくさい……。【あ】……【アンチ(あんち)】スルーできないタイプか……。【あ】……【垢消せ(あかけせ)】、マジで)」
女神ルミナスが追い打ちをかける。
「追記の神託! 『【あ】圧倒的なアンチよ! 【あ】垢抜けないゴミは、消えなさい!』」
「垢抜けない……っ! 私のセンスが、古臭いというのですかぁぁぁ!!」
セレナは絶望のあまり地面に膝をつき、むせび泣いた。
しかし、ここからが彼女の異常なところだった。
彼女は涙を拭うと、狂気を孕んだ目で阿久津を見上げた。
「……分かりましたわ。勇者様、貴方はあえて私を貶めることで、私を更なる高みへ導こうとしているのですわね!? 貴方の予測変換が『尊い』『神回』に染まるまで、私は貴方に粘着……いえ、同行して差し上げますわ!」
「(……えぇ、嫌だ。絶対粘着される。【ぜ】……【絶許】)」
「神託! 『【ぜ】全裸で【ぜ】前進しなさい!』」
「全裸で前進!? それが次世代のトレンド……新しい私なのですわね!?」
「待てルミナス!! 今のは『絶許』だ! あとセレナ、脱ごうとするな! 落ち着け!」
阿久津の必死のツッコミも虚しく、こうして「阿久津のアンチコメントを神の指導と受け取る魔導師」が仲間に加わった。
阿久津は暗い顔で、さらに減ったバッテリー(85%)を見つめた。
(セレナ……さっき俺のスマホに指紋つけたな。忘れない。お前の魔法詠唱、全部予測変換で『ポエム』に変えてやるからな……)
彼の復讐リストに、新たな名前が刻まれた瞬間だった。




