魔王決戦
『最終決戦!魔王よ、お前の人生を【実況】してやる』
魔王城の玉座の間。重厚な扉を蹴破った阿久津たちの前にいたのは、意外にも「無言」を貫く魔王だった。
これまでの四天王たちの凄惨な末路(精神的自爆)を鏡で見ていた魔王は、一つの真理にたどり着いたのだ。
(喋れば、神託にされる。動けば、実況される。ならば私は、石像のごとく無を貫くのみ……!)
魔王は玉座に座ったまま、ピクリとも動かない。
阿久津は、目の前の魔王の「あまりにも静かな態度」に、逆にイライラを募らせていた。
「(……あー、何これ。無言貫けば勝てるとか思ってるわけ? ……一番嫌いなタイプ。……掲示板で論破できなくなると、突然無視するやつ……。……【こ】……【公式】が……黙秘かよ……)」
阿久津は、スマホを魔王に向け、ネットリと文字を打ち込む。
「神託ですわ!」 ルミナスが、最終決戦のテンションで絶叫する。
「『【こ】公開処刑よ! 【こ】孤立させて、 粉砕しなさい!』」
「!?(何を公開するというのだ、私は何もしていないぞ!)」
魔王は心の中で叫ぶが、阿久津の予測変換は止まらない。
「(……沈黙してるけど、その余裕そうなツラ……。……絶対、裏で【ろ】……【ログイン】して……【ろ】……【ロム】ってんだろ。……【ろ】……【露出】狂め……)」
「追加神託! 『【ろ】露出よ! 露わに、 【ろ】録画しなさい!』」
「なっ、録画だと!?」
シオンが影から現れ、魔王の玉座の下に隠されていた「秘密の魔導記録結晶」を引きずり出した。
そこには、魔王が夜な夜な一人で「勇者を倒した後のドヤ顔演習」を鏡の前で練習している自撮り映像が、全自動で録画されていた。
「勇者様! 魔王の痛々しいプライベート動画、世界中の空にストリーミング配信(魔法投影)しましたわ!」
セレナが魔力を全開にし、世界の隅々まで「魔王の黒歴史動画」を同時通訳付きで放送し始めた。
空には、自分のマントを翻しながら「ククク、私が真の王だ……(キリッ)」とポーズを決める、素顔の魔王が映し出される。
「ぎゃああああ! やめろ! それはまだ編集中だ! 消せ! 今すぐ垢を消せぇぇ!」
ついに魔王が絶叫し、沈黙を破った。
「(……あ、喋った。……【お】……【お疲れ様】。……**【お】……【終わり(おわり)】だよ、お前。……【さ】……【最後】まで……【さ】……【晒】されて……【よ】……【喜】べ……)」
「最終神託! 『【お】終わりよ(おわり)よ! 【さ】最期の、 【よ】余興よ!!』」
「余興!? 私の人生が、余興だというのかぁぁ!」
魔王は、世界中の民衆から
「魔王様、キモいw」
「今のポーズ何w」
という念(SNSのリプライ的魔力)を一身に浴び、精神的な『炎上ダメージ』で真っ白に燃え尽きた。
魔王が崩れ落ちると同時に、魔王城が震える。
阿久津はスマホをポケットにしまい、ボソッと呟いた。
「(……ふぅ。……やっと、これでアニメの録画予約、確認できるな……。……あ、Wi-Fiの電波入った。……帰るか……)」
「女神の結びの神託! 『【で】伝説の、【で】電撃……あ、違う。 【で】出口へ、 【た】辿り着きなさい!』」
「勇者様! どこへ行かれるのですか!」「おーっほっほ! 祝勝会(オフ会)をしましょう!」
追いかけてくるガストン、セレナ、シオン、そしてルミナス。
阿久津は、彼らから逃げるように光の渦(帰還ゲート)へと飛び込んだ。
「(……もう二度と異世界なんて来るか。……あ、今のセリフ、予測変換で【つ】……【次】も……【あ】……【ある(ある)】って出た。……絶許)」
エピローグ
数日後。元の世界の自室。
阿久津は、異世界のアニメの最終回をネットで酷評しながら、ふとスマホの予測変換を見た。
【あ】……【会いたい(あいたい)】
「……は?」
阿久津が首を傾げると、スマホが金色の光を放ち、画面からルミナスの声が響いた。
『勇者様ー! 予測変換に導かれて、こっちの世界に来ちゃいました! さあ、次の神託を!』
「…………マジで、絶許」
阿久津執の「粘着」な日常は、どうやらまだ、終わらないらしい。




