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Blue Jam Colors the World  作者: シムラ ミケ
第四章

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13/31

Keep Tryin'

 Wind texture multi-headedは、千鶴、小橋、デイヴの三人編成でスタートした。

 デイヴのドラムはパワフルだし、小橋のギターはテクニカルだ。そして何より、ワタイの歌がある。

 悪くはない。悪くはないけど、何かこう、パズルのピースが足りないような、そんな物足りなさを千鶴は感じていた。

 バンドに求めている音は、もっと華々しくて、ぶつかり合うような音の塊だった。


 そんなある日、デイヴが「ヤバい女ベーシストがいるらしい」という噂を聞きつけ、半ば強引に千鶴と小橋を小さなライブハウスへ連れ出した。

 薄暗いハコの中、ステージに現れたバンドでひと際目立ったのは、黒髪ロングのクールな女だった。   


 目出凪沙。それが彼女の名前らしい。


(ふーん、見た目は悪くないけど、音はどうだか…)


 千鶴が腕を組んでステージを凝視していると、凪沙は静かにベースを構え、次の瞬間、ゴリッゴリの重低音をフロアに叩きつけた。

 そのクールな見た目とは裏腹な、男勝りのファンキーなベースライン。

 指弾きとスラップを巧みに使い分け、正確無比なリズムを刻みながらも、時折ゾクッとするような艶かしいフレーズをねじ込んでくる。


(…こいつ、やるな)


 千鶴は素直に感嘆した。隣ではデイヴが


「おいおいおい!なんだろうね、静寂のBEAT?ミー、鳥肌止まんねえ!」


 と意味不明な興奮状態に陥っている。小橋も目を丸くして


「すごい…⋯ベースがあんなに歌ってるの、初めて見た」


 と呟いている。


 ライブが終わるや否や、デイヴは凪沙の楽屋に突撃した。


「ユー!ミーたちのバンドに入ってくれ!ユーのベースは世界を揺るがすぜ!」


 凪沙は、汗を拭いながら迷惑そうに眉をひそめた。


「…⋯は?誰、あんたら」


「ミーは黒羽デイヴ!こっちはボーカルの千鶴とギターの開人!見ての通り、最強のバンドだ!」


(見ての通りって、何がどう最強なんだか…⋯)


 千鶴は心の中でツッコミを入れたが、凪沙はすんなりと受け入れているようだった。

 小橋がおずおずと口を開く。


「あ、あの、さっきの演奏、本当にすごかった!もしよかったら、一度だけでも俺たちと音を合わせてみませんか…⋯?」


 その純粋な瞳に、凪沙の表情が少しだけ和らいだように見えた。千鶴も口を開いた。


「まあ、ワタイの歌を聞いたら、即決だと思うけど?」


 相変わらずの上から目線。だが、凪沙は千鶴の目をじっと見つめ返すと、ふっと息を吐いて言った。


「…⋯ふーん。なんかおもろそうやな。かけもちになるかもやけど試しにやってみよか?」


「イエス!交渉成立!」


 デイヴが叫んだ。


(かけもち、ねぇ…⋯まあ、それだけの実力があるってことか。面白くなってきたじゃん)


 千鶴は口元に微かな笑みを浮かべた。

 クールなベーシストの加入は、バンドのサウンドに間違いなく深みを与えてくれるだろう。


 それから数週間後。今度はキーボーディストが見つかった。デイヴが


「やっぱ華やかなキーボードが欲しいよな!」


 と言い出し、小橋も


「バンドでキーボードいる編成、イケてるよね!」


 と目を輝かせる。千鶴は、


「まあ、音の厚みは増すだろうけど、下手な奴はごめんだね」


 と釘を刺しておいた。


 そんな話をしている時だった。練習の帰り、駅前の広場で人だかりができているのを見つけた。

 中心にはストリートピアノがあり、そこから聴こえてきたのは、まるで太陽が爆発したような、明るくてハッピーなピアノの音色だった。

 弾いていたのは、小柄で、コロコロと表情が変わる女の子。

 彼女の指は、鍵盤の上を踊るように跳ね回り、超絶技巧なのに少しも嫌味がなく、聴いているだけで自然と体が動き出しそうになる。


「うわぁ⋯…!あの人、すっごい楽しそうに弾くね!」


 小橋が感嘆の声を上げる。デイヴの目がキランと光った。


「見つけたぜ…⋯!ミーたちのバンドに足りなかったラストピース、あの太陽みたいな明るさだ!」


(また始まったよ、デイヴの暑苦しいポエムが)


 千鶴は呆れつつも、その演奏からは目が離せなかった。

 心のどこかで求めていた「突き抜けるようなポップセンス」を感じさせた。


 演奏終了後、デイヴが例によって


「ミーとロックしようぜ!」


 と声をかけると、釈楽未と名乗ったその子は大きな瞳をパチクリさせながらも、すぐにニカッと笑った。


「えー!バンド!?面白そう!あたし、バンドとかやったことないけど!やっちゃおっかな!」


 あまりの即決ぶりに、逆に千鶴たちが面食らったほどだ。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。ワタイたちの音楽、聴いたこともないんでしょ?」


 千鶴が問いかけると、楽未は、


「だいじょーぶ!インスピで、なんか面白そうだし!」


 とあっけらかんと言い放った。そして小橋に向かって


「ギター、めっちゃ上手そうだね!どんな曲やるの?ワクワクするー!」


 と無邪気に話しかけている。


(うわ、眩し…⋯ワタイとは真逆のタイプだな⋯…)


 千鶴は若干引きつつも、この底抜けの明るさは、ある意味才能だと感じた。

 凪沙が「静」なら、楽未は「動」。この二人が加われば、ウィンテクスの音楽はとんでもない化学反応を起こすかもしれない。


 こうして、目出凪沙と釈楽未を加え、Wind texture multi-headedのは5人編成となった。

 クールで技巧派の凪沙、明るく華やかな楽未。そして、お調子者のデイヴと人の良い小橋。


(…⋯役者は揃った、か)


 千鶴は、集まった四人の顔を見渡しながら、確かな手応えを感じていた。

 個性は見事にバラバラ。まとまるのは一苦労だろう。

 だが、このメンバーなら、誰も聴いたことのないような、新しい音楽を生み出せるかもしれない。


(まあ、ワタイの歌声があれば、どんな曲でも最強になるけどね)


 千鶴は不敵な笑みを浮かべた。

 これから始まるバンド活動への期待と、ほんの少しの不安。

 そして何よりも、自分の歌声でこいつらを、そして世界を驚かせてやるという、確固たる自信が胸の内にあったのだ。


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