深淵の賢者と特定凸の恐怖
魔王城の入り口。そこに鎮座していたのは、数千年の時を生きたという魔王軍最古の四天王、深淵のゼノンであった。
「ククク……よくぞ来た。だが、私に肉体的な攻撃は通じぬ。私はお前の魂を覗き、最も忌まわしい『過去』を具現化させよう……」
ゼノンの瞳が怪しく光る。
その瞬間、阿久津の周囲に「最悪の光景」が広がった。
それは、阿久津がかつて大好きだったアニメの、『あまりに酷すぎてファン全員が絶望した、原作改変の最終回』の再現映像だった。
「……あ、あぁ……。やめろ、それは……。作画崩壊してる上に、ヒロインがポッと出のキャラと結婚して、主人公が孤独死する伝説のクソ回……っ!」
阿久津は頭を抱え、膝をついた。根暗なオタクにとって、物理的な痛みより「愛した作品の汚辱」は何よりも堪える。
「ハハハ! 絶望しろ、勇者よ! これこそがお前の心の闇――」
「(……いや、待てよ。……よく見たら、こいつ、俺のトラウマを…コンテンツ(こんてんつ)にして小馬鹿にしてる……。……【と】……【トラウマ】を……【と】……【特定】して……【と】……【凸】るぞ……)」
阿久津の中で、悲しみは急速に「粘着質な殺意」へと変わった。
阿久津は怒りに震える指で、スマホを叩いた。
(……人の心の傷を面白おかしく演出しやがって。……作者でもないくせに……解釈違い(かいしゃくちがい)なんだよ……)
「神託ですわ!」 ルミナスが、阿久津のドス黒いオーラを感じ取って叫ぶ。
「『【と】特定完了よ! 【と】凸撃して、 【と】トドメを刺しなさい!』」
「特定!? 何を……っ!?」
ゼノンが動揺する。阿久津の神託を受けたシオンが、ゼノンの魔法の「発動元(IPアドレス的な魔力源)」を瞬時に逆探知した。
「……見つけたぞ。深淵の賢者。貴殿の本体は、その豪華なローブの中にはない。……地下三階の、さらに奥にある、『趣味のポエム日記』が詰まった隠し部屋に繋がっているな」
「なっ、なぜそこを!? 誰にも見せていない秘匿領域だぞ!」
阿久津は立ち上がり、メガネをクイッと上げた(メガネはしていないが、そんな気分だった)。
「(……お前の……【こ】……【個人】情報……全部、【こ】……【公表】だ。……【あ】……【垢】ごと消えろ。……【あ】……【悪質】な……【あ】……【アンチ】が……【あ】……【荒】らしに行くぞ……)」
「追加神託! 『【こ】公開処刑よ! 【あ】荒らし尽くし、 【あ】垢消しなさい!』」
「や、やめろ! 私のポエムは、三千年前の若気の至りなんだぁぁ!」
セレナの魔法が空にゼノンの「黒歴史ポエム日記」を投影し始めた。
『闇は私の心、魔王様は私の太陽……(自作の挿絵付き)』
「おお、これは『不浄』だな。徹底的に洗浄(焼却)しなければ」
シオンが影を通じて、ゼノンの隠し部屋に猛毒(除菌剤)を流し込む。
「(……さらに……【え】……【炎上】しろ。……【え】……【永久】に……【え】……【閲覧】されろ……)」
「トドメの神託! 『【え】炎上よ! 【え】永遠の、 【え】閲覧注意よ!!』」
「ぎゃああああ! 恥ずかしい! 死ぬより恥ずかしい! 魔法が、魔法が霧散していくぅぅ!」
自らの黒歴史を全世界に「実況」されたゼノンは、精神的な防御が崩壊。具現化していたトラウマ映像も消え去り、彼は恥ずかしさのあまり自分のローブに火をつけて灰になった(精神的自爆)。
「……ふぅ。……俺のトラウマを弄んだ罪は重い。……あ、今のデータ、クラウドにバックアップしとこ。……【ふ】……【復讐】完了……」
「神託! 『復讐完了よ!』」
阿久津は、静かになった魔王城の入り口で、満充電のスマホをポケットにしまった。
四天王、全滅。
残るは、このすべての元凶――魔王のみ。
(阿久津の心境:ゼノン……お前のポエム、意外とリズム感あったけど……絶許。……次は魔王の『検索履歴』を世界に公開して、魔王軍を組織崩壊させてやる……)




