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8.対峙

追い詰められた2人(と一匹)!


果たして……!


 どうにか動かせないか試してみたものの、その金属板は、壁に深く刺さっていて簡単には抜くことができない。時間をかければ何とかなりそうだが、そうしているうちに赤警に追いつかれてしまうだろう。現に、アイリスお手製のフラッシュバンから回復したであろう赤警が階段を踏みしめる音が聞こえてくる。


「とりあえずホールに入りましょう!」


 息を切らしながら、白河さんはショウ君を抱えたままついてきてくれる。狭い廊下で対峙するより、ホールの中のほうがまだマシだ。


 ホールに入り、扉を閉める。天井に備え付けられたLEDはついていない。その代わりに、扉の上部分がステンドグラス風になっていて、外の光をホールの中に吸い込んでいる。


 ホールの奥、20cmほど高くなったステージへと向かいながら、右側に展示されているイルカの電子模型の群れに目をやった。前に訪れたときには、4頭で群れていたはずのイルカの数が一つ減っている。一瞬、こちらもイルカで武装しようかと考えたが、なんとか持ち上げることが限界で、振り回せそうにもなかった。仕方ない。武器を持つのは諦めよう。


「白河さん。白河さんは、隠れててください」


 ステージの上に立って、僕は彼女に伝えた。


「でも…朝霧さんは……?」


 心配そうに聞いてくる。


「赤警の狙いはあなたたちです。一緒に見つかるよりは、僕だけなら交渉できないか試してみます。それに──」


 一呼吸おいて、内心の不安を隠すために、そして彼女に安心してもらうために、精一杯余裕の素振りを見せながら言った。


「──それに、僕にも”名案”がありますから」






 しばらくして、扉が開かれた。赤警がホールの中を見渡し、僕の姿を捕捉する。


「赤警さん……。もういいじゃないですか、そんなに血眼になってまで捕まえようとしなくても……。たった一匹の、かわいい犬ですよ」


 返事はない。その代わりに、ステージへと一歩ずつ進みだした。


「あ、そのイルカ。勝手に持ち歩いちゃ可哀想ですよ。もとの群れに返してあげましょう?」


 やはり、返事はなかった。そもそも警備アンドロイドって話すようにできていないんだっけ。取り締まるのに、対話の必要はないってことか。


 僕との距離がどんどん縮まっていく。もう10mも無い。


「ああそうだ!オルゴール!あれじゃあもう音鳴らせないですよ!ちょうどその辺にあったはずなのに!」


 赤警の左側足元を指さすも、一瞥もしない。ただじっと僕のことを見つめている。その目は「あの犬はどこだ」と訴えているように見える。


 いよいよ、5m。脅しのためか、赤警は、袈裟斬りの動きでイルカを一度振って見せた。


 ブゥンッっと、空を切る。僕は思わず息を吞む。のどが渇いているのに、掌はじんわりと汗ばんでいる。


(大丈夫……。きっとうまくいくはず……)


 赤警はもう、ステージの真下に来ている。こちらに上がるために左足を上げたそのとき──


「ワンッ!」


 赤警は振り返る。声がしたほう──色とりどりの造花のプールへと、踵を返す。


「待て!!」


 僕は足元にあった木製の椅子をつかみ、投げた。


 椅子は、赤警には当たらず、明後日の方向へと飛んでいく。




 でも、()()()()()()()()




 ガシャンッ!


 誤って自転車を倒してしまったときのような、そんな音が鳴った。赤警の頭上、5mほど高いところで。そこにぶら下がっていた、巨大な地球儀が、少し傾いたあと、それを(かたど)っていた液晶がずるずると連なりながらも一緒に落ちてきて──


 ドガシャァンッ!!


 今度は、自動車が壁に衝突したような音を立てて、地球の半分が赤警に命中した。



次はエピローグ回になりそうです。

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