高速の殺人鬼
イゾルデが「公開処刑」のショックで氷像のように固まった後。一行の前に、残像を引くほどの超高速で移動する影が現れた。
四天王が一人、高速の殺人鬼虐殺のギルバート。彼はその名の通り、目にも止まらぬ速さで獲物を切り刻む、愉快犯的な暗殺者だった。
「ヒャッハー! 鈍い、鈍すぎるぜ勇者! 俺のスピードについてこれるかァ!?」
ギルバートは笑いながら阿久津の周囲を旋回する。あまりの速さに、ガストンもセレナも攻撃の的を絞れない。
一方、阿久津はスマホを構えながら、眉間に深い皺を寄せていた。
「(……チッ。速すぎてピントが合わねぇ。……せっかく四天王のスクショ撮って、あとでネットリ見返そうと思ってたのに……。【は】……【速】すぎるんだよ。……【は】……【判定】不能。……【は】……【吐】き気がするわ……)」
阿久津は、イライラしながらシャッターボタンを連打する。だが、撮れるのはすべてブレたゴミ画像ばかり。
「神託ですわ!」 ルミナスが、阿久津の激しい連打に応えて叫ぶ。
「『【は】箱詰めよ! 【は】這い寄る、 【は】破壊を、 【は】吐き出しなさい!』」
「箱詰め!? 俺を閉じ込めようってのか? 無駄だ、そんなスローな攻撃――」
「神託は絶対だ! ガストン、やりなさい!」
セレナの魔法がギルバートの周囲の空間を重力で固定した一瞬、ガストンがどこからか取り出した「巨大な鋼鉄のコンテナ(移動用備品)」を振りかぶった。
「勇者様の神託! 『箱詰め』の刑だぁぁ!!」
「ぐえっ!?」
驚異的な速さで動いていたギルバートだったが、物理的に逃げ場のない「箱」を上から被せられ、中に閉じ込められてしまった。
「(……あー、やっと止まった。……これでやっと撮れる。……でもこれ、中身見えないな。……【お】……【押】せ。……【お】……【お蔵入】りだ。……【お】……【推】し殺せ……)」
「追加神託! 『【お】推し殺しなさい! 【お】王の、 【お】汚物を、 【お】拝みなさい!』」
「推し殺せ!? 了解だ、勇者殿!」
シオンが箱の隙間から「超強力な圧縮プレス」を流し込み、ガストンが外側から「推し(全力のプレス)」をかける。
「ま、待て! 出してくれ! 狭い! 汚い! 俺はもっとスタイリッシュに殺し合いを――」
「黙りなさい! 私の『推し』である阿久津様の神託は絶対ですわよ!」
セレナがさらに重力魔法で箱を圧縮する。
「【は】……【箱推】し……【は】……【配送】……」
「トドメの神託! 『【は】箱推し配送よ! 地獄へ、お届けしなさい!』」
阿久津の「箱推し(グループ全体を応援する)」というオタク用語は、女神によって「箱に入れたまま異次元へ配送する」という最悪の追放魔法に変換された。
ガストンが全力でコンテナを蹴り飛ばすと、ギルバートを閉じ込めた箱は空の彼方、魔王城のゴミ捨て場(地獄)へと直行便で飛ばされていった。
「……ふぅ。……やっと静かになった。……ブレた画像、全部消しとこ。……【こ】……【ゴミ箱】……【こ】……【降格】……」
「神託! 『ゴミ箱へ降格させなさい!』」
「ルミナス、今のゴミ箱はスマホの中の話だから! 四天王をゴミ扱いするのはやめてあげて!」
阿久津のスマホのストレージは、またしても「ピンボケした四天王の残像」という無駄なデータで埋め尽くされた。




